よりどりみどりさんのレビュー一覧
投稿者:よりどりみどり
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紙の本猫と庄造と二人のおんな 改版
2002/06/08 17:10
老猫リリーの大冒険
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猫好きなら純粋に楽しく読める物語です。
長さもほどよい中篇で、「細雪」のような、ねっとり濃厚な大長編で、途中息切れする心配もありません。逆に「刺青」のような、場面場面を鮮烈に切り出して見せる短編よりは、きりり度が低いかも知れませんが、歌舞伎でいうなら世話物風、軽妙な語り口でいっきに読ませてくれます、ええ、それはもう、猫好きなら、百パーセント。
登場する猫は「イギリス人が鼈甲猫と呼ぶ」洋種で、齢10歳になろうという老猫です。昨今の飼い猫ならいざ知らず、谷崎が生きた時代の猫にとって、10歳はかなりの長寿でしょう。
谷崎自身、猫を二匹飼って、かなり現代的な猫ヤマイ症状を呈していたようですが、庄造もまた、気は弱いが女にはもてる、みたいな典型的ダメ男でありながら、いや、だからこそ? 猫命。
谷崎文学の解説者は、いろいろしかつめらしいことを言って、登場する猫に何かの象徴性を読み取りたいのかも知れません。でも猫好きなら、ただもう猫がどうなってしまうか、それだけが気になってどんどん読んでしまいます。
同時に、昔の日本家屋のたたずまいや町並み、今より人々の心がわかりやすく短命でもあった時代の空気が、行間にいきいきと浮かび上がって見えてきます。
やはり、この語り口、半端じゃありません。
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