蟲の往きさんのレビュー一覧
投稿者:蟲の往き
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贋世捨人
2002/11/11 17:05
読ませていただきました。合掌。
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「赤目四十八瀧心中未遂」以来、発表順ではないものの、全作を読ませていただき、その都度至福を味わっております。鼻水、神経症、下痢、そのほかもろもろの宿痾にもんどり打ちながら、著作を発表なさる車谷氏の仕事に敬意を表します。
本作では、高田正昔という雲水と笹田悦子さんが白眉なのでしょうが、氏の作中人物はすべてが紛うことなき日本人であり、悲しいほどに俗物であります。なにしろ、語り手の氏、すなわち生島嘉一さんがその「俗」から抜け出したいともがく、典型極まりない「俗」であるところに車谷文学の神髄があります。文士は人間の屑であり、小説の「騙り」に粉骨砕身する生身の人間とは、いかなる生き物なのでしょう。言葉は「はなし」を紡ぎますが、「はなし」そのものは本来虚構にすぎず、氏の言うように人間は真実の言葉の中に秘められた「ことだま」にしか感応しないものなのです。文士は「物の怪」の「ケ」を持たざれば、ただの屑ですから、本作にもの「ケ」は散見されますが、主要人物の土方寧男さんや谷内栄造さんは斯界で一定の評価をいただく「おとな」であり、わたくしには生島さんの「タニマチ」にしか感じられませんでした。「タニマチ」のことまで書くことも車谷文学なのでしょうが、このままでは氏の著作は行き詰まるのではないかと心配にもなります。しかし、氏は「早く行き詰まりたい」と願っているやもしれません。五体満足のうちに出家遁世して、高田さんの後輩になることが宿願なのでしょうから。
こうしてみると、文芸書のファンとは残酷な生き物です。わたくしも本音を申せば、「赤目四十八瀧」を凌ぐ本を上板しない限りは、氏の出家願望は作家のオナニーに過ぎないと断じます。「車谷先生よ。赤目四十八瀧を忘れさせる一本を書いてから、非僧非俗・贋世捨人を辞めてくれ。でないと許さん!」と悪態をついて次作を待ちます。
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