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投稿者:はやてに乗って
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紙の本どうなる地方税財源 分権委最終報告から見た地方税財源充実の視点
2002/11/28 18:28
今後の自治体の根幹にかかわる議論をすべてパッケージ
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地方分権改革は、地方自治の根幹にかかわることでありながら、その枠組みは国が決めることになっており、しかも、膨大なエネルギーを費やし続けている今次の国における分権へのダイナミズムが失われてしまったら、再び発現することがないかもしれない。それだけに、自治体行政に携わる者としては、今の国における分権改革の動きに強く期待するとともに、その推移を厳しく見守らなくてはならないと思う。
産業が乏しく、税収が見込めない自治体にしてみれば、税源の移譲を受けることは大きな恐怖でもある。例え「護送船団」と言われようとも、国で集めてくれたカネをそのまま地方に分け与えてくれた方がどれほど都合がいいことか。地方分権には、前向きな理念の陰に、このような悩ましい側面がある。そして、今後、分権改革の青写真や工程が具体的に見えてくれば、それに対する地方の反発の声も大きくなっていくあろう。
それだけに、本書の大きなテーマの一つと言える「税源の偏在」の問題に注視せざるを得ない。この問題について、分権委員会報告は、「税源移譲による地方税の増収がある程度地域的に偏在するのは不可避であるが、できるだけ偏在の少ないものとする必要がある」としているが、本書ではこれを敷衍すべく、地方税の基幹税目につき個別の充実の方向を分析・検証し、実際にそれらをどのように組み合わせ、どのようなタイミングで進めていくのか、具体的な税源移譲のシナリオを描き出そうと試みている。また、税源移譲のための国の歳出の削減は、地方交付税でなく国庫補助負担金を対象としたほうが、税源の偏在を小さくすることができることを図解し、国庫補助金削減の必要性を明確にしている。
地方財源のもう一つの大きなテーマに交付税制度の改革がある。近年の段階補正の見直し等については、特に小規模町村から不満の声が高まっている。交付税は自治体固有の財源であったはず。国政の都合で小さな団体だからという理由で一方的に減らすことは許されない、と。この問題について、報告は「地域社会の存立という理念にも配慮し、財政調整制度を活用していく必要がある」と述べているが、本書には研究者の様々な意見が収録されているので一読するとよい。例えば、林宜嗣教授は、「ひもつき補助金の一般財源化とともに、ナショナルミニマムを抑えることで、交付税は、一般財源の保障から財政調整に、その機能をシフトさせることが必要」と、交付税の本質を大きく転換する提案をしている。
現在、市町村合併が全国で進行中であるが、合併の議論の際に必ず言われるのは「合併しないと財政の見通しはどうなるのか」である。その答えを明確に出せる段階にはないが、今後の税源移譲の方向によっては、少子高齢化の進む農村部では行財政ニーズに対応できないことがはっきりする可能性がある。地方税財源の議論においては、市町村合併による財政基盤の拡充は大前提である。
本書は、こうした地方の悩み、現実に直面している私たち自治体職員が、現状への理解を深めるのに極めて有益である。分権委員会のバトンタッチを受けた地方分権改革推進会議における補助金・交付税・税源移譲の三位一体の改革の答えは現時点では出ていないが、この本により、その答えを導き出すのに必要な材料が出揃っていると言えよう。分権委員会での議論内容はもちろん、関係省庁、研究者、自治体関係者からの意見聴取の内容についても詳細に載っている。総務省と財務省との意見の鋭い対立は相変わらずだが、国の財政状況が先進国の中でも相当行き詰まった現状を抱える以上、これこそが国会等において本質的に議論される論点であろう。
自治体関係者は、この本をきっかけに、国での分権議論の方向性について、自治の現状に照らし、それぞれの立場から検証してみる必要があるのではないかと思う。
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