松井さんのレビュー一覧
投稿者:松井
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紙の本禁演落語
2003/07/21 11:56
還ってきた噺たち
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先般亡くなった演芸評論家・小島貞二氏がまとめた、太平洋戦争時に「禁演落語」とされ、「はなし塚」に葬られた(戦後復活した)落語53編を、メジャーな演目は梗概のみ、あまり聴く機会のない噺は速記を再録して構成した本。
廓ばなしが多数を占め、「非常時にけしからん」内容の落語がどのようなものであったか、を知る資料になる。なかなか聴けない噺をフルバージョン収めるあたりの編集センスが優れている(全部を収めると本が厚くなったり巻数が増えたりして、落語の本として気軽に手に取るのが難しくなってしまう)巻頭・「中入り」・巻末に、禁演落語についての、戦後生まれにもわかりやすい解説がほどこされている。筆者は私の高校(小島さんの時代は旧制中学)の大先輩で、高校の同窓会の史跡めぐりイベントなどには、よくナビゲーターをつとめられたと聞く。直にご挨拶する機会に恵まれなかったのが残念無念。
やはり内容的に注意したいのは、「禁演落語」が、お上からの統制によって決められたわけではなく、いわば業界の自主規制であったという点。また、自主規制を進めた人物も、ただ優れた「気配りの人」「よき市民」であったにすぎないという点であろうか。その人物、野村無名庵(東京大空襲で没した)の「落語通談」「本朝話人伝」(中公文庫・品切れ)の復刊も期待したい。ともにコンパクトだが、話芸についての基礎知識がぎっしり詰まった好著なのだ。
紙の本真説日本野球史 大正篇
2003/03/25 13:44
黄金時代の再発見
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「明治篇」の続編。取り扱い範囲が中等野球(現在の高校野球)にまで広がり、甲子園球場、つづいて神宮球場が建設されて、本格的な「野球の時代」が始まるまでが描かれる。この二つの球場については、建設計画や設計コンセプトまでが分かり、昨日今日できた多目的ドーム球場などとは違い、今もってその観戦環境としての優秀さと美しさで多くのファンを惹きつけている理由がよく分かる。
東京六大学リーグ戦の濫觴、および中断されていた早慶戦の再開までが語られるが、再開後は当時戦力充実していた早稲田が連勝。翌大正十五年十一月八日、戸塚球場での三回戦、同点の九回裏、有名な本郷選手の「落球事件」でサヨナラ、またも春秋と早稲田の勝ち。この試合後、戸塚のスタンドで、夜が更けるまで一人の若い女性ファンがさめざめと泣いていたというのは「真説」ではないのだろうか(そういう新聞記事があったらしいのだが、この本には残念ながら出てこない)。
慶応は翌昭和二年(大正十五年=昭和元年)秋(春は早稲田渡米のため対戦なし)、ついに連勝で会稽の恥辱をそそぎ、翌昭和三年秋には連続シャットアウトで早稲田を倒し、十戦全勝優勝。ストッキングに白線が入った。「得点なき試合に勝ちたるためしなし」(飛田穂洲)という名言が残ったのだが、これって「忘却とは忘れ去ることなり」(菊田一夫)みたいだ。ここに至って、早慶戦史はいよいよ波瀾万丈になるのだが、それは「昭和篇」のお楽しみ。古い野球選手といえばせいぜい沢村、スタルヒンくらいまでが精一杯の若いプロ野球ファンの人は、それ以前に野球のものすごい黄金時代があったことを勉強した方がいいと思うぞ。
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