高野ともみさんのレビュー一覧
投稿者:高野ともみ
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転がる香港に苔は生えない
2003/01/27 23:57
香港・中国好きの人も、そうでない人も、必読。
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香港の市井の人々の懐に飛びこみ、これほどまでに、体温、熱気、喧騒、そのままに、湯気が出るくらいそのままに、伝えたものはなかったのでは? 活字物はもちろん、映画、ドキュメンタリー、その他もろもろの、自分が今まで見聞きした香港関連ものを脳内で総動員してみるが、やはり、これほどのものはない。
著者は香港の中国返還を見届けるべく、学生時代、留学経験のあるその地を再訪。'97年7月1日を挟み前後2年にわたり当地で生活し、“唐楼”(古いタイプのアパート)に住み、広東語の語学学校に通う一方、街の人々と触れ合う。
工場労働者、ソーシャルワーカー、インド人シスター、村で出会ったおじいさん、コーヒーショップで出くわした偽装結婚を企む女性…と様々な人物が登場し賑やかだが、描かれているのは単に香港の世相とか断片的な光景にとどまらず、時にはそこから中国大陸や台湾も含めた社会情勢、歴史にまでスケールが広がっていく。
たとえば、ある大学院生の場合。祖父は“宋家の三姉妹”の時代に中国で暗躍。そして両親、彼の話になると、マカオ、台湾、香港と舞台が目まぐるしく変わり、正に“中国近代史”そのもの。そして言う、「香港人ってもともと生きるために香港に逃げた人たちだろ」。
歴史にしろ社会問題にしろ、何よりも直に接した生身の人間を通して、見出し見通していく。それは血が通っていて温かくもあり、同時に著者の鋭い観察眼も感じられる。
たとえば、返還前に起きた投機対象としての切手ブーム、麻雀(お金をかけての)好きや競馬好き。理解し難い嗜好に対して「そういう国民性なんだ」という陥りがちな断じ方は決してしない。彼らと同じ目線で等身大の彼らと対話し、その背景にあるものまでを見据える。
前半を貫く留学時に知り合った工場の饅頭職人の消息を辿る経緯、“竜宮城の美青年”との出会いなど、特別な思い入れのある人の挿話は、読んでいてもどかしく切なくなったり、自然に微笑んだり。
香港といえば、香港映画にアイドル! そういう短絡的なイメージを持っていた私をノックアウトした。分厚い本だが、するする読める。聞けば2001年第32回大宅壮一ノンフィクション賞の受賞作だそうだ。なるほど。
香港に興味がある人、中国ものが好きな人、異国の雑踏が好きな人、骨太なもの読みたい人、ノックアウトされたい人、もちろん読書が好きな人みんなにお勧め。
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