鈴木 真さんのレビュー一覧
投稿者:鈴木 真
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ベトナム人名人物事典
2000/10/05 18:16
王族,武将から文人まで,古代から第二次大戦前までの歴史上の著名なベトナムの人物約650人の横顔を紹介
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ベトナムは長い歴史と豊かな文化をもつ国である。古代までさかのぼり中国への隷属から近世のフランスによる植民地支配に至るまで,その抵抗の歴史は多くの名将,英雄を生み,中国の影響下に独自の発展を遂げた文化は高僧,文人など多彩な担い手を輩出した。本書では古代から第二次大戦前までの歴史上の著名な人物約650人を取り上げ,その人物像を紹介している。
底本となっているのはベトナムで刊行された「越南名人字典」で,その翻訳に解説や補足,修正を加えている。王族から武将,忠臣,義士,詩聖,文豪,烈婦に至るまで登場人物は多岐にわたり,翻訳の苦労が忍ばれる。類書のない大変な労作である。単なる事実の羅列にとどまらず,民間伝承や逸話,辞世の詩歌,遺言なども付記し,人間的な興味をそそる読み物になっている。
著者はベトナムの精神文化を理解する重要性を説き,本書がそのための基礎資料となれば,と書いている。本書に登場する多彩な顔ぶれとその興趣尽きない記述は,その希望を相当程度までかなえていると言っていいだろう。
ベトナムと著者とのかかわりは,旧日本軍のフランス語通訳として仏領インドシナに派遣されて以来,半世紀以上に及ぶ。この国に対する著者のこれほどの思い入れがなければ,本書も日の目を見ることはなかっただろう。
残念なのは,本書では激動の近・現代史を形づくった人々が抜け落ちていることである。底本の関係でこうなったことは理解できるし,本書刊行の狙いもベトナム理解の欠落部分を埋めることにあったのだろう。しかし,「人名人物事典」と題するならば,少なくともホー・チ・ミンなどの著名人は対象としてもよかったのではないか。ここは続編として「ベトナム現代人物事典」の刊行を期待したいところである。
もう一つ,人名にはベトナム語のアルファベット表記と発音記号も付記してほしかった。本書の読者にはベトナム語の素養のある研究者や学生もいるだろう。本来のベトナム語表記を加えていれば本書の資料的価値はさらに高まったに違いない。
(C) ブックレビュー社 2000
アジア経済論
2000/07/10 09:15
戦後のアジア経済の急速な発展とその問題点を97年のアジア経済危機後までを視野に各国(地域)別に概観
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" 1997年のアジア経済危機から3年が過ぎた。アジアの成長神話を揺るがした経済混乱の連鎖は一応収束し,各国経済は回復基調をたどり始めた。本書は,各国の経済発展の足取りを危機後までを視野に入れて概観している。タイムリーな出版といえるだろう。
最初に「総論」を置き,「奇跡」から「危機」に至った経緯と構造的問題が国の枠を超えて横断的に論じられている。テーマは人口動態,所得分配から産業政策,農業部門の発展まで多岐にわたるが,特に詳述されているのは急速な経済発展とともに急拡大した国内投資・貯蓄ギャップ=経常収支赤字の急増と,その結果としての外国・国際市場からの急激な資本流入である。東南アジアで顕著だったこの現象は97年にまずタイで沸点に達し,その後,インドネシアや韓国など他のアジア諸国に危機は飛び火し,アジア全体を未曾有の混乱に陥れた。今回のアジア経済危機を理解する上で,これは欠かせない視点である。
総論に続く国(地域)別編では,韓国,台湾,中国・香港,マレーシア,タイ,ベトナム,ミャンマー(ビルマ),インドネシア,フィリピン,インド,バングラデシュを取り上げている。急速な経済発展とその挫折には上述のような共通の要因はあるものの,国(地域)ごとの多様性がアジアの大きな特徴だ。アジア経済の全体的理解には,こうして国(地域)別の事例を一つひとつ,丹念に見ていくほかにないのである。
記述は総じて平易で,読みやすい。図表が多用されており,資料的な価値も高い。華人ネットワーク,開発独裁,構造調整アプローチ,緑の革命など,アジア経済に関する10のキーワードについて個別に詳しい解説を加えている点も読者の理解を助けるだろう。
ただ,対象とした国(地域)の選び方には疑問が残る。国(地域)別編から,シンガポールとパキスタンが落ちているからだ。経済規模こそ小さいものの,金融・貿易センターとしてのシンガポールの存在感は大きい。地域統括本部制度などの外資誘致策,産業高度化のための各種施策など,この国の先進的取り組みにも見るべき点は多い。そして,なぜバングラデシュを取り上げ,パキスタンを落としたのか。対象の選択が恣意的という印象は免れない。
言うまでもないことだが,戦後のアジアの経済発展は日本のそれと表裏一体の関係にあった。経済危機をもたらした経常赤字の相当部分は日本との間で発生したものだったし,日本の極端な低金利政策から生じた大量のホットマネーがアジア諸国に流れ込み,危機を増幅させたことも周知の事実だ。日本経済のアジアにおける圧倒的な影響力を考えれば,総論の部分で「日本要因」についても独立した項目を立てて論じるべきだったのではないか。
日中韓とASEAN(東南アジア諸国連合)合同の対話の定例化,危機再発を防ぐセーフティ・ネットとしてのアジア通貨基金構想をめぐる胎動など,日本とアジアの相互依存の深まりをみても,これは明らかだろう。
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(C) ブックレビュー社 2000
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