魚籃坂さんのレビュー一覧
投稿者:魚籃坂
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村松友視のサミング・アップ
2003/09/11 18:12
村松アカデミズムの原点
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収録作『作家装い』…「作家装い夜毎の宴」という新聞記事を見た筆者が、群馬県の梨木温泉に検証に行くと、実は作家に憧れた失業者が宿代を払うことができないということだった。それでは偽者の作家と本物の作家の違いは何かと筆者は考える。
こう考える原因に、アクチュアルな真実である純文学作品が認められず、リアルな虚構『時代屋の女房』が認められて“しまった”村松氏の「屈託」が見て取れる。それは、表現が、本当に自分が書きたい現実から離れていってしまうという不安かもしれない。
作家とは生き方であり著書がない作家像もあるのではないかという考えも、直木賞受賞のベストセラー量産作家の表現からは実感をもって感じられる。それにしても偽者の作家を小説の中だけでも本物にしてやろうなんて、泣かせる話ではないか。
同作品を中心に、このような考えが生まれる過程を説明するかのように編まれた作品群だ。偽者を本物にする作家魂だけでなく、素晴らしい編纂の技術を見ることができる秀逸な著作群である。
贋日記
2003/09/06 09:42
もはや「プロレスの見方」ではない
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『上海ララバイ』から連なる氏の一連の自伝の最近作だ。『鎌倉のおばさん』でも切りが付かなかった部分(盗癖の終わりなど)が明らかになっている一方、氏の内部で区切りが付いた部分は軽く触れられているだけなので、初期作品から継続的に読んでいない人間には本作品で明らかになった部分が判りにくいかも知れない。
しかし、『作家装い』で陽の目が出ただけでは満足せず、より深い原因を探って自分の納得がいくまで何度も書き直す氏の姿は、再度、芥川賞に挑まんとするかのようであり、その読者に媚びない一連の作品群は、まさにライフワークともいえる。人間は腑に落ちない仕事をしない自信を持てないということを感じさせる作品群だ。
読者は直木賞受賞作に求めるものを、この作品に求めてはならない。
村松友視自選作品集
2004/02/04 19:30
村松友視の本領
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入手が困難な、初期三部作というべき「千駄ヶ谷」・「上海ララバイ」・「作家装い」が入っていることが特筆に価する。年代別に見ると、最も古い「時代屋の女房」から内界を描く作品に向かい、再び外界を描く作品に戻る形となっている。
これは筆者流にいうと、読者の方を向いて書いた作品から文学の神様の方を向いた作品に移り、近年になると両者を見る余裕ができたということだろう。この本が村松友視の純文学作家としての再評価に繋がることに期待したい。
ただ「ヴィンテージ」が選ばれていて「屋台」が選ばれていないことが不思議である。完成度の点で不満があるのかもしれないが、「屋台」には村松友視氏の小説家としての理想像が描かれているように思えるのだ。
骨董通り0番地
2003/09/04 21:19
谷崎には敵わなかった?
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谷崎潤一郎著『天鵞絨の夢』の同名異作に挑んだ力作である。前半は情動が動かされる部分があり、ひょっとしたら…という期待があった。しかし途中であっけなく原作を引用してしまい、締まりのない終わり方となっている。
氏の「流派の違う」という表現が気になる。村松氏は大江健三郎とは流派やグレードが違うが、やはり頂上を目指しているのではないか。例えば『作家装い』から『贋日記』まで同じテーマを何度も腑に落ちるまで書き直している。
もし、本著作が他の作品に気を取られて御座なりになってしまったのなら、それは、あまりにも惜しい。ただ、ダンディズム溢れる村松氏なら、最初は谷崎に届かなくても納得がいくまで再チャレンジしてくれるのではないかと期待している。
村松氏も勤めていたら定年している年齢である。かつて氏が退職したときに『夢の始末書』を書いたように、編集者は「プロレスの見方」の始末書を書かせて、今後は氏の腑に落ちる作品に専念させるべきだろう。
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