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sanさんのレビュー一覧

投稿者:san

12 件中 1 件~ 12 件を表示

百億の昼と千億の夜

2004/03/16 14:14

日本SFのある頂

3人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

この作品は明らかに、日本SF界がたどり着いた一つの頂です。

特に超越者:施政者、登場人物:作者を含むインテリ層と読むと、
作者の属した世代の精神的な断面をかいま見える感じがします。

萩尾さんの漫画も漫画界の頂点として認められていますが、明らかに
この作品があったからこそです。
そういう意味でも、光瀬さんの作品の中でも際立った作品とも言える
と。

人物の出典は明らかに経文からのもので、仏陀・阿修羅王・バラモン
・須弥山の神々と日本人にとって、生活の中に溶け込んでいる多くの
仏教系の情報・人名をうまく使っています。
また、テーマ自体が日本人が人種的な特質として持っている諸業無常
観を背骨に、いくつもの実際の文明(インダスやシュメールなど)を
モチーフにした仮想的な文明が勃興し、滅ぼされていく様と無常感を
より鮮明に彫り進めていきます。

“滅びは必然”という本書の背骨的な旋律と登場人物としての超越者が
滅びの因子を人類に混入していくという作業は、作者の施政者への
悪意や絶望感を示し、それに刃向かう小さな反逆者としてとしての
登場人物が、安易な感情移入すら許されぬほど、峻烈に突き詰めた形
で書かれています。

ここまで書けばわかるかもしれませんが、パッピーエンドではなく、
0からの再出発なのか諦めなのか判然としない終わり方を取っており、
読者の取り方一つで物語の意味付けすら変わると思えます。

日本という国が年を経て変わっていく様のある1面を、全く別の形で
顕した名著の一つと考える一冊です。

是非、1度は手にとって、熟読されることをお奨めします。

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宇宙へのパスポート ロケット打ち上げ取材日記1999−2001 新版

2004/02/10 13:48

真星のパイロットへの序章

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

10〜30代で宇宙への興味はあるけど…小難しいお話ぎらいのあなた。
そう、本書はそんな人への超入門・体験お勧め旅行取材記です。

筆者は、久方ぶりの宇宙旅行もののSF“星のパイロット”シリーズを
書いた笹本さん。
そりゃ、文章も面白いわ、ネタはもりもり。

でも、実際に見て欲しい日本の宇宙開発の現場の苦労を一生懸命、
教えてくれます。
NASAと比べて1/10の予算で動いている日本の宇宙開発。

本来、台湾新幹線や中国新幹線なんか(失礼)より、産業界に大きな
影響をもつはずの分野へのお国の冷遇なぞが垣間見えるのも、寂しさ
とちょっとした怒りすら覚えてしまうのです。

また、解説やレビューをあの松浦晋也さんが行っているのも一興。

お勧めの一冊です。
さぁ、みんなでフッターズ!(笑

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復活の地 3

2004/11/15 15:39

復活の日本

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

文学史の中で予言的な物語というのは幾つかある。
原子爆弾を描いた某作家、タイタニックとくりそつな物語を書いた作家等
など。本作者の小川一水もそういった予言能力でもあったのだろうか?と
考えたくなるが、実はそんな事もない(中越地震直後という時期のため)。

というと、種明かしは簡単。
普遍的な災害に対する反省を多量に含む、シュミレーション物語であると
いう事。実際、本書の大まかな流れは、実は関東大震災時の日本の姿その
ものであり、その写像である。

1で書いたように、司政官シリーズを彷彿とさせるような主人公の発言や
行動、登場する女性キャラクタの言動などは実にSFチックであり、秋オタ
を刺激する…

しかし、2巻目以降、記述が実に峻烈になっていく。
軍部による被差別民の大虐殺、選民思想の強い独断的な陸軍、開明的な天
軍(日本海軍)とその動きの問題点の指摘。
 そう、これは同上人物を架空の人間に、国家を架空の星間国家という骨
組みに置き換えただけの物語になっているのは明白であり、それが強く
“人間”を意識した物語として味付けされているのだ。

当時の日本は、震災復帰後から空気が澱んでいく。軍部独裁・独走へと。
本作品の最後はそうせず、救いがあるように進められ、うまくまとまって
いる。お勧めの作品だ。

では…現実の世界はどうなるのだろう!?
本作品の基本プロットが関東大震災の日本にあると書いたが、現時点で同じ
様な東海地震や関東直下地震が発生した場合、物語のように幸せな対応を
取る事が出来るのだろうか…
領土欲丸出しで迫る中国、日本の預金を当てにした政策を続ける与党、腐敗
しきった官僚制度等など、不安は尽きない。

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復活の地 1

2004/08/16 17:14

星雲賞候補No1の作品

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

小川一水、おそるべし。

第六大陸であれだけのエネルギーを注ぎ込んで、SFファンを
楽しませてくれましたが、本作もやってくれました。

本作を旧いSFファンに説明するには、ぴったりのものがある。
全体のイメージとして、なんとなく眉村卓の名作“司政官”
シリーズを彷彿とさせるのだ。

主人公が官僚の頂点に立つ人間であり、比較的善良且つ優秀
という近似が成り立つ。
ストーリも細かい点は別にして危機的な状況で、主人公とそ
の周りの人間の対比や発生する危機の乗り越え・危機管理と
いった論点は読むものを飽きさせない。

昭和時代の隠れた(?)名作である司政官シリーズや光瀬龍を
思い出させる緻密な語り口....

 似非SF小説が多い中、今年の星雲賞はこれで決まりだろう。
それだけの中身を持つ“SF”小説である。

SFファンだけでなく、一般の小説としても充分に評価に値す
る作品ではないだろうか。

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夏のロケット

2004/03/16 16:04

民間企業主導のロケット開発への夢

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

『夏の〜』から想像できるようなフレーズってなんでしょう?
泡沫の夢とか希望とか言う言葉ではないでしょうか。

そのフレーズの替わりが、本作品では『ロケット』です。

高校生時代からロケット打ち上げを夢見るグループが社会人となり、
新聞記者として活躍(?)している主人公が、過激派系のちょっと
した事故事件に昔の友人の影を見つけ、追及するうちにそのグルー
プに引き込まれ、民間でのロケット打ち上げを計画・達成してしまう
という『夢』物語…

本書が魅せている『夢』は、単純にあきらめるべき『夢』ではありま
せん。現実にロケットを民間主導で飛ばそうという大きな夢に繋がっ
ていくことができる点がすばらしいと思うのです。

現在の宇宙開発の99%は、日本も含む全ての国々において官需でいと
なわれています。本当の意味での民需というものは、ほとんど存在
しません。
強いて云うなら、千葉工業大の鯨センサ衛星とJPLの学術衛星の一部
が私立学校による実費公募において、一部民需と言える部分がある
と言うことぐらいではないでしょうか。

本書がみせている夢を出来れば現実世界に広げ、多くの人間が関わる
事のできる本当のプロジェクトの姿にしたいと思うのです。

そういった意味で、星空を見るのが楽しくなるすばらしい1冊です。

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国産ロケットはなぜ墜ちるのか H−ⅡA開発と失敗の真相

2004/03/01 14:05

これで良いのか国産技術

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

宇宙というと、最近のメディアで人気の解説者の松浦氏の日本の宇宙開発
のお台所事情とJAXAの解説本です。
某アメリカさんから買ってきた技術を中心の部門には比較的冷たい視線を
感じつつ、本当の国産技術で頑張ってきた宇宙科学研には温情いっぱいの
文章に笑いをこらえつつ、楽しんで読めました。
松浦さんは日本人だなぁと。(笑)

H2A-6号機の失敗や宇宙科学研の失敗(といより努力)を懸命に第3者の目
から分析しようとしてくれています。
 大新聞さんがまともな記事を書けない(理系いないもんな)という現状で、
唯一、エンジニアリングという窓を持って、宇宙開発に携わる組織のあり方
まで進めていて、本当の問題点はどこなのかという点まで掘り込んでいます。
#大体、天体物理や宇宙好きの同好の士が、数学嫌いで理系から逃げた
#新聞記者になんか期待かけっこないのも事実ですが。

 「ひまわり」や某情報収集衛星のお話に関しては、日本の現状を考慮し、
国際的な意味・位置付けまで及んでいます。
まず、「ひまわり」や「MTSAT」に関して、日本は地球シュミレータなる超
立派な代物をこさえて、広く世界に公開しているにもかかわらず、その代物
を利用すべき気象データの取得にさえ、アメリカ頼りにならざるを得ません。
実はあの「ひまわり」ですら、70%近くがアメリカ製なんですね。
#コンピュータの分野でも、ベクトル型スパコン以外はお寒いのですが。

松浦さんは紳士ですから直接には云いませんでしたが、「技術立国」という
にはお寒い国辱ものの事実…

国際競争力を指標化したデータでは、中国と同等の28位。
1位から28位まで14年で落ちた計算です。

ロケットが墜ちた原因とこの国際競争力が落ちた原因は同根の様です。
それは、お役人・政治家に理系の人間がいないため、技術うんぬんうを問い掛
ける事ができる人が、御国の中核・中枢にいないためです。
アメリカ・欧州先進国・オランダ・中国・韓国・イスラエルなど技術を売りに
できる国を見てみると、必ず中核にエンジニアと技術討論ができる理系のメンバ
がいます。

アメリカでは前副大統領のゴア氏、中国は国家主席からして理系の人間です。


この本は、我々一般庶民がロケットという先進的なエンジニアリングの結晶と
も言えた“もの”が墜ちた理由の解説書にでありますが、実は頭の固いお役人と
政治家向けの宇宙もの入門編と理系の勉強への入り口でもあります。

せめて自民と民主の先生方には読んでいただきたい本です。

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宇宙へのパスポート 新版 2 M−Ⅴ&H−ⅡAロケット取材日記

2004/02/24 11:50

宇宙へのあこがれと現実

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

題名どおり、宇宙へのパスポートの第2弾です。
お約束のとおり、松浦さんの解説と笹本さんの面白い旅行記風の
文章は秀逸。

と、書くと本書の大切な1面を落としてしまいます。

そう、本書はお笑い系の体験記ではなく、現状の日本の宇宙開発
の問題を鋭く切り取っています。
つまり、エンジニアや学者さんの努力や工夫すら流してしまう、
日本のお役所の宇宙開発への無理解・怠惰とそれをきちんと把握
できない政治家。

宇宙へのパスポートが書かれた時は、H2Aの打ち上げ失敗などの
前だったこともあり、宇宙開発への順風満帆なのりのりの文章で
したが、こちらは失敗の最中のもの。
#対象はMV-Xとかで、H2Aは後半だけなのですが。

やはり、そういった意味での侘しさはぬぐえません。

 ただ、日本のそれぞれの宇宙開発機関の努力とその裏側をNHKの
プロジェクトXのような美談感覚でごまかすのではない、地に付い
た感覚で切っていて、前作と比べても面白さという点では負けてい
ません。

そう云った意味で、part1と比較しても逆にお勧め度は増しています。
ぜひ、ぜひ、ぜひ、宇宙開発を楽して知りたい方にお勧めの1冊です。

P.S
宇宙作家クラブの努力なんかも垣間見え、その点も面白さを増して
います。あとは、笹本さんが星のパイロットシリーズの続編を書き
まくる事を希望するだけですね。

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ファースト・レンズマン

2003/08/04 17:21

ほらね…

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

30代のスペオペファンにお勧めの本です。
アニメでレンズマンを見た方、ファーストレンズマンとは!?
キムボール・キヌスンのレンズマンになった状況は…!!

本当のレンズマンのストーリを楽しむための1冊目の本です。
ストーリを楽しむなら、創元で既刊の2冊より、この本を先
に読むと良いかもしれません。

逆にわくわく感を楽しむなら、既刊から読んでもOK。
10代に読んだ方、もう一度細かいストーリを楽しめます。

多くのファンを唸らせたスペオペの代表作です。
是非、手にとってください。

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永遠の森

2004/03/15 14:12

美術学芸員の未来形と女性作家の感性のみずみずしさを味わえる作品

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

SFのジャンルの中で、こういった惑星間博物館を取り上げ、
人類の歴史とかを振り返るという作品があります。
いずこかの惑星で、朽ちかけた博物館に入ると、全盛を極め
た人類なんかの作品群や情報にあい、侘しさを感じさせつつ、
その状況を説明していく...という形ですね。

ところが、どっこい!
本書は全然違うカテゴリの作品なんです。

そう、博物館惑星ではなく、美術館の学芸員さんのお話です。

コンピュータを脳内接続し、イメージで扱える美術品DBシス
テムを自由に扱える主人公が、美術のさまざまなカテゴリ単位
のアクセス権しか持たない各学芸員の間に入って調整役に徹し、
持ち込まれる色々な芸術品(これがとっぴも無く面白い)に
対して、調整役をこなしつつ探っていくというもので、美術品
単位の短編を集めて1冊としたものです。

筆者が女性と言うことで、文章に女性的な感性が満ち溢れてい
る作品で、久々に女性のSF作家としてほれ込みたい作者に遭え
たという喜びを得られた作品です。

内容的にも感性的にも、文学的にも
星雲賞に輝くだけはあるすばらしい作品です。
久々に栗本薫さんレベルの感性や瑞々しさを感じさせる新しい
女性作家であり、是非、お奨めの作品です。

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われらの有人宇宙船 日本独自の宇宙輸送システム「ふじ」

2004/02/09 16:27

さぁさぁ、本番だ

2人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

そこの理数系の残り火を抱いた、エンジニアの皆さん。
さぁさぁ、ガキの頃夢見た、宇宙旅行の本番だよ。(多分)

今、SF作家で自分達の足元を見た宇宙開発を書く作家が増えていますよね。
これは、アメリカの宇宙開発初期と同じ現象かと。
#ただ、書く理由が“危機感”なんだよねぇ。悲しいけど。

で、その大もと…
今の日本の宇宙開発の現状とその行方を、わかり易く書いてくれています。

今後、如何に宇宙開発を日本が進めるべきかをいろんな観点で
分析しつつ、本書は有人飛行の必要性まで進めて行きます。
国威発揚の大騒ぎなものではなく、日本らしい足元を固めた開発
ってこう考えていますっていう、実現可能なモデルです。

元々、この方面のライターさんでは秀逸な本を書く松浦氏。
今回も外してません。まず、足元。
その点を認識し、「次」のステップを探るに良いテキストです。


さぁさぁ、今度は自分のガキン子を虜にして、「夢」をつなげなきゃ。
アンドロメダ焼きは喰えんぞぉ!



P.S
私としては、笹本氏あたりとギャグを入れて共著でこの辺を書いて
ほしいなぁ。(笑

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シャドウ・パペッツ

2004/11/11 17:17

エンダーの仲間の軌跡

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 カードは「エンダーのゲーム」で爆発的なヒットの後、死者の代弁者
などの続編を書いてくれたが、エンダーと姉妹の話に終始していた。
確かに「エンダーのゲーム」は3兄弟のからみが前半の中心であったが、
物語を面白くしてくれたのは、バトルスクールでの少年達のからみで
ある。
 エンダーズシャドウ以降のシャドウシリーズ(?)は、物語の最初で生
じた“エンダーのゲーム”の魅力的なキャラクター達を取り上げ、エピ
ローグで書かれていた内容を、別の視点・考えを持ったキャラクター
達から見た形で再構築されている。
その点のフォローを近年、取ってくれているカードではあるが、ただ穴
を埋めるという形のつまらない対応では、当然ない。

 短編のエンダーのゲームにしか出てこない描写、長編で書き直された
エンダー・ヴィッキンとその周りの少年・少女達…

 当時、中学生としてちょうど思春期だった同年代の30代後半のSFファ
ンには同窓会ばりに懐かしさを伴い、さらにわくわくとさせてくれる久
しぶりの物語だ。

ただし、完成度では前作のエンダーズシャドウの方が遥かに上だろう。

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マルドゥック・スクランブル The First Compression−−圧縮

2004/03/01 14:37

SF大賞受賞作として

4人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

実は−5星なんです。この本の評価。

・軍事…
・コンピュータの仮想現実
・美少女もの
・M系の女の子
という4つの流行を持込んだ作品です。
#“げてものおたくSF”ですね…これは。

いろんなSFが出て、今、この世界は絢爛豪華な新人がいっぱい。
にもかかわらず、本書を早川文庫のJAに入れる編集者の勇気を尊敬
します。

星雲賞といえば、取れそうで取れなかった優秀な作家も数知れず。
同じような軍事系の色を出した神林長平さんの作品とかと比べる
方が悪いのかも。

文章自体は、それなりなのに、この違和感はなんだろう?

やはり星−(マイナス)5の作品です。

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