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  3. 中村静英さんのレビュー一覧

中村静英さんのレビュー一覧

投稿者:中村静英

12 件中 1 件~ 12 件を表示

紙の本

ほらとホラーとその間

7人中、7人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

妖魔と共存する飯島家の物語の13巻目。
普通に妖魔と戯れている彼らを見ていると、そんなものに縁のない日常の方が異質に思えてくる。
ご近所さんと過ごすように異界のものと付き合っている彼等は、かなり特異なはずだ。が、この本を読んだ直後限定で、長い髪をいつもきれいに結っている隣の奥さんの頭に口があっても驚かないぞ、と思ってしまう。
今回も、非日常を日常と錯覚してしまう4編が収録されている。
その中で、一番好きなのが、「月影の庭」だ。
死者の思いが強くてこの世に残ったのか、生きてる者の思いが死者を引き止めたのか。
多分、その両方が共鳴したのだろう。
死んだ愛しい人に、会うことができる。
けれど、死者と暮らす家など作ってはいけなかったのだ。
死者の帰ってくる家では、誰も幸せになれない。死者と生者の幸せは別々の場所にあり、この世とあの世の交わる日は来ないのだから。
それを知っているから、残された者は、死者の供養をするのだろう。失った哀しみがいつか昇華され、穏やかな思い出になる事を願いながら。
形見と寄り添い生きていくことが悪とは思わない。人には、それが必要な時がある。
そして、異界の男は、念の入りすぎた遺品を燃やす。「死者はこの世に思いを残してはいけない」という言葉と共に。

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紙の本

紙の本今宵、天使と杯を

2005/06/13 11:23

菩薩にも杯を

5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

人は、独りでは生きていけない。
使い古された言葉の意味を思ってみる。
生きていることと死んでいないことの違いを、並べてみる。
共に泣き、笑い合える至福の存在。
そんな愛すべき人を、彼らは天使と呼んだ。
規格外の天使達。
アル中寸前のサラリーマンと感情を忘れたヤクザ。
普通というものが多数決で決まる世の中では、多いに外れている二人。
さらに、多くの恋人達が男女であることを思えば、同性である彼らは、ここでも常識から零れている。
ゆがんだ人間の心には、満たされない歪な隙間がある。
そこを埋めるのは、同じ空洞を持つ者なのだろう。
虐待され、心を凍らせた神を信じない子供。
神はいないが天使はいると答えた牧師。
その言葉にすがり、淋しい子供は、天使の刺青しょった大人になった。
長い孤独の果て、恋いつづけ手に入れた天使は、リストラされ妻にも逃げられた若くない男だった。
社会に疎まれた心やさしい男が、彼の天使になって隙間をふさいだ。
辛い現実に蓋をした子供は、幸せにも気付けない。
けれど、天使に出会える未来があった。
可哀想な子供の天使、閉ざされた蓋をそっとはずす…なんてことはせず、酔ったはずみで叩き壊して乗り込んできた。
重なる優しさが全身を覆うとき、不器用なヤクザ、美しいものを美しいと感じる心があることを知る。
きっと誰も、幸せの可能性を持っている。
いつか天使に出会える未来。
いつか天使になれる未来。

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紙の本

闘え、と本能が叫ぶから

5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

おいやられた本能。
本能は感情的なものではなく、人間の脳の奥に、爬虫類の脳として存在している。
本能を善良な大脳皮質(人間の脳)で覆い隠してしまった事が人としての進化なのだとしたら、その終点は、神だろうか。
三層の構造から成っている脳。
爬虫類の脳は、相手を襲ったり食べたりといった本能の部分。
でも、爬虫類は、同じ種の間で殺し合わない。
その上に原始的なほ乳類の脳。子を育て愛する感情の脳。
だが、場合によっては、同種殺しをすることがある。
そして一番上に人間の脳。社会生活をおくるための善悪を知る、文化の脳。
けれど人間は、仲間を騙し、殺し合う。
未成熟なまま生まれてくる人の子は、人になるための脳を育てなければならない。
上手くいかないと、人間の脳よりは虫類の脳が表に出てくる。
爬虫類への退化だ。
女も男も脱毛する時代。
この国の大人はみな、無毛の爬虫類になりたがっているのかも知れない。
人間の本能が爬虫類の脳なら、せめて正しい爬虫類になって闘ってほしい。
仲間を騙し子を虐待する事のない、食い眠り、子を成すための闘いだ。
けれど、人の本能に宿る爬虫類は、人間にもトカゲにもなれない。
ならば大脳皮質(人間の脳)を正しく成長させ、発達した大脳皮質の恩恵を思いきり貪ろう。
長い時間を経て得た人間の文化を守り、社会と未来へのささやかな貢献を切望しながら。
爬虫類には戻れず、神にもなれず、人間の形と心で生きるために。

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紙の本

紙の本グロテスク

2005/04/29 15:56

洞窟の壁画が語る夢

5人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

一つの事実を複数の人間が語る。
幾度も語られることで物語は展開する。
重く悲惨な事件をとりまく人々の本気の想いが、その生い立ちも含め、これでもかというくらいに濃く描かれる。
自分を中心に置いた、自分だけが清く正しく美しい独白の中に、どれほどの真実があるのだろうか。
実際にあった殺人事件がベースになっているらしく、“歪んだ現代社会の中の悲劇”と、無難に言えばそんなところか。
が、各々の一人称の告白は、一つの真実を探すには矛盾しすぎている。
まるで「羅生門」のように、言葉だけが空ろに回る。
人間はここまで自分を美化できるのだと、感心を超えて呆然となる。
果たして、本当の事だけを言った人は、いたのだろうか?
一番の嘘つきは誰なのか?
それとも、語られたたくさんの言葉は、それぞれにとって全て真実だったのか?
結果、彼らの身勝手な言葉の中に、事件の真相を見ることはできない。
誰もが正直な嘘つきなのだから。
人は誰も自分の聖域を持っていて、それを信じ守ることで、生は極上の娯楽になる。
犯罪や殺人さえも綺麗な言葉で正当化し、崇高な自己の世界に溺れていく。
人の業の深さの呪いのように。
たった一つ、判ること。
みんな、ただ、幸せになりたかったのだ。

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紙の本

紙の本殺人現場を歩く

2005/09/22 15:33

写真が語る千の言葉

2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

主役は殺人現場。
関係する人々の事は、あまり語られていない。
被害者の過去と夢見たであろう未来も、加害者が人を殺すに到った心の闇も、何も解かれてはいない。
あるのは、明かされた事実のみの文章と、現場の写真。
痛ましい事件の裏で、加害者の父親が自殺したこと等は、一切排除されている。
それだけに、解明されない謎は大きく膨れて、想像をかきたてる。
どんなに世間を騒がせた出来事も、一世紀に近い人の生の中では、瞬きの一つになってしまうのだろうか。
子供の頃、近所の老人が自宅で孤独死をした。
老人の家から異臭がして、死体の彼は発見されたのだ。
その後、家は壊され、お坊さんがお経をあげて立ち去った。
その場所は駐車場になり、今に到る。
孤独な老人が誰にも気付かれずに死んだという、珍しくもないが衝撃的な思い出。
けれど、印象に残っているのは、経をよんでいたお坊さんの姿で、駐車場となったそこも、何事も無かったように時間は過ぎた。
悲惨な殺人現場でも末路は同じだ。
第三者にとって、他所事でしかない事件は、時という名の風にさらさらと崩されていく砂山でしかない。
けれどここに突き付けられた、事実をまっすぐに綴っただけの文章と写真。
無機的で心が無いと感じたのは、少しの間の錯覚だった。
刹那を切り取った物言わぬ写真の中で、殺人現場に縛られた人達の、言葉にならない想いが悲鳴のように溢れている。
風に舞う一粒一粒の砂の無念さが、見えてくる。

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紙の本

紙の本救急精神病棟

2004/06/25 16:45

心は頭骨の真中にいる

2人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

もしもこんな病院ばかりなら、思いきり精神を病んでみたい。
病気の体を休めるように、心の休養を思いきりむさぼりたい。
昏迷の繭の中で、回復という変化をゆっくりと成すために。

精神を患うことは不幸ではない。
不幸なのは、正しく理解されないことだ。
体同様、精神(心)を病むことは誰にでも起こりうる。
もちろん、救急を要することも。
けれど、自分もしくは身近に経験した人がいないと、本人にとっては正常でいるより幸せなことさえあるこのドラマティックな現象を、受け入れるのは難しい。
人の心がどんなに脆いかを、入院患者のほぼ4人に1人が精神病患者という事実が示していても、健全な心と体を持つ人々の価値観と判断で、世界は美しく正しく保たれ続ける。
その中に潜む感性の歪さが、表に出ることはない。

「動物は檻の中でほっとしているのか、それとも人間が安心するため檻に入れるのか」
過去の精神医療を考えたとき、昔読んだ本の言葉を思い出した。
患者のための入院か、家族や地域の人達の為の隔離か。
精神病院の患者たちが怖れている世間の目は、まず身内から注がれる。
過去の幻影に捕われた人々の、精神病院への呪われたような先入観が、多くの偏見を生み育ててきた。
日々前進していく医療現場で、精神医療も進化しつづけている。
体の怪我や病気での入院体験を少し自慢げに話すように、精神の病を話せる日が、いつか来ることを願う。

心や精神はどこにあるのか? 脳か?
精神病は能の機能不全であるとし、神経細胞レベルでの精神病解明も進んでいるという。
病んだ心を、他の臓器を治療するように、脳を治療する事で治せる日がいずれ来るのだろう。
それはそれで、不思議な気がする。

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紙の本

砂の器で思い出を掬う

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

ピアノピースです。
ドラマ「砂の器」で、主人公がピアノで奏でた部分の抜粋です。
オーケストラをバックにしての演奏は、とても重く複雑そうでしたが、この楽譜を見て、譜読みができれば何とかなりそう…な気がしました。が、今現在、右手の途中で挫折してます。
実は、ピアノは弾けません。
ドラマも最終回しか見てません。
私の心にあったのは、子供の時に見た松竹映画での「宿命」でした。
嬉しいことに、その楽譜も(抜粋ですが)ついています。
映画テレビ共、とてもとても綺麗な旋律で、千の言葉よりも主人公の悲しい宿命を語っています。

人は、何故音楽を聞くのでしょう。
楽譜を手にして感じたことは、思い出への回帰でした。
幼い少年と父親の過酷な旅を覆うように流れていた重厚な音楽が忘れられず、人さし指一本で主旋律を鳴らしてみて、おおっ、と感激している何とも安上がりな自分です。
そしてテレビ版でまた感激、中居君みたいだ!(←ずうずうしい)

思い出の中の自分を知っているのは自分だけです。
懐かしい音と出会うたび、人はそこへ行くのです。
ただ聞くのも幸せだけど、自分で演奏できたら、と誰も思ったことがあるのでは?
自分の指が体が懐かしい音を発した時、足元からこみ上げてくる嬉しさ。
その一瞬に出会いたくて集めた(弾けない)楽譜が他にもいくつか…。
片手だけのつたない音もいいけれど、いつか娘が両腕で最後まで奏でてくれる未来へ、想い出は夢見ます。

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紙の本

紙の本猫舌男爵

2004/04/29 14:16

猫舌男爵は長靴を買う

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 薄氷に守られた綺麗な世界で、嘘事の良心に支配されたふりを、いつまで続けていくのだろう。二重体の少女が語らずとも、偽善と慈愛に満ちた現世の絡繰りなど、誰も気付いていることなのに。
 どうしようもなく生まれたものなら、せめて自由に死ねる世の中を望むのは、悪か? (水葬楽)

 異文化コミュニケーションなど成立しない! 断じて!! (猫舌男爵)

 醜くて、汚くて、狡い大人のやり口を理解した時、少年は子供時代を終える。そ
して君は、それを許さなくてはいけません。もう子供じゃないんだから。
 裁いてどーするよ。 (オムレツ少年の儀式)

 現在から過去への道程は、狂気から正常への帰還。作者は、某彫刻家の愛人でもあった女流彫刻家に示唆を得たと付してあるが、私は、高村光太郎と智恵子のことを思った。偉大なる芸術家の一番近くで、自分の魂も才能も摩耗していくのだ。 (睡蓮)

 繰り返す殺戮の歴史(それは未だ続いている)の中で、今ここに生ある奇跡を思い出してみる。 (太陽馬)

 どれが未来でどこから過去か、それさえも危うい五編の物語。
 軽くて暗い世相を映した言葉のあふれる中で、夢と現、狂気と理性の交錯する皆川氏の宇宙にただよえた幸せに感謝。

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紙の本

紙の本蝶のゆくえ

2005/01/14 13:43

蝶の調理は羽と足をもいで

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

本の帯に『主人公は、あなた』とある。
そうかもしれない、と思った。
どこにでもある日常の欠片が、こんなにも愛しい物語になるのなら、
無駄な生など一瞬もありはしない。

想像力の欠如した若者の無自覚な犯罪。
亡くして愛の存在を知る主婦の淋しさ。
闇を心に住まわせたまま老いた女の告白。
しのぶ昔日などありはしない故郷に帰る大人の事情。
悪人でも善人でもない普通の人々に、大きな欲や希望などない。
幸せとは、痛くないこと、辛くないこと、淋しくないこと。
そして、家る場所があること。そんなささやかな夢を願う。
真面目に悩んだ行動の果てが、他人には理解できない結果だったり、
理由のありそうな経過が、何の意味もなかったり。
不器用な普通の人々は、いつも、ほんのちょっと幸せになれない。

昔、線路わきの荒地に、小さな家があった。
ずい分古くてボロだったその家に、人が住んでいると教えたのは、
家の前に置かれたベンチの上で、きれいに並んだ鉢植えだった。
けれど、いつ通っても、誰かを見ることはなかった。
ある日、その家がなくなっていた。
がらんとした小さな地面に、薬の空き瓶や紙くずや壊れた茶碗が散っていて、
ああ、人が居たんだ…と、改めて思った。
橋本氏なら、この場所から、どんな生を語るのだろうか。
会ったことのない誰かは、どんな風貌で、何を見て、何を想い、
どんな一日を終えていたのか。橋本氏の言葉で知りたい。
朽ちかけた小さな家の住人の喜怒哀楽を、優しい言葉で綴るだろう。
きっと、易しい言葉で、とびきりの物語に仕上げてしまうだろう。

ありふれた日々の一片を拾って橋本氏の言葉で磨いたら、
それは不思議な光を放ち始める。
閉じた羽が誘うようにふくらみ、魅了する。
花を探す全ての蝶が美しいように。



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紙の本

紙の本善魂宿

2004/12/22 13:49

そんな名の宿はない

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

あるのは、性と生と死が混在した廃村だ。

山襞の合間の村で繰り返す日常は、何とも大らかで開けっ広げだ。
本能のままに性を謳歌し、限られた繁殖を続けてきた。
小さな集落でしか通用しないモラルと文化に逆らわず身を任せていれば、人は、それなりに平和で幸せな一生を終える事が出来たのだ。
古い日本の田舎では、そんな小宇宙のような村落が、そこかしこにあったのだろう。

が、一人の娘が町の生活にあこがれ、村を出て行ったことから、小宇宙はほころびはじめる。
娘があこがれたのは、夜這いも女主人もない一夫一妻の家族の形。
両親とその子供達だけで成り立つ、現在ではあたりまえの、そんな家庭を築きたかった。
未知の幸福はどんどん伝染し、ほころびは繕えぬまま大きくなり、やがて、この国から小宇宙はなくなった。

若者が去り老人は死に絶えた村で、一人残った女は息子を産み、ひっそりと生きる。
時々やってくる村人に一夜の宿を与え、里の話を語らせる。
村人の語る生は、どれも残酷で美しい。
一瞬で髪を白くする体験をした娘、過去を探しに来た死者、蛭の子を産んだ女。
旅人の話に、女は廃村の過去を重ね、あったかも知れない自分の未来を想う。

そうして女は、成長した息子を手放し、次の息子を産む。
まるで、時の流れをせき止めるかのように、同じ生活をしつづける。

山間の廃村の大きな家で、過去の残骸抱き締めひっそりと、女と幼い息子が住んでいる。

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紙の本

紙の本新耳袋 現代百物語 第6夜

2004/07/06 15:00

階段の上には怪談

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

無味無臭な日常の中で、頭のはじに色彩を感じる一瞬がある。
色彩に反応すれば、ぽっかりとあいた穴に出会う。
例えば、自分しかいない家の中、タシタシ、と何かが階段を踏む音。
例えば、すこうし開いた襖の向こうの、たくさんの目。
例えば、ふと目覚めた真夜中、枕元に座る小さな人。
それは、異界がそこかしこに仕掛けた無数の罠。
気付いた者だけが落ちて行く。
99の異界は、ここにある。
100番めの物語に、心当たりがあるのでは?
特別なことなど何もない。
よくあるさりげない不思議が集まり、極上の恐怖になる。
この世は、生者だけのものでは、ない。

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紙の本

紙の本幻月楼奇譚

2004/09/04 16:39

幽霊にも影はある

12人中、11人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

超絶技巧な麗しい表紙をめくれば、
吉原の料亭「幻月楼」に集うのは、きれいな男と女とあやかしの影。
欲にとらわれた生者と死者が、数々の事件をひきおこす。

器はあるが中身のない味噌屋の若旦那、芸無しの太鼓持、年齢不詳の美貌の女将。
あやかしよりも妖しい三人のまわりには、さりげなく人外のものが入り込み、あの世とこの世の境界をなくしていく。

古い死体でいっぱいの座敷牢からそれを一体持ち出し、罠を仕掛けるのは、うら若き芸者。
行灯部屋で窓辺にたたずみ、迷う人間にやわらかな微笑で酒を注ぐのは、とうに死んだ昔の女将。
欲に支配された生者は死者より怖いが、
欲から開放された死者は生者よりも優しい。
そして一番厄介なのは、死んでなお生者の背中に絡みつき、業を煮やす者達か。

一話完結の不思議語りが四つ。
どれも端正な絵とそれを裏切る話の妙が、面白い。
掛合い漫才のような会話に油断してサクサクいくと、ざっくり落ちてはまり込む。
ただ、少し急ぎ気味なのが残念。
夢と現を行き来できるこの不思議世界を、もっとじっくり楽しんでみたい。

今宵月が照らすのは、生者の影かあやかしか。

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