ナイアガラさんのレビュー一覧
投稿者:ナイアガラ
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パーク・ライフ
2003/02/10 04:17
連想
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あなたが『パーク・ライフ』を手にしたとき、何が目に映るのだろうか。まずタイトル、著者名、次に「芥川賞受賞作」と書かれた帯。この帯を見た途端に、あなたはある避けがたい連想を強いられる。選ばれた読むに足るものとして、憎むべき権威のひとつとして。しかし作品を読み進めるにつれて以前の印象は薄れ、あなただけの視界が開けてくるだろう。
日比谷公園とその周辺を模った装画。これこそが、この小説のほとんどの舞台となっている公園であるし、その冒頭部分を視覚化したものであるし、この公園を上空から眺めようと気球を上げる「老人」の願望でもあるのだ。この装画からして評価の対象になるべきものだし、さらにこの画は象徴的ですらある(装訂全体はさらに意味深い)。ストーリーの起伏に乏しく、主人公を脅かす事件も起きず、したがって内面の成長もない、凡庸な主人公の日常的視点で書かれたこの小説は、その見かけの平凡さよりも余程深い広がりを持っている。
この小説を読んでいくと、作者に手を引かれて歩いているようでもあり、「ぼく」と共に歩んでいるようでもある印象を受ける。その印象は詐欺でもなんでもなく、私がこの作品世界に住み始めた証拠である。この世界では、一歩踏みだして見ようと思えば何から何まで見ることができるようだが、決して一挙には見渡せない木々の陰や公園の地下に張り巡らされた通路が、私の越権行為を許しはしないのだ。この制約は、二人いる近藤さんの可笑しさと哀しさをピエロにしてしまわないばかりでなく、最後まで名が明かされない女を唯の「スタバ女」で片付けることを私にさせないのだ。
内面のドラマは作品上でよりも小説の読者の中で惹き起こされる。いい小説だ。
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