村瀬 哲司さんのレビュー一覧
投稿者:村瀬 哲司
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アジアの構造改革はどこまで進んだか 自律的な経済発展をめざして
2000/12/01 21:16
変化したアジアにもう後戻りはない。どのように変化し,さらに何が変わらなければならないか
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アジア危機は東アジア各国に大きな損害と苦しみを与える一方で,それまで看過されがちだった構造問題を見直し,本格的な改善に取り組む契機となった。各国それぞれが抱える構造問題は,必ずしも危機の直接原因とは考えられないが,危機の深化とともに一挙に表面化してしまった。IMFの支援を受けた3カ国は融資条件として構造改革を義務づけられた。それ以外の国も,危機の克服という短期的観点からだけでなく,変化する国際経済環境への適応という中長期的見地から,改革を進めようとしている。
表題が示すとおり本書は,東アジアの発展に今後決定的な影響を与える大きな問題に,正面から取り組む力作である。「構造改革」と一言でいっても,危機への対応策としての金融改革と企業の債務再編,さらに産業構造問題,法制改革,規制緩和など競争政策と課題はさまざまである。他方民間部門は,政府主導の枠組みのもとで,リストラからコーポレート・ガバナンスの改善,ハイテク・ソフト分野など起業,中小企業創設に至るまで新たな道を模索している。第I部では構造改革の現状と問題点を,これら分野別に概説する。
第II部は域内7カ国について,各国固有の構造問題に焦点を当てて,具体的に改革への取り組みの進捗状況,方向性と今後の課題を取りまとめている。そこでは韓国・マレーシアのように一歩進んでいる国なりの悩み,インドネシアやタイにおける制度の整備と運用のギャップなどが浮き彫りにされる。東アジア諸国の多様性に鑑みると,この各論部分の内容いかんで,本書の価値が左右されるといっても過言ではあるまい。その点各章を担当した執筆陣は十分期待にこたえている。
本書はジェトロの内部資料「アジア経済危機国の構造改革および企業経営」に加筆・修正したものである。編者の明確で適切な問題意識と,現地駐在など経験と知識に裏づけられた執筆担当者の力量,それにアジア各地に展開するジェトロ事務所からの生の情報・資料がうまくかみ合っている。マクロ経済から個別企業の問題に至るまで,東アジア経済の将来を考える上で有益な指針を提供する好著である。
(C) ブッククレビュー社 2000
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