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蹴りたい背中
2004/03/03 04:18
本当にいい小説でした
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こんにちは。三十代の男性です。
つい最近、仕事場の書棚にあった『蹴りたい背中』を拝読致しました。驚きました。拝読している間、筆者の魂の美しさに何度も感嘆しました。本当に心に残る素晴らしい作品です。それで、良き時間を提供していただいた筆者へのささやかな感謝の気持ちとして、主に作品の後半で印象に残った部分をちょっとだけ、書こうかなと思います。
夕暮れ時、ハツとにな川と絹代がコンサート会場へ急ぐ場面、気が付いたら、ハツが先頭に立って走っていた─というところ、実に爽やかでした。「身体が風に溶けそう。」というハツの気持ちはグッと胸にきます。もしあそこで、絹代がせっせかと先頭切って走っていたら、ガックリきますが。
堅苦しい言い方になりますけれども、ハツの疾走は、この世界でけっして妥協せず肯定的に生きる人々との出逢いに必ずつながるものだと思います。
また、混雑したコンサート会場の人込みに揉まれながら、ハツがにな川に、「痛いの好き?」と聞き、にな川が、「大っ嫌いだよ。なんでそんなこときくの。」と答える場面、素敵だと思います。この作品が単なる青春恋愛小説ではないという事を、如実に感じ取れるシーンです。なんというか、本当に清潔な人間の精神を暗示していると感じました。
それから、ハツが、にな川ばかり見ているところを絹代に冷やかされて「ゾッ」としつつも、眩いステージをじっーと観ているにな川を好きだと思う場面─いいですね。ハツとにな川が、このうえなき素晴らしい世界で一つになっている様です。
最後に、夏の夜明けの薄明かりの中、ベランダで、ハツがにな川の背中をチョコンと蹴る場面。非常に微妙な人間の内面の襞を表現しているところですが、いろいろと考えさせられました。─あれは、あたかも、ひとりの人間の魂を見ている感がします。フラフラになりながらも、人生をあきらめず、前のめりに生きたいと願う人間の魂です。
とにかく、本当に面白い作品でした。一読して胸底に深く残りました。たしか、筆者の綿矢さんは、このbk1の「筆者のメッセージ」欄で、本当の夏の光を信じている、という主旨の事をお書きになっておられたと思います。それも強く印象に残っています。
これからの作品も期待しております。心より応援しております。
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