長 晃枝さんのレビュー一覧
投稿者:長 晃枝
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玉村豊男モバイル日記
2001/08/07 18:08
力の抜けたパソコン生活の薦め
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著者の玉村豊男さんは、旅や食について数多くの著作を持ち、その分野ではたくさんのファンを持つ人気のエッセイストである。さらに長野に住み、ワイン用のブドウやハーブなどを育てている「ヴィラデスト」という農園の主でもある。今回は玉村さんご自身の魅力も合わせてご紹介すべく、著者インタビューを交えての本の紹介を試みた。
畑違いの玉村さんの著作を紹介する理由のひとつは「ライフスタイルとコンピューター」という今回の特集にピッタリだと感じたからだ。『モバイル日記』はその名のとおり「日記」であるから、玉村さんの日常がつづられている。畑で作物を育て、収穫を楽しみ、採れたての野菜を味わい、実ったブドウから作られたワインを愛でる。こんなデジタルとは無縁の喜びを謳歌する暮らしぶりを垣間見ることは、まさに「ちょっと立ち止まって人生を考えてみる」にはうってつけだ。しかも、玉村さんは生粋の農業者ではなく、今だ静かなブームの続く「インテリの田舎暮らし」のさきがけとなった人物である。東京で生まれ育った玉村さんが今のライフスタイルに落ち着くには、きっと人生のどこかでちょっと立ち止まって考えたに違いない。
そして、その結果が吉と出たことを、実際お目にかかって実感した。終始明るく笑顔で、小さな問いにも答えが泉のようにあふれ、また、おなかの底からよく笑う。人生を本当に豊かに楽しんでおられるのが伝わってくる。こんなふうになれるものなら、立ち止まって考えてみるもの悪くない。
もうひとつは、玉村さんの文章は理系の人にも読みやすいと踏んだからだ。玉村さんをよく知らない、という方は、まず著者のプロフィールを読んでいただきたい。一般的に私たちはこのような経歴の持ち主を典型的な文系の人、と判断する。事実、玉村さん自身も「小学校の頃から算数は苦手でね、大学受験のときも、数学は0点かも知れないから、英語と国語だけで受かろうと思ったくらいですから、ハッハッハ」と笑い飛ばすのだから、少なくとも理系の人ではないようだ。ところが、玉村さんの文章はなかなかどうしてシャープで論理的。中でも料理のエッセイなどは時に‘科学的'だと感じさせることさえある。先ほどの「ハッハッハ・・・」のあとには「数学的考え方は好きですけどね」という一言が続く。なるほど・・・そうか。どうりで明快でわかりやすい。さらに、ユーモアにあふれていて、軽妙洒脱、読んでいてとても楽しい。これはちょっと息抜きに読むためには、最も大切な要素のひとつ。
しかし、ここから学びたいのは、コンピュータを道具として使いこなすことで、豊かなアナログ人生をより楽しくしている玉村さんのデジタルとの上手なかかわり方。曰く「自分に都合のいいとこだけ使えばいいんだから、こんな楽しいおもちゃはない。間に合った僕らは本当に幸せ!」である。それに対し、本書の中で‘かわいそうだ'と危惧される若者へは「コンピューターが悪いのでも、その前にいる若者が悪いのでもなく、時代なのだから」と前置きしながらも「コンピューターの中にあふれんばかりの情報も、だれかが切り取って1次加工したものでしかないこと、触覚、味覚、嗅覚など欠落している部分があることを忘れないでほしい。よりコンピューターの良さを実感するためにも、時には閉じてみることも大切」とエールを贈る。デジタルな人生を送っている皆さんには、より豊かな人生を送るために、玉村さんとは逆に、今のライフスタイルにアナログな部分を取り込むための糸口になるのではなかろうか。
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