杉浦 哲郎さんのレビュー一覧
投稿者:杉浦 哲郎
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新・日銀ウオッチング
2000/11/15 21:15
日銀の政策予測に必要な情報と読み方を漏れなく提供。経済学者らしい客観性・正確さ,実践性なども出色
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本書は,金融政策の変化をフォローするために必要な情報や重要なポイントを,幅広くかつていねいに記述している。その範囲は,日銀の政策目標から日々の金融調節の実態,インフレ・ターゲティングなど金融政策のあり方を巡る最近の議論から,政策委員会メンバーのスタンス,経済指標の読み方に及んでいる。そしてそれらが,経済学者らしい客観性と論理性とともに,高度の実践性を持って語られているところに本書の大きな特色がある。つまり,読者は本書で示されたさまざまな情報源(日銀ホームページや日経金融新聞)とその読み解き方を実際に用いて,今日から日銀ウォッチングを実践することができる。
想定された主たる読者は,金融機関に勤務する市場関係者や企業の財務担当者なのであろうが,以上のような特色を持つ本書は,より有利な運用を目指す個人投資家にとっても,非常に有益なガイドブックともなっている。
このような,金融政策に関する客観的かつ実践的な書物が,幅広い読者に受け入れられる形で,今この時点で書かれたことの意義は大きい。
第一に,金融市場や金融政策に関する記事が毎日のように掲載され,金融政策が持つ影響度が急速に大きくなっているにもかかわらず,その内容や仕組みについて理解が深まっているとは必ずしも言い難い。「市中に出回るお札が減るのは市場で資金が不足している証拠」とする誤解が散見されるし,「流通現金の減少が景気の悪化や地価の下落を引き起こしている」という少なくとも短期的には因果が逆転した議論に基づいて,金融の量的緩和が主張されたこともあった。
第二に,金融政策を巡る議論が,意図的なものも含め,かなり混乱していたという事実がある。もともと,金融論の教科書が教える金融政策の波及経路や操作性と金融市場で実感するそれとの間には大きな違いがあったが,最近の量的緩和やインフレ・ターゲティングに関する議論は,そこに調整インフレ論という性格の異なる政策や債務負担の軽減・財政赤字の許容といった現実的な打算を紛れ込ませて,金融政策のあるべき姿をいっそうわかりにくいものにしてしまった。
本書は,以上のような金融のわかりにくさ,議論のあいまいさやいかがわしさを,きわめて明快に整理している。金融に関する理解不足や無責任な議論が金融システムや金融政策を歪めてきたとの思いを抱き続けてきた評者は,文字通り胸がすく思いでこの本を読んだ。
本書が執筆されたのは,2000年5月である。ゼロ金利政策解除に向けて日銀の理論武装が始まっていたが,実際に解除されたのは8月であり,本書でも述べられているように,日銀ウォッチングは再びバージョンアップされる必要があるのかもしれない。しかし,読者であるわれわれ自身がこれからそれを行うための材料は,本書にほとんど示されていると考える。もし著者が「新・新日銀ウォッチング」を著す時があるならば,むしろ本書では必ずしも十分に扱われなかったがこれから急速に重要性を増すと思われる問題,すなわち信用秩序維持のための日銀の対応や,日銀・市場間の理解と誤解(いわゆる「市場との対話」)を取り上げてほしいと思う。
(C) ブッククレビュー社 2000
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