もいもいさんのレビュー一覧
投稿者:もいもい
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2004/12/06 21:59
日本酒への愛、或いは、日本酒万能信仰がもたらした的はずれの分析
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危機にある日本酒復活を願う筆者が、酒蔵、大手メーカー、酒販店、居酒屋等を尋ね歩き、日本酒の危機の現状を明らかにし、日本酒復活を目指す様々な試みを紹介し、「蔵元から酒屋、飲食店に至るまでが、各々の立場でひたすら「うまくて、良い酒」を目指し、提供」するという日本酒復活の方策にたどり着く。
しかし、残念ながら、著者らは、根本的な問題を見逃しているように思われる。そのため、酒販店主の「だって焼酎は蒸留酒だもん。蒸留酒を飲みながら食事するのは、ちょっと無理があるんだよね。」という発言を無批判に載せ、本格焼酎に対する旧態依然の認識を何の躊躇も無く披露してしまう。著者らは、醤油の味によって、合う日本酒が違うことを認識しているが、料理の味や料理の味付けは、醤油の味よりも遙かにバリエーションが豊富であることに気が付いていない。
九州では、特に南部や沖縄では、日本酒と同じように、料理と一緒に焼酎や泡盛を楽しむことが一般的に行われてきた。彼らが異常な味覚を持っているからであろうか? そんなことは無い。九州南部や沖縄の料理や味付けが、焼酎や泡盛と相性が良かったから、日本酒よりも焼酎や泡盛が好まれることになったのである。或いは、焼酎や泡盛に合うように、料理やその味付けを発達させたのである。そのために鹿児島の醤油は甘いのだ。
日本酒もその他のお酒と同じく、相性の良い料理や味付けが有り、同時に相性の悪い料理や味付けが有る。日本酒と相性の良い料理や味付けの範囲は、著者が信仰するほど広くはない。日本では、お酒を好まない人を「甘党」と言う。これは、本州の日本酒文化圏から生まれた言葉であり、日本酒が甘い物と合わないという事実を反映している。砂糖は日本酒の味を大きく変えてしまう。甘いチョコレートといっしょに食べたら、日本酒は、蒸留酒であるウイスキーやブランデー、本格焼酎に全く勝ち目は無い。
さらに、普通の日本酒は脂っこい料理とも相性が良くない。ソーセージを食べるなら、日本酒はビールに勝ち目はない。そして、甘くて、脂っこい料理、例えば、鹿児島の甘いさつまあげや甘辛いたれで焼き上げた焼き鳥といっしょに食べたら、どんなに名高い日本酒でも、普通の芋焼酎に勝ち目は無い。
九州や沖縄では、歴史的に、本土よりも脂っこい料理が多かった。日本人全体の味覚が、脂っこい料理を好む方向に変化している状況下では、九州や沖縄で好んで飲まれてきた本格焼酎や泡盛の人気が上昇するのは、避けられない。ワイン・ブームが過ぎても、脂っこい料理に合うワインは、日本人の食生活にしっかりと定着した。焼酎ブームが去れば、本格焼酎の消費は減るだろうが、本格焼酎は間違いなく日本全国の家庭に定着する。だから、アルコール消費が拡大しない限り、日本酒の消費は回復することは無い。以上のような状況を認識すれば、日本酒関連産業に携わる各人がベストを尽くすという精神論も重要であるが、(1)脂っこい料理と合う日本酒の開発(発泡性の日本酒は、普通の日本酒に比べて、脂っこい料理に遙かに良く合う。)と(2)輸出の拡大(日本酒に合う料理は必ずしも多くないが、各国で日本食は拡大しており、日本酒と合う塩辛い味付けの魚介類料理は世界中に存在する。)が、日本酒復活には不可欠であると思われる。
最後に、本書には日本酒だけが「国酒」であるとの誤った記述がある。本格焼酎も日本酒と同じく、日本国政府の定めた「国酒」であることを指摘して置きたい。
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