naniwaさんのレビュー一覧
投稿者:naniwa
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紙の本殺人症候群
2003/05/12 12:27
殺人症候群ミステリーの枠を越えた
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症候群シリーズ第3弾。
これまで読んできた貫井さんの作品の中では、最高傑作であることは断言できる。
シリーズものではあるが、これまでのエンタテイメント寄りの作風から、やや毛色が異なる。また、前作を読まなくても、何ら差し支えない内容なので、是非、皆様にも読んで欲しい作品だ。
実際、昨年、ミステリー関係のどこの年間ランキングで、全く無視された状態だったのが、信じられない。この小説が、狭くミステリーだとカテゴライズされたこと自体が、不幸だったのかもしれない。なぜなら、この作品はミステリーの枠からはみ出した小説として評価されるべき逸品だからだ。
今回の作品のテーマは、少年犯罪、心神喪失状態の犯罪による被害者の救済と復讐。非常に重くて難しいテーマである。
本格大好きな貫井さんだから、それなりの仕掛けはある。しかし、この小説の場合、その仕掛け自体は、作者のつむぐ物語を彩る背景のようなもので、それがメインではない。
「永遠の仔」の天童さんの場合、似たような重いテーマを扱っているが、作者の言いたいことが、セリフとして未消化のまま、直接登場人物の口から語られる嫌いがないでもない。
貫井さんのこの作品は、重くて深いテーマが、完全に昇華された物語として、登場人物のセリフの形で自然に語られる点で、小説としての完成度は上だと思った。
また、天童さんが、テーマに対して主人公の立場から明らかな主張を語っているのに対し、貫井さんの場合、テーマに対して丁寧に様々な立場で、様々な視点の考え方を丁寧に提起しており、どれが正しい、どれが間違っているといった主張は、敢えてしていない。
かといって、もちろんテーマから逃げている訳ではなく、おそらく貫井さんがこの小説で主張したかったことは、どれが正しいといったことではなく、「一人一人が、自分の立場や考え方に固執するのではなく、違った立場の他の人の心を、もっと深く理解しよう。そうすれば世の中、少しはいい方向に向かうはず」といったことだろう、と私は読んだ。
一人一人の登場人物の丁寧な心象描写から、そういったメッセージが伝わってきた。極めて「熱い」作品だ。
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