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水原紫苑さんのレビュー一覧

投稿者:水原紫苑

11 件中 1 件~ 11 件を表示

紙の本不倫

2001/10/11 19:48

最も孤独な人間

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 おお、凄いぞ姫野カオルコ、よくぞやってくれたものだ。読みながら何度も独り言を言い、我慢できなくなると友だちに電話で知らせた。しかし、さすがに男女二人の友だちは姫野カオルコの凄さを既に知っていた。私だけが遅れていたのだ。「週刊新潮」に女性が持ち回りで書くコラムがあって、以前姫野カオルコが書いていた時はいつも、その孤独な精神性の高さを感じ、彼女の作品を読みたいと願っていたのではあったが。
 『不倫(レンタル)』は、今の日本に生きているおそらくは最も孤独な人間の物語だ。武道を幼い頃から修め、ボンドガールのような美貌をもちながら三十過ぎまで処女であり、「叔父なる人」の介護を負担しているポルノ作家、力石理気子。愛も恋もできあいのどんな幻想も理気子には用のないものだ。ただ、「風邪をひかない男」と楽しいセックスをすること、それだけを望んで、理気子は神様にも耐えられない生を生きているのだ。(水原紫苑/歌人 2001.3.13)

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紙の本〈戦前〉の思考

2001/10/01 19:07

頑固な自由主義者

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 柄谷行人はいつも孤独で魅力的だ。私は初期の漱石論が大好きで、そのあとの著書はあまり読んだことがなかったが、今回文庫化された『〈戦前〉の思考』に、やはり変わらない柄谷らしい単独者の熱い精神を感じてうれしかった。
 「もし今後にファシズムがあるとすれば、けっしてかつてのようなファシズムとして出てこないでしょう。それは『民主主義』として出てきます。さらに、そのときに抵抗しうるのは、社会民主主義者ではなくて、頑固な自由主義者だけであろうということをつけ加えておきます。」(自由・平等・友愛)
 まさにこの頑固な自由主義者こそ、柄谷が最初から追求して来た人間像であることを思う。私たちはどのようにしてこの自由主義を守れるのか。わからないけれど、日本の憲法が強制されたものであるからこそ主体性をもつことができるという論理には深く励まされる。戦前ではない〈戦前〉を生きよう。(水原紫苑/歌人 2001.4.17)

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紙の本椰子・椰子

2001/09/11 15:30

夢か真か

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 名作『椰子・椰子』待望の文庫化だ。川上弘美の世界の不思議な面白さは改めて言うまでもない。だが、中でも『椰子・椰子』が出色なのは、小説ともエッセイとも日記とも、ジャンルを特定できない点だろう。作者は半分ぐらい実際に見た夢をもとにした夢日記から始まったと言っている。本当にこれほど楽しい夢を見ることができる人はきっと幸せだろう。しかし、夢といえば、川上弘美の生きている現実そのものが夢のような気配である。前世というものがあったとして、川上弘美はいかなる前のいのちをもったひと(あるいはけもの、鳥、水や火だろうか)なのか知りたくなる。それはそれとして、『椰子・椰子』の登場人物では、生意気な鳥の兄弟ジャンとルイ、からすみと鮎正宗の大好きな、実は背の縮んだりしない山本アユミミ、六月には光りものを身につける町内の殿様が特に好きだ。女友達と、普通の人間以外のひとやけもの、を描くと作者の筆はとりわけ冴えている。(水原紫苑/歌人 2001.5.15)

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紙の本天才アラーキー写真ノ方法

2001/09/06 17:20

あたたかくて、ロジカルで、これ以上ないほどまっとうな本

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 天才アラーキー。自分でこう名乗るなんて、ずいぶん変わった人だと思っていた。私は写真のことは何も知らないけれど、せっかく天才が写真ノ方法なるものを語ってくれると言うから読んでみた。
 あたたかくて、ロジカルで、これ以上ないほどまっとうだった。予想はしていたのだが、もっとはるかに上だった。
 「写真っうのはさ、生きることなんだよね。もう、生きることの原点ですよ。ひとりじゃ生きていけないのよ。ひとりは寂しいもんですよ。どんな奴でも、他者がいないと面白くない。そういうふうにできてる、人間っつうのは。」
 全くその通り。アラーキーの生き方としては、もうこれで言うことはないだろう。
 でも、彼の言う〈私情〉の果てに、月の照る砂漠のようなものが不意に開けて来はしないだろうか。そこにひとりで生きるのも、人間なのではないか、と私は思う。(水原紫苑/歌人 2001.6.12)

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紙の本柳田国男の民俗学

2001/08/30 19:24

自らの思想を新鮮にコンパクトな形で表現

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 民俗学──私たちの生きているいのちの根の豊かさを見出す学問というように思っていたが、なかなか扉を叩いて中を覗いてみる勇気は出なかった。柳田国男・折口信夫の二人の巨人ののち、現在の民俗学の泰斗といわれる著者谷川健一の鬱然とした世界についてもおそれをもっていた。
 だが、最近の谷川健一は、岩波新書で、自らの思想を新鮮にコンパクトな形で表現する仕事を始めている。『日本の神々』『日本の地名』(正続)いずれも、学問の集大成であると同時に、新しい視点を将来に向けて開いている。
 『柳田国男の民俗学』では、〈常民〉を稲作の民としかとらえきれなかった柳田への批判を率直に述べながら、感官や感情のすべてをもって対象に肉迫しようとした柳田への畏敬も明らかに示している。柳田が戦前の皇国史観などとは別物の、日本人の誇りを求めつづけた思想家だということがわかるのだ。(水原紫苑/歌人 2001.7.10)

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紙の本変貌するモーツァルト

2001/08/27 20:48

人間として音楽家としての孤絶の世界

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 モーツァルトといえば、人類に与えられた最高の贈り物であり、地上に降り立った天使である、というようなイメージがある。モーツァルトの音楽(それはきわめて限定された範囲内でしか私は知らないのだが)にふれる幸福が、モーツァルトの像をそうした、イメージの雲で厚く覆ってしまう。あるいはまた、悲劇的な夭折の生涯や、音楽の天才である面以外の愚かしさが、必要以上にクローズアップされてしまう。
 しかし、モーツァルトは十八世紀を生きた現実の人間であり、彼によって十八世紀は大きな刻印を受けたのだ。『変貌するモーツァルト』の著者は、きびしくあたたかい眼で、さまざまなイメージの雲を払ってモーツァルトの人間と作品の素顔を私たちに伝えようとしている。モーツァルトの時代のフォルテピアノによる演奏が『変ロ長調ソナタ』に、現代の演奏とは異なる、人間として音楽家としての孤絶の世界を表わすのは感動的である。(水原紫苑/歌人 2001.2.13)

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紙の本半ズボンをはいた播磨屋

2001/01/26 20:28

吉右衛門の芸の秘密に近づける本

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 中村吉右衛門といえば、現代の歌舞伎役者の中でも、人間的な深さの表現では誰もが認める第一人者である。私も大ファンの一人で、この自伝エッセイは『なごみ』に連載されていた時から楽しみにして読んでいた。
 一代の名優初代吉右衛門を祖父そして養父として持ち、もうひとりの祖父は七代目幸四郎、父は初代白鴎、兄は現九代目幸四郎と、きらびやかな名門に生まれ育った著者だが、幼い日からきわめて繊細で屈折した心情を抱き、素直に他者の愛を求めることができない少年だった。吉右衛門の心をあたためてくれるのは献身的なばあやの愛情だったが、そのばあやの臨終の折り、誰の呼びかけにも応えなくなっていたばあやが、当時染五郎だった現幸四郎が来た時にだけ目を開いて「お帰りなさい」と言った。そばにいた吉右衛門は、この時ほど兄を妬ましく思ったことはない、と語る。兄弟の宿命的な愛憎が切なく心にひびく。
 吉右衛門の芸の秘密に近づける本である。

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紙の本巨人軍に葬られた男たち

2001/01/26 19:20

プロ野球は来世紀を生きるか?

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 世紀の境目の今年ほど、日本のプロ野球が限界を示したことはなかっただろう。オリンピックには協力を惜しみ、ON対決という過去の名声で空しくドラマを作り上げようとする経営者たちのどうにもならない目の曇り。一方で、佐々木に次いでイチローが大リーグシアトルマリナーズに移籍するという精鋭流出の危機。まさにプロ野球は来世紀日本で生き残れるかどうかの瀬戸際だといえよう。
 『巨人軍に葬られた男たち』の文庫化は、その意味でタイムリーである。日本プロ野球の中心に位置して来た巨人という球団が、人間としての選手たちをいかに遇する組織であるかを知ると、自己中心的ないろいろの策も単にオーナー一人の個性の問題ではない、構造的欠陥によるものとわかって来る。
 球界に果たして盟主が必要なのだろうか。プロ野球に関わるすべての人々とファンに、考えてほしい。

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憧れの詩歌人波郷の散文

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 石田波郷の名には特別の響きがある。純粋な韻文への志、俳人としての魂の高貴さにおいて、今も波郷の右に出る者はないだろうという畏敬の念を抱かずにはいられない。俳句をろくに知らない私がそんなふうに思いこむのはおかしいかも知れないが、今回、波郷の随想集を初めて読んでやはりその意を強くした。
 妙な言い方だが、『江東歳時記』も『清瀬村(抄)』も、決していわゆる面白い読み物ではないのである。しかし、気品高く、構えが静かでやわらかく、人も物もみずみずと生きているゆらめきが伝わって来る。ここから句が生まれてくるのだな、と美しい銀の魚をはぐくむ川の輝きを見ているようである。現代の詩歌人の文には絶えて見られない輝きである。
 従軍中に療養していた折りの、芭蕉全集との別れを追慕した「一冊の芭蕉全集」は中でも忘れがたい佳品といえよう。

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紙の本泉鏡花

2000/11/13 10:28

鏡花の演劇性を読み込む待望の一冊

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 佐伯順子といえば、『遊女の文化史』『美少年尽くし』『「色」と「愛」の比較文化史』などで、古典から近代に至るセクシュアリティの表現や、女性と文化の関わりを、独自に探求して来た気鋭の研究者である。
 その佐伯氏が、『泉鏡花』を書きおろしたことは意外ではなく、むしろ待たれていた仕事といえるだろう。鏡花の中にこそ、古えからの女性の「観音力」と近代の純粋恋愛の意識が二つながら流れ込んで、不可思議な性のユートピアが形作られているのであろうから。
 そして、本来は演劇研究を志していたと著者が語る通り、豊かな古典芸能のフィールドをバックに『日本橋』『夜叉ヶ池』などの名品が読み解かれてゆく。『草迷宮』についてはそのネオ歌舞伎性から、花組芝居までが登場する。鏡花の演劇性は、誰もが気づいていながら、かつて体系化されたことがなかった領域である。鏡花ファンとしては、快挙と呼びたい。

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紙の本歌枕

2000/11/08 18:26

執拗に恋の究極の理想を求めて行った作家

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 中里恒子という作家のことを語る人は今はほとんどいないようだ。先年『時雨の記』が吉永小百合主演で映画化された時も、大人のプラトニック・ラブという小説のストーリーは話題になったが作者については特に何事もなかった。
 だが、私は、今回文庫化された『歌枕』も含めて、のちの『綾の鼓−いすぱにあの土』まで、執拗に恋の究極の理想を求めて行った作家の人間像に興味がある。
 『歌枕』の、落魄の男鳥羽の心をあたためる若い女やすの素朴で健やかな美しさ。それは、やすが鳥羽の死後形見として大切にし、鳥羽の妹から返すように求められてついに割ってしまう常滑の壺を思わせるような、存在そのもののあるがままのひたむきな輝きである。けれど、そんなものを創ろうとして心を砕いた作家自身は、どれほど存在の自然から遠い人間であったことか。作品は、作家よりつねに幸福なのかも知れない。

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