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sanatoriumさんのレビュー一覧

投稿者:sanatorium

4 件中 1 件~ 4 件を表示

紙の本

紙の本牢屋でやせるダイエット

2005/06/26 21:11

牢獄の哲学者?

6人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

久しぶりに中島らもを読んだ。快作だ。個人的なことを書くと、彼の自伝的小説では『愛をひっかけるための釘』と『僕に踏まれた町と僕が踏まれた町』が好きだ。
『牢屋でやせるダイエット』というタイトルを見たとき、ははん、これは花輪和一の『刑務所の中』のパクリだな、と思った。ムショ内の生活を苦しむのではなく楽しんでやれというひねくれた考え方は通底している。花輪の場合は規則や食事の描写の固執しているが、中島の場合はさらに加えて哲学的なことも書いている。中島らもはやはり『刑務所の中』を読んでおり、そのことについては本書内でも言及している。
職員や彼らの仕事についておちょくった文章も楽しいのだが、ムショ内でなされた彼の内省というか考察といったものがとても面白い。彼はフーコーの『異常者たち』を取り寄せて読んだそうだ。フーコーは『監獄の誕生』などで有名なフランスの哲学者で、近代の管理社会について鋭い考察をした人である。
 本書よりいくつか本書より引用してみる。

 仏像の半眼:世界を見るでもなく、見ぬでもなく。光と影のあわいに視座をおいて。
 生きていることはすなわち、時間という監獄の中に入れられているようなものではないか。

 あと、面白かったのは男性不要論。男は自分の精子を着床させてしまえば用無しになってしまうのだが、男が不要だと認めたくないために、宗教、学問、政治、芸術、娯楽などを生み出したというの概要だが、結婚という制度があるのはなぜか、というのを考えてみてもいいかもしれない。
とにもかくにも、この本は久しぶりのヒットだった。

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紙の本

紙の本沈黙博物館

2004/09/17 13:16

死の回収

4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 「沈黙博物館」とは面白い発想だ。ある豪邸に住む老女が死者の形見を収集し、それを展示する博物館を作ろうというのである。そのために「技師」が村へ招かれる。形見に物語を添え、死者が生きた証とし、それを博物館に収蔵するというのが「技師」の仕事だ。登場人物には他には、少女、少年、庭師、刑事、家政婦などがいるが、皆名前をもっていない。この小説においては、生者には名前がないのだ。死んで形見を回収され物語を付与された時に初めて名前が与えられる。
 「博物館」と別の世界がこの小説には二つある。「沈黙の伝道師」と「技師の兄」の世界だ。「技師」は事あるごとに兄に手紙を書くが、その際話題にされるのが甥の誕生であり、つまり「博物館」を死を待つ世界だとすると「兄」の世界は「生み出す」世界である。しかし、結局「兄」の世界と博物館のある村とは交通がないことが判明する。意図的に遮断されているのかもしれないが。「沈黙の伝道師」とは徐々に言葉を話すことをやめ、最後には何も話さず生きていく修道士のような人達のことだ。口では何も語らぬが故に、市井の人とは違い彼らが死んだ時に彼らについて彼らが何者であったかということを語るのは困難を極める。彼が「沈黙の伝道師」であると書けばよいというのではなく、独自の物語を付与しなければならないからだ。
 付与、とここで書いたが、「物語」は実はフィクションなのだ。形見収集者が感じたことが物語られるのである。形見についても同様だ。死んだ者にとってそれが重要であると判断するのは形見収集者であって、死者の意見は無視される。人の知らぬところで、その死者が別の物に非常な愛着を寄せていたとしても、誰が気づくことが出来ようか。また、その人が死んだという確証が必要になる。例えば冬山で遭難してその人が<死んだ>としても、その人は他人に認知されない限り<死んで>はいない、ということを付け加えておこう。
 死者に意味を与えるのは中世ヨーロッパでは神の役目であり、近代になり国民国家が誕生するようになるとナショナリズムが宗教に代わり、人に死に理由を与える。お前はネイションのために死んだのだと。「博物館」では、「老女」個人が聖書とも言える「暦」をつくり、他人の死を回収している。人の死には意味があり、犬死させまいとする意思のようにも見えるが、<死者>を生産するために「庭師」が殺人を犯しているということが暗示される。死者のための「博物館」が本末転倒して、「博物館」のための死者の生産となる。人はいつか死ぬのだが、死者の上にしか成り立たないシステムというものがあることを示しているようにも見える。
 「老女」が死に、「技師」がその役を引き継ぐところでこの小説は終わる。
 小川洋子の軽妙な語り口の裏にこんな構造を読んでしまうのは野暮かもしれないな。

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紙の本

紙の本妊娠カレンダー

2004/09/09 15:37

肉体ではなく身体に

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 友人に何か面白い本はないかと聞いたら小川洋子を薦められたので、探して見つかったのがこの本だった。三編収録されているが、それぞれ、なんというか内臓を触られるような感覚をおぼえさせる。
 心というか精神的なものも加味された「からだ」が日本語の<身体>であり、英語で<身体>ボディーと言った場合は、実は死体というもう一つの意味を持った機械としての<身体>だ。<精神>に対する<身体>。養老氏は日本人は江戸時代に「からだ」という意味の<身体>をなくしてしまったというが、そもそも日本人は二元論的に考えていなかっただろうし、江戸時代に蘭学の影響で解剖学が始まったからといって「からだ」<身体>の意識がなくなるわけではないだろう。
 小川洋子の小説の主人公の視線で見られた人体は日本的な「からだ」ではなく西洋的な<身体>に近い。「妊娠カレンダー」では、子を宿した姉を持つ妹は胎児を胎児としてではなく、染色体としてしか認識しない。このような小説が出てきたということで、日本人が「からだ」を失いつつあるといえるかもしれない。島田雅彦は「自由死刑」の中で、臓器移植など自分の器官がリサイクルされるような状況の中でも何とか自分の死は自分で成就したいと、自らに死刑を科す主人公を登場させている。死と生のあり方を見るときに、人間のあり方が見えてくると思うが、小川洋子も島田雅彦も人体が<身体>化していくという意識を共有している。
 小川洋子のこの小説三篇には、女性主人公のフィアンセが出てきても、彼は全く主体性を持たず、というか主体性を持つ者として登場させられず、ほったらかしにされている。愛が問題なのではないということを示すための者として登場させられているようにも見える。大澤真幸という人はこのような状況の中の改善策となりうるのが「愛」だといっているけれども。
 小説の世界は、こう言ってみれば殺伐とした状況に見えるのだが、素敵な比喩や自然の詩的な描写が、そんな世界をオブラートに包んでいる。そしてその書き方が小川洋子の魅力なのだろう。
 「妊娠カレンダー」読後に感じた、小川洋子の世界を見るスタンスは私の見るところ以上の通りだが、実はまだ一冊しか読んでいないので、他の作品を読んでみよう。

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紙の本

「宗教」とは一体?

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 「宗教」、日本人は宗教的ではないとかヨーロッパではよく言われます。「宗教」という言葉は、そもそも外来語であって、明治時代に日本人がreligionという単語を翻訳したものです。そして、英語・仏語でreligionというと「キリスト教」がすぐに思い出されると思います。明治以降、日本の言説は翻訳、翻訳語によって成り立ってきたわけだから、中村氏にも多少の説明をしてもらいたかったです。副題にもあるように「日本人にとって」の宗教であるので、注釈は必要なかったのかなとは思うけれども、語源を追ってみることで見えてくるものもあるんじゃないかなと思ったのです。
 中村氏は大文字の宗教だけではなく、小文字の民間に広まっている宗教(信仰)にも光を当てており、教義と民間の実践が実は食い違っていることを指摘していて、私にはとても新鮮でした。たとえば、死ねば仏になるという感覚は仏典とは相容れないもので、このような感覚は仏教導入以前から日本にあったのではないかという指摘です。
 政教分離がかつて叫ばれていましたが、宗教は今日の世界を見ればわかるように、政治とぴったりくっついてます。たとえばオウム事件についてなぜもっと弾圧できなかったかというと政治が絡んでいたからですが、中村氏はお茶を濁しています。この点が多少不満ですが、しかし、日本人にとって宗教とはなんだろうということを考える入門書としては適しているでしょう。参考文献もあげてありますし。特に儒教との日本人の宗教意識とのかかわりについては多くを学びました。

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