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投稿者:Pseudoschleicher
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「印欧人」のことば誌 比較言語学概説
2003/05/01 13:58
「ヨーロッパの文化発達史とからめた斬新な比較言語学入門」+「積年の超難問にマルティネが挑む」
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高津春繁『印欧語比較文法』(岩波全書,1954)以来,実に半世紀ぶりに出た日本語で読める本格的な印欧語比較言語学の概説書.
導入部分(I〜IV章)では歴史学や考古学の最新の成果とからめて,この分野になじみのない人にも親しみやすいように比較言語学の方法と成果が紹介されており,斬新かつ有益.ヨーロッパ古代からの文化発達史として読むことも可能だろう.ただし,ヨーロッパの読者にはわかりやすくとも,一般的な日本の読者にはなじみの薄い地名・人名のたぐいが頻出するため,学部の学生などは逆に読み進むのがつらいかもしれない.この点はやや難点か.
中間の部分(V〜VIII章)は印欧祖語の再建方法を,最後のXI章は語彙を説く.話題の展開の仕方に著者の独自性が見られるが,この本の中ではもっとも特徴のない箇所であり,他の箇所に見られる斬新さがないのを残念に思ってしまうのは少し酷だろうか.
だが,印欧祖語の音韻と文法の再建に当てられたIX章とX章の迫力はすさまじく,その到達点は恐らく従来のどの研究書よりも深い.著者独自の視点を取ることにより,これまで解かれえない難問として残っていた母音交替,異語幹曲用,bhとmの交替,格の発達,文の発達等が次々にばったばったとなぎ倒されてゆく.その快刀乱麻ぶりはさすが名刀マサムネならぬマルティネである.
内容は必ずしも平易ではないが,訳はこなれて平明.随所に加えられた訳注も懇切で的確.訳者の見識の広さと深さが見える.さらに原著の誤植は一掃され,原著に欠けていた各国語の索引が付け加えられて便利になっている.これほどの良書がよくぞ出たものだと感動しながら入手早々一気に読み切った.
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