矢作 敏行さんのレビュー一覧
投稿者:矢作 敏行
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紙の本ITマーケティング
2001/04/19 18:16
大量生産からマス・カスタマイゼーションの時代への移行を説く
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ハーバード・ビジネス・レビュー誌に掲載された論文から,マス・カスタマイゼーションに関連したものを選び,編集した出版物である。その意味では,つけられたタイトルは広すぎる。また【おすすめ度】も個々の論文の評価であれば,文句なく5星だが,なかには出版され,すでに広く読まれた書籍との重複感も強くあり,独立した書籍としての評価は1ランク下の4星として読者の注意を喚起した。
収録された7編の論文の多くは過去に目を通ししたことのあるものだが,こうして1冊の書籍になると,アカデミア,ビジネス,コンサルタンシーの3つの世界が互いに刺激し合いながら,経営の概念化と実践が進んでいる様子がうかがえて,興味深かった。とりわけ,最初の3編を読むと,この10年くらいの間になぜ,「大量生産と同じコストで,異なる顧客ニーズに合わせて商品・サービスを提供する」マス・カスタマイゼーションと,その実現のために「顧客一人一人の好みやニーズを聞き出し,さらには企業と顧客の間に関係性を構築する」ワン・トウ・ワン・マーケティングが実務家に強く支持されたのか,またそれがどのような経営学的研究成果を背景にしているか,よく理解できる。
最初の論文は,ドラッカーが1990年に発表したもので,統計的品質管理(SQC:Statistical Quality Control),活動基準原価計算(ABC: Activity Based Costing),フレキシブル生産,経営に対するシステムズ・アプローチの4つが製造業を変える概念として指摘されており,事実その後打ち出されたマス・カスタマイゼーションは生産・流通の弾力的なシステム構築が基本となっている。第2論文のマッケナ「多様化時代のマーケティング」も1988年発表と古いがなぜワン・トウ・ワン・マーケティングが必要とされたか,見事に描き打している。たとえば,「今日,商品とか経験である」と断言するとき,顧客は繰り返し使用することによって信頼性を深めるという関係性マーケティングの真髄が切り取られ,読者に提示されている。そして第3論文「入門・ワン・トウ・ワン・マーケティング」を読めば,かなりのことが見えてくる。
(C) ブックレビュー社 2000-2001
紙の本イノベーションの発生論理 メーカー主導の開発体制を越えて
2000/12/01 21:17
コンビニエンストアを研究題材に,「知識創造」の観点から経営革新の源泉に迫る
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世間的には「新人作家」である,この研究者のデビュー作は,なかなか斬新である。まず研究対象が流通業界で過去四半世紀最も高い持続的成長を遂げたコンビニエンスストアであり,その店舗受発注システムと製品開発に焦点を当てている。分析に用いられているのは,ある局所で発生した情報が他に移転するためにどのくらいのコストがかかるかに着目した「情報の粘着性」という新しい概念である。実証の方法は聞き取り調査による深い事象の理解と定量データによる正確な仮説検証を組み合わせている。
と書くと,「硬い本」と受け取りがちである。実際,厳密な実証が行われているという点では「硬い」には違いないが,決して難解な本ではない。実務家の人にも,頭の体操のために読んでいただきたい研究書である。
分析の軸となっているのは「情報の粘着性」仮説である。小川氏が学位を取得したMITのヒッペル教授が提唱したこの概念は,イノベーションに関する固有の情報の移転困難性ゆえにイノベーションの発生場所が規定されると考える。店頭で使用する発注端末機の機能や技術に関する小売企業が持っている情報や製品開発に利用されるリアルタイムの小売販売情報が具体例であり,それを取り上げて小売企業のイノベーションへの貢献を実証した。
研究の成果は,製品イノベーションがメーカーのみによって起こるのではない,流通イノベーションのうち業態内革新の発生プロセスを明らかにしたことだが,それ以上に興味深いメッセージは,知識創造やコア・コンピタンス論との関連において情報の粘着性仮説が経営革新一般の新しい分析概念になり得るか否かにあるだろう。ただし,その点に関しての最終的な結論は今後のさらなる研究を待たなければいけないだろう。
(C) ブッククレビュー社 2000
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