こぶたさんのレビュー一覧
投稿者:こぶた
紙の本ロマンス
2011/05/05 22:36
ロマンスははかなく悲しく美しい
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
ロシア人の血を引く子爵・麻倉は、殺人容疑をかけられた親友に呼び出される。それが全ての事件のはじまりだった…。華族社会での殺人事件と共産主義活動家の摘発、そして、禁断の恋を描く。
昭和初期
軍部が台頭し庶民は貧困にあえぎ
華族社会は退廃と享楽におぼれていた
二つの相反するものが暗い戦争へ向かっていこうとする時代、
外国人の血が混じることで
華族、上流階級から異端視され自分の居場所はどこにもないと感じ
行き場のないまま流れるように生きている子爵麻倉と
親友多岐川伯爵の長男陸軍士官の多岐川嘉人は
上野カフェで殺人事件に巻き込まれる。
それをきっかけに
麻倉子爵は特高警察に付きまとわれ
恩人である遠戚の政治家周防から
若い上流社会の若手政治家たちの集まりに参加し情報を集めるように依頼される
そして彼が恋し混血であることを理由に結婚を拒まれた嘉人の妹万里子
嘉人が巻き込まれようとしている陸軍兵士たちのクーデター
すべてが絡んで
もつれ合い
美貌の若き男女が報われない愛に身を焦がす
『ジョーカーゲーム』より洗練されていない分
物憂げにけだるい雰囲気のまま物語は進んでいく
本の帯に書かれている本年度ナンバー1かはわからないが
戦前のある時期を切り取った
雰囲気のあるミステリーであり
恋愛小説だった
2011/03/01 18:54
ずっとずっと空に向かってつぶやき続ける
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
どうして犬はあっと今に年をとってしまうのだろう
ゆっくりとゆっくりと年をとってくれたらよいのに
いつも抱きしめ
大好きと愛しているを伝えてきた
空の上に居るあの子たちに今日も
大好きと愛しているとつぶやいてみる
ものがたりの終わりの言葉が
胸に響いた
紙の本花桃実桃
2011/03/01 15:33
人生には色々味わいがある
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
突然の父の死によって昭和の香り漂う木造アパート「花桃館」を相続した
43歳シングル女子茜。
会社のリストラで失業し花桃館に住み込み大家として暮らすことになるのだが
幽霊まで住んでいるアパートの住人は風変わりで
茜自身も何となく世間からずれていて
彼らとの交流やこれからの生き方などに思い悩む様子は
ほほえましい
ほのぼのとしていて
本当に人生には色々味わいがあるものだと実感する。
紙の本ボクたちに殺されるいのち
2011/01/23 11:13
他者を大切にする気持ちを育てるためにも
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
シリーズ 「14歳の世渡り術」の一冊として描かれたこの本は犬猫だけではなく外来種爬虫類などのペットを捨てること産業動物と言われる牛や豚,鳥のこと、犬や猫の殺処分に携わる人々やペットショップの人、畜産農家の人など様々な人たちに取材しさまざまな角度から命の大切さ重さを語っている。
そして動物愛護管理法が広く知られ徹底的にきちんと施行されること。
犬や猫が遺棄され、殺処分されることでいかに多くの税金が使われているか
そんなことにお金を使うより
教育の現場で殺処分寸前の犬を飼育することを作者は提案し、
身近に命が存在していることを体で心で感じ取ってほしいと
今の悲しい現状が若い人たちが現実を知ることで
現状を変えて行ってくれることを期待すると作者は書いている。
口蹄疫や鳥インフルエンザで膨大な家畜が殺処分されていること、
戦時中軍に供出させられた犬たちのことも思い
ちょっと切なくなった
小さい子供への虐待は止まらず大切な命が失われていく
犬や猫を捨てる人と同じような感覚で
子供を捨てたり育児放棄する親たち
命はそんなに簡単に奪われて良いものだろうか
子供も犬や猫も
大切に育てていくものだと思うのだけれど。。。
紙の本木暮荘物語
2010/11/04 18:13
セックスとはなんだろう
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
古ぼけたアパート小暮荘を舞台にした
作者お得意の群像劇。
人を思う気持ち、
寂しくて何かにすがりつきたい気持ち
そういう思いがセックスにつながっていくのだろうか
セックスでしか
他人と繋がっているとしか思えない、
それでしか自分の存在意義を見いだせない人って
確かにいるのだろう
気持ちが満たされていなければ
セックスはつらいよね
ちょっと重くて
ちょっと切なくて
ふんわりとやさしい気持ちになれる物語だった。
紙の本作家の犬 1
2010/10/30 09:14
出会いと別れの物語
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
作家たちは作家独特の感性で犬を愛し
犬たちもその愛に応えていたのだろう
添えられた写真の作家と愛犬の無邪気な戯れに
惜しみなく注いだであろう愛を思う
その犬たちは犬であって犬ではない存在になっている。
作家たちも
誰にも告げられぬ悲しみや孤独を
犬にだけには打ち明け
犬によって外界とつながり
癒されていたのではないか
この身の置き所のない悲しみはこりごりと思っているのに
また犬のぬくもり、やさしさを求めてしまう
そして彼らの残してくれたたくさんのものに感謝する
すべての愛犬物語は
出会いと別れの物語なのだ
紙の本ばら色タイムカプセル
2010/09/02 11:54
バラ色の人生なんて
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自殺しようと海に飛び込んだ13歳の奏を助けてくれたのは
風変わりな老人ホームで暮らす住人たちだった。
薔薇に囲まれたラビアンローズでアルバイトとして働き始めた奏は
生と死が隣り合わせのホームで
生きることを学び始める。
すべてが満たされバラ色に輝く人生なんてあるのだろうか
人の一生が100歳ならその半分以上を生きてきて
振り返ってみるに
楽しいことも悲しいことも苦しいことも
みんな重ね合わさって
振り返った後にはそのころ耐えきれないと思った出来事でさえ
懐かしい思い出として積み重なっている
毎日毎日生きることで思い出を重ね
時には修羅も自分の内に収めながら
明るい光を頼りに歩いて行く
それが人生の様な気がする
奏もきっとこの先も耐えきれない悲しみや幸福で満ち足りた思いも
経験しながら生きていく
一生懸命生きること
それが出会った老女たちへのはなむけになるだろう
2010/08/03 11:05
この世で一番怖いものは
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
三島屋の行儀見習いおちかが訪れるお客様から聞くものは
不思議なお話。
納められているお話は
それぞれに物の怪よりも幽霊よりも
怖いものは人の心の中に棲むものだと教えてくれる。
畏れを忘れ神と祭ったものを粗末にする人間。
仲良さ気にみえてその奥に隠れた嫉妬憎しみ複雑に絡まった人間の心のもつれなど。
表題作あんじゅうは、少年たちはもちろんあんじゅうと名付けられた物の怪がかわいらしくそしてしんみり心にしみてくるものがあり秀逸。
いつもながら宮部みゆきの描く子供たちの生き生きとして無邪気でたくましい姿に心癒されほっこりした。
紙の本ペンギン・ハイウェイ
2010/07/19 20:22
夢を見るような物語
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
ふわふわと夢の中を漂う物語。
すべてが
淡淡と
物語の進行を
俯瞰しているような
そんな気さえする。
初恋の甘さ、せつなさ、ほろ苦さが
物語全体を覆う寂しさに通じるのかなと思った
紙の本バイバイ、ブラックバード
2010/07/19 20:13
物語の行く先は
4人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
5股男星野君の「そのバス」に乗る日までを
丁寧に優しく描いていて
星野君の不実に見える5股さえ
彼の寂しがり屋のせいだと
星野君に肩入れしてしまうくらい
頼りなささえ感じさせる星野君の人間像が浮かんでくる
「そのバス」に乗り込んだ星野君はどこまで行くのだろう
その先には何がある?
繭美のバイクのエンジンはかかるのか?
余韻を残したまま物語は終わる
紙の本神様ゲーム
2005/07/21 16:51
麻耶雄嵩は侮れない
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
子供むけとはいえ、麻耶雄嵩はあなどれない。
彼らしいトリッキーというかブラックというか・・・
芳雄はさえない小学4年生。警察官の父と母の3人家族
大好きなミチルちゃんの愛猫が連続猫殺し事件で殺されたことから
浜田探偵団の仲間達と解決に乗り出す。
神を名乗る同級生の鈴木君に犯人の名前を教えてもらうのと一緒に
自分の運命を知らされる。親友の英樹がそんな中殺され
犯人探しに燃える芳雄は神様に犯人と共犯者に天誅が下るようお願いをする。そして天誅が下った真犯人と共犯者とは・・・
意外な犯人と共犯者、すべてを知ってしまった芳雄がとてもかわいそう
最後のシーンが強烈でした
紙の本左京区七夕通東入ル
2012/04/09 15:00
甘酸っぱく振り返る青春の日々
3人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
就職の内定も出て
京都での大学生生活も1年を切ったオシャレ文系女子花は
七夕の夜の合コンで理学部数学科の龍彦と出会った。
太っくんが暮らす大学寮の友人たちも
ユニークで憎めない
恋も生活も器用に過ごしているように見える花には
理系男子の学問にひたすらな姿が眩しく映る
いままでの恋のように
スピーディーに進まないじれったいようなたっくんとの仲に悩みながらも少しずつ恋は育っていき・・・
京都を舞台に
タコ焼きパーティー、文化祭、鴨川三角州での花火大会
、うらやましい自転車の二人乗りデートなど
キャンパスライフがいきいきと描かれていく
自分には打ち込めるものが無いというコンプレックスを
口に出す花に
たっくんはやさしく「この年でやりたいことが決まっているほうがおかしい。やりたいものがあるということは将来の生き方を狭くしているものなのかもしれない」と話す。
大学生と言うまだ人生半ばの焦りとか心の揺らぎだとかもう帰ってこない過去の出来事
そしていちずに人を恋する気持ち
私がこの物語を好きなのは
そういう喪ったものがいっぱい詰まっているからなのかもしれない
今月にはこの姉妹編『左京区恋橋渡ル』が出るらしい
今度の主人公はたっくんの友人山根君
こちらも楽しみな一冊だ
紙の本独女日記 1
2011/11/28 13:17
一人で生きることへの潔さ
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
長年介護した母を亡くし
15歳で愛犬リッキーを亡くし
その後迎えたヨーキーの女の子はなちゃんとの暮らしと
さまざまな出来事に対する思いが描かれたエッセイ
60代前半の自分を自らおばあさんと呼び
テレビに映るもっくんを好きな
はなちゃんに「ごめんね、年寄りのママは汚くて」といってしまう
作者はかわいい
犬や猫と暮らす幸せと
一人で生きて一人で死んでいくことへの覚悟や潔さが伝わってきて
思わずそうだよねと呟いてしまう
はなちゃんとの穏やかな日々が続きますように
紙の本おしまいのデート
2011/02/16 21:14
心優しい物語
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
男と女が二人で逢うことだけがデートではない。
例えばおじいちゃんと孫娘、教師と元教え子、男同士など、
そうだね、会うと心が弾み楽しい時間を過ごすことができるなら
それもデート。
出会うまでのわくわく待ち遠しい沸き立つ思いと
会っている間の楽しさと
別れるときの寂しさ、せつなさ。。。
この本におさめられている物語は
再会を約束するお話ではない
だから
おしまいのデート。。。
でもたださみしく切ないだけの物語ではない
私はこの中のランクアップ丼が好き。
さすが瀬尾まいこ
寂しいけれど明るい
心温まるものだけが残る。
紙の本第二音楽室
2010/11/25 17:54
ほろ苦く懐かしい思い出
3人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
落ちこぼれ鼓笛隊ピアニカ隊員たちの第二音楽室での様ささやかなでも大切な出来事を描いた物語をはじめこの短編集におさめられている物語たちは
みな懐かしい思春期の頃の肥大した自意識と友人との距離をうまくとれない
不器用さで傷つき籠ってしまう心模様を描いていて秀逸。
あのころのひりひりした
ほろ苦くそれでも懐かしい気持ちが
音楽に乗せてよみがえってくる。
佐藤多佳子の描く少年も少女も
あのころの自分を見るようで
思わず大丈夫だよと肩を抱きしめてやりたくなる。