ツガさんのレビュー一覧
投稿者:ツガ
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紙の本フライ,ダディ,フライ
2005/04/27 04:42
光の射す方へ飛べ!
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この物語は、腕力、権力、年齢、民族、その他諸々の、人間が人間の為に定めたちっぽけな枠を飛び越えてみせる物語だ。
主人公の鈴木一は、一人娘の遥が傷つけられて怒りを覚えながら傷つけた当事者と対峙するも、目に見える力の差になすすべもなく佇むしがない中年サラリーマンでしかない。だが、ふとした事から知り合った高校生たちによって彼は少しずつ変わり始める。勝つためのトレーニングコーチを引き受けたのはべらぼうに強い高校生、朴舜臣。
鈴木氏は、来る日も来る日も舜臣のトレーニングに食らいつく。愛する家族を守るために。破綻しかけた日常を取り戻すために。
始めは情けなかった鈴木氏が、不思議と格好よく思えてくる。それは鈴木氏と舜臣たちが過ごした毎日を読者も追体験しているからだ。読者は時に、舜臣たち高校生であり、娘の遥であり、妻の夕子であり、バスのスタメンたちである。そして何より、鈴木氏そのものでもある。その気持ちがすっと心に入り込んでくるのだ。悔しさ、無力さ、己の情けなさから始まったおっさんの物語は、ひと夏の冒険譚として読者に元気と勇気をくれる。
フィナーレは、盛大に用意された舞台で、目に染むような青い空に舞う鷹のように、一人のおっさんが光の射す方へ羽を開いて飛ぶ。最高に格好よい、感動のフィナーレだ。
読後、舜臣の声があなたにも聞こえはしまいか。
「おっさん、空を飛んでみたくはないか?」
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