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sheepさんのレビュー一覧

投稿者:sheep

106 件中 1 件~ 15 件を表示

紙の本

「不都合な真実」のトンデモな嘘を暴く、好都合な名著

9人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

クライメート・ゲートという言葉、お聞きになったことがあるだろうか?
ウォーター・ゲート事件という、ニクソン大統領が、任期中の辞任を強いられることになった有名なスキャンダル事件の名前をもじったものだ。そういう名前がつけられるほど胡散臭い事情が、気候温暖化問題にはあったのだ。
石油・石炭・薪等の使用のおかげで、大気中の二酸化炭素が激増し地球は温暖化してしまうと喧伝されてきた。その排出削減のため、日本は膨大な支出・努力を強いられている。
このクライメート・ゲート、大気中の二酸化炭素激増による、地球温暖化説を主張する国連機関IPCCの報告書に「科学的根拠」を提供してきたイギリスの研究所の内部資料が流出し、温暖化を示すデータの多くが意図的に作られたものであることがあきらかになった事件だ。世界的に、大々的に報じられた。その結果、外国では、「二酸化炭素の増加による地球温暖化」理論を支持する国が減り、各国の政策も、しかるべく転換されつつある。
ところが、このガラパゴス日本では、マスコミ、「二酸化炭素の増加による地球温暖化」という記事・報道はさんざん行ったのに、「二酸化炭素の増加による地球温暖化理論の崩壊」であるクライメート・ゲートについては全く報じない。
知らないのではない。意図的に歪曲しているのだ。「原発推進」国策を推進する為に。
以前、大評判になった『不都合な真実』というアル・ゴアの映画?の話を聞いて、瞬間、うさんくさく思ったものだ。
地球温暖化のすさまじい悪影響を避けるため、解決策として、2010年までに先進国が炭素排出量を30%削減することを目指す「京都議定書」に世界中が賛成すべきだと提案する。アル・ゴア、その功績で、ノーベル平和賞を得ている。
そもそもノーベル平和賞なるもの理不尽な侵略戦争を強化・続行しているオバマさえ受賞している。佐藤栄作も。意味のない子供だましの缶バッジ並の代物。本題に入ろう。

まず、序章、クライメートゲート事件─暴かれた二酸化炭素原因説の陰謀で、この「二酸化炭素の増加による地球温暖化」理論の嘘を、徹底的に暴露している。それは同時に、この嘘を嘘として、きちんと報じないマスコミへの、厳しい注文を伴っている。産業革命以来、温度が急上昇しているという、いわゆるホッケー・ステッキ曲線は、都合よく改編されたものだった。過去、気温が上昇している時期のことを隠している。
北極に、ワニのような動物がいた時期が、過去にはあったのだ。その当時、人類が、大量の石炭・石油を燃やしていたはずもないだろう。
続く、第一章、「気候変動はどうして起こるのか」、素人にとって本当に目からうろこ。
二酸化炭素と気温の関係は、例えば、氷河や、南極の氷をボーリングすれば、昔の大気の歴史はわかる。そして、多くの場合、温度の変化に追随して、二酸化炭素の濃度変動はおきていた。ここで、順序が、逆ではないところが重要だ。二酸化炭素の濃度変動に追随して、温度が変化していたのではない。二酸化炭素は、気候変化の原因であったとは言えない。
そして、地球の温度変化の要因。
低層雲が多くできれば、地球に入射するエネルギーが減少し、温度は低下する。
低層雲があまりできなければ、地球に入射するエネルギーが増加し、温度は上昇する。
地球を覆う雲の60%は低層雲だ。低層雲は、宇宙線強度が高まると増え、強度が下がれば減る。
そして、その宇宙線強度は、地球の、太陽系の、銀河系の渦状腕に対する位置によって、大きく変化する。地球・太陽系が渦状腕の中にある時には、超新星爆発に遭遇する可能性が高く、平均して宇宙線強度が高くなるので、この時、地球は寒冷化する。生物大絶滅の原因も、宇宙線強度だった。雲そのものの生成過程も興味深いものがある。
ともあれ、人間が使う燃料による二酸化炭素ではない原因・自然要因が主な理由で、平均気温は上昇・降下するということのようだ。
IPCCの説は、その点、そうした発見と、真っ向から対立する。IPCCの気温予測は、スーパー・コンピューターを用いて行われたものだという。しかし、コンピューター・シミュレーション、パラメーターの設定次第で、結果はどうにでもなるのだ。これは、今話題の原発稼働にかかわるストレス・テストも全く同じこと。また、都会の人々が感じている、急激な温暖化は、地球温暖化ではなく、ヒートアイランド現象によるものなのだ。
IPCCの人為的温暖化プロパガンダに対抗した人々、沢山おられる。「アメリカが京都議定書を批准しないのは、けしからん」のではなく、人為的温暖化論を是としない科学者・政治家達が、理論的に反対している結果だ。彼らの主張すべてを正しいとするものではないが、ひるがえって、日本では、全く逆の状態が続いている。二酸化炭素排出削減こそが、我々の至高の目的であるかのように宣伝・洗脳されている。
政官民一体となって「地球温暖化問題」を騒ぎ立てているのは、日本だけではないかと、赤祖父俊一氏は言う。「エネルギーの無駄を省き、化石燃料をできるだけ子孫に残しましょう」だけで、正確で、役に立つ、立派な大義名文になるのだ。地球温暖化問題で市民を脅かす必要はない、とも。
素晴らしいブログで、IPCCの人為的温暖化プロパガンダに対抗した方々のエピソードは、いかにも現代的で、ワクワクした。

後半の第二章「地球温暖化」から「エネルギー問題」へ
緑藻類によるバイオマス・エネルギーの話は面白かった。
第三章「未来のエネルギー源」では、現状の原子力発電方式とは異なる代案について論じられているが、この話題になると、いくらわかりやすく説明されても、素人に善し悪しの判断は到底不可能。豚に真珠。目を通すだけで精一杯。

第四章「これからどうするか」は、至極妥当な提案だ。
まず京都議定書から脱退すべきこと。脱退すれば、排出権というマヤカシの犠牲にならずにすむ。
そして、温暖化対策費をすべて、災害復興に向けるべきだとおっしゃる。
全くその通りだろう。
折角のお金、わけのわからない目的ではなく、目の前の災害復興にこそ向けるべきだ。
しかし日本は、これから、もう一つの巨大な「横文字」詐欺構造、TPPに、わざわざ飛び込み、永久植民地になろうとしている。著者の折角の提言、実現する可能性は極めて低そうだと思えてならない。

全体的に、「目からうろこ」を絵に描いたような体験をさせて貰った。

帯にある通り、本当に「時間がない。」原発推進という政府・財界・学界・マスコミを挙げての洗脳キャンペーンから脱出するためにも、著者の折角の提言を実現させるためにも、一人でも多くの方にお読みいただきたい名著だ。

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紙の本

マスコミとは違う、現地からの報告は重く、滑稽で、悲しく、我々の生き方を考えなおさざるにはいられなくなるものだ

6人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

パソコンをより便利に活用するためのヒントや、適当な価格で良い写真がとれるデジカメの選び方など、ノウハウ本をいくつか拝読し、この著者のファンになっている。
ライター生活は都会でなくてもできるということで、山奥?の古家で暮らす様子をwebで拝見していた。(タヌパックスタジオ)中越地震のおかげで、折角作り上げた立派な住まい、すっかり破壊され、川口町は廃村になった。そこで、故郷福島の原発とほど遠からぬ川内村に住むことに。そして、今回の地震、原発事故に出くわすこととなり、のどかな生活は一転する
著者にしてみれば、踏んだり蹴ったりの山村生活が続くわけだが、おかげで、著者でなくては書けない、裸のフクシマの姿を、我々は読むことができる。
政府、福島県、東京電力の宣伝媒体そのものでしかないマスコミによる報道と違い、現場に暮している人々の苦難の実態を知ることができる。
著者は、もともと、風力発電反対運動を続けて来た人でもある。人里離れた僻地に建てられるはずの風力発電システムの問題点を、以前から的確に指摘してきた。
風力発電や太陽光発電、自然まかせで、まるであてにならない。安定した産業用電源としては、全く役にたたない。
風車は、風に対して直角になって初めて効率的に発電する。風に対して直角な位置に姿勢を保つのは、ほかならぬ電気の力が必要だ。深夜、人が寝静まって、電気不要になっても、強風が吹いていれば、風力発電機は発電を続ける。不要電力、蓄電池に蓄えるしかない。自然にやさしいエネルギー、経済にはやさしくない。税金でかろうじて維持できる。
いま称賛されている風力発電、かつて称賛された原発と同じように、税金の補助があってこそ成立する。
原発事故の影響、安全であるかのごとく事実を歪曲し続けている政府・県、気象庁の悪辣さについて、余すことなく語っている。何でも自分でやってみるライター、急きょ放射能検知器を購入し、川内村から仕事場の川崎まで往復する間、経路の放射能レベルやホット・スポットの存在を肌身で感じている。
全村をあげての避難を避けたがる首長と、生活基盤をすべて失うことも覚悟で、全村避難もやむなしとする若手住民の対立。善意の人々が対立させられる。
20キロ圏という区切り方の理不尽さの説明も詳しい。病院、自動車修理工場が、20キロ圏に組み込まれてしまうか否かで、近隣住民の生活の利便性、大きく変わってしまう。
一時帰宅の茶番に対する批判は辛辣。これも知人・友人から直接聞いてこそ書ける内容。
「除染」と気軽に言うが、放射能、人間の知恵で無害化できない。
ある場所から放射能を除く「除染」、なんのことはない、汚染放射能の移動・拡散に過ぎない。なんの解決にもならないのだ。原発で稼いだ「原発マフィア連中」が、そのまま移行し「除染マフィア連中」となる、とんでもない詐欺師の集団転職となりかねない。
原発が問題なのは自明。原発も、プルサーマルも、もんじゅも、核燃料再処理も、すべて、早急に廃絶すべきものだ。
とはいえ、無批判に再生エネルギーなるものに直ちに群がることは決して賢明な行動ではない。太陽光発電プロジェクトをうたい上げた若手財界人やら、彼を煽る人気再生エネルギー論者(著者は、孫の名はあげているが、最も著名な人物、飯田哲也の名前はあげていない。文脈上、飯田の論理を批判していることは明白だが。)のトリックにひっかかってはならない。税金で推進した原発に、利権政治家、企業が群がったのと全く同じ構造が、再生エネルギー発電システムを巡って完成してしまうだろう。
「発電事業は、税金による補助で産業をゆがめるのではなく、市場経済にまかせよ。」と著者は言う。とはいえ市場万能主義が真っ赤な嘘であることは明らかで、政府が介入しなければならないこともあるだろう。著者、やや市場万能主義に近いように見受けられるところが若干気掛かり。
適切な施策は、市場主義と、適切な政府介入の中間にあるだろう。そうした最適解を発見するには、十分な知識を得た、高度な判断が必要だろう。発電・配電分離については、伊東光晴京都大学名誉教授のような慎重かつマクロな視点が必要だろう。もちろん伊東名誉教授も、著者同様、再生エネルギーをぶちあげる孫、飯田両氏に対しては極めて手厳しい批判をしている。

チェルブイリ原発事故後、立ち入り禁止ゾーンにある自宅に戻り、暮している老人は多い。ロシア語でサマショール(самосел)と呼ばれている。ネットでは「我が儘な人々」という意味とあるが、誤りで、文字通り、「自らの判断で村に居ついている人」を意味する。本来格別悪い意味はない。
著者の住む川内村、原発からの距離のわりには、放射能レベルはさほど高くはない。そこで、著者は、川内村に限らず、汚染が軽度な阿武隈地域の梁山泊、阿武隈梁山泊を夢想している。無責任きわまりない政府・県・市町村といった自治体に依存しない、日本版理想のサマショールというべきか。構想の実現、成功を期待したい。

チェルノブイリ原発、事故後25年過ぎたいま、老朽化した石棺上に新たな石棺を建設する計画が進んでいる。フクシマ原発、事故後25年も深刻な状況はかわるまい。
日本、永久に極めて不幸な状況だが、著者が語り部として居合わせたのは不幸中の幸。
本書だけに終わらず、続編、続々編と書き次がれることになるのだろうか。

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紙の本

紙の本東電・原発おっかけマップ

2011/08/24 00:40

永久戦犯を逃がすな!政、財、学、官、マスコミの原子力ムラによる、原発推進プロパガンダ・虚報に対する解毒剤として、お勧めの犯罪者列伝

17人中、10人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

講読している雑誌に、この本の広告が掲載されていた。大型書店を数軒見たが、置いていないので、bk1のお世話になった。

要するに、原発にからむ、電力会社、福島県政、そして、国政に関わる政治家、通産官僚、財界、大手ゼネコン、御用学者、御用マスコミ、タレントの、全犯罪人列伝。
各編の始めに、活躍中の方々がかかれた、概論的な文章がある。

店頭で売られていない理由は、おそらく多くの登場人物の自宅アドレスや、写真が掲載されているためだろう。「実力行使の勧め」になってはいけない、ということだろう。

目次を一部、ご紹介しよう。

I.東電編 「原子力ムラはなぜメルトダウンしないのか?」小出裕章
勝俣会長、武藤副社長、他
II.福島編 「レベル8・フクシマの叫び」奥平正
木川田一隆、三人の佐藤知事、渡部恒三、他」
III.永田町編 「原発利権のホットスポット」高野孟
正力松太郎、中曽根康弘、田中角栄、与謝野馨、甘利明、笹森清、仙石由人、枝野幸男、海江田万里、他
IV.霞が関編 「脱原子力のための社会史」 吉岡斉
寺坂信昭、松永和夫、西山英彦、他」
V.電力・産業編 「電力会社はなぜ事故を隠すのか?」西尾漠
政治献金・感電する政治家たち
「グローバル・パワーに翻弄される国づくり」歳川隆雄
米倉弘昌、渥美直紀、他
V1.学術・メディア編 「メディアと原発をめぐる不都合な真実」山口一臣
茅誠司と茅陽一、石川迪夫、関村直人、斑目春樹、他
東電が主宰した「大手マスコミ接待中国ツアー」とは何か?
花田紀凱、滝川クリステル、勝間和代、木村太郎、堺屋太一、他
VII.未来編 「チェルノブイリからフクシマを考えた」今中哲二

概論的な文章では、下記の三本が特にお勧めに思える。
「原子力ムラはなぜメルトダウンしないのか?」小出裕章
「脱原子力のための社会史」 吉岡斉
「チェルノブイリからフクシマを考えた」今中哲二

小出氏、今、日本で一番有名な学者だろう。御用学者が馬鹿な発言を繰り返し、誰も信じなくなった今、彼の毎日のメッセージを頼りにしている人は多いだろう。もはや誰も東大系御用学者の意見など信じないはずだ。小出氏、肩書きは助教だが、反骨精神ゆえの、「万年助手」肩書きを有り難がる場合ではない。最近、『放射能汚染の現実を超えて』など、多数著書も出しておられる。

今中氏も京大原子炉実験所助教、小出氏の同僚。政府が全く現地の放射能状況を発表しないのに業を煮やし、福島入りして、調査を敢行、数値を発表された。チェルノブイリ調査を何度もしておられる。

吉岡氏は、名著「原子力の社会史-その日本的展開」を書いておられる。残念ながら、入手困難。最近では、岩波からブックレット『原発と日本の未来』
をだしておられる。
2月8日発行。つまり311事故の直前。冷静な筆致で、原発からの撤退を論じておられる。

御用学者の代表として、今国費だか県の金だかを使って、福島の人々の被曝測定モニター・プロジェクトを嬉々として推進している福島県放射線健康リスク管理アドバイザー、福島県立医科大学副学長、山下俊一氏、漏れているのだろうか。見あたらない。彼を、ナチスの医師で、人体実験を行っていたヨーゼフ・メンゲレに例える方々も多い、大変な人物なのだが。

アメリカは原爆投下直後、被害実態調査のために、原爆傷害調査委員会(ABCC)をたちあげた。徹底的に被害実態を調査し、データーをまとめたが、一切治療はしなかった。原爆、放射能の人体実験によって、今後、配備、開発すべき原爆の数量を知るためだったのではないだろうか。山下俊一氏、その流れを汲む人物に思えてならない。

いくら、反原発訴訟をしても、かならず、とんでもない理屈で国を勝たせる裁判官のお歴々がかけている。読み過ごしたのだろうか?
玄海原発や、泊原発で名を売った、佐賀県知事古川康、岸本町長や、北海道の高橋はるみ知事等が載っていないのが残念。原発がある県と町のお歴々のオトモダチ・カタログも欲しかった。

極悪犯罪人ということでは、IAEA(国際原子力機関)やICRP(国際放射線防護委員会)も掲載して欲しかった。
IAEA(国際原子力機関)は、核兵器保有国が増えないよう査察する機関ではあるが、原発は推進する組織だ。
また、許容量を決める組織として有名なICRP(国際放射線防護委員会)、資金は、IAEA(国際原子力機関)などから得ている。人は金づるにはかみつかないものだ。原発を推進する組織が金をだす組織が、原発の放射能や、再処理工場や、原発事故で飛散する放射能を、危険だといって回るはずがないだろう。更に欲を言えば、アレバも含めて欲しかった。

原発導入のための最初の法律を通した中曽根康弘、犯罪人代表格だが、次女が、しっかり鹿島建設副社長・渥美直紀の夫人におさまっていること、本書を読むまで知らなかった。鹿島建設、国内原発建設シェアの三割を持っているという。立派でリッチな大勲位。

今夜のニュースで、「もんじゅ再開をめざす」というのを目にした。日本のエリート、ネジが外れている人々の集団なのだろうか。一体何を考えているのだろう。もんじゅが事故を起こせば、その被害規模、軽水炉の比ではない。

色々、希望は書いたが、政、財、学、官、マスコミの原子力ムラによる、原発推進プロパガンダ・虚報に対する解毒剤として、お勧めの一冊だ。

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紙の本

紙の本民意のつくられかた

2011/08/11 00:12

世論も、政治も、偽装され、捏造され、操作されている 世論操作あればこそ、人は自分の首をしめる政党・候補に進んで投票したり、棄権したりするのだろう

7人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

高校の頃から、「新聞、雑誌、テレビ等のマスコミ、本当の仕事は洗脳工作だろう」という疑問を抱いている。今では「確信」、いや「妄想」にまで高まっていると思っていたが、本書を読んで、「妄想」から、「確信」に戻った。
世の中、年々劣化していると感じているのだが、その劣化、為政者によって意図的に、着実に進められていたし、進められていると、確信した。
本書を読みながら、アメリカにおける世論操作の先駆者、バーネイズについて書かれた本を思い出した。スチュアート・ユーウェン著『PR!―世論操作の社会史』。
本書は、著者が、自分で動いて調べた情報をもとに書かれている。こういう主題、大手マスコミがあつかうわけがない。09年から10年『世界』に連載された記事をまとめたもの。

第1章 つくられた原子力神話1
09年11月、元福島県知事、佐藤栄佐久氏の自宅を訪問して、取材している。純正の素晴らしい保守政治家、国策の原発推進、プルサーマル推進に反対したがゆえに、国策捜査され、職を辞させられ「抹殺」された方だ。彼の物語、何度読んでも唖然とする。この国の劣化のひどさに。この国政府、検察、マスコミ
使用済み核燃料の埋設処分場候補地を募集するNUMOのキャンペーン活動のえげつなさも書かれている。多数の著名タレント、カメラマン、学者らが、金で雇われて、原発マフィア側の一方的な宣伝に肩入れする。庶民がいくら「反原発」運動を試みても、予算・動員規模が違いすぎる。マスコミ宣伝対、ローカルなデモ・集会・チラシ、勝負にならない。

第2章 つくられた原子力神話2
原子力推進の国策、一般向け、子供向け宣伝、教科書中で、強力に推進されている。有名な言葉「日米の間を飛行機で飛ぶ時の被ばく量とくらべ、原発の隣で一年暮らす方が少ない。」ちゃんと、盛りこまれている。若者にメディア批判の眼をもたせなくするのだろう。政府、電通他広告代理店、そして共同通信や新聞社が組んでしまえば、向かうところ敵なし。裁判員制度導入もそうだった。政府の莫大な予算が注がれた。裁判員制度、長年、問題点を指摘されてきた司法制度を改革するものとして導入されたわけではない。現状を積極的に肯定し、国民をよらしめるために導入された。やらせタウンミーティングもあった。

第3章 国策PR
郵政改革が推進されていた頃の、森田実氏のエピソードもある。アメリカの保険会社が、日本の巨大な宣伝会社に5000億円払って、日本国民の意識をかえようとしているということを聞いた森田氏、ホームページに書くと、テレビのレギュラーからおろされた。

第4章 事業仕分けの思想
政府側に煙たがられるような人物は、仕分人となるよう声をかけた後も、容赦なく切り捨てている。本書の為、有名な仕分人たちに、著者は話を聞こうとしたが断られている。川本裕子、福井秀雄の両氏。いずれも小泉・竹中路線の会議で活躍した御仁。
有名な民主党ブレーン山口二郎北大教授と話すうちに、教授の言葉から、著者が事業仕分けに感じていた違和感の大本に気がつく。「事業仕分けには思想がないんだ」
思想がないがゆえに、事業仕分けは「思いやり予算」やアメリカ軍駐留については決して触れない。高レベル核廃棄物処分についても同様だ。
事業仕分け、メディア・パフォーマンスとしての要素ばかり帯びてゆく。

第5章 道路とNPO
国土交通省に見捨てられたNPO、協働を謳いながら、実際には、業務委託に依存して組織を維持しているNPOの話。なんと冒頭に触れたバーネイズが書いた本から、映画の話が引用されている。

第6章 五輪招致という虚妄
IOC評価委員会が会場候補地を視察した09年4月17日、「夢の島公園」では「江東子どもスポーツデー」が開催され、幼稚園児、小・中学生、計6400人が動員されていた。これは、巧妙に仕組まれたオリンピック招致PR作戦の一部だったのではないか。「サクラ」として動員されたのではないか?と著者は言う。IOC評価委員会視察は記事になっても、こちらの「サクラ」動員、なぜか記事にならない。調べると、「江東子どもスポーツデー」の予算、最終的には五輪招致費用で処理したという。尻隠さず。
「異議あり!2016年石原オリンピック」集会が09年4月14日に開催されただが、東京都庁記者クラブに集会案内の電話をし、記者会見で説明したいと言ったところ、幹事社記者に断られた。招致関連委託事業の全額近くが、特定企業に独占されてきた事実も、都議会では明らかにされたのに、マスメディアは無視した。
「電通の電通による電通のためのオリンピックではありませんか」とある議員は言う。

第7章 仕組まれる選挙
完全無所属をうたいながら、自民党員だった森田千葉県知事の話。
著者は、森田知事や、石原都知事、松沢元神奈川県知事らの選挙もてがけた、選挙プランナー三浦博史氏の話も聞いている。三浦氏の悪びれない本音がすごい。「選挙戦略とはプロパガンダに他なりません」「その気のない人にも働きかけて、投票させるように持っていかなくてはならないのですから、宗教の布教と一緒です。他人や集団のエモーションに強く働きかけるわけです。」三浦氏は、次の都知事選挙で、渡邉美樹ワタミ会長の選挙プランナーをつとめた。著者は再度話を聞いている。

第8章 捕鯨国ニッポンの登場
著者は、日本の捕鯨推進派、環境保護団体の捕鯨反対派、それぞれの言い分、状況を見つめてきた学者の言い分を、それぞれ検討している。環境保護団体と連動しながら反捕鯨を進めてきたアメリカ政府の思惑についても触れている。「ベトナム戦争の枯れ葉剤作戦隠し」という説もある。枯れ葉剤作戦を強く批判した、オロフ・パルメ外相、14年後に暗殺されている。日本の代表団、ロンドンで、赤インキや、チョコレートをかけられた。ノルウェーも旧ソ連も、そういう目にはあっていない。
「海の靖国問題」という見出し以降に、考えさせられる記述がある。
ミスター捕鯨と呼ばれる小松正之教授の言葉だ。「アメリカやアングロサクソンの国々と対立したら戦わずして争いを避けてしまう。マイナーな分野だからこそ、毅然とした態度で主張すべきを主張することが、新しい日米関係の構築に繋がっていくんです。」
構造改革や安全保障のような、誰にとっても肝心要の分野では平身低頭の対米服従を喜んで受け入れる人々が、こと捕鯨問題についてだけは、アメリカやグリンピースの独善に怒ってみせる。すなわちガス抜き道具としての捕鯨問題。GPJの星川氏は「海の靖国問題」だと喝破した。

あとがきにこうある。
この国には政府や巨大資本の意向がまずあって、いわゆる民意はそれらに都合よく誘導されていくことが義務づけられているものでしかないとさえ思わされる場面を幾度も見せつけられた。
インターネット・メディアと民意の関係、不可欠のテーマと認識していたのだが、記事にすることは断念したのは残念だともある。読者としても残念なことだ。
原発大事故があっても、民意はつくられ続け、我々は進んで放射能食品を食べ続ける。

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紙の本

誰かが犠牲とならなければいけないエネルギー政策は根本的に間違っている。

5人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

著者の『福島原発人災記』も読んだ。これは本人も書いておられる通り、怒りにまかせて書いたもの。正確にはネットから御用学者の無責任発言を集めたもの。いい加減な本ではない。原発災害犯人列伝として永久保存に耐えるだろう。
『福島原発人災記』の後、著者は原発について集中勉強した。反対派の本であれ、賛成派の本であれ。手当たり次第注文し読んだ。原子力行政、ビジネス、産業の実態のいかに汚れ、腐れ切っていたかに唖然とし、怒りは収まるどころか、火に油をそそぐようなものだった、という。そして、この本は書かれた。そこで、客観性の装いは皆無。読みながら、
『私たちはこうして「原発大国」を選んだ』を連想した。『私たちは選んだ』(長いので略す)は、中立風の立場?から、賛成、反対派を描きだしていると読める。個人的に、原発に昔から反対なので、選んだつもりなど毛頭ない。『私たちは選んだ』、読むのが苦痛だった。

本書、原発事業が始まる時期から現代にいたるまでに制作された、様々な映画、小説、漫画、アニメを辿って、「核」の精神史を描き出している。目次は下記。(一部に対象作品を補った。)

原爆と原発
第一章 ゴジラと放射能の恐怖
1集合的無意識としての怪獣ゴジラ
2怪獣と放射能
3放射性キノコの怪物マタンゴ
4被爆(被曝)国・日本
5『死の灰詩集』
6「ピカドン」の由来
7「ムクリコクリ」の雲
8核戦争の恐怖
9人間としての怪獣

第二章 アトムと原子力の平和利用
1アトム・コバルト・ウラン
2原子力の平和利用としての「アトム」
3「ゆうれい船」の正体
4原子の火
5「反核」運動と「反核」異論の功罪
6映画『生きものの記録』
7黒澤作品と原爆
8「はだしのゲン」の敵
9原爆神話とその克服

第三章 ナウシカとAKIRAの戦後世界
1アトムを擁護する
2戦後の原子力研究
3長崎の鐘
4「原子病」患者・永井隆
5再び放射能の恐怖へ
6「プルトニウム王国」の崩壊
7フクシマ第一原発震災
8風の谷のナウシカ
9自然の自浄作用
10AKIRAの戦後世界

第四章 「原発」の文学史
1ゴジラの復活
2ゴジラは二度死ぬ
3若狭原発銀座 (水上勉『故郷』)
4『西海原子力発電所』(井上光晴)
5神の火は消えるか (高村薫『神の火』、高村薫『原発クライシス』)
6蜂の一刺し (東野圭吾『天空の蜂』)
7青い炎の神話 (たつみや章『夜の神話』)
8-誰が「犠牲」を要求しているのか?(広瀬隆『東京に原発を!』)
9“原発ジプシー”という生け贄 (堀江邦夫『原発ジプシー』)
10原発という密室
11トーキョー第一原発

映画、漫画、アニメ、小説が巧みに紹介されており、原作に触れたくなる。映画や漫画によっては、個人的思い出話もあり、引き込まれる。同時代を生きている筆者ならではだ。若い世代の方には、ピンとこない可能性はある。

子供時代、雨がふると、著者同様「頭がはげる」と騒いだことを覚えている。当時庶民に実害はなかった。今世界最悪の原発事故に立ち会ってみると、着ぐるみゴジラ、なつかしい気もしてくる。場末の映画館で見ただけで、内容の記憶も定かではないが。一般的な映画人が、こういうゴジラの話を思いついたり脚本を書いたりできるのか不思議に思っていたが、本書を読んで謎が解けた。思想的背景の影響があったのだ。現代は前田武彦のように、万歳をしただけで長年干されてしまう。

第二章
2-原子力の平和利用としての「アトム」では、アトム誕生の背景のみならず、CIAとの関係が深い正力松太郎や中曽根康弘らによる、原発導入のいきさつを批判している。
アトム、お茶の水博士に「こわがる心」を植えつけてもらったがゆえに、動物たちを助ける。一見これは、人道(動物道?)実践のため、恐怖心克服する美談に見えるが、著者は、本当のメッセージは「恐怖」を「きちんきこわがることではないか」と指摘する。それこそが真っ当だと。

5-「反核」運動と「反核」異論の功罪、は、吉本隆明が、中野孝次らの反核運動に冷水を浴びせた顛末に触れたもの。中野孝次らの反核運動、ロシアに利用されてしまう欠点はあったろう。しかし、当時の反体制気分の青年達にカリスマ的影響力があった吉本の言動、「反核運動」だけでなく、「反原発運動」にこそ、より強い影響をもった。「反核」異論における吉本の原発賛歌、フクシマを思うと、人ごとながら恥ずかしくなる。一部を引用する。

科学が「核」エネルギイを解放したということは、即時的に「核」エネルギイの「統御」(可能性)を獲得したと同義である。

フクシマのどこが、エネルギイの「統御」だろう?

第三章の3-長崎の鐘と、4-「原子病」患者・永井隆
妻を長崎原爆で失い、自身も被曝した医師で、キリスト教徒の永井隆が、原爆受容発言をし、アメリカに利用される。キリスト教徒が歴史的に多かった長崎で、破壊された天主堂の残骸が巧妙に撤去されてしまった経緯を調べた本「ナガサキ 消えたもう一つの『原爆ドーム』」書評を以前書かせていただいた。
著者は言う。「永井隆は、キリスト教的な博愛の精神で、人々の頭の上に原爆の火を落としたアメリカを擁護しただけではなく、その後のアメリカの原子力の一元的な支配によって、「世界」そのものについての覇権を握ろうという野望(それは常にソ連や中国やイスラム圏によって邪魔されるのだが)を結果的には受け入れてくれる使いでのある思想なのだ。「核兵器」と「原子力技術」。これがアメリカの世界制覇の野望を叶えるための二つの武器だったのである。」
宗教、軍事大国に、悪用されると、恐ろしいことになる。昔も今もどこででも。

8誰が「犠牲」を要求しているのか?最後が特に素晴らしいので、ご紹介しておく。

原発の立地する地域の人々が危険に晒され、不安に怯えて生活しているのは、別に大都市においてまるで"湯水のように"人々が電力を使っているからではない。また、"原発ジプシー"といわれている原発で底辺での労働者が被曝に晒され、放射能障害に苦しみ、それでも貧しさのために働かなければならないのは、都市の人間が暖衣飽食し、贅沢三昧の暮らしを送っているからではない。私たちと、私たちの社会は、本来そうした原子力発電の犠牲者などを求めてなどいない。原子力産業、原子力ビジネスで利益を得ている「原子力マフィア」と称すべき人間たちが、そうした犠牲者を生み出し、それがあたかも、電力の消費者が「悪」であるかのように責任を転嫁しているだけだ。原子力や原発が犠牲を生み出しているのは、本来、そうした"生け贅"を捧げなければならないほど、貧しく、劣った科学技術だからだ。それにあくまでも固執する一部の「原子力マフィア」によって、真実は歪められ、現実は糊塗され、私たちはその怪物たちの欲望に犠牲の小羊たちを、ひれ伏して捧げるという愚行を繰り返している。

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紙の本

神戸失策行政を今回の東日本大震災・フクシマ原発事故に生かすために

2人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

著者の本は、「住宅貧乏物語」以来、何冊か拝読している。神戸大で長く教鞭をとられ、神戸市政の様子を実際に体験された方の御意見には、今回の災害対策に反映すべきものがある。原文の方が、説得力が高いだろう。そこで、この記事は、感想でなく、引用集にする。

著者が批判してこられた全党与党の行政優先策が、大震災での神戸の被害を大きくしたことは明白。人災。アクセルだけで、ブレーキ欠如。復旧策も、市民無視、安全・福祉軽視、環境を破壊しながら行政優先で進められた。

フクシマ原発震災も行政・利権優先が原因の人災。「原発震災」の危険性を主張してこられた石橋克彦氏も著者同様、神戸大学名誉教授。

「はじめに」は架空の詫び状。素晴らしい文章だが夢の話。

被災学者の夢「神戸市長」からの詫び状

 被災者の皆さん、肉親を失われたご家族の皆さん!今回の地震がかくも大きな被害を もたらした背景には、これまでの私ども神戸市政のあり方が深く関わっていると言わざるをえません。
  ここに深くお詫びし、反省し、今まで忘れていた市民の生活と福祉に、行政を一八〇度転換することをお誓い申し上げます。

 今回の大地震は自治体が利益追求に走るとどういう結果になるか、如実に示しました。

中略

神戸市の都市経営の原理は、「最少の費用で最大の福祉」と宣伝してきましたが、実際は「最大の市民負担で最低の福祉」でした。

中略

 最後に、他の自治体の首長の方にひとこと申し添えておきます。「神戸市政の二の舞はしないでください」と。


神戸という地名を福島に、市長という役職を、首相、福島・宮城県知事、東京電力社長、経産大臣、安全保安院トップ等に入れ変えても違和感は皆無。

この文章、著者が雑誌『エコノミスト』95年2月2日号に寄稿したもの。

28-29ページから引用しよう。

    「都市経営論者」の言いわけ

  震度七は確かに大地震であった。「近代都市を襲った直下型地震」「予想を越した地震エネルギー」などと論評された。高速道路、新幹線、オフィスビル等々の倒壊などはそれを物語っている。
  だがそれを大災害にしたのは、神戸市の都市経営論にある、と思う。
  
  地震のあと、市長も知事も震度七など予想できなかった。関西に地震が起こるとは思っていなかった、などといっている。
  宮崎前市長「地震でやられるなんて考えたことがなかった。学者もいまでは何だかんだと言うが、われわれに一度も忠告してくれなかった」
  笹山市長「震度六や七で直下型の地震というのは、何千年何万年という単位の災害だ。そういう確率を想定して都市はつくれない。今回のような地震が日本の他都市で起きたら 同じ結果になるだろう」

 「だれも忠告しなかった」などというのは真っ赤な嘘である。
  「私は、神戸市の土木・建築関係職員の研修会で常に神戸の活断層について講義し、この地域が大地震の空自地帯であると強調してきた。(中略)私はなぜ直下型地震を考えないのかと疑問を呈したところ、それでは余りにも強烈すぎてどんな防災計画を立てたらいいのかわからないとの答えを得た。そのあと、直下型地震抜きの計画が現在も生きていることを聞いて驚いた」(藤田和夫大阪市立大学名誉教授、『朝日新聞』九五年一月二八日)

35ページから引用。

市民無視行政の結末

 こういう市政にしたのは神戸市民ではないか。市民はそういう市政を支持し続けてきたのだから、あるいはおまかせ行政を続けてきたのだから、自業自得だという人がいる。しかしその大部分は当たっていない。ソ連や東欧の警察国家のもとで多数の市民が殺され人 権を抑圧されてきたが、それを選んだ国民の自業自得とはいえない。スターリンやチャウシェスク体制を思い起こせばすぐ理解できることである。

第三章 住民不在の神戸復興計画

一方的な開発案

市は、公聴会も開催せず、住民の声もきかず、被災者住民の大半が、まだ避難所や親戚に身を寄せている、震災後一ヶ月あまりで、どさくさまぎれに、巨大超高層建築群が地域にそびえたつ案を、一方的に提示し、推進する。

第四章 復興はなぜ進まなかったか

問題は、神戸市はなぜこのような被災者を置き去りにした冷淡な行政を続けられるのか。このような市政はどのようにして生まれてきたのか、それを考察し、その原因を解明し、それを生み出す神戸市政の体質を明らかにしない限り、問題解決の手がかりは得られない。
労働組合と市長の癒着─翼賛の構図1
(労働組合の莫大な献金と票、民主党に入る。)

行政を追認する審議会─翼賛の構図2
(原子力安全委員会は、原発推進・計画追認が業務。)

協力者だけの自治会組織─翼賛の構図3
(フクシマ原発の地元も玄海町も、同じ構図だろう。)

「まちづくり協議会」と住民監視─翼賛の構図4
(エネルギー庁のネット上の原発反対派を監視する業務はアサツーディ・ケイが落札。)

婦人団体、そして市政に迎合する学者たち─翼賛の構図5
(原発学者、地震学者は、原発推進・計画追認が業務。
『権力に迎合する学者たち「反骨的学問」のススメ』に詳しい。 )

第六章 「復興検証」を検証する から、122-123ページを引用する。

大切な市民の権利感覚

 市民無視の市長を選んだのは市民自身であり、自業自得だという人がいる。しかしそうではない。政治哲学者ハナ・アーレントは、ナチズムやスターリニズムなどの全体主義が合法的に成立したのは、イデオロギーおよびテロル支配が存在したからという。また法哲学者R・イエーリングは「国民の権利感覚にも増して貴重な保護育成すべき宝はない」という。
 神戸市は長い翼賛体制のもとで市民の権利感覚を育てるどころか抑圧・支配・管理し、権力から自立した市民の形成を阻んできた。市民は生きていくために生活の糧を得なければならないが、神戸市政のように批判者を徹底的に差別する行政のもとでは余程のことがなければ、沈黙を余儀なくされる。アーレントのいうナチズム、スターリニズムと同じで、その後遺症は今も市民運動などに影を落としている。それは神戸市長選挙にも強く現れた。

「国民無視の政治家を選んだのは国民自身であり、自業自得だという人がいる。しかしそうではない。日本(フクシマでも東京でも)のように批判者を徹底的に差別する行政のもとでは余程のことがなければ、沈黙を余儀なくされる。」と思う。


第七章 都市とは、復興とは 著者と星野芳郎氏の対談。

 早川 神戸市長はものすごく差別するんです。へいこらする役人は出世する。それは麻原も一緒ですね。
 星野 だからオウム教というのはある意味で日本社会の縮図です。
 早川 しかしこれをひっくり返すには、麻原は捕まえて裁判するからいいけれど、市長を捕まえて裁判するわけにはなかなかいかない。どうすればいいでしょうね。

しかし、それは神戸のみにとどまらない。

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紙の本

副題を「戦争が最大の国家事業である国」とした方がより良いに思える本

6人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

副題は、アメリカのソーシャルワーク現場で働く在米日本人女性がつづる「戦争する国」の現実。

アメリカのソーシャルワーク現場で働く日本女性が書いているなら「それなり良い本だろう」と思って読み始めた。著者の方には失礼だが、予想に反して、「それなりに」どころでなく「非常に」良い本だ。表紙の漫画がいかにもお気楽で、中味も軽そうに見えるのは、営業作戦だろうか?

ソーシャルワークの現場にいればこそ、アメリカ下層階級の三重苦?状態を直接目にされ、その根源へと、深く思考を展開されているのだろうと想像する。

おかしな書名と思ったが、本当の話。サンフランシスコ上空で毎年行われる航空ショー、フィッシャーマンズ・ワーフあたりが最高の場所で、日本のお花見状態の混雑になるという。そこで上空を見上げながら、観客はフライドポテトをぱくつくそうだ。戦闘機が飛び交う航空ショー、騒音が迷惑だという声で中断されたこともあるが、騒音が迷惑とは、非愛国的ということで、再開されたようだ。

本書冒頭は人種差別の構造。大変に具体的。

29ページの「有色人種が成功するには」も大切な教訓。

(1)白人の前で人種の話は避ける
(2)人種の話を避けられない場合は、いかに差別がまだ残っているかではなく、
   どれだけアメリカが差別を克服してきた素晴らしい国かを強調する
(3)白人の前で有色人種を擁護するような発言をしない
(4)白人が築いてきた格差社会を批判しない

映画によく出てくる有名な黒人俳優の言動も、読んでみると、しっかり、この定義通りの発言を守っている。
もちろん現大統領、これをしっかり厳守している。有名な黒人俳優などを見ても、確かにこの規則を守っている。実は、強烈な人種差別が実際、今も続いているからだ。もちろん、それは我々黄色人種も対象外ではない。彼らの逆鱗にふれない限り、名誉白人扱いをして頂いているに過ぎない。

オバマ大統領、白人には妥協的だが、黒人には厳しいのだ。それが白人から好評な理由の一つでもあるだろう。

アメリカ政治の四大要素。以下の項目は絶対至上であり、軽視されてはならない。
1.宗教とアメリカ
2.軍事戦略・軍事産業
3.石油資源のコントロール
4.イスラエル

著者、決して揚げ足をとるというか、攻撃的に書いているわけではない。実に淡々と書いている。

読めばよむほど、アメリカ人の価値観、一般日本人庶民の価値観と全く対極。
現在も、大統領と議会が、債務上限引き上げでもめているというが、不思議なことに、上記四項目関連を削ろうという方向には決して向かわない。削減されるのは決まって、社会福祉等だ。

アメリカという国の本当の様子、テレビや新聞ではなかなか、ここまで深く描くことはない。テレビ・新聞といったマスコミ、そうした現実を隠すことが仕事だろう。著者は、マスコミでなく、ソーシャルワーク現場で働く人だからこそ、遠慮なく物事が言えるのだ。とはいえ、その後、お仕事は大丈夫だろうかと人ごとながら心配にもなる。

有名記者ヘレン・トーマス女史辞職の顛末を思い出した。大統領官邸記者クラブの長老、ヘレン・トーマス女史、イスラエルによる公海上の海賊テロ行為を批判し、インタビューで思わず「イスラエルにいるユダヤ人は、ドイツなりポーランドなり、もともとやってきた国に帰ればよい」と発言し、記者クラブを追放された。パレスチナを不法占拠しているイスラエル、それを許す英米が悪いので、本来、ヘレン・トーマス女史の発言そのもの、間違ってはいないだろう。しかし、アメリカでは上記四項目は批判することは許されないため辞職を強いられたのだ。

テレビ・新聞にかける時間と費用のごく一部をかけて、本書をお読みいただければ、目からうろこ、これまでご存じなかった、本当のアメリカの姿が見えるだろう。

2011/8/6には、よこすか開国祭にあわせ「ネイビーフレンドシップデー」として横須賀米軍基地が一般開放され、アメリカン屋台やステージショー、艦船見学なども楽しむことができるという。米空軍横田基地 日米友好祭(フレンドシップフェスティバル)は 2011/8/20、21開催だそうだ。是非ともフライド・ポテトを食べながら見学させていただきたいと思っている。

フィッシャーマンズ・ワーフでフライド・ポテトを食べながら観覧している方から、くじびきで数人を普天間や嘉手納にご招待して、数日基地脇でご宿泊頂く用途に使う思いやり予算もあっていいような気もする。

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紙の本

米国の政策を妨害する敵対的な動きを暴露し 米国政策に対する理解を促進するようなアメリカの生活や文化的側面を説明すること

9人中、8人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

夏の平和記念式典というと、広島が連想される。決して長崎ではない。しかし、それがなぜなのかという理由、これまで全く考えたことはなかった。今年は、原爆を投下した国の代表も参列することになり、アメリカ国内では反対論もあるという。
最近博多にでかけ、帰路長崎に寄った。以前広島を訪問し原爆ドーム等を見学したことがあるので、同じようなものがあるのだろうと勝手に想像して町を歩いて驚いた。広島に比べ、原爆遺構の影は驚くほど薄い。行き交う観光客、坂本龍馬参りの方ばかり。龍馬通りや中華街、大変に明るい。それが悪いとは言わないけれど、きつねにつままれたよう。素晴らしい観光地なのだが、原爆の遺構はほとんどない。爆心地に行ってみると、広場の隅に慰霊碑と教会の壁の一部が建っている。平和公園では巨大な像が天をさしている。公園には今はなきソ連・東欧から寄贈された彫刻がおかれている。アメリカが原爆投下の地に慰霊碑を贈るはずもあるまいが、念のため探した所、セントポール市のものがあった。他は全て国からなのに、アメリカは都市からの品というのが不思議に思えた。
そこから程遠くない場所で、ひどく破壊されていた浦上天主堂、残骸を撤去してから、元の場所に再建されている。新天主堂には残骸のごく一部、マリア像の頭が置かれているらしい。

長崎原爆資料館、浦上天主堂の一部が巨大なレプリカになっているが、暗くて良く見えない。売店に『長崎旧浦上天主堂1945-58―失われた被爆遺産』が置いてあった気がする。ぼんやり記憶にあった本書も探してみたが、見あたらなかった。結局、旅の後、本書を探して読んだ。内容からして本来売店に並んでいて当然だが、これも不思議。

本書の内容、驚かされることだらけ。今の不思議な現状となった理由が理解できた。
著者の母親は被爆者。著者は1955年長崎に生まれ。著者自身、原爆被害の遺構、つまり大浦天主堂の瓦礫が残されていないことを、さほど不思議には思っていなかったという。偶然、長崎放送が制作した『神と原爆』という2000年に放送されたドキュメンタリーをみたのがきっかけで、浦上天主堂の遺構が消えた理由を調べ始めたのだ。著者、アメリカの国立公文書館まで資料調査にでかけている。

先に結論を言ってしまえば、100%の証拠はないが、アメリカがしかけた日本世論工作によって、邪魔な証拠隠滅として、天主堂は、戦後13年目に撤去されたらしい。

セントポール、戦後始めて長崎と姉妹都市になったアメリカの都市。長崎は日本初の姉妹都市。姉妹都市といえば、名前、気候、産品、歴史など、どこか共通点があるだろうと普通は考える。ところが、長崎とセントポール、カトリックの大きな教会がある以外、ほとんど共通点皆無。セントポール、文化交流の窓口でも港でもなく、気候は寒い。姉妹都市の話が突然降って湧いたのもおかしな話。窓口役をつとめたアメリカ人の素性もよくわからない。
ともあれ、姉妹都市条約締結のため、ドル持ち出しも不自由な時代に、はるばる市長がでかけ、一ヶ月も歓待されている。当然費用はアメリカ持ち。山口大司教もほぼ同時期に、アメリカに天主堂再建の募金行脚に出かけていた。長崎のカトリック教徒、再三、迫害を受けた。苦労して長年かけて建立した大浦天主堂が、何とキリスト教を国教とする国によって、あっけなく破壊されてしまったのだが、その再建費用の一部を、残虐に破壊した国に求めるという論理、無宗教な読者としては、釈然としない。
ことの真偽は分からないが、訪問中、市長が「長崎は広島と違って、原爆投下を宣伝には利用しない」と語ったという驚くべき英語記事が残っている。

岩口議員(調査当時ご存命)が市議会で切々と遺構保存の大切さを訴えても、市長は全く態度を変えなかった。最終的な保存・破壊の決断は、施設の性格上、市長ではなく、大司教に権限があったようだ。その大司教が、遺構の完全撤去を強く主張したのだ。

長崎への原爆投下は当然だったという被爆者がいた。永井隆博士だ。彼もカトリックだ。代表的な著書に『長崎の鐘』がある。この本の出版にはGHQが関与していた。原爆を「神の摂理」と書いてあることで刊行の許可がおりたのだが、GHQ諜報課が作成した『マニラの悲劇』を付録として刊行するのが条件だった。フィリピンのマニラで、日本軍が住民やカトリック教徒を大量虐殺した記録だ。付録といっても分量はほぼ同じ。
本の付録で日本の悪を宣伝し、本文でアメリカの原爆投下を「神の摂理」として合理化する巧妙さ。

合同慰霊祭で、永井が述べた弔辞の一部にはこうある。

しかし原爆は決して天罰ではありません。神の摂理によってこの浦上にもたらされたものです。これまで空襲によって壊滅された都市が多くありましたが、日本は戦争を止めませんでした。それは犠牲としてふさわしくなかったからです。神は戦争を終結させるために、私たちに原爆という犠牲を要求したのです。戦争という人類の大きい罪の償いとして、日本唯一の聖地である浦上に貴い犠牲の祭壇を設け、燃やされる子羊として私たちを選ばれたのです。そして浦上の祭壇に献げられた清き子羊によって、犠牲になるはずだった幾千万の人々が救われたのです。

永井隆をローマ教皇ピオ十二世の使者が訪問している。ピオ十二世、ナチスのユダヤ人虐殺を知りながら、抗議をしなかった人物だ。徹底した反共主義者の彼、ナチスを共産主義に対する防壁として期待していたのだ。
ちなみに永井の『長崎の鐘』と同時期に、GHQの第一回翻訳許可を得て、戦後初めて刊行された翻訳書が、オーウェルの『動物農場』スターリンの過酷さを描いた寓話だ。

田川市長の訪米は、単なる都市間の出来事ではない。国務省も承知していた。そして、アイゼンハワーが創設したUSIA、米国広報・文化交流庁も。この組織の活動目的についてアイゼンハワーはこう書いている。「米国の政策を妨害する敵対的な動きを暴露し 米国政府の政策に対する理解を促進するようなアメリカ人の生活や文化的側面を説明すること」この組織は、労働組合も対象としており、「左翼主導の組合を大きく展開させる結果となりました。」のだ。こうした政策の対象者として、田川市長は招かれたのではないか。まさに、彼の出発の日、長崎駅に見送りにきたメンバーの中に、アメリカ文化センター館長夫妻もいたのだ。

かくして広島のドーム以上に衝撃的な反原爆の象徴となりえた遺構は完全に撤去された。

こうした歴史の改変操作、長崎だけではおわらないだろう。大規模な計画的洗脳工作が65年間、全国民に対し徹底して実行された結果の作品として、現代日本がある。

藤永茂氏の 『アメリカ・インディアン悲史』
にあるチェロキー・ネーションを思い出さずにいられない。英語を学び、法律を遵守し、必死に白人に同化の努力したが、居住地に金が出ることがわかり、強制移住させられた部族だ。洗脳されて、喜んで同化したあげくの運命、基地・同盟の重圧に苦しむ現代日本の先例と思えてならない。

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紙の本

紙の本「地震予知」はウソだらけ

2009/01/20 01:50

「地震対策」はアナだらけ

7人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

神戸大震災から早14年。感傷的な記事や番組はみかけた記憶はあるが、次の関東大震災を防ぐという視点の記事や放送は寡聞にして知らない。
祈って災害が防げれば幸いだが。祈りは被災者にしか届くまい。災害は科学的な対策によってのみ軽減できる。神戸の震災、あたかも天災であるかのように信じ込まれているが、人災だ。
火災震災に弱い住宅なかりせば、また、そうした住宅に対する補強対策の施策があれば、そして地震火災対策の水槽が十分に作られていれば、かなりが防げたことだった。
そして、心ある建築学者、地震工学研究者達は、それを繰り返し要求していた。地震予知などという不確定なものに金をつぎ込む余裕もはやないのだ。しかしそれも、ごみのような役所や学者の既得権益。
神戸の政策、あくまで企業の、資本の開発論理に従順で、人命、安全指向とは遠かったがために、あの大災害が起きたのだ。そういう意味で、あれは人災だった。
その認識が欠落している日本では、再び同じような震災で、たとえば関東地方は、再び悲惨なことになるだろう。ダムや道路にかける費用の幾ばくかを耐震化にこそ、まずかけるべきなのだ。

さて、そこで本書の意義。
先に刊行された「私はなぜ逮捕され、そこで何を見たか」の著者による、彼の逮捕をおそらく招くことになった著作だ。著者は元国際人工地震学会長、元国立極地研究所長。

そういう肩書の著者が、2004年2月に「公認地震予知を疑う」(元の書名)つまり内容的に「地震予知はウソだらけ」という、大胆な内容の本を刊行したのだ。地震予知にかかわる政府や、その予算で暮らすインチキ学者たちの困惑の深刻さは容易に想像できる。今、インチキきわまりない裁判員制度導入で、膨大な予算を使った大宣伝攻勢に、大手マスコミが平然と乗っているのを見てもわかる。小泉・竹中の郵政破壊と同じ、必ずや大変なことになるだろう。しかし、マスコミもタレントも、善悪、真偽は無関係。金さえもらえれば良いのだ。

そもそも、できもしない地震予知ができるかのような顔をして、政府から研究費を引きだすというインチキをしているのだから、それを指摘されてもしかたがないわけなのだが。そういう連中、学問上では著者に劣っても、人数も、政治力も圧倒的に上だ。なにより、金を出す側の政府機関、省庁そのものが、詐欺師たちと同じ穴のむじな。

その昔、中国で地震予知が大成功した、というような報道が続いた記憶がある。今、四川省の大被害を見ると嘘のようだ。つまり、予知などできないのだ。
地震予知という名前で、研究用機材に予算を使えなくなる「学者」、権力をふるえなくなる役人が、雲霞のようによってたかって、著者の信頼性を損なった、というのが、本質ではあるまいか。

実は、「地震学会で、地震予知のセッションは、セッション全体の30分の1もない」 のだという。

予知よりも、起きたらどうするか、建築方法や、避難方法など、予知などできずに起きる地震による被害を最小化することこそが、合理的な対策だろう。

「IV章 地震という妖怪と上手につきあう方法」で、それは具体的に書いてある。
予知などという嘘をついている役所の回覧板やら、大本営報道を見聞きするより、本書をお読みになるほうが、庶民の対策としては、賢明だろう。
しかし、神戸大震災14周年のマスコミ報道で明らかなとおり、そうした当たり前の科学的議論、認知は全くされないままだ。科学報道では涙も笑いもとれないからだろう。

著者のホームページ、感動したという読者の声に溢れていて嬉しくなる。気象庁に勤める人や学者同僚すらも共感しているのはさすが。

とはいえ、神戸大震災14周年のマスコミや役所の姿勢を見ている限り、決して教訓を学んだように見えない。日本人があまりに増えすぎたので、環境保護、経済成長の兼ね合いから、人口の自然減(震災による死亡や、体制側が仕掛けるいわゆるテロも含め)をもっと増やすべきだ、という合意が、お上にも庶民にも、言外にあるのだろう。寂しい国に生まれたものだ。

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紙の本

あの彼はなぜ逮捕され、そこで何を見たか?

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著者には面識もなければ、啓蒙書もほとんど拝読していない。お名前だけ存じていたが、本件新聞報道をみて、「高名な学者が、なぜつまらない詐欺をしたのだろう」と記事をそのまま信じてしまったことを告白しておく。それで偶然本書をみかけた時、あわてて購入した。小生もうかつだっただ、著者も書いているように、お上のお先棒をかつぐマスコミがそういう誤解を招くのだ。本書は彼が突然逮捕され半年も勾留された時の記録。

今にして思えば、これは国策調査でしかなかったろう。
著者は著名な地震学者、地球物理学者だ。そして著者は「地震予知は不可能」と主張していたし、今でも主張している。地震予知計画が、まさに国策で、有象無象の地震学者が、膨大な国家予算をもらって地震予知研究をしている。要するに著者の主張、国策に反するのだ。
それで、北海道大学で、内部告発?を受け、無理やり犯罪人にされたのだ。
虎の尾を踏んだのかも知れないと、著者は書いている。

地震予知はできないという学問の現実を見てほしい、不意打ちに備えてほしいというのが著者の立場だ。著者の主張、マスコミ上では少数派に見えるが、著者の主張が誤っていることの証明にはなるまい。(評者も、個人的に何度も経験したが、「多数派説が正しく、多数派説を採用すれば成功する」わけではない。少数派説こそ、新製品開発に寄与することが多いかった。)

地震予知に関しては、故竹内均氏による講演の光景を今でも覚えている。トイレット・ペーパーだったろうか長い紙を、演壇上で、上下に引っ張りながら、彼は言った。
「このまま紙の両端を引いてゆけば、紙は必ず破れます。それは誰にもわかります。しかし、この紙でさえ、どこが、いつ破れるのか、誰にも予言できないのです。まして地球規模で、一体どうやって地震が予言できますか?」

本書は、理科系の学者らしく実に几帳面な事実の記録だ。随所にユーモアというか精神的余裕さえ読み取れるのに驚かされる。読んでいて一番衝撃を受けたのは、本筋とは関係ない43ページの記述だ。これは是非ご紹介しておきたい。

引用開始

自殺をもっとも恐れる拘置所当局

 ところで、収容者に自殺されることを、拘置所ではもっとも恐れている。責任問題になるからだ。
 英国の刑務所では、初犯の収容者が、収容後すぐに自殺を図ることが多いという。
自殺を図るのは二四時間以内が多いので、最初の夜は、医療棟という特別な場所に収容するのが普通だという。最初の日というのは、それだけショックが大きいのだろう。
 たとえば二〇〇一年に、英国の刑務所で七三人が自殺し、うち二二人は初犯だった。未遂を入れれば、二〇〇〇年には一五〇〇人以上が首吊りを試みたという数字がある。
 日本の統計は明らかになっていないが、自殺願望は似たようなものかもしれない。

それゆえ、日本の拘置所でも、ネクタイはもちろん、ズボンのベルトも、部屋着の腰に入っている紐も、独房には入れられない。差し入れの衣料も、差し入れのときの検査で腰の紐を抜き取ってしまう。
 独房の壁に作りつけになっている幅五五センチメートルほど、二段の小さな木の棚も、側板の上端が斜めにそぎ落とされていて、首を吊ろうにも、その紐が滑って落ちてしまうような形になっている。このため側板の高さは、前が四〇センチメートル、後ろが五五センチメートルになっている。
 また、棚の下部に作りつけでタオル掛けになっている、塩化ビニールの親指ほどの太さの弱々しいパイプにも、これも紐を掛けて首を吊られないよう、ご丁寧に鋸で半分まで切れ目が入れてあって、十分弱く作られている。
 ひとつだけ支給される衣紋掛けも、金属ではなくプラスチック製で、念の入ったことに、三角形の下の辺が切られていて、首を吊る道具にはできないようになっている。

引用終わり

85、86ページにもある。
引用開始

 このうち『未決被収容者遵守事項』には、禁止事項が列記されている。
第1章‥拘禁作用を害する行為
  1-1.逃走
  1-2.自殺企図
  1-3.無断離席等
  1-4.不正連絡
  1-5.自傷
  1-6.拒食
  1-7.異物嚥下
  1-8.刑罰法令違反

 第1章には刑務所や拘置所がもっとも恐れていることが挙げられている。逃走はもちろん、自殺や自傷や拒食や異物を呑み込むことなど、いずれも刑務所や拘置所側の責任問題になることである。

引用終わり

そう、つい最近ロサンゼルスで起きた事件を思い出したのだ。戦後日本人を拉致した北朝鮮を「テロ国家」指定から解除するというアメリカ発表と同じ日に起きたあの拉致事件の結末を。本当に自殺なのだろうか?
彼こそアメリカという「テロ国家」による「共謀罪」という恐ろしい法律を根拠にした国策「拉致」被害者に他ならない。しかし大本営マスコミはそう言わない。
アメリカでは日本や英国のような自殺防止の配慮はしないのだろうか?

他の国策捜査の話が長くなった。話を戻そう。もちろんご本人、そもそも犯罪など犯していないのだから、落ち着いておられ、自殺を意図する可能性など本書では全く読み取れない。詐欺罪で告訴されたわけだが、被害者とされる「ベルゲン大学」のミエルデ教授が、「自分たちは被害者だと思っていない」と証言する。こうした事実からか、微妙な判決を受け、著者は控訴を断念する。懲役三年、執行猶予四年。万一判決が「無罪」であれば、検察が控訴し、長い裁判が続いたろう。判決は検察が控訴をしない限界だった。

ナショナル・ジオグラフィックの地震特集号に「地震予知は不可能と主張する」著者インタビュー記事が掲載される。ところが、その後に刊行された日本語版では、著者発言がすっぽり削除されていた。日本のマスコミが大本営広報部であるという証の一つだろう。

不幸なことに、本書のまえがきにあるように、政党のビラ配りのような思いがけないことで同じ目にあわされる可能性が増えている。(この恐ろしい制度に、間もなくもう一つの恐怖が増える。裁判員制度だ。)本書のような書物も増えるだろう。不幸な目にあう前に、その時一体何がおきるのかの思考訓練として、「地震予知」に関係ない人々にも読まれるべき本と言えるかも知れない。

本書はあくまで勾留の記録、事件詳細について知りたい方は著者webをどうぞ。最初に新聞記事を信じてしまった罪滅ぼしに、新刊本を読ませていただこうと思っている。

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紙の本

紙の本石油!

2008/08/23 00:07

「蟹工船」の次は「石油」と「ジャングル(精肉工場)」!

14人中、11人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

アプトン・シンクレアという人を全く知らなかった。映画化されたことも知らなかった。webで読んだある「マスコミ論」書評で、90年も前にマスコミの根本的問題を論じたアメリカ人がいるのを知った。残念ながら他の本は容易に手に入らない為、入手しやすい本を読んでみたというわけ。

本書、書かれたのは1927年。翻訳は1930年。同じ平凡社から出されていた。
アメリカで最近映画化されるくらいだから、軽い本だろうと思って読み始めたが、さにあらず。面白さに引き込まれ、眠れなくなった。なお原作と映画は、全くの別物のようだ。それで当面は映画を見る気にはなれない。

騾馬馭者から、独立石油会社社長にまでなった、やさしい父親アーノルド・ロスと、その息子バニーが、自動車で進むドライブの場面から話は始まる。二人で石油掘削用の土地を借りる契約交渉に出かけた先で、バニーは偶然ポールという青年と言葉を交わし、以来、終生の友となる。

土地の取得から、採掘、事故、労働運動、石油経営者と政治家のつながり、大統領選挙への関与、労働運動、新興宗教教祖となったポールの弟イーライの出世、バニーの大学生活、華やかな恋愛体験と、広範な話題をもり込み、壮大なスケールで、石油をめぐりアメリカ社会の姿が描かれる。

息子バニーは、大金持ちの息子ながら、労働者への暖かい眼差し、正義感を捨てられず、苦労している経営者の父親の足元を堀崩すような労働運動に、父親からもらう金をつぎ込んでしまう。

労働運動の姿を描いた「蟹工船」の著者、若くして、特高の拷問により殺害されたが、本書の著者は、ナチス台頭を描いた「龍の牙」でピューリッツアーを受賞。晩年、1967年には、ホワイト・ハウスに招かれ、ジョンソン大統領とならんで食肉缶詰新法の誕生に立ち会っている。結婚は三回。そうした著者の経歴を反映してか、ロマンス、陰謀と、盛りだくさんだが、時に笑いながら読める。

バニーの濡れ場シーン描写の過激さから、発禁になったことがあるという。だがなにしろ80年前のこと。今は話題にもならない描写。著者、サンドイッチマンのように、身体の前後にイチジクの葉を描いたプラカードをつけ、濡れ場のページに、イチジクの葉を印刷した特別本を、発禁に触れないとして売った。その光景が新聞に載り、売り上げが大きく伸びたそうだ。ただし、この「発禁」自分で持ちかけたのだとある本にあった。「ジャングル」を巡ってマスコミと戦った著者、利用も上手かったようだ。

石油会社経営者の長男バニーも、大人になるにつれ、厳しい現実に直面するようになるが、それでも理想のままに生きようと努める。一方、労働運動弾圧の中、我が道を進んだポール、右翼の暴力にあえなくたおれる。

労働者の国を目指したソ連、建前は立派だが、内実は大変な抑圧的国家だったことが、広く知られている今では、ロシアを理想郷のようにみて情熱的な活動をするポールの姿は痛々しい。

ポールの死の光景で、山本宣二を思い出した。政友会と民政党の二大政党制に戻してはならない、民主主義の死だと、治安維持法糾弾をつづけ、無産者政党議員仲間も次第に転向してゆく中、節を曲げず、右翼団体のテロリストに斬殺された人だ。

巻末エッセイで、柴田元幸氏「シンクレアには社会主義の夢があったのに対して、我々はいかなる夢があるのか?」と書いている。読者には、中田幸子という人の解説の方がありがたいのでは?解説には、「ポールの死の場面は、シンクレアの作品の中の最高のシーンである、といった研究者もある」とある。彼女「ジャングル」の翻訳者&前田河についての本も書いている。

イラク侵略も、アフガン侵略も、はたまた南オセチア紛争も、「石油」をめぐるパワー・ゲームの側面があるが、本書には、キルクークや、ペルシャ等、石油にまつわる地名もあらわれ、現代との連続性を感じさせる。

「宗教の利潤」という本も書いている著者、労働運動家ポールの弟で、宗教家として大成功を収めたイーライを、滑稽なほどこき下ろしているが、彼が新しいメディア、ラジオを活用し、ラジオ説教で大成功する様子をしっかり描いている。最後の急展開も、実はエセ宗教絡み。バニーが人気女優ヴィーと恋愛関係になり、主演映画の公開を見に行った場面での、ユダヤ人活動家レイチェルによる、映画のプロパガンダに対する辛辣な批判は、テレビの本質に対する批判にも通じよう。古いメディアの商業新聞は、ポールの労働運動を、歪曲するか、無視するかのいずれかで、現代と変わるところはない。

久々に「面白くて、ためになる」大作を読めたが、われにかえると、残念なことに、80年もたった現代日本にも通じる要素が多すぎる。「商業マスコミに期待してはならない」こと、体制側のでっちあげによる労働運動弾圧だけでなく、労働運動が左右に分裂、折り合わないところまで、そっくりそのまま。

解説の最後の部分を引用しておこう。
再登場の本書『石油!』に接する日本人が、大海のような物語のなかから何か今につながる問題解決の鍵を発見することがあれば、シンクレアにとってはやはり「嬉しい限り」であろう。

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紙の本

チェチェン・ゲリラの語られない背景

6人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

「平和の祭典」とも称されるオリンピック開会当日という劇的なタイミングに、
グルジアの南オセチア攻撃をきっかけとし紛争が激化。関連していそうな本書を
みかけて読んだ。副題は「チェチェンゲリラ従軍記」。もちろん、直接南オセチ
ア問題を扱ってはいない。
イラク戦争などの取材をしていた著者、チェチェン独立派ゲリラ部隊に従軍する。なぜはるばるチェチェンゲリラに従軍したのかは読み取れない。

そのゲリラ部隊の行動自体かなり奇妙。チェチェンに向かわず、反対側のアブハジアに進撃。アブハジアでは、グルジアのゲリラと対アブハジア共同作戦。グルジア軍が交通手段を提供し移動を助け、ヘリコプターから食料投下補給もした。

92年アブハジアのイスラム系人はグルジアからの独立を目指して戦った。ゲラエフ司令官も義勇兵としてその独立派に参加した。ところが今回彼らは、その当時敵だったアブハジア内のグルジア人ゲリラと合流し、アブハジア人と戦っている。想像もつかない政治・戦闘方針のねじれ・転換だ。

基地としていた場所はコドリ渓谷(のグルジア政府支配領域)だったことがわかる。今回の南オセチア紛争でも名前がでてくる要衝だ。

単純なチェチェン独立派ゲリラによる対ロシア行動ではなく、グルジア、アブハジアもからんだ地域大戦の性格もあったと著者は書いている。グルジア政府によれば「パンキシ渓谷で誘拐され、人質になっていた日本人ジャーナリストは、グルジア内務省部隊の特殊作戦によって五カ月ぶりに解放された」ことになっているそうだ。これは真っ赤な嘘で、グルジア政府は帰国を妨害していたという。敵味方関係が錯綜し、理解を越える。

同行したゲリラの黒幕、本当にグルジア政府どまりだったのだろうか。今回の南オセチア紛争の背景にイスラエルやアメリカがいるように、強力な諸国が支援していたのではあるまいかと思えてしまう。

ゲリラの中にはロシア側スパイらしき人物、通称ルスキーが司令官の役割でもぐり込んでいる。麻薬中毒で、金が欲しいあまりか、著者の撮影機材やデータを奪う。後日、そのデータがロシア側に複製され、流されていることがわかる。

当時生活をともにした人々、大半死亡か行方不明。しかし同行したゲリラではないが、グロズヌイで知り合った少年シャミル(当時チェチェン文化大臣の息子)は、亡命に成功、ロンドン大東洋アフリカ研究学院に留学中で偶然連絡がつく。このシャミルにリトビネンコ紹介を依頼し会見に至る。

ということで「リトビネンコ・インタビュー」も目玉だろう。英国情報機関に保護されたリトビネンコと、至極簡単に会えたのも不思議。腰巻きに「暗殺されたリトビネンコ氏の日本人唯一の盟友が綴る渾身のルポ」とあるが、筆者、スパイではなかろうに。

リトビネンコ、アル・カイダの主要人物とFSBの結びつきや、FSBによる日本国内テロの危険を警告してくれているが感心できない。アル・カイダのザワヒリがFSBとつながっているというのは真実だろう。しかし、アル・カイダを育てたのは、CIAと、その走狗パキスタンSISであることは周知の事実。リトビネンコ、方向をはぐらかしているように思う。また「日本国内でテロをおこせる組織」といえば、FSBなどよりはるかに強力、豊かな予算で、大量に日本に入りこみ、政治家、警察、暴力団まで支配している組織があるではないか!と妄想?が沸く。

アパート爆破、ノルド・オスト劇場占拠、ベスランの学校占拠などに、深くロシアFSBが関与していたと描いている。事実を追求するジャーナリスト、政治家はつぎつぎとFBSの手によって殺害・投獄される。ポリトコフスカヤは、ノルド・オスト劇場占拠では、ゲリラに指名され、占拠された劇場に入っている。ベスランの学校占拠の際、現地に飛ぼうとしたが、機内で飲んだ液体のせいか、体調を壊し、現地に行けなくなる。FSBに毒を盛られたようだ。権力犯罪追求を続けた彼女、自宅アパートのエレベーターで射殺された。

ノルド・オスト劇場占拠事件で、屋上から空に発砲、「人質射殺を始めた」かのように聞こえた銃声を鳴らし、ロシア側毒ガス攻撃のきっかけとなった人物の顔を劇場に入った彼女は見ている。後日ある国際会議に行くと、その元ゲリラなる人物がロシア人として出席しているのに彼女は気づく。FSBがゲリラになりすましていたのだ。

ゲリラに「埋め込まれた」著者の視点から見るので「グルジア側が正しく、ロシア側が悪い」ような気分になってくる。今の南オセチアをめぐるマスコミ報道と同様だ。

FSBが、権力を握るため、アパートを爆破し、チェチェン人に罪をなすりつけ、チェチェン攻撃をした可能性、筆者が言う通り、高いだろう。こうした発言、「陰謀論」とは呼ばれない。同じ論理で、「アメリカの権力者が9/11を仕立て上げ、イスラム教徒に濡れ衣をきせ、アフガニスタンを占領し、アルカイダとは縁もないイラクも占領した」というと、突然「陰謀論」と呼ばれる。

どなたか、イラクかアフガニスタン・ゲリラに従軍して、はたして「911内部犯行」は陰謀論なのか否か追求してもらえないだろうか?

なお著者はwebで今の紛争についても多少触れている。

より客観的に南オセチア紛争について知りたい場合は、「コーカサス国際関係の十字路」の方が良さそうだ。

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紙の本

紙の本ワイルドファイア 上

2008/05/27 00:47

デミル・ファン待望の「ナイト・フォール」続編?刊行

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

前の作品『ナイト・フォール』、9/11の劇的場面が巻末にあったような記憶がある。この作品、主人公夫妻も同じ、話もつながっている。

ミステリー小説なので、何を書いてもネタバレになりそうなのだが、何も書かずにお勧めすることはできない。素人には難題。

主人公ジョン・コリーと妻のケイト・メイフィールドが戦う敵役はネオコン連中。

アディロンダックという地方にある、超エリート専用クラブ、広大なカスター・ヒル・クラブが舞台。集まる人の顔ぶれが並ではない。
ジョン・コリーの同僚が、どんな人が集まるのか調べるように派遣されるが、行方不明になる。
まもなく遺体は、離れた森の中で見つかり、ジョン・コリーと妻のケイト・メイフィールドが真相を突き止めるためでかけてゆくことになる。
そこで、ジョン・コリーは、犯人とおぼしき大物に、敢然と挑戦することになる。ところが、またもやお役所の幹部は捜査の邪魔を始める。身内から身を隠しながら、敵を追うというややこしさ。
敵の策略(それが「ワイルド・ファイア」)実行時間が刻々と迫る中、コリーは...。

文庫本上下で1000ページを越えるが、残念なくらいあっと言う間に読み終えた。
あまりすっきりした読後感とも言えない。「9/11の後、ネオコンが大変な陰謀を企む」話なのだが、「9/11そのものが、その大変な陰謀」かも知れないと思っていると、素直に納得できなかったりするのだろうか。デミルのせいではないだろう。

これ以上、触れると、これからお読みになる方の迷惑になりそう。続編がでるのではと期待したくなる。著者のウェブを見ると、新刊を10月刊行予定というのだが、「ゴールド・コースト」の続編のようで、やや残念。

穴埋めがわりに、似た本の話を。
「いわゆる」9/11陰謀論を洋書webで眺めたところ、続編のようなミステリーが目についた。
正確には、続編というか、途中からの筋の展開が逆で?別編というべきか。
ネオコン策略が半ば成功して、衝撃的なことになるようだ。原書はアメリカで時折みかける石油採掘ポンプがカバー。奥にあるのははホワイト・ハウスだろうか? 書評が何と95本もならんでいる。ワイルド・ファイアの書評は17本なのに。中に二つ星もあるが、大半五つ星。デミルのこの本より評点が高い。本書を読み終えた今、早くその本の翻訳が読みたいものだと思う。読んだことはないが『蛇神降臨記』などを書いているスティーブ・オルテンという人の新刊。はたして、翻訳は出るのだろうか?

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紙の本

知られて欲しくなかった魅惑の中・東欧都市

5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

かなり地味というか、焦点を絞った本だ。
どれだけ地味か、ご覧いただくために、本書の目次を列記しよう。

第一章 帝都の輝き 環状道路の建設からユーゲントシュティールのウィーン
第二章 エデン・レヒネルのブタペスト
第三章 カレル橋の古都-プラハ
第四章 ポーランドの王都-クラクフ
第五章 ガリチアの小都市-プシェミシュルとザモシチ
第六章 知られざる大都市ウッチ
第七章 戦艦ポチョムキンの町-オデッサ
第八章 消し去られた国境の都市-旧レンベルク・現リヴィウ
第九章 最果ての国境の町-プロディ
第十章 ユーゲントシュティールの北の都-リーガ
第十一章 変容のメトロポーレ-ベルリン

ドイツ・オーストリア文学、中央都市文化論が専門の著者が、長年かけて、毎年尋ね歩いた中・東欧の都市を文化史的観点から綴った本。使われている写真は全て著者による。

一般の観光客に馴染みのある都市、せいぜいウィーン程度ではなかろうか?
取り上げられている都市のほとんど、日本人に馴染みの薄い中・東欧の都市だ。こうした都市を詳しくとりあげた他の案内書、寡聞にして知らない。

評者、このうち、ウィーン、プラハ、ベルリン程度しか見たことがないが、本書を読み進めるうちに、説明にひかれて、あげられている他の都市も訪れてみたくなった。
著者、壁があった当時のベルリンにも訪れている。荒涼としていた頃の描写がある。このあたり、昔の様子を実際見た人でないと、もはや意味はわからないかも知れない。

カレル橋の銅像についても説明はなかなかに詳しく、まるでなにも知らずに漫然と通り過ぎたことがもったいなく思えてきた。何とか再訪しなければなるまい。一昔前、あの橋を渡った頃は、さほど混んではいなかった。近年訪れた知人の話では、かなりの雑踏になっているという。プラハ、評者にとって、人には知られて欲しくない魅惑の街だった。

ドイツ・オーストリア文学ということで、著者、東方ユダヤ人の歴史に大変造詣が深い。各都市で、そこに暮らした有名・無名のユダヤ人が詳しく語られている。こうした東欧の都市には、ユダヤ人街がつきものなのだから。

そして、著者はウィーンのユーゲントシュティール様式の建築にも注目している。
ユーゲントシュティール、分離派会館で知られる分離派(ゼセシオーン)、フランス語で、アール・ヌーボー、更にモデルネという名称でも呼ばれる建築だ。国によって、この建築様式の呼び名が様々なのは厄介なことだが。

一般に余り知られぬ都市のそうした建築を訪れ、解説してくれる。地図などもあり、実際に観光するときにも役にたちそうだ。ただカラー版でないこと、図版本でないのが残念。建物の構造をいくら言葉で説明されても、素人の悲しさ、ピンとこない。
有名な都市の代表的な建築については「図説アール・ヌーボー建築」のような本があり、手軽に様子を知ることができる。ごく一部は本書図版とも重なっているが、本書が取り上げているマイナーな諸都市は、残念ながらさすがに扱っていない。

同じような都市のガイドブックを何冊かざっと見た限り、本書のように独自の視点で案内している本は見あたらない。一般的な観光には、その方が便利なのかもしれないけれど。

巻末に参考書が列記されている。主としてドイツ語文献だが、活用できる読者もおられよう。

あとがきにはこうあった。
有名な海外旅行案内書シリーズをあげて、単なるガイドブックではなく、参考文献にもあげたドイツの案内書のような、もう少し深い内容の文化案内、ヨーロッパ人も十分納得するような中身のあるものが欲しいとものだとの思いを募らせてきた。
のだそうだ。
英語の観光案内本などでも、分野別の参考書がずらりならんでいたりする。これはと思う本が載っていると、その本の信頼性も高まろうというものだ。
ともあれ、そうした著者の願いにこたえてくれる出版社があって、本書が実現したという。著者も偉いが、分野(地域)が特殊で販売が困難そうな本を出してくれる出版社も立派。「知られて欲しくなかった魅惑の都市」を紹介してくれたことに感謝しよう。

著者、ドイツ語側からご覧になっているので、スラブ言語の地名・人名表記に、奇異を感じる点がまれにある。例えばプラハの著名な地名、スタレー・メェストと表記してあるが、Wikipediaではスタレー・ムニェスト。eの上に逆「へ」の字記号(ハーチェク)がある字、発音はムニェストの方が近いだろう。とはいえ完璧を求めるほうが無理。使う側がちょっと調べさえすればわかる。些細な誤植のようなものだ。

鉄のカーテン向こう側の都市に、「失われていたと思われていた伝統文化が、いわば冷凍保存されていたことを知った西
の人が驚嘆し」とあとがきにある。
東京のように、古いものをどんどん壊し、味気ないタワーだらけにしてしまうのと逆だ。東欧に限らず、ヨーロッパの主な都市は、日本人からみれば、皆どこも冷凍保存されているようにも見えるのだが。

いつか本書にたっぷり書き込みをし、付箋を貼って、各都市を巡って見たいものだ。これだけ知識を学んでから観光すれば、楽しさも一層深まるに違いないのだから。

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紙の本

紙の本心理諜報戦

2008/03/05 23:07

考慮する必要があるのは、欺瞞情報を流すこのような手段である

4人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

仕事以外の読書は娯楽と考えるので、好きな本しか読まない頑迷な方針でいる。読みたくない本を読むには、人生は短く、資金は余りに少ない。しかし、意に沿わない本を買うこともまれにおきるものだ。事実といささか違うように思われるふしがあるので、その部分だけ指摘しよう。全てをしっかり読んでの「書評」ではない点、お断りしておきたい。

著者、多言語に堪能なのだろう。キリル文字が入っていたり、文献には韓国語の「心理戦」というものまであったりする。キリル文字やハングル、わかる人にはわかるし、読めない人には読めない。カラーテレビ放送が始まった頃、カラー番組で「これはカラー放送です」という文字が表示された。カラーテレビで見ている人には、すでにカラーだ。モノクロで見ている人には、そう言われてもカラーは見えない。あれは単なる購入催促策だったろう。同様?、本書のキリル、ハングル文字、衒学趣味ではあるまいかと下司の勘繰りをしてしまうのだが。

気になるエピソードに話を移そう。
第三章末尾のコラム「スーパーノート偽造説の不思議」。
この話題、「北朝鮮vsアメリカ「偽米ドル事件」と大国のパワー・ゲーム」という本が、同じ筑摩書房から出ている。ここは、元朝鮮専門で、ドイツ駐在も長かった原田説の方が、説得力があるように思える。どちらが説得力があるかは、両方の本を併読すれば、ある程度判断ができよう。ともあれ、朝鮮の資源を狙う、EUとアメリカの軋轢が背後にありそうだ。

第四章ロシアのオペレーション・グラディオに関する記述の場合は、そうもいかない。批判があっても、普通は検証しようとしない。簡単ではないからだ。誤解のないよう引用しよう。

引用始め
 FM30-31Bが最初に登場したのは1975年。驚くべきことに、それから30年後も、文書の存在・内容が真実として取り上げられている。05年2月18日付の「モスクワ・タイムズ」掲載コラムがそれだ。
 このコラムは、「何十年にもわたる、西側情報機関による自国民を対象にしたテロ・欺瞞の非公然工作であるオペレーション・グラディオ」(gladioはイタリア語で「剣」の意)なるものを取り上げ、その本質は無実の市民を攻撃することで、彼らにより強力な安全を国家に求めるよう強いることにあると説明する。続けて、その「オペレーション・グラディオ」 の実態を、『NATO秘密軍-グラディオ作戦と西欧テロリズム』と題する新刊が描いていると紹介している。
 コラムは、「新刊本の著者が『発掘』した状況証拠の一つがFM30-31Bである」とする。そして、FM30-31Bは「共産主義者の破壊活動に外国政府が十分効果的に対処しない場合に、米国が(共産主義者を装って)テロ攻撃を仕掛ける方法論を説いたもの」云々と説明を加えている。
 偽造文書の影響力は、偽造であることを指摘した後でもなお、簡単には払拭されないのである。
引用終わり。

この文章の前の部分で、FM30-31Bなる文書が、ソ連の偽造文書であることを説明している。そうなのだろう。だが上の文章、FM30-31Bなる文書が偽物なのだから、それに依拠した『NATO秘密軍-グラディオ作戦と西欧テロリズム』も、グラディオ作戦も、実態はあやしいものだというふうに読めないだろうか?
グラディオ作戦についてはBBCがEUからアメリカまで取材した番組を制作しており、youtubeで見られる。
アンドレオッティ首相が、米国とNATOが操っていた謀略活動「グラディオ作戦」の存在を暴露したという記事でも伺えるように、政治介入のための秘密作戦は史実だろう。
著者の書き方では、「Gladio作戦なるもの」が、陰謀論であるように読めてしまうのではなかろうか?
「『NATO秘密軍-グラディオ作戦と西欧テロリズム』と題する新刊」という表現だけでは、いわゆる陰謀論者が書いた怪しげな本とも思いこみかねない。
さにあらず。『NATO秘密軍』(原題NATO's Secret Armies Daniel Gancer著)、著者(現在スイス連邦工科大)によって本来博士号論文として書かれ、バーゼル大学史学科で優等賞を得た。NATO加盟諸国から集めた様々な言語文献を多数の協力を得てまとめた論文。FM30-31Bなる文書に依拠する部分もさほど多くない。いぶかる方はGoogleブック検索で確認いただきたい。
アメリカ書籍サイト書評さえ評価は高い。実名で信頼性の高い評者達によるもので「必読書」的絶賛。スーパー・ノートの出所は北朝鮮ではない。CIAこそが怪しいという説もスイスやドイツが出所だった。似たようなせめぎ合いの場面ではないかと素人には思える。

著者が『NATO秘密軍』という本を読まずに書いているのであれば、知的「怠慢」だろう。読んでいながら、原書とかなり違う印象を与える文章を書いているのであれば、30ページの著者の言葉を借りると「それは部分的には正しくとも、全体として見れば誠実さに欠けた不正確な情報である」だろう。

最後にもう一カ所。187ページ、陰謀論の項。

引用始め
フランス人作家ティエリ・メイサンはその著『9・11大いなる嘘』で、2001年9月11日、ペンタゴンには一機の飛行機も激突していないと虚偽の主張をした。彼が言うには、建物を破壊したのは巡航ミサイルであり、米政府内の一派が発射したのだという。
そんな途方もない陰謀は存在しないし、多くの目撃者の証言、現場で収集された証拠からも、ハイジャックされた飛行機が建物に激突したことは確認されている。それにも拘わらず、同書はフランスでベストセラーになり、19か国語に翻訳され、著しく根拠に欠ける陰謀論ですら影響力を持ち得ることを示している。
引用終わり。

事件後のペンタゴン写真をみて、大型ジェット機が突入したと思う方こそがおかしいのではあるまいか?納得できないからこそ、Trutherという人々が、いまだに追求しているのだろうに。

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