はけの道さんのレビュー一覧
投稿者:はけの道
ジョコンダ夫人の肖像
2005/08/27 02:20
「ダ・ヴィンチ・コード」の参考書籍として買ってみたら・・・
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何の、何の!優れた作品で、吃驚した。ルネッサンス時代の孤独な大天才レオナルド・ダ・ヴィンチに拾われ、弟子にして貰ったスリの少年サライ。粗野で乱暴で、虚飾に満ちた大人の世界を、何とも思わないところが気に入ったらしい。その二人の生活ぶりから始まって、宮廷の子女たちとの交遊。サライの目を通して、語られる。これは現代社会でも充分活用出来る、生き方であろう。勿論師匠ダ・ヴィンチの人柄、その名作の数々の由来も明かされる所が、面白くて貴重だ!巻末に数点の作品写真も載っているのが、嬉しい。
黒い雨 改版
2003/09/08 05:11
日本人必読の書
6人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
私が、広島に原爆が落とされた…というのを耳にしたのは、国民学校2年生、空襲警報のサイレンが鳴り、隣組の子供たちが集まり挙って近くの空き地の防空壕に避難した時であった。誰か大人の人が「広島にエライ新型爆弾が投下され、一瞬目が眩む光りが空を覆ったそうな…さっき、ラジオで、そういっとった」。確かにこの耳にその言葉だけが残っている。あれから、もう半世紀以上。読もう、読もうと思っていた「黒い雨」をやっと、読み上げた。哀しい、実に悲惨だ。この小説は、最近、ようやっと出版された実録「重松日記」を下敷きにして、井伏鱒二が作品として纏め上げた物だそうだ。こちらの方も少し、目を通して見たが、実録だけにもっとその被爆状態、又風景が生々しく、哀れだ。井伏作品も、唯、淡々と筆が運ばれていくのだが…読者にとってはもの凄い「戦争」「核兵器」への「怒り」が込み上げて来る。最終ページに来て、やっと読者はある安らぎを覚える。
きおらかな小川の流れに逆らってあの黒い雨を潜り抜け登って来た、鰻の毛子(うこ)達。元気良くはなめを養魚池の水面に「ジュンサイ」。そして原爆症の姪の快復を五彩の虹に占う主人公の朴訥とした姿などに、なぜかホッとした物を感じさせる。これは、口に苦い良薬である。是非若い人たち、全日本人に読んで貰って、人類の平和、幸福について考えて頂きたい書物である。
雪だるま
2005/02/03 01:03
こんなアンデルセン、初めて!嬉しい絵本だ!
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幼い頃、親しんで読んだアンデルセン童話も、成人してから、岩波文庫で読んだ、それとはまるっきりというほど、印象などが違っていた。夫々の年代によって、それなりに捕らえ方が異なる様に、或るメルヘンを持って表現されている様に思われる。
ところがこの度、大人が読むメルヘン童話、初めての邦訳だそうだが、読んでみて驚いた。何と深い、味わいの在る物語なんだろう…と。矢張りアンデルセンは只者では、無い!と思った。タイトルにもなっている「雪だるま」は子供の童話で言えば、私も好きな「錫の兵隊」。テーマーが同じく、男女の淡い、又果たせられない恋の物語である。訳者の解説によれば、「雪だるま」はアンデルセンの創作お伽中もっともエロチックで、抑圧された性欲が今にも破裂しそうな作品…としてある。実に巧く出来ている。他の三篇も解説に沿って、深い読みをすれば、こんなに楽しい絵本は、無い! 又絵も素晴らしい。あのジョン・シェリーである。表紙の美しく怪しげなドレスの女。それが全てを語っている。
勿論、僕の宝である。
戦後歴史の真実
2003/11/28 21:29
今やっと解った戦後歴史の真実
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私は今年で68歳。終戦は国民尋常小学校2年生の夏、迎えた。従って戦時中教育は1年と2年生の1学期だけである。思い出としては、紀元節などの祝日など全生徒が講堂に集められ、演壇の上から校長先生が、徐に黒塗りの箱より巻物を広げ読上げられる。「チンオモウニワガコウソコウソ…ギョメイギョジ」。半世紀経った未だに覚えているのである。その日は特別、メリケン粉で作った紅白の団子のような物を頂いてきた記憶がある。最近、ある集まりで、戦時中の話が出た折に、ふと私はこの「教育勅語」を諳んじてみせた。すると「そんなの、覚えているなんて…哀しいねえ」と言う声が還って来た。本書では第五章、日本人のよき伝統と精神を破壊した「戦後教育」と題して、この教育勅語の、何処が軍国主義なんだ!と記してあるが、その通り。私はその場での後の言葉は、遂に発せずに居たが、心の中では「本書」を読ませて上げたいなあ…とも思う。前に一回「今の憲法って勝った国のマッカーサ憲法だろう?」って法科卒の者に聞いた事があった。彼は、今更何を云うか…ってな白い眼で、私を睨み帰して来た。そうなんだ、〈ジコチュウ〉に酔ってるのが今の現状なんだ。
驚いたぁ! これは正に、戦前からの米国白人の日本人に対する黄色人種一掃のホロスコープ、精巧に仕組まれた〈完全犯罪〉であったとは…なーに、やはり人種差別でユダヤ人、共産党員らを皆殺ししたナチスをようも裁けた物である。同じ事を遣りながら。私達、日本人と思うなら、是非本書並びに「新歴史の真実」を読まれんことを切に願って止みません。そして早く自虐的歴史観をこの素晴らしい国、日本から一掃したいものです。
悪の華
2003/04/09 00:25
これぞ!待ってた訳詩
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私は学生の頃から、チョクチョクフランス語をかじっていた者だが、この「悪の華」も堀口大学や鈴木信太郎などと言った先生達の訳をテキストにしていたが、もう一つピンと来ません。余りにも日本語としての詩が巧すぎて…所がこの安藤訳には、すっかり私の心に入って来るようです。ボードレールの痛み、苦しみ、見たいな物がよーう解って来るんですよね。いや、私の方がそれだけ歳を取った、とも言えますがね。そうして改めて、先の両先生のものを拝読しますと、これまた、三人三様、夫々が素晴らしいのですよね、でもやっぱり私は安藤元雄訳かな。近年、益々この鬼才にして天才詩人ボードレールが見直されて来たのでしょうか、偶々よく耳にします。
制作 上
2004/06/18 06:51
印象派時代のパリの芸術家群
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仏映画「居酒屋」「ナナ」等の原作者エミ−ル・ゾラの半生を描いた長編である。
彼は、あの近代絵画の祖と言われるセザンヌと同郷で、同じ中学(今の高校)で机を並べた仲だという。
主人公クロードは(このモデルは、セザンヌとは限らずマネであったりモネであるようにも見える)若き青年画家で、先に上京して来ている小説家志望のサンドース(実際はゾラ)の近くのアトリエつきアパートを借りて、仕事を始める。その界隈では、建築家、彫刻家など若き連中が常に集まり、「新しい芸術」について議論も沸騰していた。後の恋女房になるクリスティーヌとの劇的な出会い。やがて同棲、そして男の子も出来る。その間、彼女をモデルにした大作「外光」(どうやらマネの「草上の昼食」らしい)をサロンの『落選展』に出品するも、皆の悪評をかう。
クロード一家は、田舎で暮らす事にする。都会では味わえない環境。妻と子どもは満足しているが、新しい絵を創って行くには、クロードにとっては不満である。
そこで再び、パリへ戻ってくる。ここまでが「上巻」である。
芸術を創ってゆく苦しみ。大衆の無理解。或いは生活苦。その中にあっての仲間たちの励まし合い。妻の苦労…。現代の心あるアーティスト達と、ちょっとも変わってない。しっかり書いた小説である。ここで印象派時代の画集を引っ張りだして観るってえのも、名案であろう。
折り鶴は世界にはばたいた 平和への祈り・折り鶴をめぐる人びとの物語
2003/08/04 02:12
今でこそ、国を挙げて反戦、反核運動を…
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今まで、「反戦・反核」と言うと、ある特定のイデロギーを持つ、一政党の1枚看板であり、スローガンでもあった。所がそのイデロギーそのものが、世界的にあやしいものと皆が解りかけて来た現在、再びこのスローガンを取り上げ、国を挙げて全世界にもっと強くアピールして行こうではないか。何となれば、日本が不幸にして最初にして最大の被爆国だからである。この児童向きに書かれたドキュメントは、あの60年前にヒロシマに起きた「悪夢」のような悲惨な光景。その中の一人、佐々木禎子と言う原爆病で苦しみその病床で祈りを込めて亡くなる迄折った千羽鶴の小学生を取り上げている感動編である。又、さだこが亡くなった後、今度は名古屋の女子高校生たちが残りの折鶴を完成、ヒロシマに「原爆の像」まで建立してしまう…という広がりを見せ、これがなんとアメリカに伝わり、子供達の手で「子ども平和像」が出来た。という感動のダブルパンチ。これらを詳細に取材し、童話作家のうみのしほさんが感動を込めて美しく優しく平易に書いておられる。この書はこの度出版になった、絵本版「おりづるの旅」と共に全国いや全世界の子供達に読んで頂きたいものである。
サロメ 改版
2003/04/12 18:11
なぬ!今更「サロメ」
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私は、始めてこれを読んだとき、すざましい衝撃が走った。ユダヤの王女、一少女が、恋する故とは言え預言者、ヨカナーンの生首を所望するとは…。何の、これは「新約聖書」のほんの二、三行に書かれた事実をワイルドがかくも華麗に、しかも残酷に仕上げた戯曲と知って益々興味を持つに至った。そのご、そのDVDをも観た。素晴らしいホンを書いてくれたなあと思う。
考えてみれば、これはユダヤ教とキリスト教との実に長い間の「憎しみ合い」である。といえば、今、正に行われている中東戦争、湾岸戦争がソレである。これは私だけのうがった想いかも知れぬ。信教の違い聖地の土地争い…などが尾を引いて現在に繋がっているのでは有るまいか? それらを思い巡らして、この「サロメ」を手にすると、又一しおである。
ニーベルングの指環 下
2004/05/24 01:03
(続)たいした労作です
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いよいよオペラの後半、第3日目、第4日目がこの下巻に収められている。そもそもこのワグナーの大オペラは古くは古代北欧神話、中世には「ニーベルンゲンの歌」等の物語を織り込んだ当時のワグナーにしても画期的なシナリオだったに相違ない。また音楽にしても各パートのモチーフを極めての俄然新しいものだった。で、複雑化する後半の話を流れるように描いていく里中氏には頭が下がる想いである。今度、再読してみて一つ一つのセリフが、詩の様に或るリズムを持っている事に気が付いた。これはオペラの下地本としては最も大切な要素である。
そして又、私はもっともっと、ギリシャ神話とはひと味違う北欧の神話、又あの騎士道精神の基にもなったニーベルンゲンの歌などをもっと知って見たい気を持たせてくれた事は確かだ。
知られざる傑作 他5篇 改版
2004/05/16 03:48
文字通り「知られざる傑作」
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「芸術の使命は自然を模写することではない、自然を表現することだ。君はいやしい筆耕ではない、詩人なんだ」と、老人は頭ごなしポルピュスをさえぎって、強く叫んだ…。(本文150頁より)
恐らく本短編の中では、一番大事な言葉であろう。又時の画家、セザンヌもこの言葉に何度か、うなずいた事であろう。その後ヨーロッパ絵画史は現代に至るまで目まぐるしく変遷して来た。私はこの作品こそ、今までの古い「自然写実主義芸術」の殻を破る、終結宣言だと見ている。文豪が、こういったものを書くというのも珍しい。この小説が出て、もう170年が過ぎようとしているのに、未だに、我が国日本では洋画といえば自然描写の風景画などが愛されている…と言うのは、どうかと思う。もっともっと、個性溢れる抽象絵画のようなモダンアートが大衆生活に密着しなければならないはずである。
又、これを書いたバルザック、この他にも一連の「人間喜劇」始め、多くの面白い作品を残している。もっと若い人達に読まれ親しまれて好い筈である。
ニーベルングの指環 上
2004/03/27 10:39
たいした労作です
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私はこのオペラのDVDを2種、観たきりですが、歌手(俳優)が舞台の上とは言えドラゴンになったり小鳥になって、歌って演じるなんてどんなに演出をしてもそこにどうしても違和感を感じざるを得ない。その点すっかりコミックにしてしまうと、実にスムーズに流れていくのである。ただただ、あのダイナミックな曲が描く事が出来ないのがザンネンである。テープなどで音を聞きつつ、この本を読むのが一番の贅沢であろう…と私は思う。ワグナーのこのオペラの台本自体に無理があるのかもしれない。なぜかと言うと、メルヘンの世界かと思いきや、突然、神同士とは言え夫婦間の生々しい詰り合いが始まるのである。私は現場のオペラをまだ観たことがないから、こんな風に言えるかと思うのだが。それにしても、あの4夜、ぶっ続けで演じる長いオペラを、たった二冊で要領よく、まとめてある嬉しい書である。なかほどにに、専門家による今聴けるテープやCD、DVD等の紹介や解説がある。
バスキア
2003/04/28 21:55
素晴らしい新しい芸術。しかし彼はもう居ない。
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最初、この本の表紙を見て驚いた。何て美しいのだろう。まるで宝石のように輝いて、在った。そして頁を楽しみながら繰った。どの頁にも、自由奔放に描きながらも、美しく彼自身を主張していた。未だアメリカには、こんな斬新な画家が居るんだ!…と私自身、何だか希望のような物が、沸々と湧き上がるのである。
と言うのは、最近ニューヨークじゃ、具象画、それも徹底した写実画がアメリカ絵画の主流を占めている…という本を見たばかりである。「こりゃあ、困ったもんだ。こんな後戻りするようじゃ、いかんなあ」と密かに思っていたら、こんなバスキアのような絵にぶつかった。これこそアメリカ、これこそニューヨーク…と私は思った。しかし、彼はもう居ない! しっかりしろよ、アメリカ。やがては日本にも、あの安っぽい「写実」の風邪が遣ってくるだろう。いや、もう既に重い流感に罹っているかも知れない! 兎に角このちっぽけな私にとっては大事なこの画集は予防薬になりそう。
ギュスターヴ・モロー 絵の具で描かれたデカダン文学
2003/04/21 01:45
19世紀末に生まれた退廃芸術として近代絵画史より外れた画家に見えがちだが…
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モロー以前の絵画、例えばドラクロア、クールベー、などと言った画家よりチョッと違っていた。文学の精神性と絵画の造形性とを見事に調和せしめた、孤高の画家だと言えよう。ほぼ同時代、文学ではボードレール、マルメラ、ヴェルエール、ランボ…と凄い個性ある天才詩人達が、華を咲かせている。その中に在って、もくもくと絵画でものを言い切った、素晴らしい見事な画家である。その証拠はその後、彼の弟子達、或いは彼の絵に影響を与えた画家達を見れば判るだろう。ルオー、マチス、マルケ…といった草創たるメンバーである。
著者である鹿島さんは随分このモローに惚れこんで、モローの生い立ちは無論、その人と成りを大変詳しく調べ上げておられる。それに私たちがまだ知らなかったモローの絵も、この画集には数多く載せられている。モローの絵のある美術館も紹介されている。嬉しい限りである。私は何よりもモローの色が好きである。
近代絵画の祖として、セザンヌ、マネー、モネ−等よりもっともっと、見直して欲しい画家である。
誰がキリストを殺したか
2005/06/26 03:59
嘘か?真か?「聖書」のバクロ本
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「聖書」と言えば、2000年前より続いて来ている、世界大ベストセラーである。そして教団も世界一を誇っている事だろう。処が、である。今まで、キリストを銀貨で売った男十二使徒の内の一人ユダが定説として信じられて来た。では無い!黒幕は他に居た・・・としたら、如何だろう。
この本の著者、神辺氏は各使徒達が師の口述、行状を記したものとしての「新約聖書」を丹念に調べ、分析された結果、どうしても、このようなユダではない、他の男が浮かび上がってくる・・・としてある。そしてこの聖典を一括編集し、世界に広めた弟子。それは誰でしょう?
それをスリリングに、読ませてくれる。この結論が真実かどうか?私には解らない!でも、キリスト教を理解するには大変有難い本ではある。
もっと、上手く書きたかったが、書けなかった。
書評って何て、難しいんだろう。
サロメの乳母の話
2003/06/11 16:37
歴史家の描く人物像
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タイトルに惹かれて、読んでみた。ワイルドが描くサロメ。又これはオペラにも為っているから、様々な音楽家のサロメ像。或いはこの表紙にもなっている画家ギュスターヴ・モローの絵画上のサロメ…。あの妖艶で一度惚れこんだら、殺してまでも手に入れようとする恐ろしい女。として普通我々はサロメを見てしまう。所が、恐らく多くの史料から描き出された塩野さんのサロメは我々のそんな先入観をふっ飛ばしてしまうに充分の説得性があった。何のサロメは、今でいう中学か高校生辺りの未だ幼い少女。頭の良くて両親思いの彼女。ローマから、折角捕らえた預言者、ヨカナーンの様子など視察に来た役人達を持て成す宴会の席で、囚人の死刑に躊躇している父ヘロデ王を慮っての、サロメの一代演技だった…という話。正に私としても「目から鱗」である。
その他の話では弟ヨハネの語る兄イエス・キリストの幼少年時代も面白い。現代でも、信者達の間でタブーになっている、幼き聖者の実像に触れるのも初めてだ。こういった調子で、後9話、続く。実に面白い。何しろ書き手が主婦であり、女性の立場から、これら歴史上の人物を語るのだから面白くない訳がない。
