渡辺由美子さんのレビュー一覧
投稿者:渡辺由美子
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2000/07/18 21:27
声優の教科書
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アニメ業界では、90年代前半から始まった「声優ブーム」も一段落したと言われている。
正直、声優本と呼ばれるジャンルは「出せば売れる」時代もあった。しかし、そんな時期をとうに過ぎた今、なぜ声優本なのか?
答えは本書を開けばはっきりする。ファンの目を引く有名声優のインタビューも養成所の紹介欄もなく、最初から最後まで呼吸、発声、セリフの抑揚、役作り……と実技訓練の指南のみ。とっつきにくく見えるかもしれないが、要は、本格的に声優を目指している人のための技術書なのだ。
テープレコーダーや時計を用意して最初に読むテキストは「雪の降るまちを」。「生徒」兼、自分の声をチェックする「先生」でもある読者は、ただ読むだけではなく、一行一行自分なりに解釈して声で感情を表現する。下段には「あたたかく包み込むように」「耳をすますように」といった注釈がついている。が、指南役である筆者は、「最初に読む時は、縦55ミリ、横27センチに切った厚紙で注釈を隠しておくこと」(!)と冒頭で注意することも忘れない。レッスンに厳しい指南の意気込みがうかがえる。
筆者の本田保則氏はベテラン音響監督。あまり知られていないが、実際に声優に対して演技指導をするのは音響監督の仕事である。評者は本田氏が手がけるアフレコの様子を何度か目にしたことがあるが、他の音響監督と同様、役者の演技に細やかな指示を出し、限られた時間の中で納得の行く芝居を追求していた。
声優ブームは、職業の知名度を飛躍的に高めたと同時に声優のアイドル化、現場の若年者化の波も連れてきた。この本は、片方に寄り過ぎた声優界のバランスを懸命に戻そうとしているのではないか。それは、音響監督という職人が持つ声優業に対する愛情なのか、それとも意地なのか。狂乱的なブームが去った今、この本が出るのは必然とも言える。
(渡辺由美子・ライター、徳間書店刊『声優になりたいあなたへ』 著者)
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