安呑さんのレビュー一覧
投稿者:安呑
チロと秘密の男の子
2001/07/26 18:37
秘密の男の子との出会いがチロを変えた!チロ、小学5年生、ある冬の不思議な物語。
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千広(チロ)は小学5年生。歌が大の苦手で、イヤイヤ音楽教室に通わされている。
ある冬の日、チロは音楽教室の帰りのバスの中で、大声で歌をうたう変なおばあさんに出会う。さらにその日は、バスを降りたところで、丸刈り頭の男の子にも出会う。
この男の子、冬だというのに、白いランニングシ?ツに半ズボン、はだしの足には黒いズックの運動ぐつという、なんとも不思議ないでたち。しかも驚いたことには、この子の姿、どうやらチロだけにしか見えないらしい。じゃあ、幽霊???
物語は、いまひとつ思うようにいかないチロの学校生活や友人関係を描きつつ、おばあさんの正体や男の子の秘密を解きあかしていく。
人は人生のうちで何度か、人との出会いや関係を通して、自分の思い込みやひとりよがりが解けて、心がフッと自由になり、思いがけない成長を遂げることがある。
きっと作者は、そんな人生の1コマ、子どもの自立の軌跡を描きたかったのだろう。
この物語を読んでいると、ン10年前にタイムワープしたようなゆったりした気分になる。なんともノスタルジックな雰囲気の表紙絵そのまんまのストーリー!今流行りの“癒し系”の物語と言えるかもしれない。
この夏、暑さと喧噪から逃れて、しばし涼風の吹く異空間に身を置きたい人にオススメ!
ブンダバー 1
2001/07/02 20:58
古道具のタンスの中からとびだした元気な黒ネコの物語!
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表紙は、ビビッドな赤と黒が基調。シンプルでオシャレで目立つ!描かれたネコの表情とポーズは今にも何か始まりそうな予感を感じさせる。タイトルは『ブンダバー』???「何これ、何のこと?どんな意味?」・・・意味不明さが好奇心をかきたてる。こうくれば、もう本を手にとって、表紙を開いて読んでみないわけにはいかないでしょ!?表紙とタイトルの大事さって、ものすごくある!そういうことを再確認させてくれる。そして、中身もなかなか…。
物語のはじまりは、古道具やさん。なんだか、ひみつや宝もののにおいがプンプン。古道具屋のおしじさんが、奥さんのリンさんの誕生日のプレゼントにするために拾ってきた洋服ダンス(だって町の家具屋さんのタンスは高くて買えなかったんですもの)ほこりを落としてきれいにすると、なんと動物の顔らしい彫刻がほどこされていた。なくなっていた引き出しを作り、鼻と口を彫って、ひげを描くと・・・“ガタガタ!”いきなりタンスが動きだし、なかからとびだしてきたのは、まっくろなネコ!
しかも、ただのネコじゃあない。なんと、人間のことばを理解し、しゃべるネコだった!なまえは、「ブンダバー」。とにかく、元気で、かわいくて、愛すべきヤツ。
これは、おしじさんとリンさんちのひと(じゃなくてネコ)になったブンダバーがくりひろげる、ファンタジーの衣をまとった、きわめて日常的でリアルな物語。子ども達の背たけにあっていて、楽しくて、気持ちを開放してくれる。
佐竹美保さんの挿し絵も、とても躍動感があって、物語をパワーアップさせている。『ローワンと魔法の地図』『ネシャン・サーガ』『魔女の宅急便その3』『魔法使いの卵』etc.それぞれに魅力的な絵で物語の世界を表現している、今が旬の絵描きさんだよ。
これからも『ブンダバー』の物語は続くそうなので、乞う御期待!
最後に・・・『ブンダバー』って、英語の<ワンダフル>。つまり<すばらしい>っていう意味のドイツ語とのこと。そういえば、表紙に書いてある<WUNDERBAR!>の綴り、英語の<WONDERFUL!>に似ていることに、今、気づいた。
ねこたちの夜
2001/07/02 20:45
“ねこたちは夜、なにをしているの?”—遊び心あふれるブルース・イングマンのオシャレな絵本!
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1996年『マーサのいぬまに』でマザーグース賞を受賞したイギリスのブルース・イングマンの第2段!
『マーサのいぬまに』は、“ねこのライオネルが、飼い主の女の子マーサが学校に行っている間、なにをしているか?”というおはなしだった。さて、こんどの『ねこたちの夜』は、“ねこのライオネルが、マーサが眠っている夜の間、なにをしているか?”というおはなし。ねえ、なにをしていると思う?ねずみを追いまわしてるとか、屋根の上で景色を眺めてるとか、そんな平凡なこと言わないでほしいな。実は、ぼくたち学校に行ってるんだ。『キャット・アカデミー』にね。
このアカデミーで勉強してるから、ぼくたちねこはかしこいんだよ。
ぼくは、服飾クラスで最新のコレクションの仕上げをし、工作のクラスで木の上の家を設計している。それから、スクーターのことを完璧にマスターしたいから、機械学の授業にもでている。ちゃんと、食事の時間もあるし、ひとねむりする時間もある。
放課後は、床屋に行っておしゃれと情報収集。大好きなオードリーと待ち合わせしてカフェに行ったり、映画やドッグレースを見たり。そして、明るくなる前に、ちゃんとスクーターでオ−ドリ−を家まで送りとどける。
なんだかこの絵本、ひと昔前の、オシャレでハイソな雰囲気が漂っている。
映画館のシーンで、スクリーンに、あのあまりに有名な映画『ローマの休日』の1場面がドーンと貼り付けられているのには度胆を抜かれたが、内心にんまり!
そういえば、どこかで見た映画のワンシーンを彷彿とさせるページが、全ストーリーを通して出てくる。ライオネルがオードリーをスクーターのうしろにのせている場面は『ローマの休日』そのまんまだしね。
“無邪気な心と小粋な画風が見事にとけあった世界”とは、イラストレーターのクエイティン・ブレイクの評だが、この遊び心あふれるオシャレな絵本を、オトナの世界にあこがれる子どもたちと、今ライオネル君と同世代のYAのみんなと、あの時代の甘酸っぱさを覚えている愛すべきオジサマ・オバサマたちに、プレゼントしたい。
こぞうのパウのたたかい
2001/05/29 13:14
子象パウの母親探しの冒険物語。
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『こぞうのパウのたびだち』『こぞうのパウのだいぼうけん』に続く『こぞうのパウのものがたり』シリーズの第3作完結編。
子象のパウは、アフリカの草原で仲間たちと暮らす。パウの父親パルルは、ヘリコプターでやってきた悪い人間たちから仲間を守るため、勇敢に戦い、死んだ。そして、母親のルルネとも、山火事で生き別れに・・・。どうやら、サーカスにつかまったらしい。そこで、パウはひとり、母親さがしの旅に出る。
ひとりぼっちおそろしい夜、ギラギラと照りつける太陽、砂ぼこりの舞い上がる乾いた大地、きびしい自然と闘いながら、パウは、南へ南へと進む。
出会いと別れ、涙と笑い、知恵と勇気、闘いと和解。そして、クライマックスは火山の大爆発。真っ赤な空に、人間と動物達の叫び声が響き渡る・・・ハラハラ、ドキドキしながら、パウの冒険の旅に引き込まれていくだろう。
正統派「往きて帰りし物語」。全ページに、あべ弘士さんののびやかなカラーの挿し絵が入っているというのもうれしい。オールひらがななので、ひとりで読めるようになった子にもおすすめ!
幼年向け、低学年向けの読みものが少ないなか、久々のヒットである。
ロンドンのマドレーヌ
2002/01/08 13:06
かわいくてオシャレな『マドレーヌ』シリーズがまた1冊増えました。
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かわいくてオシャレな『マドレーヌ』シリーズがまた1冊増えました。舞台はロンドン!ロンドンならではのちょっと愉快な事件が起こります。
おなじみベーメルマンスの『マドレーヌ』シリーズのなかの1冊。今回マドレーヌたちは、ロンドンに引っ越して淋しさのあまり棒のように痩せてしまったぺピートを元気づけるためロンドンに出かけます。
着いた日はちょうどぺピートの誕生日。引退した馬を譲ってくれる所に行って、やさしくて強くてぴっかぴかの馬を贈り物に!ところが「お誕生日おめでとう」とプレゼントしている最中にトランペットの響きが・・・。その音を聞いた途端、馬は女王様の御衛兵の隊列の先頭に躍り出ます。そしてマドレーヌとぺピートを乗せたままロンドン中を行進!そうこの馬、昔隊列の先頭で働いていたことがあったんです。
もちろん、ロンドンの有名どころがたくさん出てきます。トラファルガ−広場、ウェストミンスタ−寺院、真っ赤な2階建バス、こうもり傘をもった紳士、タワー・ブリッジ、セント・ポ−ル大聖堂、バッキンガム宮殿etc.
自由でのびやかで、それでいて軽妙かつシックな洗練されたたくさんの絵に、そっけないくらい切り詰められた短い文章。本質的に絵で考える人だったといわれるベーメルマンスの本領が如何なく発揮されている、この『マドレーヌ』シリーズ。かわいくてオシャレでたのしくて、眺めているだけでも幸せな気分になります。
昨年出版された『マドレーヌのクリスマス』に続き訳は江國香織さん。ファンにはたまらなくうれしいクリスマスプレゼントになりそうです。
ゆきだるまのマール
2001/12/28 16:35
「はやくちいさくなりたいなあ!」・・・ゆきだるまの世界では大人になるほど小さくなるんです。
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寒い寒い北の国に住んでいるゆきだるまの家族。すえっこのマ−ルの口ぐせは「はやくちいさくなりたいなあ!」。だってゆきだるまは生まれてから時間がたてばたつほど溶けて小さくなるでしょ。だから、ゆきだるまの世界では大人よりも子どもの方がからだが大きいの。
そんなマールの日常は・・・デザートのホットケーキだけ先に食べて、絶対食べると約束した朝ごはんのアイスクリームはちゃっかり残して、外に飛び出す。(ほらほら、ちゃんと食べない子は小さくなれませんよ!) 「気をつけなくたって平気だもん」と友だちに借りたスキーですべった途端すってんころりん。(雪がからだにくっ
ついてまたまた大きくなっちゃった!)「ぼく小さいからスキーはしないの。スキーなんか大きな子どもの遊びだもん!」と負け惜しみを言っては陰で涙をそっと拭く。・・・なんだかどこかにいるだれかさんにそっくり! さてある日、マールは穴に落っこちていた友だちを助けて・・・
新鮮な発想と独特なユーモアが楽しい二宮ワールドに、これまたピッタリ、ちょっととぼけた感じの渡辺洋二の絵がついて、愉快で不思議なゆきだるまの本になりました。子どもも大人も素直に楽しめちゃう、そんな幼年童話です。
おーいペンギンさーん
2001/12/28 15:55
たろうは『はじめてのお風呂屋さん』を無事やり遂げて家に帰れるか?
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たろうは『はじめてのお風呂屋さん』を無事やり遂げて家に帰れるか?ペンギンさんを追いかけて帰ってくるまでのちょっとおかしな物語。
お風呂屋さんに初めてひとりで行ったたろう。うんと気を張って『はじめてのお風呂屋さん』を完璧にやり遂げるつもりだったのに・・・お風呂からあがって着たのはなんとペンギンの黒い服。どうやらペンギンが服を間違えていったらしいのです。たろうはあわててペンギンを追いかけます。「おーいペンギンさーん」
それにしてもペンギンの足(泳ぎ!)の早いこと!追いかけて追いかけて、ワニやアホウドリやクジラにまで協力してもらって、とうとう南極まで来ちゃいました。そこで無事服を交換してもらい、めでたしめでたしで帰路につくのですが・・・。
服を間違えたのが、やはりその日はじめてお風呂屋さんに行ったペンタロウという名のペンギンで、それがたろうにそっくりなのには思わず笑っちゃいます。それに、ワニやアホウドリたちとのやりとりもなんだかとってもおかしいんです。
子どものための単行本としては本書が初めての岡田よしたかさんの絵は、動きがあって勢いもよくて、もう元気いっぱい!
あたりがすっかり暗くなってから「ただいまー!」とたろうが戸を開けたとき、「おかえりー、えらいながーいおふろやったねー・・・」と迎えてくれた父ちゃんと母ちゃんの笑顔は最高!「えっ、この子どのくらいの時間旅してきたのかしら?」なんて思わずマジになっちゃいました。
なんだかちょっとズレてて、心と体と頭のガス抜きにはピッタリの大阪弁のナンセンス童話です。
となりのまじょのマジョンナさん
2001/12/25 16:45
マジョンナさんみたいな魔女がいたら、私もとなりに引っ越したい。
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壁は真っ黒、屋根にはほうきがたくさん立っていて、煙突ではやかんがお湯を湧かしてる・・・それがとなりのまじょのマジョンナさんの家。
月曜日には、魔女の黒い服と縞縞の靴下が物干にずらーり。
散歩の時は、誰だって腰を抜かしそうなわけのわかんないお供がワイワイいっしょ。
ふだんは早寝早起きで8時には眠ちゃう。コウモリたちといっしょに逆さづりでね。
たまに夜中に魔女が大勢集まって、不思議な料理を作っていることも・・・。でも、ぼくたちマジョンナさんがだーいすき!なぜって?
マジョンナさんの魔法のおかげで、庭も部屋のなかもいつもピカピカ。病気の時はハーブ入りのスープやクッキーが飛んでくる。たこで遊ぶときのたこはなんとマジョンナさん!近所の人に魔法をかける時だってそれは楽しい魔法。
それなのに「迷惑だ!魔女なんか出ていけーっ!」って、ある日近所のおじさんとおばさんが怒鳴りこんできた。マジョンナさん怒ったのなんの、魔法の呪文を唱え始めちゃった・・・。
おじさんとおばさん、何に変えられちゃったと思う?ああ、教えてあげたい。でもダメダメ。ないしょナイショ!
魔女にもいろいろあるけれど、これはハッピーな気持ちになれる魔女の絵本。
ユーモアとウィットあふれるブリッドウェルさんのマジョンナが、長野ヒデ子さんの魔法でとってもユニークな愛すべき魔女に!
マジョンナさんみたいな魔女がいたら、私もとなりに引っ越したい。
トイレのなぞ48
2001/12/11 16:08
知ってるようで知らないトイレのなぞ。これを読めば君も「トイレ博士」
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人間食べたら出さなきゃならない。そのためにゼッタイ必要なのがトイレ!
もちろん、世界人口60億のうち、3分の1以上の人は、トイレのないくらしをしているらしいけど、それはそれ。文化や習慣のちがい。とりわけ清潔好きといわれる日本人には、トイレなしの生活なんて考えられないよね。
でも、あんまりフツーにありすぎて、立ち止まって考えることもない。だから、トイレのこと案外知らないんだ。この本は、トイレや排せつのことを、48の項目に分けて、Q&A方式で書いてある。Q(問い)も具体的で興味をひくし(「トイレで流す水は1日1万8000円?」「地震のときトイレはどうなるの?」「日本でいちばん古いトイレの建物」「公衆便所はいつからあるの?」「山からうんこを持ち帰る!」「おとな2日分のうんこがフィルムケース1個に?」等々)、A(答え)もとてもわかりやすくて、絵や写真や図も載ってるから理解の助けとなる。どこから読んでもOKだよ!さあ、きみもトイレ博士になろう!
さて、ひとつだけ問題です。
Q「昔は「トイレ」のこと、なんていったの?」
A「実は、日本には昔からの「トイレ」の呼び方が千以上もあるんだって。
ちょっと代表的なものを紹介すると、〈厠(かわや)〉〈後架(こうか)〉〈閑所(かんじょ)〉〈手水場(ちょうずば)〉〈はばかり〉〈雪隠(せっちん)〉〈高野山(こうやさん)〉〈御不浄(ごふじょう)〉〈思案所(しあんじょ)〉」(実際はもっと詳しく書いてあるよ。)
君はいくつ知ってたかな?
預言の子ラノッホ
2001/12/04 12:42
古代スコットランドが舞台の大長編ファンタジー!
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預言は真実か?ラノッホは預言にうたわれる伝説の「王」なのか?古代スコットランドが舞台の大長編ファンタジー!
雷に木立のくだかるるごとく
古の教え、そこなわれ破らるる
そのとき森の神なるハーンはめざめ
鹿の軛を解き放つ
額にオークの葉のしるし
取り替え子がその運命
解すは、鹿の知られざる言の葉
怒り恐れにくしみに追わるる旅
朗々と唱い上げられる詩。これは、鹿に伝わる<預言>のはじめの部分である。
時は、スコットランドがまだスコーシアと呼ばれていた頃。シカたちはその地で平和に暮らしていた。ところがある日、群れを守る「野守」と呼ばれる雄ジカたちが、恐怖と暴力による支配をたくらむ王とその側近によって皆殺しにされた。彼らは伝説や古からの掟を嫌い、独自の規則でシカの世界を蹂躙し、さらに支配の域を広げようとたくらんでいたのである。その頃、ラノッホは生を受けた。そしてその額には、伝説に「王」とうたわれる白いオークの葉のしるしが・・・このしるしのことが王たちに知れるとラノッホの命はない。そう考えた母親たちは、一計を案じ、シカの神ハーンが棲むという遠い北の地を目指して旅に出た。冬はもう目の前まで来ていた・・・
ラノッホたちは厳しい冬の山を越えて無事北の地に到着できるのか?預言は果たして真実なのか?森の神なるハーンの正体は?ラノッホはほんとうに伝説の「王」なのか?
600ページを越える大長編にもかかわらず、ラノッホがたどる運命から目がはなせず、ページをめくる指は止まらない。時に、幻想的で美しい情景描写にため息をつき、オオカミやアザラシ等ラノッホが出会ったさまざまな動物たちとの息を呑むあるいはユーモラスなやりとりを楽しみ、自由とは何か?何のために生きるのか?暴力のもとはどこにあるのか?等々やや重い問いの前にしばし目をあげる。物語を読む醍醐味を存分に味わわせてくれる本である。
ファンタジーが続々出た2001年。その最後を飾るにふさわしい、神話世界をもとにした壮大なファンタジー。トナカイがそりを曵くようになったエピソードも織り込まれており、クリスマスプレゼントにも最適の1冊である。
ふたごのルビーとガーネット
2001/11/27 15:25
性格は正反対だけれど、いつもいっしょだったふたごの女の子が、それぞれの道を歩き始めるまで・・・
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ルビーとガーネットはふたごの女の子。年は10才。一卵性双生児だから見かけはそっくりだけど、中身はまるで反対。ルビーは行動的でおしゃべりだけど、ガーネットは内向的で物静か。お母さんは3年前に亡くなったから、お父さんとおばあちゃんと4人で暮らしている。
ところが最近、お父さんには恋人ができた。それだけでもいやだったのに再婚が決まり、大嫌いなローズと暮らす羽目に。おまけにお父さんは転職。家も引っ越すことになったので、大好きなおばあちゃんは家族と別れて老人ホームへ。ルビーとガーネットはいなかの学校へ転校・・・二人の意に反してどんどん変わっていく家族。
そんな中で、「あたしたちふたごの女優になるの!」「あたしたち寄宿学校に行くの!」と、夢の実現に向けてどんどん行動するルビーと、『ほんとはいやなんだけど』と言いながらもルビーにひっぱられていっしょに行動するガーネット。でも現実は思わぬ方向に・・・。
今まで、性格がちがうがゆえにかえって離れられず、何をするのもいっしょ、二人で一人だったルビーとガーネット。しかし、変化する現実の中でお互い相手を認め、それぞれの足で自分らしい人生を切り拓き始める。また、自分達の周りの人たちを見る目も徐々に変わってくる。
二人の交換日記のやりとりですすんでいくこの物語は、ふたごの女の子の成長の記録であり、家族の日記でもある。子どもの目線で書かれているところがうれしい。女の子にはとくにオススメ!
著者は、『おとぎばなしはだいきらい』『バイバイわたしのおうち』などの作品で子ども達の圧倒的支持を受けているイギリスの人気作家ジャクリ−ン・ウィルソン。
本書も、イギリスで『スマーティーズ賞』『シェフィールド賞』『チルドレンズ・ブック賞』を受賞している。
コンラッド
2001/11/06 17:26
銀色の缶の中から出てきたのは、優等生の7才の男の子コンラッドだった。
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自由気ままな一人暮らしのバートロッティ夫人のもと送られてきた銀色の缶の中から出てきたのは、優等生の7才の男の子コンラッドだった。
バートロッティ夫人のもとへ20キロ以上はあると思われる荷物が送られてきた。中身は銀色のブリキ缶。そしてその缶を開けると、中にうずくまっていた謎の生物が口をきいた。「ハジメマシテ、オカーサン」。実はこれ、某研究所製品開発研究部が最先端技術により開発した即席児童。培養液を注ぐと、健康そのものの7歳の男の子になった。名前は、コンラッド・バートロッティ。とにもかくにも、バートロッティ夫人、この子を育てることにした。
ところで、バートロッティ夫人は、年齢不詳の自由気ままな一人暮らし。「きちんと」「ちゃんと」「お行儀よく」「世間体」「やるべきこと」「主婦のたしなみ」「それが普通」・・・といった言葉が大嫌い。ところが、コンラッドはというと、お行儀が良く、礼儀正しい。もちろん学業優秀、運動能力抜群、歌わせれば天使の声、絵を描かせればプロ級、完璧な優等生。おまけに教育上好ましからぬ言動は受け付けない体質ときている。そんな二人の間に、バートロッティ夫人のボーイフレンドで極めて常識的なト−マス氏が父親役を申し出たり、同じアパートに住んでいる元気な女の子キティがガールフレンド兼ボディーガード(致命的に経験不足で世間知らずなコンラッドはみんなと遊んだり、おしゃべりしてうまくやっていくのが苦手だったので、学校ではいじめの標的だったんだ。)になってくれたりしながら、にぎやかに毎日が過ぎていく。
ところが、そんなある日、コンラッドの配送はコンピュータの誤作動による手違いだったので、至急返送してほしい旨の手紙が某研究所から送られてくる。しかし、コンラッドを手放したくないバートロッティ夫人は、キティとある作戦を練り実行に移す。さて、その作戦とは・・・?
『あの年は早くきた』『空からおちてきた王子』『かべにプリンをうちつけろ』等の著作で知られ、〈国際アンデルセン賞〉作家でもあるネストリンガーの1975年の作品。コンラッドのようなガチガチの優等生タイプのキャラクターはやや古いかなという気がしないでもないが、子どもを枠にはめ込もうとする教育に対する批判や、子どもたちのいじめの構図、強烈な個性と生活力をもったバ−トロッティ夫人やキティの女性の溢れんばかりのパワーは、現代にも十分通用する。
オオカミのともだち
2001/11/06 17:13
「ひとりでいるのが気楽で一番いい」そんなオオカミの前にあらわれたおかしなやつ。
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「ひとりでいるのが気楽で一番いい」そんなオオカミの前にあらわれたおかしなやつ。つきあっているうちに思ったんだけど、これって…ともだち?
「何かうまい獲物でもいないかなあ」そうつぶやきながら歩いていたオオカミの前に「オイラといっしょに獲物を探さないか」といきなり親しげに声をかけてきたのは見るからに強そうなクマ。
「ひとりでいるのが一番いい」と常日頃からそう思い、お気楽、気まま、わがままに、ひとりで行動することをよしとしてきたオオカミですが、なんとなく成りゆきで、クマといっしょに獲物を探す羽目に・・・。
ところが、いっしょにいる間中、オオカミは「こいつ、オレに獲物を見つけさせて横取りするつもりかな?」「ひょっとしてオレを食うつもりなのか?」と疑心暗鬼、気の休まることはなく、疑いの念はムクムクとふくれあがるばかり。一方、クマはというと、獲物のいる場所教えてくれたり、おいしい蜂の巣を採って分けてくれたり、崖から落ちそうなところを助けてくれたり・・・。
結局、最後は、二人で協力して魚を採って、おいしいおいしいって食べたんです。
「こいつっておかしなやつ!」ってクマのことを思いながらも、オオカミはすごくうれしくて、あったかーい気持ちになったんです。
もしかして、これって、『ともだち』なのかな?
田島征三・木村裕一のコンビが贈る『オオカミのごちそう』に続く『オオカミシリーズ』第二弾。他人(?)が信じられない斜に構えたひねくれオオカミと、だれとでも気楽に友だちになってしまうおおらかなクマのやりとりには、思わず笑っちゃいます。いっぱいのユーモアに、ちょっぴり添えられたペーソス。田島さんの絵が笑いと哀感を誘います。人生のはじめの時期にいる人から終わり近くにいる人まで、それぞれの楽しみ方ができる絵本です。
ふしぎをのせたアリエル号
2001/10/30 17:30
人間になったお人形と、お人形になった人間が繰り広げる愛と冒険のファンタジー!
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エイミイとキャプテンはふたごです。だって同じ日に生まれたんですもの。ただ、エイミイはおかあさんから生まれた人間の赤ちゃんでしたが、キャプテンは仕立て屋のおとうさんが作った船長のお人形でした。
でも、おかあさんはエイミイを産むとすぐに死んでしまい、おとうさんも海に仕事を探しに行ったきり戻ってこなかったので、エイミイは『聖アンナこどもの家』で暮らすことになりました。ひとりぼっちのエイミイはキャプテンをそれはそれは大切にしました。いつもいっしょにいて話しかけ、マザーグ−スの本も読んであげました。
するとエイミイが10歳の時、1番目の『ふしぎ』がおこりました。お人形のキャプテンが本物の人間になったのです。ところがキャプテンがいったんエイミイのもとを去ると2番目の『ふしぎ』がおこりました。今度はエイミイが悲しみのあまり人形になってしまったのです。
やがて、帆船「アリエル号」の船長になってエミリイのもとに戻ってきたキャプテンは、人形になったエミリイを連れて、海の底に眠っている海賊カウルの宝を探しに大航海に乗り出します。それにしても、この「アリエル号」とにかくたくさんの『ふしぎ』をのせていたんですよ。元船長の妹と称して乗り込んだ正体不明のあやしげな女オニババ、元人形のサルやブタやアヒルといった動物の船員たち、聖書の解釈で頭がいっぱいの元人形のステテコ・・・。さてさて「アリエル号」の冒険の行く末は・・・?
おとぎ話と海洋冒険小説がドッキング。『カワイイ!』と『ワクワク・ドキドキ!』がいっしょに満たされ、おもしろくてノンストップで読めてしまいます。でも、それだけじゃないところが、この物語のスゴイところ。マザーグースや聖書やシェークスピアがありこちにちりばめられていて、まるで宝石箱のよう!一度では味わい尽くせず、何度でも読んでみたい気になっちゃうんです。
中川千尋さんの訳はとても読みやすく、挿し絵もこの物語の雰囲気にピッタリ。
1990年、福武書店から出版され、文庫にもなって、子どもから大人まで幅広いファンを魅了した作品。徳間書店に版元を変えてのうれしい復刊です。
スクランブル・マインド 時空の扉
2001/08/07 13:30
想像を現実に変えるプリンセスと人の心を読む力をもつプリンス。二人の行く末は・・・
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想像を現実に変えるプリンセスと人の心を読む力をもつプリンス。二人の織り成すファンタジー・アドベンチャーの行く末は・・・
想像を現実に変える力を持つ人々の国、アンディラ。その国の王女レノーラは、ストレートブロンドのかわいくて魅力的な17才。負けん気が強くて、人のいうなりになるなんてまっぴら。すべてを自分の力で切り開いていきたいたくましい性格。
一方、人の心を読む力を持つ人々の国、ジェピス。その国の王子コリンは、ガリガリで色白、そばかすだらけのうえに赤毛。人の頭に入って他人の心や考えを盗みぎきするなんてことしたくない、気の優しい控え目な性格。
さて、この二人が親が勝手に決めた結婚に臨むところから、おはなしは始まる。とにかくはじめて会う二人。結婚式の前からすったもんだあるんだけど、なんと結婚式の最中に、いまひとつこの結婚に気乗りしないレノーラはある声に招喚され心をゆだねてしまう。すると二人の姿は教会から消える。そして、たどりついた国は、あらゆるものが美しくおもしろく、退屈なものなんてひとつもない、みんなが幸せな完璧な国。そしてレノーラを迎えたのは、背が高く、肩幅が広く、黒い巻き毛に青い目、まばゆいばかりのほほ笑みを浮かべた完璧な男。レノーラは目がハート型になってすいよせられていくが・・・その先に待っていたのは、おとぎ話の住人たち総出演といった感じの大スペクタクル!
魅力的なキャスティング。スリリングな展開。しかもとても映像的な仕上がりの作品で、読んでいく端から言葉が即映像に立ち上がっていく感じがする。アニメ感覚、ゲーム感覚でどんどん読みすすめる。
テーマは、『マインド・スパイラル、スクランブル・マインド、Of Two Minds』とタイトルにあるように、いうまでもなく『心』。人の心の奥底に潜む思いや迷い、可能性、激しい感情といったものが、ファンタジーの衣をまとった異世界で噴き出し、現実以上にリアルに迫ってくる。
帯には、『YA世代を魅了する上質のエンタテイメント』とあるが、内容的には、今の子ども達なら、小学校中学年位でも十分理解できそう。文章も当世風だし、ファンタジーや冒険ものの好きな、特に女の子にオススメ。続編も4巻まであるとのこと、乞う御期待!
