Y’s cafe 店主さんのレビュー一覧
投稿者:Y’s cafe 店主
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紙の本ホームレス作家
2001/12/31 01:55
作家・松井計の出生の証
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本書は、作家としての収入が途絶え、妻子と離れて路上生活者となることを余儀なくされた著者の、半年あまりにわたる苦闘の記録であり、そこには彼の真情が吐露されている。彼は自分が「良人失格」であり、「父親失格」であることを認めたが、「作家失格」の烙印を捺されることには耐えられなかった。ホームレスとなった後も、路上では眠らないと決め、なるべく浮浪者と見られないように努めながら、夜は歩きつづけ、昼間に図書館やマンガ喫茶、電車の車内などで眠る生活をおくりながら、そこからなんとか抜け出そうと足掻きつづけた。そして路上生活の中にもいくつかの希望を見出すものの、それは幻であったかのように消え去り、再び奈落の底へ落ちてしまう。彼は本書を遺書として書き始めたという。しかしそれは遺書ではなく、新しい自分—作家・松井計—の、出生の証となった。彼は、愚かな作家はあの凍てついた夜、新宿の街頭で死んだと言った。
紙の本だれが「本」を殺すのか
2001/12/31 01:46
「本」の世界の事件簿として秀逸
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本書は、今日の出版不況を未曾有の危機ととらえる著者が、本の世界を構成していると思われる各主体(読者、書評家、書店、取次、出版社、編集者、著者)について、精力的な取材をもとに書き上げたノンフィクションである。本書では、書店や出版社の危機的状況がつづられる一方、新古書店のブックオフが急成長を続け、出版社のなかでは幻冬舎がベストセラーを次々と生み出していることなどについても触れている。著者は、出版不況の本質的な意味合いは、不急の商品である本と、世の中の動きに急き立てられる読者との間で進行する、時間の乖離現象であるという。著者は作家であるから、本の文化的側面に重きを置く。それが、やや感傷的と思われる部分もあるのだが、それでも、本書からは本の世界の現在が充分伝わってくる。
2001/12/25 01:18
認識の鬼がガンになったとき
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精神科医である著者が、ガンになった体験を語っている。本書は闘病の記録ではなく、耐病の記録である。著者は、病気に対して病人がとりうる対応は敵意や闘志にもとづいたものではなく、対処したり適応したりすることであるという。これを表したのが耐病という言葉なのだ。ただ、抗がん剤の副作用に対してだけは意識的に闘う必要があったとしている。人間は、末期ガンのような耐え難い状況におかれたときに、無意識の中でそのような認識から逃れるような対応をとって、精神の安定を保とうとする。しかし著者は、精神衛生を損ねてでも、現実と願望の混同を拒み、認識の鬼であろうとした。本書では、ガンとのかかわり方について、医者としての視点と患者としての視点の両方から論ぜられているが、そのいずれも客観的で冷静なものである。さすがは認識の鬼と、うなってしまう。
紙の本定本頼藤和寛の人生応援団
2001/12/25 01:12
これほど痛快な人生相談は無かった!!
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産経新聞誌上での人生相談から選りすぐりの100本を収録している。著者は精神科医で、人生相談での痛快な回答が好評であったが、平成13年4月、ガンの為亡くなっている。人生相談には重く深刻な相談が多く寄せられるが、ふつう、それに対する回答は、毒にも薬にもならないようなものが多い。しかし、著者の人生相談は、世間の常識にとらわれず、冷静で客観的に、かつユーモアを交えて応えられているので、楽しく読めて、考えさせられる。相談の内容を紹介すると、反抗期の子供を持つ母親の相談に「子を捨て町に出よ」と答え、義母と義父の看病に疲れた相談者には「しょせん他人、適当な知略を練るべし」と答えている。これだけを読むと、冷徹な回答と思われるだろうが、本書を読めば、著者のやさしさが伝わる。これを読んで、むねのつかえがとれるひとも多いのではないか。
2001/12/25 01:05
ハーバードを覗き見る
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著者はネットジャーナリストの田中宇と、その夫人で新聞記者の大門小百合である。本書は、大門がニーマン財団の特別研究員として、また田中はその同行者として、ハーバード大学に1年間滞在した体験をもとに書かれている。ハーバード大学は政界や経済界と密接な関係を持っており、そこでは政府の戦略の一端を担う政治臭い研究者が目立つという。これについて批判的な視点から伝える田中の章と、学問と社会とのつながりを肯定的にとらえ好意的に伝える大門の章との対比が面白い。エリート養成機関といわれるハーバードのシステムを覗き見ることができるだけでなく、アメリカの国際戦略について書かれた部分も興味深い。
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