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氷川友美子さんのレビュー一覧

投稿者:氷川友美子

31 件中 1 件~ 15 件を表示

元刑事の作家が遭遇する、まぬけな犯罪者の起こす事件

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 17年勤めた警察を退職した大道寺圭は、現役時代に出会ったとぼけた事件を書き綴った本、「死んでも治らない」を出版した。その本がきっかけとなって、彼はまぬけな犯罪者の起こす事件に巻き込まれていく。

 公演の帰り道、大道寺の愛車に<トレイシー>と名乗る謎の男が乗り込んでくる。強盗に失敗し、逃げ込んだホテルで誰かに陥れられ、相棒を殺害した容疑で、追われているという。事件のあらましを聞いて、大道寺が真相を推理する「死んでも治らない」。
 けちな犯罪者<お猿のジョージ>が、行方不明になった娘を探してくれと言う。徹夜明けの大道寺は、一眠りした後に協力することを約束する。しかし、目覚めてみると<お猿のジョージ>は他殺死体で発見され、警察に容疑をかけられる羽目に。娘の一件が絡んでるとみた大道寺が謎を追う「猿には向かない職業」。他、「殺しても死なない」「転落と崩壊」「泥棒の逆恨み」を収録。

 5つのオムニバス・ストーリーの間に、大道寺が警察を辞めるに至った「大道寺圭最後の事件」が挿入される構成。その繋がりの妙が楽しめる。この作品の魅力は、シニカルな人物描写とコミカルな語り口の絶妙なバランスにある。軽快な展開に油断していると、いつのまにか作者の仕掛けた罠に嵌ってしまう。切れ味鋭い苦い結末へ、誘い込む手付きが実に鮮やか。地味ながらも辛味の効いた大道寺の人物像が、作品にハードボイルドの味わいを添えている。

 若竹七海のコージー・ミステリには、他に『ヴィラ・マグノリアの殺人』『古書店アゼレアの死体』などの葉山町を舞台にした作品がある。若竹作品ではおなじみの彦坂夏見が登場するのもファンには嬉しい限り。夏見の活躍は、『ぼくのミステリな日常』『サンタクローズのせいにしよう』『スクランブル』でも楽しむことができる。 (bk1ブックナビゲーター:氷川友美子/ライター)

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人は言葉によって幻を見る

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 千街晶之・選による『皆川博子作品精華 迷宮』(ミステリ編)に引き続き、東雅夫・選による『幻妖』(幻想小説編)の登場である。この短編傑作選は、全三巻の構成で刊行され、日下三蔵・選『伝奇』(時代小説編)をもって完結する。
 縦横無尽に物語を紡ぐ皆川博子の作品群は、ミステリ、時代小説、伝奇小説、怪奇幻想小説など、多岐のジャンルに渡る。今回の企画は、一級の選者によるジャンル別精選集として、皆川作品をまとめ読みするまたとない機会である。また、選者の仕掛けた迷宮への道程を辿ることも楽しみのひとつ。書き下ろし作品「ひき潮」も収録、入手困難な作品も含む30編収録の決定版である。

収録作品は、1980年代なかばから現在に至るまでの期間に発表されたもの。「桔梗闇」や「文月の使者」などの泉鏡花的な絢爛たる美文調の世界。「冬の宴」や「お七」などの、古今東西の文学作品から言葉の断片を寄り合わせ、その背景にある世界観を立ち上らせる試み。「砂嵐」や「結ぶ」の不条理にして前衛的な言葉による世界の構築。幻想小説と一括りに言えども、その世界は多彩なものである。

要となっているのは、奇想を裏打ちする言葉の豊穣さ。言葉の持つ力によって、幻はリアルなものとして存在し、そのリアルに我々は恐怖するのだ。例えば、冒頭一文の吸引力。「風」は「庭は、寝がえりをうって、背をむけた」の一文で始まり、「結ぶ」は「そこは縫わないでと頼んだのに、縫われてしまった」で始まる。言葉でしかなしえない、このすさまじいまでの破壊力。読み手はまずそこで一撃をくらい、後は圧倒的な世界に引き込まれ、ねじ伏せられ、魅せられて果てるしかない。皆川作品の読者は、安穏とした受け手に留まることは許されず、絶えず作品に挑発され、翻弄されねばならないのだ。

東雅夫氏による全作品完全解説と多くのページを割いて行われる「冬の宴」の解題も、それ自体がひとつの読み物として充実しており、必読である。 (bk1ブックナビゲーター:氷川友美子/ライター)

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紙の本散りしかたみに

2001/09/28 03:15

恋の哀しみ、梨園という世界のきしみを抑制された筆致で描く悲劇

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 私立探偵・今泉文吾が、歌舞伎界で起きた謎を解き明かした『ねむりねずみ』(創元推理文庫)に引き続いて登場。一枚の花びらから明らかになる、梨園の悲劇が描かれる。

 歌舞伎座での公演中、『本朝廿四孝』の「十種香」の場で必ず舞う一片の桜の花びら。誰が、何のために、どのようにして、この花びらを散らせているのか。女形の瀬川小菊は、師匠の瀬川菊花の言いつけで、友人の今泉文吾とともに調査に乗り出すことになった。この舞台で武田勝頼役を演ずる市川伊織は、半年前、なにものかに襲われ、顔を剃刀で切り裂かれるという不幸に見舞われていた。そして彼の楽屋に出入りする美貌の女性、堀江虹子。彼女を偶然見かけた今泉は、この謎に関わることを拒絶する。あれは、「告発の花か、それとも葬送の花か」……。

 登場人物の心模様を濃密に立ち上らせる、研ぎ澄まされた文体と無駄の無い構成が素晴らしい。ヒロインの虹子は、凄みある着物の着こなしの描写によって、この悲劇の重みに相応しい「運命の女」たる圧倒的な存在感を獲得している。彼女を軸に描かれるのは、恋愛の孤独感と残酷性だ。抑制された筆致で、容赦なく描き出される恋の哀しみ、そして梨園という特殊で独立した世界のきしみ。作中で取り扱われる『本朝廿四孝』『鏡獅子』『怪談乳房榎』等の物語は、それぞれが現実の人間模様に深く関わっている。

 芸の世界には魔物が住む。そこには、俗世間の価値観や常識を超越して、なお芸の高みを目指す、深い人間の業がある。自らを生き長らえさせようとする、歌舞伎という芸能の意思がある。その大きな流れに、人はたやすく飲み込まれ、人生を踏みにじられてしまう。

 近藤史恵の描く歌舞伎界を舞台にした謎は、いつも芸に魅入られてしまった人々の業によって引き起こされている。だからこそ、どの事件も哀れで愛しいのだ。他に、今泉文吾が登場する作品としては、梨園を舞台にしない『ガーデン』(東京創元社)がある。こちらもぜひあわせて読んでいただきたい。 (bk1ブックナビゲーター:氷川友美子 ひかわ・ゆみこ/ライター 2001.09.28)

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紙の本最後の記憶

2002/09/09 18:15

失われゆく記憶の中、母を蝕む「最後の記憶」の正体とは

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 綾辻行人の7年ぶりの長編小説が刊行された。初の本格ホラー長編であるとともに、本格ミステリ作家としての矜持を感じさせる、ミステリ的な仕掛けが施された、著者ならではの作品に仕上がっている。

 美しく優しかった波多野森吾の母・千鶴は、若年性の痴呆症を患い、自らの記憶を次第に失いつつあった。突然の白い閃光。バッタの飛ぶ音。血飛沫と悲鳴。追いかけてくる、黒い服を着た顔の無い男。そして惨殺される子供たち。死に瀕した母を責め苛むのは、幼い頃に経験したという「激しい恐怖」の記憶であった。
 森吾はまた、同じ病の原因遺伝子を、自分が保持しているのではないかという思いに脅かされていた。養女であった母のルーツと「最後の記憶」の真相を明らかにするため、母の生まれ故郷を訪ねるが——。

 この作品で描かれるのは、現実にじっとりと侵食する、静かな恐怖である。自分を脆弱な存在だと感じることは、子供の頃に感じた寄る辺ない気分に近しい。世間を騒がす通り魔殺人の餌食になる子供たち。キツネの面に「生きているのは楽しいかい」と問い掛けられた、幼い日の森吾の記憶。そして凄まじい恐怖が刻印された、幼い日の千鶴の記憶。丹念に描写された日常風景の中で、ふいに姿を現す、異界への入り口。それは、いつも子供の傍らに存在している。

 新しい記憶から順に失い、鮮烈な印象を持つ、強度の高い記憶ほど失いにくいという病「白髪痴呆(はくはつちほう)」(ちなみにこれは架空の病気である)。この病の設定が、物語の根底に流れる深い喪失感と結びついて、実に効果的だ。真摯に紡がれた恐怖のかたちを、ぜひ体験していただきたいと思う。 (氷川友美子/ライター)

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紙の本沙高楼綺譚

2002/05/29 18:15

各界の名士が秘密を披露しあう、秘密サロン「沙高樓」

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 かつて刀剣売買を生業にしていた「私」は、国宝の刀剣を見るために国立博物館に足を運び、刀剣の鑑定家・徳阿弥談山こと小日向賢吉に再会する。小日向は、これから貴重な体験を語り合う会合に行くところで、今日はちょうど自分が話をする番だと言う。「私」は誘われるままに、南青山の秘密サロン「沙高樓」に同道する。そこに集うのは、各界の名士たち。現れたのは、美しく女装したオーナー。「——お話になられる方は、誇張や飾りを申されますな。お聞きになった方は、夢にも他言なさいますな。あるべきようを語り、巌のようにしまいこむことが、この会合の掟なのです——」そして今宵も話し手の口から、秘めやかな綺譚が語られ始める……。

「小鍛冶」談山が語る、刀剣を見極める惣見に持ち込まれた、幻の名刀から導き出された意外な真実。/「糸電話」精神科の医師が語る、良家に生まれながら零落した異性の幼なじみとの、繰り返されるめぐりあい。/「立花新兵衛只今罷越候(たちばなしんべえただいままかりこしそうろう)」撮影監督が語る、池田屋騒動を描いた作品の現場に現れた奇妙なエキストラの話。/「百年の庭」紫香山荘の庭番が語る、百年をかけて完成されようとする庭と、そこに関わった人間たちの物語。/「雨の夜の刺客」ヤクザの大親分が語る、親分を始末する役目を負うことになった、若き日の事件の顛末。

 ここで語り手となる人物の、社会的身分と職業は様々だ。それぞれの立場に合った語り言葉が、物語られる内容以上にその人間の生き様を偲ばせる。仮説は提示されるものの、真相が明らかにされないまま終わる物語もある。これは、人生の機微を捉える力を、読み手が作者に試されていると言えまいか。人間洞察の鋭さが凄みすら感じさせる、5つの珠玉の物語。 (bk1ブックナビゲーター:氷川友美子/ライター)

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紙の本がふいしんぢゆう 合意情死

2002/05/23 18:15

明治後期の岡山を舞台に小市民の欲望を描く

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 著者は、「明治」「岡山」「貧乏」をキーワードに作品を書くことが多い作家だ。個人を置き去りにする時代の大きなうねり、愛憎半ばする故郷への思い、共同体の持つ閉塞感は、遠い過去に存在するものではなく、現代にも連綿と続いているものである。土着的な小さな世界を徹底して描くことにより、日本人の逃れることができない深い業が浮き彫りにされる。それは、時には卑小な権力志向であり、時には物悲しい諦観である——。平易で慎ましい文章からは、不思議と淫靡で徒っぽい雰囲気が醸し出されている。語りの巧みさも大きな魅力だ。
 本書の主人公となるのは、明治後期の岡山に住む、日常に倦んだ男たち。彼らのささやかな欲望がもたらす、滑稽と悲哀を描く短編集である。
「はでつくり——華美装飾」東京に出て作家になるという野望を持つ、駆け出しの新聞記者。女郎と六校の学生の心中未遂事件を取材した際に、学生の美しい姉に魅せられるが。
「がふいしんぢゆう——合意情死」真面目だけが取り柄の小学校教師の楽しみはカフェーで男友達と集うこと。そこに魅力的な女学生が現れたことによって、彼の心は乱れ始める。
「シネマトグラフ——自動幻画」劇団の座長は、より高い名声を得るために、愛人の看板女優を脇にまわし、地味だが着実な演技をする女優を主役に抜擢するが。
「みまはり——巡回線路」気の弱い大男の巡査は、強盗事件を契機に、近所の巡回を始める。そこで別嬪の店子と出会い、心をときめかす。
「いろよきへんじ——有情答語」孤児院育ちで、院の職員となった男は、新しい同僚へのコンプレックスから逃れるため、看守の仕事に就くことになるが。
 岩井志麻子は、明治三十年代の岡山の遊郭で、女郎が戦慄の身の上話を語る「ぼっけえ、きょうてえ」で第6回日本ホラー小説大賞を受賞してデビュー、同作品集で第13回山本周五郎賞も受賞している。隻眼の女霊媒師の元を訪れる怪しい依頼者たちを描いた『岡山女』、津山三十三人殺しを題材にした『夜啼きの森』などの作品がある。 (bk1ブックナビゲーター:氷川友美子/ライター)

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紙の本シルヴィウス・サークル

2002/05/13 22:15

彼岸と至福が交錯する「シルヴィウス・サークル」の謎

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 本作は、第11回鮎川哲也賞の最終候補にノミネートされ、門前典之の『建築屍材』と入賞を争った作品である。

 193×年の東京。“さかしまの娘”と名乗る二人組の女性芸術家は、「プルースト・マシーン」という芸術作品を創り上げた。観客が、支柱を中心に回転しながら上昇するシートに座り、壁面に描かれた数々の絵画を目にすることで、彼岸的な至福の体験を味わえるという趣向の大パノラマである。
 元々は裕福な家庭の子息で、今は写真を生業にしている男、神野伶弐。彼がパノラマ館を訪れた日、事件は起こる。自らのマシンに乗った“さかしまの娘”の一人・游葉子が、シートで冷たい骸となり、同じ現場で財閥当主・九曜信人の射殺死体も発見されたのだ。神野は、この事件に「ひどく現実を否定しようとする意志を感じ」、積極的に事件に関わりをもつようになる。異端の医者であった九曜信人の屋敷を訪問した彼は、診療室で「シルヴィウス・サークル」と記された謎のファイルを発見する——。

 倦怠感に満ち、刹那的な気分漂う昭和初期。「瀕死者のヴィジョンがもたらす至福」を核として、幻想的な雰囲気の中、謎は展開する。あとがきにて「この死と至福と報われぬ愛の物語は、根本において、チェスタトン風にシンプルな逆説をシンプルに語る寓話的ミステリを目指したもの」と作者は語っている。この目的は、高い水準で達成されていると言えよう。洗練された文体と豊かな語彙、緻密な描写によって構築されたロマンの世界に身をゆだねていただきたい。

 作者の仕事には、トバイアス・ウルフ『兵舎泥棒』やジョン・ホークス『ブラッド・オレンジ』、ウィリアム・T・ヴォルマン『ハッピー・ガールズ、バッド・ガールズ』などの訳書がある。第二作にも神野伶弐が登場する予定とのこと。刊行を楽しみに待ちたい。 (bk1ブックナビゲーター:氷川友美子/ライター)

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紙の本おしろい蝶々

2002/04/26 22:15

様々な文体を駆使して描かれる怪奇幻想譚

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 著者の近作『死幻琴妖變』は、花魁言葉、侍言葉、町人言葉、公家言葉と、階級の異なる様々な話し言葉が巧みに書き分けられ、言葉のもつグルーヴ感を堪能させる作品であった。本書も各々の世界にあわせて語り口が変化し、文体に宿る強い力を感じさせる短編集となっている。時にはむせるように濃く、時には残り香のように淡い、恋慕の情が描かれる。装丁・挿絵は人気漫画家CLAMPによるもの。文体に寄り添うようにして、水墨画風、切り絵風と作品ごとに手法を変え、物語を華やかに彩っている。

 「おしろい蝶々」は、妖しく美しい白い手を持った少年と、それに見せられた語り手との少年同士の愛が東京言葉によって語られる。蛇薬を商う店の二階に住む、毒蛇の化身と噂される美少年に魅せられた少年を描いた「夜の孔雀」。和漢混淆体で語られる「琅【カン】物語」は、美貌の主君に忠義をつくし、戦に敗れて山野行の末、悪鬼と成り果てた武士の話。壮絶なまでの忠誠心が切なく恐ろしい。「闇月夜」は、置き捨てられた盲目の宮が、琵琶の音により、魑魅魍魎に慕われ、その世界に取り込まれる様を描く。「花影」では、病んだ青年画家と、養子である彼に鬱屈した思いを抱く兄が、亡き姉の道ならぬ恋を偲ぶ。「亡春」は、廃仏毀釈が吹き荒れる時代を背景に、僧侶の解脱までの葛藤を描いた怪奇幻想譚。

 加門七海は、1992年に『人丸調伏令』でデビュー後、主にジュブナイルを執筆、1996年の『くぐつ小町』からは一般向けの小説も手がけるようになる。また、1993年にはフィールドワークに基づいた『平将門は神になれたか』(文庫化の際に『平将門魔方陣』に改題)を出版。これは、著者の趣味である風水に題材を得たルポルタージュ作品である。 (bk1ブックナビゲーター:氷川友美子/ライター)

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抑圧された女性の感傷的な心象風景を描く

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 「ムー」創刊20周年記念として、「ホラー、ファンタジー、サイコサスペンス、伝奇ロマン、伝奇ミステリーなどを中心に、21世紀を担う才能ある作家の発掘と育成、魅力的な小説を求めて創設」された、ムー伝奇ノベル大賞。本書は第一回の佳作受賞作である。

 榛子の元に、帰宅後しばらくすると「おかえり」と一言だけ言って切れる電話が入る。その電話がなるようになって、一月が経った。声の主は少年のようだ。その日、電話の主はいつもより多くを語った。自分は榛子を知っており、いつか会える日を楽しみにしている、と。
 ある日、榛子はもうひとつの「おかえり」に出迎えられる。そこには、生後十ヶ月で亡くなった兄の姿が在った。榛子は幼い頃から、兄の存在を感じながら生きていた。頻繁に現れるようになった、美しい兄の存在を心強く感じる榛子だったが、兄の行動と言動は禍禍しくなり、彼女を抑圧するものとなっていく。
 家族を巻き込んで苦しんだ事件から、十年。榛子を出迎えたふたつの「おかえり」をきっかけに、その痛みの記憶は再び彼女を蝕みはじめる——。

 過ちを犯した自分を律し、感情が揺らぐ危険から遠ざかって、安全に生きていくこと選んだ榛子。一本の電話が呼び水となって、彼女の閉じた世界は変容し始める。兄の持つ妹を守りたいという純粋な思いが、妹さえ守れればよいという利己的で歪んだ感情に変化する恐怖がじわじわと描かれる。榛子と兄の間に交わされる、恋人同士のような甘美な会話。榛子と少年の間に交わされる、姉弟同士のような親愛の情に満ちた会話。奇妙に転倒した関係が醸し出す、感傷的な雰囲気が本書の魅力だ。

 著者の南家礼子は、小川未明文学賞、ライラック文学賞などに入賞する経歴を持つ。小林礼子名義で『ガールフレンド』、『エリートな僕と恐怖の笑い声』という児童書も出版している。 (bk1ブックナビゲーター:氷川友美子/ライター)

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眼窩から飛び出した左眼が写す事件の真相

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 浅暮三文は、ファンタジー作品『ダブ(エ)ストン街道』で第8回メフィスト賞を受賞してデビュー。他の作品に、管理社会を拒んで地下の廃墟に住む〈土竜〉と呼ばれる少年たちを描いた、ビルドゥングス・ロマン『夜聖の少年』などがある。異形コレクションでは、問題作、実験作を意欲的に発表。『玩具館』には「喇叭」、『マスカレード』には「カヴス・カヴス」が収録されている。
 講談社ノベルズに発表された『カニスの血を継ぐ』は、嗅覚が極度に発達した男が主人公の斬新な作品であった。今回は、左目の視覚だけを頼りに事件を追う物語。着想のユニークさは健在だ。

 平凡なサラリーマンである主人公は、気が付けば病院のベッドの上にいた。指ひとつ動かせない身だが、なぜか外の風景が見える。どうやら後頭部を強打された衝撃で、眼窩から飛び出た左目が写す映像らしい。左目は、ズボンの裾に引っかかり、赤ん坊の手に握られ、子猫の口に咥えられて、様々な場所を彷徨っていく。不安定な視界の中、時によぎる犯人の姿。どうやら左目は犯人を捜し求めているらしい……。

 肉体から開放され、時に彼方を写し、時に細部を写す、超然とした左目の存在。その描写の鮮やかさが本書の読みどころだ。しかし自由自在な視点の移動は、冒険心を誘うが、同じく不安感も誘う。自由な左目と不自由な肉体との対比は、悠々とした可笑みと男のもどかしくもやるせない思いとの対比ともなっている。ファンタジックな設定ながら、ミステリの趣向も巧みに盛り込まれているので、その実験的な融合も楽しめる。 (bk1ブックナビゲーター:氷川友美子/ライター)

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紙の本少年トレチア

2002/04/26 22:15

都下のニュータウンを舞台に、都市の閉塞感を描く

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 舞台は、都下にある新興住衛星宅団地・緋沼サテライト。共通の記憶を持たない共同体は、相互監視の場と堕し、そこにあるのはただ閉塞感ばかり。人間の生理を無視した人工的な空間で、住人の心は蝕まれていく。子ども達の間で語り継がれる、トレチアから来た邪悪な少年の都市伝説。トレチアの言う「キジツダ」の意味とは。そして悪事を隠蔽し、全てを沼に飲みこむ怪魚・摩伽羅(まから)の存在。澱みきった穢れが吐き出される時は、刻々と迫っていた——。

 残虐な行為を繰り返した少年期を隠す学生、楳原崇(うめはらかたし)。精神科に通いながら、8ミリフィルムでニュータウンを撮り続ける女、佐久間七与。淫蕩な妻に裏切られた過去を持ち、地下水脈を求め、夜ごとダウジングする漫画家、蠣崎旺児(かきざきおうじ)。難病とともに生き、自らを少年トレチアと自負する少年、新宅晟(しんたくあきら)。心に虚空を抱える彼らの視点を通して、物語りは重層的に語られていく。

 大都市の闇に蘇った死者がうごめく『妖都』、公園という限定された空間の中で、生を希求しつつも死に魅せられる男の幻想譚『ペニス』、東京郊外のニュータウンに漂う緩慢な死の気分を描いた『少年トレチア』。『妖都』から『ペニス』を経て、その彼方に『少年トレチア』は存在する。そこにあるのは、現実と幻想のあわいを生きる「都市の陰鬱な冒険者たち」の軌跡である。そして、全ての出来事が過ぎ去った後になおも残る、強靭な何か——。そこには我々が求めて止まない、ある思いが提示されている。現在を生きる縁(よすが)として、この思いをぜひ一緒に噛み締めて欲しい。

 著者は、1989年から津原やすみ名義で多数の少女小説を発表、人気を博すが1996年にジャンルから引退した。翌年、津原泰水名義で『妖都』で再デビューし、絶賛される。他に『蘆屋家の崩壊』、監修作に『エロティシズム12幻想』などの著書がある。 (bk1ブックナビゲーター:氷川友美子/ライター)

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紙の本図書室の海

2002/03/28 22:15

もうひとつの『六番目の小夜子』を含むノン・シリーズ短編集

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 今年でデビュー10周年を迎える恩田陸。軽々とジャンルの壁を越えてゆく姿勢は、デビュー当時から一貫している。本書は、小説誌やアンソロジー集のために書かれたノン・シリーズ作品を収録したもの。鋭い観察眼に裏打ちされたシビアな人間像、作品の底に流れる叙情性、魅力的な断片よって構築される世界、緩急自在な語り口。著者のもち味すべてが堪能できる、バラエティに富んだ短編集となっている。

 既存作品の番外編が2編。『麦の穂に沈む果実』の主人公・水野理瀬の幼年時代を描いた「睡蓮」、『六番目の小夜子』に登場する関根秋の姉・夏を主人公にした「図書館の海」。これから書かれる大長編の予告編として書かれたものが2編。『グリーンスリーブス』からは「イサオ・オサリヴァンを捜して」、『夜のピクニック』からは「ピクニックの準備」。ドキュメンタリー・タッチのホラーというコンセプトで書かれた作品が2編。一見慎ましやかに生きている女性の、殺意と孤独を描いた「茶色の小瓶」と「国境の南」。密室をテーマにした「ある映画の記憶」、旅する城塞都市の年代記「オデュッセイア」、他に「春よ、こい」「ノスタルジア」。以上の全10編が収録されている。

 恩田作品を読む時、ここに描かれているのは、まさに自分自身であるという感覚に囚われることはないだろうか。語り手となる登場人物は、いかに無邪気に振舞おうとも、常に他者と自分との距離を冷静に判断している。ロマンティックな舞台設定と華やかな道具立てを裏切る、そのクールな眼差し。音楽、映画、小説、コミックなどのカルチャー体験を介して、共有する記憶を呼び起こし、作品そのものに共鳴させる巧みさも見逃せない。読み終えた後に、引用された作品群を追いかけてみたくなるのも、恩田作品の魅力のひとつであろう。 (bk1ブックナビゲーター:氷川友美子/ライター)

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紙の本ぼくとアナン

2002/03/27 22:15

愛と希望に満ちた、子どものためにかかれた『アナン』

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 小説『アナン』は、2000年1月に飯田譲治・梓河人の共著として刊行された。読者から子どものために映画化して欲しいという要望を受け、梓は自分のやり残したことに気付いたと言う。「子どもたちのために、もう一度アナンをかきなおさなくては。/子どもたちにつたえたいことが、こんなにいっぱいあるんだから」(あとがきより)。子どもに捧げられた、もうひとつのアナンが本書である。

 死に場所を求めていた記憶喪失のホームレス・流(ナガレ)。雪の降る晩、彼は赤ん坊を拾う。運命の絆で結ばれたふたりの物語の始まりであった。アナンと名付けられた赤ん坊は、生きる気力を失ったホームレス達に、生への希望を与えていく。アナンのまわりで次々と起こる不思議な現象。アナンには、周りの人々の心を癒す力が携わっていた。ホームレスの中でアナンを育てることに限界が生じたとき、流はアナンと共に旅立つことを決意する。やがて成長したアナンが作る<モザイク>は、傷ついた人間に幸せを与えるものであった。誰もが彼を求め、惹かれ、癒され、そして光をみいだしていく——。

 以上が『アナン』本編のあらすじである。『ぼくとアナン』の語り手は、ナガレに拾われたネコのバケツ。ホームレスをイエナシビトと呼び、動物や精霊たちと自在に会話を交わすバケツの世界。素直な視点から描き直すことにより、『アナン』の現実的な生臭い部分が殺ぎ落とされ、より純度の高いファンタジックな作品となっている。見返りなど求めずに、ただ注ぐだけで満ち足りる愛がある。豊かな生には必ず、豊かな死が孕まれている。生きること、愛すること、そして死にゆくことについての、シンプルだからこそ力強い物語がここにある。

 本書を読んで心を動かされた方は、大人のために書かれた『アナン』も続けて手にしていただきたい。こちらも、染みるような美しさを持った極上の物語である。梓河人は、短編『その愛は石より重いか』でデビュー。飯田譲治との共著に、『アナザヘブン』『NIGHT HEAD』『ギフト』がある。 (bk1ブックナビゲーター:氷川友美子/ライター)

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紙の本桜姫

2002/03/27 22:15

2人の少年の死をめぐる、梨園を舞台にしたミステリ

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『ねむりねずみ』『ガーデン』『散りしかたみに』に続く、待望の私立探偵・今泉文吾シリーズの登場である。

歌舞伎界の名門・鍋島屋の娘、小乃原笙子は妾腹の子である。15年前、兄の音也が幼くして急死した後、鍋島屋の家に引き取られた。父とは反りがあわず、優しかった義母は高校時代に亡くなり、現在は一人暮らしをしている。大部屋の歌舞伎役者達の勉強会「桜姫東文章」の舞台を縁に、彼女は桜姫を演じた中村銀京と出会う。銀京はかつて音也の友人であり、音也の死に不審を感じ、真相を探っていると言う。衝撃を受けた笙子は、兄を絞め殺す夢に苦しめられていることを告白する。

一方、「桜姫東文章」の本公演が決まり、瀬川小菊は落ちつかない。野心家の銀京に不安を感じるのだ。そんな折、「伽羅先代萩(からさきせんだいはぎ)」の公演中に子役が行方不明になり、遺体となって発見された。師匠に命じられた小菊は、今泉に真相を突き止めるよう依頼する——。

 「桜姫東文章」の桜姫とは、姫君でありがなら、ならず者の釣鐘権助に恋をして、女郎づとめに身を落とす淫蕩なヒロインである。その身が如何に流されようとも、揺るぐことのない恋慕の情。「伽羅先代萩」に重ね合わせて描かれるのは、すれ違う母子の愛だ。相手の望みを成就させるため、自己犠牲をも厭わない、その悲しくも一途な思い。二人の少年の死をめぐって、二つの愛のかたちが浮き彫りにされる。

 お馴染みの顔ぶれに成長がうかがえるのも、シリーズものの醍醐味だろう。今泉の助手・山本は大人びて、小菊はかつての性急さが潜まり、今泉は探偵に架される役割の重さを静かに受けとめている。笙子からはおとおしい誘惑者、小菊からはしたたかな野心家として描かれる銀京の、奥行きある人物造形が秀逸。 (bk1ブックナビゲーター:氷川友美子/ライター)

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紙の本黒と茶の幻想

2002/01/30 22:16

学生時代の同級生が過去の真実を探す旅を描く

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 著者には、幻の本にまつわる4つの物語を描いた『三月は深き紅の淵を』という作品がある。後に、第4章「回転木馬」に挿入されていた物語を元に、『麦の海に沈む果実』という学園ゴシック・ミステリも書かれている。本作も『三月〜』から派生した物語のひとつであり、再び『麦の海〜』の主要人物であった女性が登場する。ただし、独立した作品としても楽しめる仕上がりになっているので、『三月〜』を未読の方も安心して読んでいただきたい。

 学生時代の同級生だった利枝子、彰彦、蒔生、節子。卒業から十数年を経て、4人はY島を旅することになる。かつて利枝子と蒔生は恋人同士であり、利枝子の親友・梶原憂理の存在によって決別した過去を持っていた。憂理は、大学時代を締めくくる一人芝居の公演を最後に、利枝子の前から姿を消し、未だ消息は不明のままであった。
 幹事の彰彦は、旅の非日常感を楽しむために、それぞれが「美しい謎」を持ち寄り、秘められた真実を探しあてることを提案する。徐々に紐解かれる過去の記憶。旅の終わりに彼らは何を見出すのか——。

 恩田陸は、既存の作品にオマージュを捧げることが多い作家である。本作はロレンス・ダレル「アレキサンドリア・カルテット」(『ジュスティーヌ』『バルタザール』『マウントオリーヴ 』『クレア』の四部作。河出書房新社から邦訳が出ていたが絶版)に倣い、第一章「利枝子」(女)、第2章「彰彦」(男)、第3章「蒔生」(男)、第4章「節子」(女)の順に語り手が交代していく構成をとっている。視点が変わることによって、ある事件、ある人間像が、より複雑で立体的なものへと変容していく瞬間の光と闇が丹念に描かれていく。船上で、ホテルで、太古の森林の中で。4人の交す饒舌な会話の応酬が実に魅力的だ。

 作者いわく「この小説は、現時点での私の小説の集大成であり、恋愛小説だと自分では思っている」(『小説TRIPPER』2001年冬季号より)。タイトルはデューク・エリントンの曲名から。 (bk1ブックナビゲーター:氷川友美子/ライター)

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