兜乃宮さんのレビュー一覧
投稿者:兜乃宮
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紙の本黄昏の岸暁の天 下
2003/04/16 17:48
「神の庭」に起こった矛盾
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一見完璧に思えた「神の庭」十二国の世界に突然起こった矛盾とは?
王が罷免しない限り命を失うことのない臣下達が反逆し、王をどこかに幽閉し、国政を欲しいままにしているのだとしたら?
神の作りたもうたシステムは思わぬ所でほころびを路程してしまった。
新たな王を見いだしてくれるはずの麒麟さえも行方が知れず、自らの力で自らを救う道を完全に閉ざされた戴国の民はどうすれば良いのか?
また他国の苦しみや難儀を知りながら、「神の掟」によって救うことが許されない十二国の他の国々はどうするのか?
戦争や国際問題が日常会話に昇る昨今(2003年4月現在)、他国に侵攻や干渉する事が絶対に許されない十二国記の世界は一見理想的に思えるのですが、現実社会の世界情勢と同じ様にそれだけでは世界は治まらないことがあることを同時に教えてくれます。
現代の日本から十二国の世界へと導かれて行った主人公陽子は現代人の感覚で、この難問を解決しようと努力します。
一国の悲劇はいつかは自国にも降りかかるかもしれない悲劇であり、自国さえ良ければよそはどうでも良いと言うような短絡的なものでは無いことを、現代の平凡な高校生であった陽子も自覚していくのです。
「十二国記」は様々な書評に書かれている様に、単にティーン向けのファンタジー小説の枠を越え、大人でも考えさせられる「人としてのあり方の様々なメッセージ」であると思います。このシリーズの今までの巻は「自分と他者」や「自分と社会」との関わりが書かれ来ましたが、ついには世界を知ることで自分も成長する「世界の中の自分」と言う事を考えるところまで大きな内容となって来ました。
最後の陽子のつぶやきは現代日本にも当てはまる重い意味を持つと思います。
本編の方は個性豊かなキャラクターが多数登場し、重い内容の本書を王や麒麟ファンには楽しく、「魔性の子」の既読者には興味深く読ませてくれます。
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