3307さんのレビュー一覧
投稿者:3307
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煙か土か食い物
2003/02/24 21:13
大加速ハイブリッド文学に、ありがとう!
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あれから三週間が過ぎ、私は日常を取り戻しつつあります。
私にとって、本書がもたらした衝撃とその美しさは、深さにおいて鈴木光司氏の『リング』から『らせん』への深化と並び、広がりにおいて北村薫氏の『空飛ぶ馬』に匹敵します。
全ての設定が有機的に集約する大団円を経験した瞬間、様々な思いが一気に呼び起こされ、情報量の密度に負けて回線が焼き切れ、充実した空白に支配されました。それは、ひどく自由で愉快な気分であると同時に、強く強く感じた「何か」を言葉にすることを禁じられたもどかしさに苛まれる時間でもありました。
充実した空白は、その一瞬の爆風で、思いも言葉もちりぢりに吹き飛ばしていたのです。以来三週間、まるで熟練の考古学者のような手つきで、私はそれらの言葉の断片を一つ一つ拾い集めてはつなぎ合わせてきました。
舞城氏のスタイルを構成する要素の一つに、徹底した一人称の視点から世界を描く手法があります。これは、90年代のジュブナイルを代表する、神坂一氏と比較することで鮮明になります。
神坂氏の文体の魅力は、「地の文の一人称スタイル」と、「大阪文化の結晶のリズム感で惹きつける会話文」にあります。作品の面白さだけでなく、読み易さへの気配りと、読者へのサービス精神が、あれほどの支持を集めたのでしょう。
舞城氏の文体は、最新刊の『阿修羅ガール』では、地の文から会話文が切り離されていますが、本作の時点では、基本的に地の文の中に会話文も取り込む形になっているため、視点のブレがより軽減されます。
改行が少なく一息で多くの言葉を叩きつけるスタイルと、この徹底した一人称の魅力により、読者はかつてない「スピード」を体験します。その加速度に私は、文章でここまでのことができるのか、と絶句しました。
このスピード感に乗せて、「現状がどれほど悲惨であっても、それを肯定した上で、あらゆる手を尽くして前に進む」という迷いのなさで『暴力』が語られます。そして、小説は一級のミステリと成り、同時に新しい文学が生まれました。
「文学」なんて言葉を軽々しく使うべきではないかもしれませんが、『作家の秘めた「毒」があり、それを文章に刻む過程で昇華して見せることで、読者を鼓舞するもの』を他に呼びようもないため、あえてこの言葉を選びました。
ミステリと文学のハイブリッドにより、祝福された小説がここにあります。
そんな作品を生みだした作家と、同時代に生きることができるのが嬉しい。
気負わずに、描きたい世界を書ききることで文学を「取り戻した」ことが美しい。
何より、舞城氏はスペシャルな作家であることは間違いないのですが、彼と同様に革命的な作品を送り出す作家が、この先に驚くほど現れることを「予感」させられたことが素晴らしい。
「まだまだ、こんなものでは終わらない」と。
「今」と「この先」を肯定する力が落ちた時に、追い風となる一冊。
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