平社員さんのレビュー一覧
投稿者:平社員
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紙の本陰陽師
2002/02/07 18:02
中国の奇譚にも似た味わい
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行間を読む、という言葉がある。前後の文章であえて作者が描写し切らなかった情景や、風景、匂い、味、登場人物の感情を想像するという、書き手と読み手の間に成り立つ知的なコミニュケーションだ。ただし双方のセンスと想像力がバラバラだと、成り立たない。
最近は本もまるで流行歌の如く、言葉と言葉の間にまでぎっしりと作者の言いたいことが詰め込まれ、行間を読もうにも、受け手に想像の余地を許さないところがあるが、この本は良い意味での例外だ。
短編集だが、ひとつの話の中に何度か場面転換があり、ひとつの場面の中に、何度となく意味ありげな描写の寸止めや、話中の“間”が設けられている。実は非常に饒舌である作者が、敢えて多くを語らないことによって、これら寸止めや会話の“間”を、読者に想像力の翼を存分に羽ばたかせる仕掛けとして機能させることに成功している。
全体として非常に和の季節感に富み、時に奇妙、まれにゾッとするほど怖く、思い出したようにとぼけた笑いを差し挟んだ、味わいある短編集である。
意外と、中国の古奇譚集や西遊記などが好きな人にも良いかもしれない。
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