藤井 功さんのレビュー一覧
投稿者:藤井 功
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グルタミン酸の科学 うま味から神経伝達まで
2001/01/31 18:17
生理活性物質でありアミノ酸の1つであるグルタミン酸が,生体内でいかに多様に作用するかを知る
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グルタミン酸は広く天然界中に見出されるアミノ酸の1つであるが,食品添加物としても多量に用いられている。1908年池田菊苗によって,昆布のうま味成分がグルタミン酸であることが発見されて以来,本国を含め世界的に“化学調味料”としてそのナトリウム塩が広範囲に用いられるようになった。他国でも論争を巻き起こした「味の素」である。
1960年代に食品添加物としてのグルタミン酸の安全性を疑問視する報告が相次いで行われた。一時期中華料理店症候群とグルタミン酸との因果関係が取り沙汰されたことは有名である。また高濃度ではあるが胎児のマウスに静注すると,中枢神経にアポトーシスを引き起こすことが明らかになり,世界中にセンセーションを巻き起こした。妊娠中のアルコールの影響が,実はこれと同じメカニズムで働くことを知らない人が実に多い。グルタミン酸はある時には神経伝達物質であり,またエネルギー代謝や解毒作用に大きくかかわり,それゆえ条件的必須アミノ酸と分類される。このようにグルタミン酸を囲む世界は今なおホットであり,今後とも注視されるべき化合物といえる。
本書は以下のように構成される。1.食物の味とうま味の役割では,どのようにうま味が感じられるか。2.うま味の受容機構では,生化学的な実験を通してその受容体を明らかにしている。3.うま味認知の脳内機構では,動物実験による認識機構を電気神経的に探り,4.脳内における神経伝達物質としてのグルタミン酸では,神経シナプスを中心とした電気化学的,生化学的内容となっている。さらに5.体内のグルタミン酸,6.グルタミン酸の安全性では,最新の体内でのグルタミン酸の代謝メカニズムを知るとともに,経口摂取における安全性について,科学的な視野で評価を行っている。本書は既知と思える単純な化合物,グルタミン酸に新たな光を当て,近年明らかにされた内容をふんだんに取り入れた良書といえる。
(C) ブッククレビュー社 2000
世界薬用植物百科事典 550種をこす世界の代表的な薬用植物の実用的な解説とその医薬的使用法
2001/01/31 18:16
世界中で久しく用いられつづけてきた薬草と,それに関連したデータが揃った全編フルカラーの至宝の1冊
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本書は英国薬草医学第一人者による専門書であるが,ずっと見ていても飽きさせない,まさしく百科事典といえる良書である。この本の真価を知ってもらうにはその内容を述べることで事足りる。
「薬草医学の発達」
例えば近年西洋イチイより発見された抗がん剤のタキソールに見られるように,薬草は現在においても医療に大いなる利益をもたらしている。しかしながら薬草の賢明な利用を知らなければ,その効能はおろか毒として作用する危険性を孕(はら)んでいる。このように薬草療法にはそれぞれ独自の用いられ方があり,活性成分や効能を知るためにもこれらの科学的見解が必要であった。また薬草は,強力な植物化学薬品の原材料であるばかりでなく,遺伝的プールとしての植物全体の価値や,食物や薬物としての植物としての価値が含まれる。これらの薬草に関わる背景についての記載が興味深い。
初期の起源から19世紀ごろまで,伝承的に医薬品として用いられてきた。いわゆるジャーマニズムの医学であり,それぞれの地方によって様々な形で進化し,現在の生活にも広く浸透している。いまなお固有文化の形で,伝承医学が残っている地域には,ヨーロッパ,インド,中国,アフリカ,オーストラリア,北アメリカ,南アメリカがあり,直接的には得ることのできない非常に興味深い情報を伝えている。またこれらの地方により,どのように健康と医学,薬草が捉えられてきたかという比較文明論からの情報も興味深い内容となっている。
「代表的な薬用植物」
紙面の3分の1を贅沢(ぜいたく)に割いて,代表的な薬用植物100種がまとめられている。これらは医薬品として用いられることも,食品として用いられることもある。それぞれの薬草の説明には,全体の写真のほか,使用部位や,供給される形態など視覚的情報がふんだんに取り入れられている。これらの植物にはラテン語により書かれた植物名とともに,原産地とその栽培方法が書かれている。また科学的研究により,薬としての主成分と主たる作用が詳細に記載されている。また薬用植物がどのように医学的に用いられてきたか,例えばシップ剤の作り方や,吸引法,煎(せん)じ法など具体的に詳しく図示している。意外な使われ方が記載されており新鮮さを感じる。以上のように総合データベースとしての価値も高い。
「その他の薬用植物」
世界的に薬草医学として意義ある役割を演じた450種について,簡略ではあるが要点を絞ることにより,残りの紙面にまとめている。ここには大根のように比較的馴染みのある植物から,名前は知っていても出会う機会のないヒマ(ひまし油の材料)などについての知見が得られる。
「家庭で使える薬草療法」
最後に家庭用のハーブ治療薬について述べている。ハーブの栽培方法,採集方法,加工方法,治療薬の形状,対応する疾患と用法など写真を多く取り入れて,細かく記載している。これらの解説を読んでいると自分でも試してみたくなってくるほどである。
(C) ブッククレビュー社 2000
Excelで学ぶ流体力学 Spreadsheet fluid dynamics−−SFD
2000/10/13 00:15
流体力学が身近になった---Excelで流れが見える。動きが見える。知識が見える
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本書は,幾分敷居の高かった流体力学を身近にした。既存の表計算ソフトであるExcelの持つ行列の計算機能とデータのグラフによる可視化機能を余すところなく駆使して,数値計算流体力学の入口へと誘うのである。
数値流体力学を研究する場合,多くの人がプログラム言語の習得が大きな障害であった。これらをできるだけ回避し,流体の物性の本質を理解させた本書の影響は大きい。各々の計算機上にインストールされたExcelを用いて,例題のシミュレーション実験を行うことで理解を進める。例題はホームページからもダウンロードできる。
まず格子マトリックスにより作り出される任意の形状を持った平面空間に境界条件を与え,次に計算領域のセルに差分方程式を定義し,必要な条件になるまで問題を解決していく。章が進むに連れて,粘性流体,圧縮流体,非定常流体へと問題が複雑になるが,全体を通して極めて理解しやすいものとなっている。
(C) ブックレビュー社 2000
現代免疫物語 花粉症や移植が教える生命の不思議
2001/03/08 15:15
免疫から紡ぎ出されるシナリオのうち悲劇,喜劇,ミステリー,さてどれがお気に入りか
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本書は,免疫にかかわるトピックスがシナリオ仕立てで語られる。多くのエピソードが随所に散りばめられ,物語の脇役を演じている。第1章では,近代免疫学の草分け的研究者である石坂公成夫妻や北里柴三郎の物語が用意されている。さらに花粉症,結核,T細胞,移植,骨髄移植,胸腺,次世代移植,抗体の不思議,サイトカイン,インターロイキン,TNF,受容体,エイズ,エイズ克服,自己免疫疾患にスポットライトが当てられ,それらが複雑に絡み合わさった全16話が用意されている。各物語から,それぞれの時代的背景,生化学会の様子や,国内外の関わった各研究者の人となりに触れることができる。
物事を成し得るのは,結局のところ人のかかわりであり,各個人の飽くなき情念が作用していることをここでも痛感する。功なくして名は無し,競合相手との抜きつ指されつのデッドヒート,はたまたノーベル賞にあと一歩手が届かなかったなど,舞台裏のあわてた風景が手に取るように見えてくる。実時間を共に歩まれ,目の当たりにされたからこそ語れる,裏事情に精通した筆者ならではの内容となっている。
難解な内容になりがちな免疫学は,科学者だけの別世界と多くの人々に思われてきたが,この本によりその垣根を崩すことができたのではないだろうか。免疫学者とジャーナリストの卓越した才能がいかんなく発揮されるとともに,うまく編み込まれたタペストリーとなっている。その内容ゆえに必要とされる専門用語を最小限に抑えることで,一般の自然科学の啓蒙書にありがちな,独りよがりな内容は影を潜め,非常に理解しやすくなっている。
「免疫の世界はミステリーとダイナミズムに満ちた世界である」という語り部たちの紡ぎ出す物語をどうぞご覧あれ。かの千夜一夜物語では,語り部シャハラザードによって,シャハリヤール王が正気を取り直したように,病の大魔王も大人しくなってくれることを望む限りである。
(C) ブックレビュー社 2000-2001
ロボットは心を持つか サイバー意識論序説
2000/12/28 12:17
人はどのようにして「ロボットが意識(心)を持っている」と認識するか
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本書では,ロボットに意識を与えるという技術は,人が他に対してどのように意識を認識するかという,観察する側の人間の心理を探求する技術であると説いている。すなわち人間がロボットに意識があるように感じるのは,何によるのかを理解することによって,いかにロボットに意識を埋め込むかを探求する。
内容は以下のとおりである。まず論議の発端である,人間とコンピュータを素材,構造,機能の角度から比較する。またロボットと人間とを対比し,その処理情報の結果に「心」を与える。そして認識する人間の心の不確かさを明らかにする一方,観察者の主観的な自己理解の過程を明らかにする。さらに意識と行動の階層的モデルを実験的,演繹(えんえき)的に解明し,人間機械論とロボット技術の関係について論じる。そしてロボットは人間になれるかを論議している。メカトロニクスなどの自然科学と,意識や心を探求する人文科学との橋渡しの一冊として,ユニークな内容となっている。
(C) ブッククレビュー社 2000
最先端創薬 戦略的アプローチと先端的医薬品
2000/12/28 12:15
ポストゲノムを踏まえて創薬のためのアプローチと,高齢化や生活習慣病に対応した先端的医薬品の今を知る
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本書は,ヒューマン・ゲノム・プロジェクトの終了宣言が行われたのを踏まえつつ,ポストゲノムを念頭にして創薬を行う必要を説き,そのための情報を与えるものである。各分野の第一線級の研究者による総説のオムニバスで構成されている。
第一部は「医薬品開発のストラテジー」について4つの手法から攻めている。経験則によらない標的薬物発見の手法,構造解析の終了している.標的分子の構造からの解析,ノックアウトマウスなどによる変異マウスを用いた薬物適応の発見,いかに攻略的に攻めるかという創薬に関する特許,共同研究である。
第二部は,より具体的な標的に絞った「先端的医薬品」についてである。大部分を受容体,イオンチャンネル,酵素,ホルモン等を対象とした単一成分に対するアプローチに割き,残りを多面的アプローチに割り振っている。
つい最近まで,研究者の勘と経験に頼って創られてきた新薬は,大部分は天然化合物を基にしていた。1970年代に入り,遺伝子技術の発展に伴って,人成長ホルモンなどが製薬として登場し,受容体ともども研究の対象になるようになった。その後バイオサイエンスの勃興(ぼっこう)とともに,これらの医薬品がばく大な財産を生み出したことは語る必要がない。ここ数年,驚異的な速度で遺伝情報が蓄積されつつある現状を考えると,世界を巻き込んだパラダイムシフトの大きな波が創薬にも寄せてきていると言える。
しかしわが国では,この分野へ投入される研究費の低さから,「いずれパテント使用料の重荷を背負うことになる」と言われるほどに立ち遅れていた。これらを考えるならば,医薬品開発,販売,管理の関係者や,この分野への投機家は,特に第一部を入念に読まれることを望む。第二部に示されたいくつかの医薬品はすでに臨床段階に入っており,難解な専門的な用語が含まれるが,一貫した流れがあって,実際の開発に携わる者には理解しやすいものと考えられる。
(C) ブッククレビュー社 2000
恒常性かく乱物質汚染 PCB・ダイオキシン・環境ホルモンその評価と対策
2000/11/01 12:15
環境に拡散した内分泌かく乱物質の現状を考え,21世紀を踏まえた化学物質問題の解決をめざす
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テオ・コルボーンの「奪われし未来」が巻き起こしたセンセーショナル,いわゆる環境問題が本国でも取りざたされている。本書は不用意に内分泌かく乱物質の怖さをあおり立てず,諸外国を含めた多くの科学的データからどのようにこれらの物質とかかわっていかなければならないかを科学的に説くものである。著者が長年公的な立場で日本の公害問題とかかわった経験によるものが大きい。
本書は以下の4つのパートからなる。パート1では汚染と影響の検証について述べている。対岸の火事ではない本国での隠れたPCB汚染の実例,ダイオキシン汚染,内分泌かく乱物質の汚染状況について多くの事実を呈示している。パート2では,これらの物質の毒性と作用の評価方法,またパート3では,我々を取り巻く環境を評価し,その対策と規制の必要性について述べている。最後のパートでは,恒常性のかく乱と遺伝子系への干渉について考え,今後の世代に残される問題へとつないでいる。
(C) ブッククレビュー社 2000
有機化学のための分子間力入門
2000/10/25 18:15
動的な「分子間に働く弱い相互作用」と静的な「分子の形」から,分子同士はお互いを認識しあう
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化学結合力には,強い結合力と,弱い結合力がある。強い化学結合力は,イオン結合力と共有結合力,金属結合力である。強い結合力によって,原子同士の距離や角度が決定され,分子の概形が定まる。しかし結合軸回りの自由度から分子はその形をさまざまに変えることができる。分子を取り巻く環境と,環境によってダイナミックに変化する弱い化学結合力から最終的に分子の形は定まる。
一昔前まで弱い結合力には,水素結合力やファン・デル・ワールス力があると考えられてきたが,しかしこれだけでは分子同士が認識する機構を十分に説明できない。メチル基などと不対電子対との弱い相互作用(CH…n)や,同じくπ電子との弱い相互作用(CH…π)が,全体として大きな力を生み出している。結晶中の分子配置やその構造,NMRスペクトルのNOEの観測,分子軌道法の計算結果などが例として挙げられている。今まで偶然と考えられてきた多くの現象が,この弱い相互作用により見事に説明されている。また随所で分子の形の特異性による認識の違いを知ることができる。
構造生物学や,薬理活性の探求が進むにつれて,分子の形だけでなく分子同士の認識の仕方についての研究が進んでいる。また結晶場になぞらえて,意図するように分子を組立てたいという要望も強い。それには,分子同士に働く力について,より詳しく知る必要があったわけである。一方で様々な形の分子を意図的に合成できるようになり,クラウンエーテルに見られるような分子の形の特異性が,分子間の認識に大きく影響していることも分かってきている。
第一人者の著者が述べているように,本書は動的な「弱い相互作用」と静的な「分子の形」から,分子認識の仕方を説明するもので,ほかに類を見ない名著といえる。有機化学に携わる者だけでなく,分子認識を追いかける多くの研究者は,この弱い相互作用を知ることによって,新世界を切り開く強い力を得ることとなった。
(C) ブッククレビュー社 2000
ロボットの基礎工学
2000/10/13 00:15
ロボットのしくみについて,全体を通して広い視点で学ぶ時,基礎から見えてくる踏み台にこの一冊
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ロボット技術の本質は生き物を真似ることにあるが,生き物がそれであるようにロボット工学もまた総合的な学問と言える。それゆえ体系的にまとめ上げることは困難を伴う。
本書は少ない紙面を駆使し,1冊で材料力学,機構学を含むハード面から,運動にかかわる多体問題,最適化問題の解法によるプランニングやロボット制御のソフト面に至る,ロボットを製作する上で不可欠な基礎的領域を網羅している。経験則的な部分を排除し,数学的内容を多く取り入れることによって,問題にすべき点を明確にしている。タイトルにあるように,応用ではなく,ロボットの製作時に鍵となる部分に焦点が当てられている。
読者はこれを足掛かりにして,独学でさらに深く問題を解決することができる。ロボットを作ってみたがどうも案配がよくない,問題点が明瞭でないので視点を広く持ちたい,あるいは基本から勉強し直したい時に役に立ってくれるであろう。
(C) ブックレビュー社 2000
免疫、その驚異のメカニズム 人体と社会の危機管理
2000/10/13 00:15
古くて新しい免疫--そのしたたかさを理解し,人間社会システムとのかかわりを考える
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我々の体内で繰り広げられる免疫について,その機構を広く知るための導入書として面白い内容である。孫子の教えに見られるような,生物が巧みに操ってきたその戦略に触れることができるだろう。
第1部は,高等動物がとっている免疫システムについて模式図を使いつつ,専門的な内容を平易な文章で書き下している。免疫のシステムの本質は,「自己と非自己」とを区別することにある。この際生物は自己であることを主張するのではなく,非自己を知ることにより防御システムを構築する。また免疫システムには,本質的にほぼ無限の多様性をもって非自己を認識する性質を現す。その中から自己に攻撃を与える性質を,後天的に胸腺での教育により取り除くことにより,結果として個性としての特異性が発現する。一見無駄に見えるこのシステムは,目的がなく非合理的かもしれないが,結果として多様性を生んでいる。これらの免疫システムを知った上で,多くの疾病,文明病とも呼ばれるアレルギーや自己免疫疾患のメカニズムについてさらに理解を進める。またガン,エイズなどの治療のために応用されつつある最先端の免疫を用いた治療法についても,わかりやすく解説している。
後半の第2部は,このシリーズで語られる知の統合としての「地球学」から垣間見える免疫システムのあり方について討議される。生物が獲得した免疫の本質的な意味,免疫が教えるところの「自己や非自己」と人類文明史に見られるアナロジー,免疫システムが我々の人間社会へ示唆するものについて,免疫学者である著者の谷口 克氏,経済史学者の川勝 平太氏,シリーズのまとめ役である広域科学者の松井 孝典氏による対談となっている。永い時の流れで生物が完成させた免疫システムについて,各々分野が異なる切り口でその切れ味を見せている。原始に戻って生物である人間の進むべき道が見えてこないだろうか。
(C) ブックレビュー社 2000
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