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網状言論F改 ポストモダン・オタク・セクシュアリティ

2003/02/04 15:57

オタクはアイデンティティなのか

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 本書は「オタク」を巡る本である。しかしこの本で「オタクとは何か」が明らかにされている、と期待してはいけない。むしろこの本で執拗に語られているのは「オタクとはいかなる問題なのか」ということである。それを巡って二つの問題軸が交差するのが本書の構成だ。一つは、本書の元となった「網状言論」でも主要な対立となった斎藤環氏と東浩紀氏の対立。これはラカンを巡る哲学的な問題として理解された感があるので非常に難解だが、要するに「存在としてのオタク」(斎藤)か「現象としてのオタク」(東)かという対立だ。もう一つは本書の後半に収録された東、斎藤そして小谷真理氏との鼎談でテーマとなるジェンダーおよびセクシャリティの問題だ。この鼎談では斎藤と小谷がオタクのセクシャリティを分析することに意義を見いだすのに対し東は、現在のオタクはデータベース的な萌えパーツの組み合わせを動物として享受しているのだからかかる分析は無効だと主張する。
 この対立が意味するものは何か? それは「オタクというアイデンティティはあるのか」という点について、実は世代によってかなりの開きが生じているということだ。読者は後半の鼎談を読んで、オタクのセクシャリティやアイデンティティについて言及し、東の「オタクとしてのアイデンティティ」を開示させようとする斎藤・小谷に対して、東が「逃げている」ような印象を持つかもしれない。しかしながら東本人が「自分がオタクであるかどうかはわからない」と述べるように、東より下の世代のオタクにとって「オタクというアイデンティティ」の中身などそもそも問題ではないのだ。
 社会学を専攻する私の立場は、世代的なものを差し引いても東のスタンスにかなり近い。社会学的には「オタク」とは「ギャル」や「不思議ちゃん」と同じ、コミュニケーション上の自己提示戦略の一環に他ならない。つまりアイデンティティではなく、自分が人から見られたいと思うイメージの一つに「オタク」というリソースがあるだけなのだ。そういう見方をすればギャルもオタクも自分がイメージするリソースのコスプレをやってるだけだとも言える。どの立場に与するかは読者次第だが、そもそもこういう対立が存在するということを知る上でも、本書はいい機会を与えてくれるだろう。

(鈴木謙介/東京都立大学大学院博士課程 http://www.socion.net/papers/)

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