朱鷺さんのレビュー一覧
投稿者:朱鷺
GOGOモンスター
2002/04/03 13:41
GOGO松本大洋!!!
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漫画評論家たちがこぞって手放しで褒める世界的漫画家・松本大洋。今は松本大洋氏に影響された漫画家が数多く登場しているが、彼の絵は、今まで誰も見たことのないこれぞ「個性」というべく素晴らしいものを内に秘めていた。近頃では、個性と言うと、そのクオリティの高さよりも、その奇抜さが重視される傾向にある。勿論、松本大洋氏の発想にはエキセントリックさはあるものの、この漫画の完成度の高さは約2年と言う制作期間を納得するには十分である。刊行告知から約1年遅れて2000年に発行されたが、現在でも版を重ねているのがその証拠だ。
松本大洋氏は漫画だけではなく、絵本のイラストなどにも携わっている。話題なのは氏のお母様・詩人の工藤直子氏とのコラボレーション『こどものころに見た空は』である。松本大洋氏の絵にはとても優しい諧謔と共に、子供の頃の気持ちを引き釣り出してくれる、魔法のようなパワーがある。
「GOGOモンスター」は、主人公の少年・ユキの孤独と開放についての物語である。しかし実際は、この物語で扱われているテーマは一言では表現できない。だからこんなに長いのだ。読んでもらえばわかると思う。子供の心の中に広がる宇宙のような闇。それをここまで表現できるものなのか…と感嘆させられる。
「孤独」がテーマである点、「自らを閉じ込める世界を構築する」表現が登場する点からいって、このストーリーは、村上春樹の『世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド』に通じるところがあるように思う。『世界の…』との決定的な違いはラストにあるし、完全にシンクロするのではないが、確かに似ているとは思う。
445ページと言うページ数や値段に異議を唱える人が少しいるが、この値段設定は、作品の完成度から見てむしろ低めだとすら思う。松本大洋氏はこの作品によってまた大きく前進した。
On your mark
2002/04/01 01:33
ふんわかほんわか
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ボーイズラブって、覚悟を決めて読むと思うんですけど(笑)、竹美家らら氏のボーイズラブには、ああ、そういえばこの子達は男の子同士だったっけ…と思わせられます。たしかに、同姓ゆえの苦悩、をテーマにした作品も含まれているんですけれど…なんというんでしょうか。同性愛の壁をもろともしない愛にあふれたやさしい作品だと思うんです。
このコミックのおよそ半分を占める表題作もいいんですが、竹美家らら氏の「味」が最も出ているのは『恋ほどすてきなマイ・ライフ』でしょう!!! 一言で言ってしまえば、ショート・ショートなボーイズラブコメディーですが、これほど愛らしく、かつ思慮深くボーイズを書く人はいないのではないでしょうか。ストーリーは夜逃げした両親に捨てられた、かんま(15)がおひとよしの金融屋の九ちゃん(27)と同居することになったひと騒動を描いたもの。九ちゃんはかんまの体が目的じゃやないのに、かんまは大好きな九ちゃんの気持ちに応えなければ! と一人から回りするところがなんともかわいらしいです。
ところで、On your mark とはかけっこのときに言う「位置について」のことらしいです。これはそのまま、作中の意味深な記述、「恋とはすなわち、位置についたばかりの愛のことなんです」につながります。いいですよね、そんな風に考えられたら。
虫師(アフタヌーンKC) 10巻セット
2002/03/30 22:58
漫画表現の新たな領域開拓の予感
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漫画誌アフタヌーンで現在も連載中の「蟲師」。アフタヌーンの中で、その才能は抜きん出ているように思う。まず、絵がうまい。誰の絵に似ているのか、と聞かれると誰にも似ていない、と応えたくなるような個性的な絵である。トーンとベタを多用し、全体的に暗めなのだが、それが作者の意図どおりの雰囲気作りへとつながっている。
さて、読んだことがない人は「蟲」とは、「蟲師」とは何ぞや? と思われることだろう。1巻の冒頭には「蟲」について、「およそ遠しとされしもの 下等で奇怪 見慣れた動植物とはまるで違うとおぼしきモノ達 それら異形の一群をヒトは古くから恐れを含み いつしか総じて「蟲」と呼んだ」と説明されている。うまく説明ができないのだが、あくまでも「昆虫」ではなく「蟲」なのである。神聖なものというわけでもいなく、だからといって邪悪なものでもない。しかし時として蟲は人に無意識的に危害を加えることもある。そこで登場するのが「蟲師」である。職業の一種らしく、蟲に関する膨大な知識と対処法を身に付けており、蟲におかされた人々の治療・予防にあたるのである。
主人公の蟲師・ギンコは旅人である。彼がなぜ旅をしているのか、なぜどんな時も煙草を吸っているのか、などは読み進めるうちに分かってくる。このギンコがなかなか庶民的なやつで、おごったところもなく、ほどよくカッコいいので読者の共感を得ているのだと思う。彼の人となりが見所であろう。
ところで、この「蟲師」全体を見たとき、私は「(コミックの)ナウシカ」や「シュナの旅」を連想した。分類すればそういったファンタジーだし、共通いたテーマとして「命」が描かれている。しかし、「命」に対するとらえ方は前述の宮崎作品とはまた違い、あくまでも仏教的(この作品が仏教思想を基盤としている、と言うことではない)である用に思う。分かり易く、若者に受け入れられやすい思想だという気がする。
氏はまだ新人と言える漫画家であるが、今後、漫画表現の新たな領域を切り開いてゆくのではないかと私はひそかに期待し、心から応援している。
カラフル
2002/04/12 19:33
生きるためには何が必要か?陳腐な問いだがその答えはこの本の中に。
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「あなたは再挑戦の抽選に当たったラッキー・ソウルです!」死んだはずの「僕」の魂の前に、天使が現れて言う。そして「僕」は真という少年の身体を借りて、現世に再挑戦することになる。
率直に言って、こういったタイプのテーマを児童文学という分野扱うと、「子供だまし」になってしまう感が否めないと私は思う。しかし、この本は違う。というか森絵都は違う。「生きることとは何なのか?」…まてまて! 問題はそこじゃないぞ、と著者は問い掛ける。そう、私たちも本当は気付いている。私たちが生きるのは目的のためじゃないのだ。HOW! どうやって、今を生きるかだ。
さて、ラスト。んもう、伏線だらけなので「僕」と「真」の関係はとっくにわかっている。そうじゃなくてはこの物語自体の意味がないからだ。不覚にも涙が出た。やられたなって言う感じだ。うん、ほんとうにやられた。
超・ハーモニー
2002/04/12 19:24
期待は裏切られない。否、期待以上?
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学校は大切なことは教えてくれない。本当に大切なことは。そして子供の頃、知りたいと切望していた「それ」は、たいがいが大人になると忘れてしまう。この本は、そう言う気持ちを呼び覚ましてくれる。
親の期待に応えて進学校のお受験に合格した響。しかし勉強についていくことがやっとで、親は努力が足りないと言うばかり。そんな中に家出をしていたにいちゃんが突然戻ってきた。女の人の格好をして???!
人にはそれぞれの苦しみがある。しかしその苦しみは、結局、自分の手によってしか癒せない。救いがないというのは思い込だ。求めれば、多くは既に用意されている。ただ、それを引き寄せる勇気が自分には足りないだけだ!
時の鳥籠
2002/04/08 15:01
「記憶の果て」の続編であり、解答
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前作の浦賀氏のテビュー作「記憶の果て」で謎だったところがいくつか説明されている。しかし、説明的、という意味ではない。また「記憶の果て」の主人公の思想がかなり幼稚なものだったのに比べると、ちゃんと成長している。次への課題を消化できる作家だ。抵抗なく読める話に仕上がっている。
そして、かなり入り組んでいるように見える構成だが、丁寧に読むとそう難しいことをやっているわけではない。単純に面白いねえ、と思える。
ところで氏は、この本を読んでも読まなくてもどっちを選んだって後悔する…というようなことを言っている。作中から何となくだけど感じる彼の自信のようなものと比べて読むと面白かった。氏の人柄が垣間見える気がして…(笑)。
のだめカンタービレ 1
2002/04/01 02:03
笑笑笑い過ぎ!
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酔っ払いを書いたら日本一は間違いない二ノ宮知子氏! お笑いを書いてもかなりレベルは高いですね! たとえば、女性向けコミックでお笑いを書く人、と言ったら名作「ハッピー・マニア」の安野モヨコ氏ですよね。しかし、二ノ宮氏はあ−ゆうノリとは違うんです。あくまでも、庶民的、とみせかけて天才の格調高い笑いを描いているんです(笑)。
音大を舞台にしたクラシック(コメディー)漫画ですが、笑いだけではなく、夢に向かって猛進する若き音楽家たちの姿もばっちり描かれております。
主要人物は3人。まず主人公のピアノ科在籍ののだめ(野田恵)は、才能のある(というか天才らしい)20のうら若き乙女。しかし、天才とは常人の理解を超えてるもの。ゴミだめに住み、風呂は1日おき、シャンプーは4日おきとかなりげろげろな生活を送る。しかし、ピアノの才能はある(強調)。そしてそんな彼女が個性的なアタック(ここが笑いどころ)を続ける先輩の指揮科の千秋も、これまた天才。俺サマな性格だけれど、かっこいいのでもてる。のだめのお守り的存在だが、実はのだめから得るものは大きい(ように思える…)。さいごにバイオリン科の問題児、峰。今後、のだめと千秋先輩に彼がどう絡んでくるのか、はたして彼には才能があるのか…なんてところが見所です。
今のところ、特にこうといった事件や展開はないです。まずは、のだめの変人っぷりを1巻でとくとご賞味あれ!
ごくせん 1
2002/04/01 01:45
最高レベルのギャグコミック
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仲間ゆきえ主演でこの春ドラマかも決まっている、なにかと話題なこの『ごくせん』。極道の先生、の略です。主人公の先生はなんと極道・黒田組の組長の一人娘・山口久美子(通称ヤンクミ)! しかし選んだ稼業は高校教師だった!!! おちぶれた不良生徒たちは彼女の正体を知らない。ここ、「私だけが知ってる」って読者の快感・基本ですよね。
生徒たちを独自のやり方で愛する、かっこいいヤンクミは金八ともGTOとも違います。あくまでも、生徒の自主性を重んじ、生徒を導くのではなく、生徒を守るのです。しかーし。完璧なようでときにおっちょこちょいなヤンクミには腹をかかえて笑っちゃいます。でも本人は真剣(そこが爆笑)。
それから、数いる個性的かつ魅力的キャラクターの一人はヤンクミの教え子、頭脳明晰・ルックス抜群・喧嘩上等な慎。クラスの中心的存在だけど、何かと謎が多く、しかし鋭く、ヤンクミの正体を見抜くただ一人のキーパーソン。
YOU紙上での連載も絶好調のようです! 今後、どれだけ読者を笑わせてくれるかに期待がかかってます!
ぼくと彼が幸せだった頃
2002/03/30 22:57
描写力は評価の通り素晴らしい出来映え
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改行がほとんどなく、散文的な文章である。そして表紙の折り返しにある様々な賛辞のとおり、美しい文章、青春の輝きが詰め込まれた小説である。
これは、ゲイ小説と称された小説なので、勿論登場人物の青年はゲイである。エイズを一つのテーマに、エイズにおかされた青年が、自らの自伝を執筆する、という設定で物語は進んでゆく。しかし、作中に「ぼくはこれをセックス自伝にしたくはない」と書いてあるように、大胆な性描写はほどんどないといっていい。
ここで描かれるのは、ゲイカルチャーと共に、その中で育まれた真の愛情と友情である。興味本位では立ち入ることのできない、愛の物語である。表題にある「私」と「彼」のお互いを思いあう気持ちは、ラストで読者の涙を誘うこと間違いない。
指の戯れ
2002/03/08 17:09
指の戯れ、すばらしいタイトルだと思います
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山田詠美氏があるインタビューで「始めは『口の戯れ』、というタイトルでサックス奏者を登場させようと思っていたが、サックスのことをよく知らなかったので、ピアニストに変えて『指の戯れ』というタイトルにした」という意味のことをおっしゃっているのを目にしたことがあります。
いちいち説明するまでもありませんが、その指を使った性描写は、すばらしく美しい。山田詠美氏は誰にも真似ができないやり方でそれを書くなあ、すごいなあ、と改めて思いました。
ここに出てくるピアニストは、ジャズを演奏する人ですが、実はリストのピアノ曲に「水の戯れ」というタイトルの曲があります。それはクラシックなので、山田詠美氏が意識したかどうかは解らないのですが、その曲の激しさといい、併せ持つ滑らかさとい、物語のイメージにつながるところがあるように思います。
官能小説家
2002/03/02 17:30
Hなだけじゃない。文学度がすごく高い作品。
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高橋源一郎というと、好き嫌いがはっきりと別れる作家だろう。独特の文体、読んでみればすぐに「高橋源一郎の文章だ!」とわかる、ねちねちした諧謔…。私はどちらかというと、そんな高橋源一郎が肌に合わないと思っていたのだが、朝日新聞連載時、時々読んでいて、「おや、この文章はいつもと違うノリじゃあないか?」と、思い始めた。そしていざ、買って読んでみると、これがなかなか面白いのである。高橋源一郎を苦手だ、という人にウケそうな感じさえする。
ストーリーは「文学史の中から復活した夏目漱石、森鴎外といった明治の文豪たちが、当世の作家・タカハシ(高橋氏自身をモデルなのであろう)を翻弄する『現代』」と「樋口一葉の男性遍歴と、彼女と森鴎外の燃え上がるような恋愛を描いた『明治時代』」が交互に語られる(でも、やがて混ざって分けわかんなくなってくる)。『現代』は、いつもの高橋源一郎の文体でのらりくらりと語られるのだが、『明治時代』の方は比較的引き締まった文体である。そのコントラストがいい。
それから、現代にやって来た森鴎外が、「別に良いじゃん」とか、「おまえ馬鹿だな」とか、こういう口調でものを言うのが非常に可笑しい。森鴎外と夏目漱石が互いの作品を批評して、というかけなしあって子供のような喧嘩をしたりするのも…。文学史上のエライ人たちのイメージが崩れるのがなんとも言えず痛快なのだ。
ところで、『官能小説家』と言うくらいなのだから、やっぱりエッチなのだろうか、というと、私はそうでもないと思う。確かにこういう小説を新聞紙上で連載する、というのは今まで例が無かったのかもしれないが、別に背徳的なわけでも、教育上の問題にするほどのことはない。エッチ、というか、恋愛をかけばそれがエッチなのは当たり前のことだ。特に熱く描写されるのは樋口一葉と森鴎外の情事なのだが、非常に美しく書かれている。溢れんばかりの二人の愛は、これ、まさに純文学だよなあ、と思う。偉大なる文豪の名を被ってはいるが、ただ単に一組の男女の話、として読むと、明治時代の純度の高いラブストーリーとして読めるのである。
日曜日の沈黙
2002/04/08 14:41
キャラがいい
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「犯人は…おまえだあっ! なぜならお前の手元に残ったカードがばばだからだあっ!」 「しかし、ばばぬきで犯人を決めちゃうなんてミステリィおそるべし」。こんなことを語る登場人物が出てくる。ツヤツヤロングヘアの女子高生ふたり組。奇妙奇天烈な奴だ。しかし、それゆえに愛着も持てるのだ。上述のせりふでは一人で爆笑してしまった。
メフィスト賞受賞作。さすがだ。納得がいく。まずキャラの魅力は狙い通りという感じだ。しかし、キャラだけじゃない。この人には間違いなくある種のセンスがあるように思う。これからどんどん研ぎ澄ましていってもらいたい。軽妙な話なので誰でも読めそうな感じだ。シリーズ化しているみたいなので是非続きが読みたい。
GREEN 農家のヨメになりたい 1
2002/04/01 17:39
タイトルからは内容がわかりにくい
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内容事自体はすごく面白いのですが、タイトルが不適切だと思いました。サブタイトルとして「農家のヨメになりたい」と書いてありますが、むしろこっちのほうがよかったのではないかという気もします。
ストーリーは調理学校に通う都会の女の子・ワコが、キャンプにやって来た折に出会った農家の跡取息子・誠に一目ぼれ。彼の嫁になるべく、なれない農作業を手伝う(邪魔する…?)どたばたコメディ。
二ノ宮コミックらしく、登場人物は脇役にいたるまでみーんな個性的。たとえば、ご老体ながら農作業に精を出す誠のばあちゃんの絶妙な突っ込み。誠をライバル視している近所のぶどう園の後継ぎ息子(T.M.レボリューション似)の勘違いっぷり。ワコの純情をからかう近所の双子の生意気っぷり。しかし、一番の見所はやはり、ヒロインのワコの変人ぶり。もう、おかしすぎます。本人は恋に向かって一直線なんですが、乙女というには程遠く、だからと言って単なるボケきゃらではなく、味がある…酸味の強い(?)キャラクター。でも読んでるうちに愛着が湧くこと間違いなし。
いちお、ワコと誠のラブストーリーなのですが、ラブ色は強くないですね。すごくライト。それよりも笑えます。
あと、都会から来た女の子が農作業をする、なんていう設定はちょっとありがちかな…と思うんですが、そうさせないのが二ノ宮氏の力量。ちゃんといまどきの女の子を書いていながら、いやみじゃない程度に農業の素晴らしさを伝えています! はたから見て「すごいなあ」というのではなく、農業に携わる人々の仕事への愛着や熱意が感じられるのです。とあるエッセイ漫画によると二ノ宮氏自身、畑を借りて締め切りのあいだに農作業にいそしんでいるとか…。
後宮小説
2002/03/02 17:28
文章のテンポのよさはまさに才能
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ファンタジーノベル大賞を受賞した作品だが、フィクションな歴史小説として読める作品である。酒見賢一氏の作品は他にもいくつか読んだが、歴史小説に縁のない人に本を勧めるとしたら、間違いなくこの『後宮小説』だ。歴史小説には聞き慣れない固有名詞、読めない漢字が多用されている場合が多々あり、歴史小説の初心者は敬遠してしまうものだ。その点、酒見氏は非常に読者に親切である。潔い短い文章でテンポよく話を進めて言ってくれる。例えばこの小説はこういう一行から始まる。『腹上死であった、と記載されている』。一切の無駄がないシンプルな文章。でも引き込まれる。次に何が書いてあるのか知りたくなる。
ところで、この小説は、銀河という名の田舎娘が、紆余曲折を経て正妃になるという粗筋だが、彼女の魅力は小説を読めばわかっていただけると思う。自由奔放なヒロイン、というと型にはまったキャラクターを想像してしまうが、銀河の場合は見てて小気味いい。
それから、この小説の見所は、『後宮小説』というくらいなのだから、「女大学」で行なわれる、ベッドの中での技を身に付ける授業である(笑)。秘密の世界を覗くように、どきどきして読めることと思う。
あしたはうんと遠くへいこう
2002/04/10 08:43
自分と重なるかもしれない。
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ひとりの女の子の15年間の恋愛の軌跡を描く連作短編集。あるときは滑稽に、あるときは痛々しく。こんな風に恋愛する女の子を知っている。そう、自分と重なるのである。
●高校の同級生に心を込めて曲を集めたテープを作って渡した。しかし彼の反応→「あいつなんかこえーよ」
●大学に入り、東京に出てきた。サークルのバンドの男の子と一緒に住むことになりしばらくは幸せだったが、旬の時期はすぐに過ぎる。彼女はテントを背負ってアイルランドへ自転車の旅に出る。
楽なほうへと流れる人生だろうか? いや、書かれているのはそう言うことではないと思う。自分の意思ではどうにも出来ないことが世の中にはあって、私たちは自分の人生においていかれないように、必死でそれにしがみつくのだ。
