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  3. 橋本公太郎さんのレビュー一覧

橋本公太郎さんのレビュー一覧

投稿者:橋本公太郎

27 件中 1 件~ 15 件を表示

紙の本環境科学の歴史 1

2002/11/25 22:15

古代から現在までの「環境科学」を野心的にひもとく力作

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 この本が扱う環境科学とは、環境問題を取り扱う(狭義の)環境科学ではなく、地理学、地質学、生態学、進化論などの、自然的・生物的環境を扱う、広い意味での環境科学のことである。本書は、進化論を専門とする歴史学者であるボウラーが、環境科学について、古代から現在までをひもとく。科学史や進化論に興味を持つ人向けの本である。そして、この本の特長は、科学の歴史だけではなく、その科学が生み出される社会情勢や、科学者の哲学の歴史まであぶり出しているところである。

 本書の第I巻は、ギリシャ・ローマ時代からダーウィンの進化論が公表されるまでの科学の歴史を扱っている。まず、近代科学の基盤となるギリシャ時代の自然哲学と、プラトン、アリストテレスに確立された知的伝統を紹介し、中世ですたれかけた科学がルネッサンスにより復興した経緯を示す。ニュートン科学の勝利の17世紀後半から18世紀の啓蒙時代を経て、地球の歴史の完全な輪郭が作成され、地質学の「英雄時代」と呼ばれる19世紀に至るのであった。

 本書の第II巻は、1859年にダーウィンの「種の起源」が出版されてから、現代に至るまでの環境科学を、進化論を中心として扱っている。ダーウィンの進化論の与えたインパクトは大きかった。ダーウィンの進化論は遺伝学と結びつき、大成功をおさめる。一方、生物学者は地球上の生命史の再構築を行い、生態学(エコロジー)と呼ばれる動植物とその物理的環境との相互作用に関する学問も生まれた。また、地球科学は、探検の時代が終焉し、地球物理学の発展、大陸移動説と、プレートテクトニクス理論が構築されたのだった。

 古代から現在までの科学の歴史を再構築しようしており、その内容のはば広さと、紹介される研究の膨大さに圧倒される。しかしながら、そのために、読み通すのは大変骨が折れる。また、訳がこなれていないのが残念だ。

(橋本公太郎/東京大学大学院新領域創成科学研究科環境学専攻 助手 http://www02.so-net.ne.jp/~hashi/kohtaro/index.html)

【目次】
第I巻
1. 認識の問題
2. 古代と中世の世界
3. ルネサンスと革命
4. 地球の理論
5. 自然と啓蒙時代
6. 英雄時代
7. 哲学的博物学者たち

第II巻目次
8. 進化の時代
9. 地球科学
10 ダーウィニズムの勝利
11 生態学と環境主義
参考文献解説
あとがき


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人はこの病を克服できるのか?アルツハイマー病をめぐる研究者たちのドラマ

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 アルツハイマー病のメカニズムとしていちばん広く受け入れられている仮説は、遺伝子の突然変異によって、アミロイドと呼ばれるねばねばしたタンパク質が大量に生成し、脳にこびりついて神経細胞が損傷するという考えである。そんなアルツハイマー病遺伝子の解明競争の現場が、当事者によって生き生きと描かれているのがこの本だ。

 著者であるタンジは、大学を卒業後、マサチューセッツ総合病院の実験助手の職を見つけ、ハンチントン病の原因となる遺伝子を探しだすプロジェクトを手伝う。運良く、プロジェクトはハンチントン病遺伝子が4番目の染色体にあることを発見でき、他の遺伝子病解明にも技術を応用しようとしていた。

 同じ頃、カリフォルニア大サンディエゴ校のグレナーは、アルツハイマー病の脳に沈着しているアミロイドの構造を同定した。そして、アルツハイマー病のアミロイドとダウン症(21番目の染色体が通常より1本多い3本存在することによる障害)患者の脳のアミロイドがほぼ同一であることを確認し、アルツハイマー遺伝子は21番目の染色体にあるとの見解を示したのだ。
 ここから、アルツハイマー遺伝子の発見競争が始まった。ハーバード大学院に進学した著者は、アルツハイマー病のアミロイドのタンパク質をもとに、それに対応する遺伝子を21番目の染色体の中から見つけだした。

 しかし、アルツハイマー病は21番染色体中の遺伝子だけでは説明がつかなかった。若くして起こるアルツハイマー病の遺伝子は14番目の染色体にあることがわかり、著者はその遺伝子の発見競争にも参加する。あと一歩のところで競争に敗れるが、勝ったのは実は協力関係にあるはずの研究者で、著者には内密に探しあてていたのだ。

 アルツハイマー病の一般的な話や、対立仮説、さらにはアルツハイマー病治癒薬の開発過程も上手に折り込まれており、バランスがとれている。読んでいてワクワクする良い本だ。

(橋本公太郎/東京大学大学院新領域創成科学研究科環境学専攻 助手 http://www02.so-net.ne.jp/~hashi/kohtaro/index.html)

【目次】
序章   はじめに
第一章  手作業のマーカー探し
第二章  問題の核
第三章  候補染色体
第四章  遺伝子を釣りに
第五章  興味をそそる遺伝子
第六章  多すぎる手がかり
第七章  突然変異、現る
第八章  二十日鼠と人間
第九章  あの遺伝子
第十章  答えは42
第十一章 カスケードを解明する
第十二章 新薬に賭ける
エピローグ
監修者あとがき
付録
 注釈(原注)と参考文献
 その他の参考資料
 用語集
索引


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クロマトグラフィーの創始者を徹底的に調べ上げた、思いのこもる一冊

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 クロマトグラフィーとは、混合物をカラムに通し、カラムに詰めた物質の表面との相互作用の違いによって分離させる方法で、化学や生化学、環境科学などの分野では、なくてはならないものである。「クロマトグラフィー」は、ギリシャ語の「色(クロマト)」と「記録(グラフィー)」から、発明者であるツウェットが命名した。ところが、このツウェットについては、日本では非常に知名度が低い。本書は、ツウェットに対し強い思いを抱く松下氏によって、ツウェットやクロマトグラフィーのすばらしさを知ってもらいたいとの一途な気持ちから著されたのだ。
 本書によると、ロシア人の父とイタリア人の母を持つツウェットの生涯は、国をまたいだ移住の繰り返しであった。1872年にイタリアの小さな町で産まれたが、幼少時にスイスに移り、ジュネーブ大学に入学している。博士の学位を取得後、ロシアに移住したものの、ロシアではスイスの学位が認められていなかったため、働きながら修士の学位を取得した。その後、ワルシャワに移り、1906年にクロロフィルの分離の研究でクロマトグラフィーを発明している。1915年にドイツ軍がワルシャワに攻め込んだため、モスクワに逃れ、1919年に死去している。ツウェットのクロマトグラフィーは生前から賞賛されてはいたが、多くの反対者も存在した。1918年にはノーベル化学賞にノミネートされたが落選しており、クロマトグラフィーの有用性が賞賛されたのはツウェットの死後であった。
 この本の特長は、ツウェットに対する思いが、良い意味で全面に出ていることだ。ツウェットについて徹底的に調べ上げ、ツウェットゆかりの地を訪れたり、世界中のツウェット研究者と対談している。
 理化学に興味を持つ人を対象に書いており、読みやすくはないが、クロマトグラフィーの科学史の資料としての価値が非常に高い一冊だ。

(橋本公太郎/東京大学大学院新領域創成科学研究科環境学専攻 助手 http://www02.so-net.ne.jp/~hashi/kohtaro/index.html)

【目次】
第1章 M.S.ツウェット博士の紹介と研究の価値
第2章 クロマトグラフィーの誕生
第3章 ツウェット博士の研究の職場
第4章 ツウェット博士の大きなカバン
第5章 ツウェット博士とノーベル賞
第6章 ツウェットの最盛期の論文
第7章 分取クロマトグラフィーと原子爆弾製造研究
第8章 液体クロマトグラフィーの原理と装置
第9章 世界のツウェット研究者との対談
第10章 ツウェット博士に関する研究論文

【関連書】
松下至著『液体クロマトグラフィーQ&A100』技報堂出版(2000年)

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紙の本ヒートアイランド

2002/08/13 15:15

30年前にヒートアイランドを予言した著者がその解決策を紹介

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 東京の夏は本当に暑い。過去100年で、地球全体は1年の平均気温が0.6℃上昇しているのに対し、東京は2.6℃も上昇している。これは、ヒートアイランドと呼ばれる、都市の内部の気温が郊外よりも高温化する現象が原因なのだ。実は、著者である尾島俊雄氏は、1975年にすでに都市の高温化を予言し、警告していた。本書は、ヒートアイランドの原因解明と都市工学からの解決策を、豊富なデータを交えて紹介しているのだ。

 ヒートアイランドの主な原因は、都市化により緑地や水面が少なくなることと、人工排熱が集中することである。緑地や水面が少なくなると、地表面が高温化して、日中の温度が高くなる。一方で、夜には地表面に蓄えられた熱により気温の低下が防げられるのだ。また、エアコンや工場からの排熱も都市を熱くする。東京は2001年までの30年間に、排熱だけで8月の気温が0.7℃上昇しているそうだ。

 ヒートアイランドによる被害は、気温の上昇だけではない。都市部からの上昇気流によって積乱雲が発達し、局地的な集中豪雨をもたらす。また、沿岸の工業地帯からの大気汚染物質が海風と都市部からの上昇気流に乗って、郊外の住宅地まで運ばれるため、光化学オキシダントの被害も増加するのだ。

 ヒートアイランド対策としては、都市河川と水辺空間を再生し、緑地を増加させることにより都市を冷却させる方法が提案されている。その例として、福岡市が紹介されいる。福岡市は、河川が何本も流れており、河川に沿って海風が都市内部に入ることにより冷却化され、ヒートアイランドを抑えているのだ。また、河川水と外気との温度差や工場やゴミ焼却場からの熱の利用などの都市計画技術が紹介されており、ヒートアイランド対策の公共事業の必要性を説いている。

 図表が多いので、視覚的に理解できる。ヒートアイランドのメカニズムが、わかりにくいのが残念だ。

(橋本公太郎/東京大学大学院新領域創成科学研究科環境学専攻 助手 http://www02.so-net.ne.jp/~hashi/kohtaro/index.html)

【目次】

第1章 熱くなる都市
 1 熱帯夜が続く大都市
 2 ヒートアイランドとは何か
 3 ヒートアイランドが及ぼす影響
第2章 ヒートアイランドのメカニズム
 1 なぜ都市が熱くなるか
 2 地表面熱収支のメカニズム
 3 ヒートアイランドの指標
 4 ヒートアイランドの実測および解析
 5 東京の人工排熱
 6 オキシダント公害の解析
第3章 ヒートアイランドを防ぐクールアイランド
 1 都市河川の冷却効果
 2 河川と水辺空間の再生
 3 緑地と池の冷却効果
 4 露地と屋上緑化による冷却効果
 5 ライフスタイルを変える
第4章 都市を冷やす技術
 1 都市の分割・クラスター化
 2 大深度地下利用
 3 未利用エネルギーの活用
 4 地域冷暖房・排熱処理システムの導入シミュレーション
後記

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ディーゼル排ガスの生体影響に関する第一人者が訴える大気汚染。排ガス問題に興味がある人は必読

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 タイトルだけを見るとディーゼル車公害に関する簡単な解説本に思えるが、そうではない。この本の著者・嵯峨井勝氏は、ディーゼル排ガス粒子状物質の生体影響に関する第一人者だ。本書は、著者の行った研究の解説を中心に、ディーゼル排ガス中の粒子状物質による汚染と、国の無策を訴えた本なのだ。

 本書の中心である、ディーゼル排気中の粒子状物質がぜん息を引き起こすことを明らかにした実験の話を紹介しよう。この実験結果は、川崎大気公害裁判と名古屋南部大気汚染公害裁判において証拠として採用された。
 気管支ぜん息は、アレルギー性の病気で、気道の慢性的炎症、過剰な「たん」による呼吸困難などの病態が見られる。1980年代は二酸化窒素による大気汚染がぜん息の原因とみなされており、嵯峨井氏もマウスに二酸化窒素を吸わせる実験を行ってきたが、ぜん息のデータは得られなかった。そこで、ディーゼル排気中の粒子状物質がぜん息の原因と考え、粒子状物質をマウスに気管内投与する実験を始めた。すると、ぜん息状態のように炎症、粘液による気道のつまりなどが確認されたのだ。次に、ディーゼル排気粒子状物質がアレルゲン(アレルギー性疾患を引き起こす物質)の働きを顕著に増強するかを調べるため、アレルゲンとディーゼル排気粒子状物質をマウスの気管内に投与する実験を行った。すると、アレルゲンとディーゼル排気微粒子を両方投与したときだけ、短期でぜん息のような病態が現れたのだ。最後に、マウスにディーゼル排ガスとアレルゲンを吸入させた実験を行い、ぜん息の病態が明確に現れることを確認し、ディーゼル排気中の粒子状物質がぜん息を引き起こすことを明らかにしている。

 ディーゼル排ガスがぜん息を引き起こすメカニズムの話はやや難しいのだが、それを上回る読む価値の高さが本書にはある。自動車による大気汚染に興味がある人には必読の一冊だ。

(橋本公太郎/東京大学大学院新領域創成科学研究科環境学専攻 助手 http://www02.so-net.ne.jp/~hashi/kohtaro/index.html)

【目次】
まえがき
第1章 ディーゼル車のどこが問題か?
第2章 自動車排ガスにはどんな物質が含まれているか?
第3章 大気環境基準の達成状況とぜん息の増加
第4章 浮遊粒子状物質の発生源とヒトへの暴露量
第5章 恐るべきディーゼル排ガスの健康影響
第6章 気管支ぜん息という病気
第7章 第一段階の実験−ディーゼル排気微粒子を気管内に注入
第8章 第二段階の実験−ディーゼル排気微粒子+アレルゲンの注入
第9章 第三段階の実験−吸入実験によるぜん息様病態のの発現
第10章 医学者たちの批判に対する反論
第11章 環境と人にやさしくないディーゼル車
第12章 自動車排ガス汚染を低減するために
第13章 夢、未来の自動車は水と光だけで走り、公害は無くなるか
引用文献
あとがきにかえて
参考資料

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生き物が作り出す薬品の驚異的な治癒力

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 冒頭から衝撃的なエピソードである。アマゾンのジャングルの山奥で、シャーマンが、現代の西洋でも治癒が難しい重病の糖尿病患者を、野生の樹木を煎じて作った薬で完治させているのだ。
 『シャーマンの弟子になった民族植物学者の話』の著者による本書は、生き物が作り出す薬品による、驚異的な治癒例が目白押しだ。イモガイの持つ猛毒が、モルヒネをしのぐ鎮痛薬の働きがあり、多くの神経性の痛みを癒すこと。アリに噛まれることによって関節炎が治癒すること。切断されてしまった人体の部位の再接合の際、余分な血液による血栓を防止するためヒルに血を吸ってもらうこと、などなど。製薬会社は、こぞって、生き物が作り出す化学物質の薬効を調べている。それでも、例えば千三百万種類ある菌類のうち、わずか七万種類しか研究室で扱われたことがなく、まだまだ生き物は宝の山なのだ。
 生き物が作り出す化学物質の薬効は、実は動物の方がよく知っている。チンパンジーは寄生虫に悩まされると、抗菌性を持つ物質が含まれている樹液を吸って駆除する。メキシコの豚はザクロの根を食べて虫下しをするし、タカなどの猛きん類は防虫の目的で、若い葉のついた木の枝を巣に入れる。同様に、自然に生きるシャーマンも、生き物の驚異的な薬効を見つけだしているのだ。ところが、宝の山である自然、生態系、そして宝を知るシャーマンも消えつつある。
 結びには、冒頭での糖尿病の薬に用いた植物や薬自体の驚くべき分析結果があるが、それは実際に読んで確かめてほしい。シャーマンの治療は、西洋医学では理解できないことが多いのだ。
 非常に面白いエピソードが山盛りの本書は、読む者を大変魅了する。訳もこなれていて読みやすい。著者の前作『シャーマンの弟子になった民族植物学者の話』も読みたくなった。

(橋本公太郎/東京大学大学院新領域創成科学研究科環境学専攻 助手 http://www02.so-net.ne.jp/~hashi/kohtaro/index.html)

【目次】

第1章 痛みに効く毒
第2章 終わりのない探求
第3章 身近なカビたち
第4章 虫がくれる薬
第5章 ぞっとしない癒し手
第6章 カデューシアスのヘビ
第7章 海の底に
第8章 サルが使う薬草
第9章 シャーマンたち
終わりにかえて −糖尿病−
謝辞
事項索引 / 動植物名索引 / 薬品名・化学品名索引 / 参考文献

【関連書】
マーク・プロトキン著『シャーマンの弟子になった民族植物学者の話 上』築地書館
マーク・プロトキン著『シャーマンの弟子になった民族植物学者の話 下』

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化学への誤解を正し、化学の面白さをわかりやすく伝授

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 著者のシュワルツ博士は、10歳の時に化学マジックにはまって以来、日常生活すべてが化学と関係することに気づき、化学の面白さのとりこになった。そして、化学は難しい、化学は危険だと拒否反応を起こす人たちに、「化学」が「日々の役に立つだけでなく、わくわくするほど楽しいものであり、うっとりするほど魅力にあふれたもの」だと伝えたくて筆をとった。その結果、化学の面白さをわかりやすく伝えるのにうってつけの本ができあがった。
 この本のすばらしいところは、化学をまったく知らない人にも読みやすいように、非常に努力している点だ。食品、健康など身近なことから、自然と化学に結びつくように展開する。そして話は、怪僧ラスプーチンのような歴史的な話題や、南太平洋のタンガロア神のような民族的話題などへも膨らんでいく。また67の話題それぞれが一話完結なので、どこからでも読める。さらに、化学記号を使わずに、化学者から見ても正しく説明をしているのだ。
 折に触れ、世の中の化学に対する誤解を正そうとしている点もすばらしい。誤解の一つに「天然神話」がある。日本と同様にカナダやアメリカでも、「化学物質」は「有害な物」であり、化学物質の対義語は「天然」や「有機」だと思っている人が多い。カナダのヘアケア商品の中には、「化学物質を使わず、天然の原料のみを使用した」との宣伝文句も見受けられるそうだ。博士は、このような「天然神話」の誤りを正し、すべての物は化学物質で作られ、天然でも健康によいとは限らないことを、終始述べている。
 原著が出版されたカナダでは、三人のノーベル化学賞受賞者から絶賛された。本全体からにじみ出る、化学の面白さを伝えようとする姿勢が、化学者に支持されているのだ。化学者の端くれである私も、この本を皆様に(特に、みのもんたの昼の番組を見ている皆様に)お勧めしたい。

(橋本公太郎/東京大学大学院新領域創成科学研究科環境学専攻 助手 http://www02.so-net.ne.jp/~hashi/kohtaro/index.html)

【目次】
はじめに
第1章 魅力たっぷりの化学物質たち
第2章 化学に乾杯
第3章 化学の犯罪
第4章 健康と病
第5章 掃除と洗髪と洗剤の化学
第6章 科学?それともニセ科学?
第7章 お尻が肝心
訳者あとがき
索引

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「あこがれの美女を陥落」してノーベル賞を受賞した野依教授

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 2001年のノーベル化学賞を受賞した野依良治教授。彼は、以前から、解説記事を雑誌「化学」に寄せている。本書は、野依氏の業績や研究哲学について、「化学」の記事を中心にまとめたものである。
 構成は三部からなっており、I部は野依教授へのインタビューや対談、II部はノーベル化学賞の受賞研究である不斉触媒の開発と不斉触媒による不斉分子の合成の解説、III部はノーベル化学賞受賞を祝したインタビューと業績解説である。
 II部の不斉触媒の開発の話は、大学で有機化学の勉強をしていないと読むのは難しい。そこで、II部の中のBINAP(ビナフチル骨格を持つジホスフィン)の開発について簡単に解説してみよう。
 右手を鏡に映すと、鏡の中の像は左手の形になる。同じように、鏡に映した形が元の形と異なる化学物質がある。右手と左手の関係の化学物質のうち、生体内ではその一方だけが(ここでは右手だけが重要だとしよう)有効な働きをする。医薬品や生体内物質を人工的に合成する場合、右手の化学物質だけを大量合成すること(これを不斉合成と呼ぶ)が重要になる。
 通常、化学合成では、鏡に映しても形が元と同じ物質を原料にする。もし右手と左手の物質が両方あれば、不要な左手も等しく合成されてしまう。そこで、野依氏は、触媒(化学反応を促進する物質)に右手の鋳型を組み込めば、右手の化学物質だけが選択的に合成されると考えた。この鋳型として考えたのがBINAPである。野依氏と共同研究者は、4年の歳月をかけて、BINAPを使った触媒の開発を果たした。野依氏は、その感激を「あこがれの美女を陥落した」と表しているのだ。このBINAP触媒は、現在では、医薬品や香料の大量生産に実際に使われている。
 化学を知らない人も、I部とIII部は容易に読める。本書を読んで、野依氏の研究哲学に触れてみては如何だろうか。

(橋本公太郎/東京大学大学院新領域創成科学研究科環境学専攻 助手 http://www02.so-net.ne.jp/~hashi/kohtaro/index.html)

【関連書】
野依良治著『人生は意図を越えて』(朝日新聞社、2002.3)
有馬朗人監修『研究者』(東京図書、2000.9)

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紙の本金と水銀 私の水俣学ノート

2002/04/01 22:15

公害の現場で学ぶことの重要性を説く「水俣学」入門書

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 著者の原田正純氏は、熊本大学医学部で長年水俣病患者を診てきて、胎児性水俣病の実態解明を果たしている。本書は、水俣病を中心とした公害病の現場で経験したことをエッセー風にまとめた、「もう一つのカルテ」である。

 著者は、水俣病多発地区で、同じ障害を持つ兄弟の母親との出会いが自分の運命を変えたという。その母親の「兄は水俣病と診断されたが、弟は魚を食べる前から障害を持っているとのことで水俣病と診断されなかった。しかし、同じ時期に同じような障害を持つ子どもが何人も生まれていることから、水俣病以外考えられない」との言葉に衝撃を受け、胎児性水俣病の研究を始めたのだ。

 最初は、患者を病院に呼び出して調査をしていたが、患者の母親から「何度も呼び出して治療もしないし病名もつけてくれない。親が一日休んで付き添わなければいけないので困る」と叱られ、患者宅の訪問調査に変えた。現地に足を運ぶ中で、母親の本音、病気の背景、正確な症状などを知り、ついには疫学的に胎児性水俣病の実態を明らかにできたのだ。その体験から、「現場に学ぶ」ことの重要性を説いている。

 本書では、日本各地の公害の現場はもとより、本書のタイトルにもなっているアマゾン川流域での金採取による水銀汚染の現場、ベトナムでの枯葉剤の現場など公害の現場を旅した様子が描かれている。各地の公害の現場を旅するのは、水俣病の問題をより深く理解するためだと著者はいう。そして、公害の前兆は伝統的文化や生活様式の破壊、つまり文化の問題だとの結論に達するのだ。

 本書は、その読みやすさにもかかわらず、扱う内容の重さ、公害の現場の重さのため、簡単に読み流すことを許さない。著者は水俣病に関わるすべてのことを「水俣学」として構築しようと模索しているが、本書はまさに「水俣学入門」なのだ。

(橋本公太郎/東京大学大学院新領域創成科学研究科環境学専攻 助手 http://www02.so-net.ne.jp/~hashi/kohtaro/index.html)

【目次】
はじめに
第1章 水俣病は予想できた
第2章 二重の被害者
第3章 水銀の長い旅
第4章 金と水銀
第5章 マンガンという差別語
第6章 化学兵器か農薬か
第7章 毒ガス島
第8章 九州の山々で
第9章 水俣からベトナムへ
第10章 野辺山銀山の栄光と悲惨
第11章 深刻な砒素の地下水汚染
第12章 輸出された職業病
第13章 カネミ油症は終わっていない
第14章 子宮は環境である
終章  水俣学の模作——あとがきにかえて

【関連書】
西村肇、岡本達明著『水俣病の科学』日本評論社(2001年)
中西準子著『環境リスク論』岩波書店(1995年)

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うんちとおしっこの「うんちく」本、かわやで頭も一ひねり

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 うんちやおしっこに関する、まさに「うんちく」本だ。うんちやおしっこは、小さい子供から大人まで万人が興味を持ち、体のしくみや健康との関わりが大きい。この本は、このうんちやおしっこに関する100の科学情報をまじめに紹介しているのだ。

 本書を読めば、うんちやおしっこに関する日頃の疑問はたいてい解ける。評者が前から知りたかった事柄を挙げると、どうして本屋でトイレに行きたくなるか?(→完全には解明されていないが、緊張などの心理ストレスが腸を刺激する説、まぶたがスイッチとなり副交感神経が刺激されて便意を催す説などがある)、おしっこの後でブルッと震えるのはなぜ?(→膀胱が縮み、お腹の圧力が下がるので、補うために全身の血液がお腹にいく。この時、血圧と体温が低下するため、血圧と体温の回復のためブルッと震える)、泡が多いおしっこは何を意味するか?(→汗をかいて、おしっこが濃くなると泡が増える。数週間もおさまらない場合は尿検査を受けた方がよい)、などなど。「おしっこをすると気持ちがいいのはなぜか?」を除いては、すべて本書が答えてくれた。

 小さな子供を持つ親には、特に第3章がおすすめ。赤ちゃんのおしっこやうんちの色から病気を知ることや、紙と布でおむつはずれの時期に差が出るか?(→差はない)など、役に立つ話が載っている。評者も長女がトイレトレーニングの最終段階なので、参考になった。

 100の話題がそれぞれ見開き2ページに完結し、とても読みやすい。帯に「トイレにこの一冊」とあるが、まさに「かわやで頭も一ひねり」するのにぴったりの本なのだ。

(橋本公太郎/東京大学大学院新領域創成科学研究科環境学専攻助手)

【目次】
読者のみなさんへ
第1章 うんちとおしっこ 誰にも聞けなかった素朴な疑問
第2章 うんちとおしっこで考える 私たちの健康
第3章 ゆりかごから墓場まで うんち、おしっことの長〜いおつきあい
第4章 うんちのウンチク? あなたも、うんち・おしっこ博士
第5章 地球にやさしい、 うんちとおしっこの秘密
第6章 知ってびっくり! トイレの雑学
あとがき
執筆者紹介
参考URL
参考文献

【関連書】
坂井建雄文・めぐろみよ絵『たんけん!人のからだ 5 うんこ・おしっこ・いきと汗 消化・呼吸・はいせつの話』岩波書店
五味太郎さく『みんなうんち』(かがくのとも傑作集どきどきしぜん)福音館書店
シルビア・ブランゼイ文・ジャック・キーリー絵『きみのからだのきたないもの学』講談社
藤田紘一郎著『日本人の清潔がアブナイ!』小学館
ジャン・フェクサス著『うんち大全』作品社

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目次・関連書籍

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【目次】
第1章 総論
1.1 燃料電池とは何か
1.2 燃料電池の効率
1.3 燃料電池の種類
1.4 用途と実用化のシナリオ
1.5 コストと実用化のシナリオ
第2章 応用編
2.1 燃料電池自動車(1)種類と効率
2.2 燃料電池自動車(2)水素直接搭載型
2.3 燃料電池自動車(3)メタノール改質型
2.4 燃料電池自動車(4)ガソリン改質型
2.5 自動車補助動力(APU)
2.6 家庭用コジェネレーションシステム
2.7 業務用コジェネレーションシステム
2.8 ポータブル機器
2.9 携帯電子機器
2.10 その他
第3章 PEFC
3.1 原理と特徴
3.2 開発機関・企業
3.3 部材と製法(1)触媒
3.4 部材と製法(2)固体電解質膜
3.5 部材と製法(3)セパレータ
第4章 DMFC
4.1 原理と特徴
4.2 開発機関・企業
4.3 部材と製法(1)自動車向け
4.4 部材と製法(2)携帯電子機器向け
第5章 SOFC
5.1 原理と特徴
5.2 開発機関・企業
5.3 部材と製法(1)小型電源向け平板型
5.4 部材と製法(2)ダイレクトハイドロカーボン
第6章 改質技術
6.1 メタン、プロパン、ブタン
6.2 メタノール
6.3 ガソリン系
第7章 水素貯蔵技術
7.1 既存の技術
7.2 新技術(1)ケミカルハイドライド
7.3 新技術(2)カーボンナノチューブ
用語解説
燃料電池開発機関・企業一覧(海外中心)
トピックス

【関連書】
トム・コペル著『燃料電池で世界を変える』翔泳社(2001年)
→自動車用燃料電池で世界をリードするカナダ・バラード社の成功までの道のりを描い
ている。
山本寛著『さようならエンジン燃料電池こんにちは』東洋経済新報社(1999年)
→自動車用燃料電池の開発事情を解説している。
御堀直嗣著『図解エコフレンドリーカー』山海堂(2000年)
→燃料電池自動車とハイブリッド車を中心に、エコカーの解説を丁寧に行っている。
清水和夫・平田賢著『燃料電池とは何か』日本放送出版協会(2000年)
→燃料電池自動車の開発状況を各社取材し、燃料電池自動車・水素エネルギー社会到来
の予想を示している。

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紙の本燃焼現象の基礎

2001/10/31 22:16

微小重力場での燃焼実験結果を取り入れた新しい燃焼学の教科書

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 燃焼の高効率化は、低二酸化炭素排出の対策として重要である。また、燃焼により排出される粒子状物質、窒素酸化物やダイオキシンなどの有害物質の削減は環境問題の解決する上で重要になっている。このように、燃焼研究は環境問題を考える上で大変重要になってきている。本書は、最新の燃焼研究成果を取り入れた、燃焼学の教科書である。

 本書の最大の特徴は、微小重力場での燃焼実験結果を多数取り入れていることである。重力は、自然対流が起こすことにより、燃焼に大きな影響を及ぼす。自然対流とは、流体中に温度差がある時に低密度の高温部が浮力により移動する現象である。自然対流は燃焼現象を複雑にするため、燃焼現象の基礎的な機構解明の大きな妨げになるのだ。一方、日本には、実験カプセルを自由落下させることによ10秒間の無重力に近い状態を作り出す「地下無重力実験センター」が北海道にある。この地下無重力実験センターを利用して、微小重力場での燃焼実験が行われてきており、かなり重要な実験結果が得られているのだ。

 微小重力場での研究成果を一つ紹介する。火炎伝播速度の測定実験においては、通常重力下では火炎が浮力の影響を受けるため、火炎面の変動が大きく、小さな燃焼速度の測定が困難である。それに対し、微小重力下では浮力の影響を回避できるため、火炎の観察が容易になっている。そこで、今まで測定不可能であった小さな火炎伝播速度の測定が可能になったのだ。

 本書は、25名の著者がそれぞれの専門分野について執筆している。構成は他の燃焼の本と同様であるが、燃焼計測については一章を割いて詳細に記してある。数式より実際の現象を中心に説明すると序文に記してあったが、内容の程度は著者によってばらつきが見られる。燃焼についてある程度知っている人向けの本である。(橋本公太郎/東京大学大学院新領域創成科学研究科環境学専攻 助手)

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数値流体力学の良い入門書

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 現在、コンピュータの発達により、計算科学が、実験、理論に続く方法として認められてきている。特に、水や空気のような流体の運動を扱う流体力学においては、数値流体力学と呼ばれる計算科学の役割が大きい。本書は、数値流体力学によって得られた最新の成果を、大変わかりやすく示している。
 第1章は、数値流体力学をわかりやすく解説している。流体の運動は、連続の式(流体の質量保存を表す式)、ナビエ−ストーク方程式(流体に加わる力によって流体がどのような運動をするかを記述した式)、エネルギー保存の式の三つの式によって支配されている。このうち、ナビエ−ストーク方程式は、非線形性を持つ偏微分方程式であり、解析的には解くことができないとのことだ。そこで、ナビエ−ストーク方程式を連立一次方程式に近似し、これをコンピュータによって計算して求めるのが数値流体力学だと説明してある。
 第2章以降は、数値流体力学を用いた研究の例が示されている。例えば、第3章では、カルマン渦による共振が示されている。カルマン渦とは、流れのなかにある円柱の周りにできる渦のことであり、強風で電線がピューと鳴るのもこれが原因だと言う。一秒間にできるカルマン渦の数は、流速と円柱の直径で決まるとのことだ。一方で、円柱は、ある周期で力を加えると振動が大きくなる、共振とという現象がおこる。従って、流れの中の円柱がカルマン渦によってある周期で力を受け、その周期が共振がおこる周期と一致すると、円柱の振動が大きくなってしまうのだ。1995年の高速増殖炉「もんじゅ」のナトリウム漏れ事故も、温度計を入れるためにナトリウムの流れの中に突き出された管が、カルマン渦によって共振(インライン振動)が起こり、破壊されたのが原因だと示してある。
 本書には、CGムービーおよび簡単なプログラムが入ったCD−ROMが付してある。CGムービーは、スーパーコンピュータによる計算結果を視覚的に示しており、面白い。プログラムの方は、自分で数値を変えることにより、計算結果の変化が体験できるようになっている。CD−ROMはWindows 98, Me, 2000に対応しており、CPUはCeleron でもムービー、プログラムとも快適に動いた。
 どの章もわかりやすく書かれており、また、「格子ボルツマン法」などの新しい計算手法も説明されている。バランスの取れた、数値流体力学の良い入門書である。

<目次>
第1章 数値流体力学とはなにか?
    流れの科学と数値シミュレーションの基礎
第2章 飛行機はなぜ飛ぶことができるのか?
    シミュレーションで学ぶ翼まわりの流れ
第3章 カルマン渦列の謎に迫る
    円柱構造物のインライン振動
第4章 流れをリアルタイムで可視化する
    正方キャビティ内部の非圧縮性流れ
第5章 流れを粒子で表現する
    粒子法によるシミュレーション
第6章 洪水や津波の動きを予測する
    水面変形の三次元解析
第7章 格子ボルツマン法による数値シミュレーション
    新しい数値解析法の試み
第8章 5000万年間で地球の内部はどう動いたか?
    マントル対流のシミュレーション
第9章 地下鉄駅構内を吹き抜ける風
    有限要素法による大規模並列計算

<関連書>
『魔球を作る』(姫野龍太郎著、岩波書店、2000.7)
『身近な流体力学』(パリティ編集委員会編、丸善、2000.11)
『Excelで学ぶ流体力学』(森下悦生著、丸善、2000.3)

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紙の本循環型社会入門

2001/07/02 17:26

「総合環境影響評価」を作るべきだと主張

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 2000年5月に循環型社会基本法が公布、施行されて以来、「循環型社会」の言葉自体は定着しつつある。しかしながら、循環型社会がどのような社会であり、何をすれば良いのか知っている人は少ない。本書は、循環型社会についてわかりやすく解説した教科書である。
 現在起きている環境問題の多くは、物質やエネルギーの大量消費により生まれる、広い意味での「廃棄物」が原因である。この廃棄物が発生しないような仕組みを持つ社会を作るためには、資源を使って製品を生産し、それが消費者に渡った後、廃棄物になる「物質の一方通行」を止め、廃棄物を資源に戻すことが必要だ。この「物質の循環」が行われる社会が循環型社会なのである。
 この循環型社会を作るためには、消費者、行政、企業の三者の努力が必要だと言う。消費者は、3R(リデュース:消費量を減らす、リユース:再利用する、リサイクル)を実践しする必要がある。そして、企業は、環境に配慮した物作りが必要だ。そのツールとして、LCA(ライフサイクルアセスメント)による製品の環境影響評価や、ISO14001による環境マネジメント作りなどが有効である。一方、行政は「総合環境影響評価」を作る必要があると本書は主張している。「総合環境影響評価」とは、環境に影響を及ぼす事項を選び出し、それぞれ重要性の重み付けを決定することだ。重み付けを決定できれば、最適な行動が決定できる。
 本書を読めば、環境問題から循環型社会作りまでの一連の考え方が理解できるようになる。ただし、「総合環境影響評価」について具体例が示されていないのが残念だ。

(橋本公太郎/東京大学大学院新領域創成科学研究科環境学専攻 助手 http://www02.so-net.ne.jp/~hashi/kohtaro/index.html)

<目次>
1章 環境問題の歴史と現状
   1. 環境問題の歴史について
   2. 現在の環境問題と地球の危機
2章 環境問題が発生するしくみ
   1. 生命を育む星・地球
   2. 地球の構造と特性 − 物質的閉鎖系がもたらす環境問題
   3. 人間活動と環境インパクト
3章 環境問題に対する3つのアプローチ
   1. 環境問題への対策を考える前に
   2. 技術的アプローチ
   3. 規制的アプローチ
   4. 社会的アプローチ
4章 循環型社会はなぜ必要か
   1. 現代社会における「豊かさ」の基準
   2. 循環型社会とは何か
   3. 市場経済のしくみと非循環構造
   4. 循環型社会と経済システムの関係
   5. 循環型社会の形成に向けて望まれる技術
5章 循環型社会の実現をめざした取り組み
   1. ドイツの例に学ぶ
   2. 日本での動き
   3. 循環型社会基本法のあらまし
   4. 日本での先進的な事例
6章 循環型社会と個人、行政、企業の役割
   1. 循環型社会と日常生活−日常生活の中での個人の役割
   2. 循環型社会に対する行政の役割
   3. 循環型社会に対する企業の役割
7章 循環型社会を支えるものは何か
   1. 環境問題を正確に把握するために−総合環境影響評価
   2. 多様な価値観の共存と私たちの行動
   3. 循環型社会における情報の役割と情報基盤整備
おわりに − 私たちは何をすべきか

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良く書けており、読む者を引きつける

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 著者の鎌谷氏は、大阪大学工学部応用精密化学科四年の時、研究室のボスに、「アメリカでドクターとらへんか?」と誘われ、留学を決意した。本書では、アメリカで博士号を取るまでの過程が、生き生きと描かれている。
 アメリカの大学院に入学するためには、TOEFLとGRE(アメリカ大学院共通の入学試験に当たる)を受験する必要がある。理系の大学院ではTOEFLのスコアが550点以上必要であり、TSE(会話能力を調べるテスト)のスコア提出も義務づけられている。GREは「言語力」、「数学力」、「分析力」と化学系では「化学」の受験が義務づけられている。以上の試験は全て日本で受験することができる。一連の試験をクリアした鎌谷氏は、次に大学院を選ぶことになる。大学院生は、学費と生活費を大学や研究室が支払うので、受け入れ先の教授を見つけることが大切である。鎌谷氏は、カリフォルニア大学アーバイン校のオーヴァーマン教授に話をつけ、カリフォルニア大学アーバイン校に入学することになった。
 アメリカの大学院と日本の大学院との違いの一つは、授業の大変さである。アメリカの大学院の授業は進度が速く、さらに毎回宿題が出る。一方、学生も授業の評価をするので、教師は下手な授業ができない。また、大学院の最初の二年はTA(ティーチング・アシスタント)として、学部学生の実験の指導や、演習の採点などが義務づけられる。この謝金で学費と生活費が賄われるので、学生は学業に専念できる。博士号を取るまでの最初の関門として、大学院二年または三年時に口頭試問〔オーラル〕がある。審査員相手にこれまの研究と、将来の研究プロジェクトの紹介を行う。鎌谷氏は、発表中の質問でしどろもどろになったが、無事合格し、大学院生活を続けることになった。
 大学院5年生になり、日本の製薬会社に就職が内定した鎌谷氏が博士論文執筆に挑む。アメリカの博士号取得に当たって一番重要なのが、博士論文の内容である。指導教官であるオーヴァーマン教授に論文を厳しくチェックされたが、鎌谷氏は公聴会と審査員による論文審査に合格し、無事博士号を取得するのだ。
 この本では、アメリカの大学院の問題点もいくつか挙げている。特に、研究室生活がストレスで溢れることを注意している。それでも、アメリカの大学院のすばらしさが、本書からにじみ出ている。大学院留学を考えている人はもちろん、研究者や研究者になりたい人は読むことをお勧めする。

<目次>
プロローグ いざ、アメリカへ
1章 留学を準備する
2章 初めてのアメリカ生活
3章 大学の授業
4章 アメリカの研究室
5章 オーラルに挑む
6章 英語を磨く
7章 アメリカでの就職活動
8章 博士号をとる
エピローグ 帰国して
コラム
あとがき
理系大学院留学へのガイドブック

本書の「理系大学院留学へのガイドブック」に紹介されている本
『大学院留学事典 2001年度版』、アルク(2000)
『アメリカ大学院留学−学位取得への必携ガイダンス』、ロバート・L・ピーターズ、木村玉巳訳、アルク(1996)
『サイエンティストを目指す大学院留学』、生田哲、アルク(1995)
『博士号とる?とらない?徹底大検証!−あなたが選ぶバイオ研究人生』、白楽ロッ
クビル、羊土社(2000)
『さあ,アメリカ留学! 子持ち夫婦の大学院留学奮闘記』、東原和成・東原奈美、羊土社(1997)

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