小熊英二さんのレビュー一覧
投稿者:小熊英二
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2002/11/27 19:25
私たちは「戦後」を知らない(著者のことば)
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あなたは、ご両親の若い時の写真を見たことがありますか。意外にも力強そうな青年や、美しい少女が写っていたりして、驚いたことがありませんか。「戦後」という時代を調べていて、私が感じたのも、それと似たようなショックでした。「戦後」とか「戦後民主主義」なんて、陳腐で退屈、時代遅れでわかりきったこと。そうした当初のイメージは、まったく裏切られました。
まず驚かされたのが、戦後知識人たちの「愛国心」の強烈さ。敗戦で廃墟になった国を建てなおすという意欲に燃え、戦争の傷を抱えながらも、懸命に「明日の日本はどうあるべきか」を考える姿勢は、「愛国心」とよぶにふさわしいものでした。この時代には、「民主主義」と「愛国心」は、矛盾したものではなかったのです。
思想的な多様性も、大きいものでした。共産党が「反米愛国」を唱え、社会党は憲法改正を主張し、保守派の首相は憲法第九条をほめたたえる。左派の知識人たちは「世界市民」を批判して「民族」を賞賛し、学生たちは昭和天皇に公開質問状を提出する。焼跡と闇市の時代だった当時は、思想のほうも「何でもあり」の状態。現在の「常識」とはおよそ異なる、試行錯誤の数々が行なわれていたのです。
それでは、そうした状態から、現在の私たちが知っている「戦後民主主義」のありようが、どうして出現したのか。これを調べるのが、この本のテーマになりました。
そのため結果として、戦後の重要な事件や思想家は、ほとんど網羅することになりました。丸山眞男・大塚久雄・吉本隆明・江藤淳・鶴見俊輔といった代表的な思想家たちの思想はもとより、憲法や講和、安保闘争、全共闘運動、ベトナム反戦運動などをめぐる議論もとりあげられています。
結果として本書は、「戦後とは何だったのか」そして「戦争の記憶とは何だったのか」を問いなおすものになりました。「私たちはどこから来たのか」、そして「私たちはいまどこにいるのか」を確かめるために、読んでいただきたいと思います。
小熊英二
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