廣井　孝さんのレビュー一覧

意思決定のダイナミズムが，欧米企業を甦らせたとまで言われる。意思決定のアナトミーこそ不況脱出の近道

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

　優柔不断で意志薄弱な経営者は，善意の従業員を死に至らしめるだけである。希望の見えない閉塞状態の中，いつ現れるとも知れない理想のリーダーを待望し続ける代わりに，人々は自らリーダーシップを求めはじめている。
　これまでの意思決定の書は，硬い理論か精神一辺倒のいずれかに偏ったものであった。しかし，本著は非常識なくらい読みやすい（訳も傑出）。アクション，キー・アイデア，ケーススタディー，チェックリストというキー・アイコンにより自由に意思決定をアナトミー（解剖）することができる。データベースとして検索も簡単であり，読者の経験を書き加えることにより，この入門書は自己増殖を繰り返し，専門書へと進化することだろう。ナッシュ均衡や自己組織化といった難解な考え方も肩のこらない言葉で説明され，読み終わるときには優れた意思決定の習慣が身についたような自信を与えてくれる快著である。
　この知の案内人は英国人のデス・デアラブ。J・ウエルチ，ビル・ゲイツなど20世紀屈指のアントレプレナーの実像に迫るベストセラー書を何冊も著し，MBAの教育現場やeビジネスにも明るい。『タイムズ』『フィナンシャル・タイムズ』『MBAマガジン』などで活躍する経営ジャーナリストの横顔はハリソンフォード以上にクールで女性経営者のファンも多い。
　さて，著者は企業の意思決定を，経験，直観，そして論理という3点を結ぶ三角形であると考える。3辺のバランスにより実際の意思決定は直角三角形にも，二等辺三角形にもなる。変容が創造力を喚起し，バランスが感動をよぶ。意思決定はまさにアートである。また，「健康の意思決定」の個所では，エグゼクティブは優れた名医と指摘されている。
　単一の基準で世界を覆う意思決定のスタンダード化ではなく，さまざまな視点から異分野の融合を図る東洋的な意思決定のダイナミズムがユビキタスな（同時偏在する）21世紀型ネットワーク社会の知恵である。　　　　　　　　　　　　　　
(C) ブッククレビュー社 2000