かまなりやさんのレビュー一覧
投稿者:かまなりや
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蟬しぐれ
2002/01/23 22:10
この本をまだ読んでいないあなたが羨ましい!再読も楽しめる一冊です。
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東北の架空の小藩「海坂藩」で石栗道場に通う牧文四郎は15歳の若者。剣術の修行に余念のない日々を親友の小和田逸平、島崎与之助と共に過ごしていますが…尊敬してやまぬ父の突然の切腹から、激しい運命に翻弄されて行きます。
反逆の汚名を着、肩身の狭い暮らしの中でも父の言い残した「いずれわかる…わしを恥じてはならん」という最期の言葉を支えに辛抱強く生きることを心がけ、剣の道に光明を見いだしつつ成長して行く文四郎。隣家の娘との淡い恋、親友との別れと再会、強敵興津新之丞との剣術試合にかかる秘剣「村雨」の伝授、そして父の死の真相に迫る藩内の政争へと物語はページを繰るごとに厚みを増し、読む者を夢中にさせてくれます。
タイトルに象徴されるように蝉の声・川音・落ち葉の音など全体を一貫して清涼な「音」が明確に行間に織り込まれ、読む者がその場に居合わせたような臨場感に浸れるのも、この作品の良いところです。始まりは夏、そしておよそ5年間にわたる物語は納得のいく形で完結し、最終章では20年後の夏、見事に成長し郡奉行となった文四郎が登場し、蝉しぐれの中で幕を引くという美しい終わり方をします。
私は読後その快感に浸り、まるで映画館から出てきた後のようにしばらくシビレてしまいました。今思い起こしてもほわーっと腹がぬくくなります。もう三度も読みましたが読むたびに違った音が聞こえ、大好きなCDを繰り返し聞くように、何度も楽しめます。
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