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ボンシナさんのレビュー一覧

投稿者:ボンシナ

1 件中 1 件~ 1 件を表示

回復まで

2003/01/17 06:59

沈鬱から祝福へ──苦痛をかかえながら再び歩き出した作家の記録

2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 自分が青年、壮年の時間を生きているときに、老年について書かれたものを読むことは意味のないことのように思える。けれども不意打ちのようにやってくる様々な苦痛に直面したとき、老年を生きる人の経験に裏打ちされた言葉は、それを乗り越えるための気づきを与えてくれることがある。
 この本の著者メイ・サートンは20世紀のアメリカを生き抜いた女性作家であり、この作品──『回復まで』は彼女が66歳の年、1978年のほぼ一年間をかけて書かれた日記だ。渾身の作品を酷評され、愛した人は年老いて心身ともに彼女から遠く離れ、自身は乳癌という大きな病にかかる。サートンはこの情況を凝視し、苦悩する自身の姿と心中を日記に書き続けていく。それにしても、読むほうは気楽だが、書くことで果たして作家は救われたり癒されたりするのだろうか、とも思う。しかし驚くことに、彼女の手から「祝福」「祝祭」という言葉が生まれるのだ。日記という形式は作家にとって本式の作品とは言えないのかもしれないが、サートンのこの日記のように、ときに作家が言葉を生み出す根源的な力の在り処──それは生きる力そのものでもあるのだが──を教えてくれるものもある。サートンは、自身が日々刻む言葉のなかに、あるいは自然や時折訪れる旧友たちとの語らいのなかに「耐えがたいものを耐えられるようにし、哀しみを解き放ってくれる」力を感じ、「回復」していく。
 今を生きるということが、過ぎ去った時間と、これから巡ってくる季節をも心に抱きながら、自分にとって大切なものとの絆を深めることだということをも教えてくれる作品だ。

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