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  3. なこさんのレビュー一覧

なこさんのレビュー一覧

投稿者:なこ

15 件中 1 件~ 15 件を表示

紙の本切羽へ

2008/08/31 12:08

大人の恋愛小説、なのかな・・・

2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

文学賞受賞作品だからって、万人ウケするものではないんですよね。
そのあたりを失念して本の帯に惹かれて買ってしまったけれど、
正直私には消化不良。。。帯の文句が良くも悪くも作為的な気がする。
どろどろ不倫・純愛ものか?!と思って手にとる人もいるだろうし、逆に
そういうのは・・・と敬遠する人には違うの?!じゃあ、と今度は手に
とるようになるってことがありそう。

いえ、読んでいて文章の流れはとても心地良いもので、すらすらと
読み進んでしまい、作家の技術というものに感嘆させられました。
主人公セイの友人・月江と愛人の「本土さん」や、セイが世話する
老女・しずかさんが死の直前に見る夢といった描き方が生々しくて、
セイの抑制された感情との対比が見事になされていたと思います。
セイとセイがどうしようもなく惹かれてしまう新任教師・石和以外
の部分は淡々としていながらも、それなりに読み応えがありましたよ。

でも帯にあるように惹かれ合う二人というわりに、あまりにも
あっさりしたせいか、セイが石和のことを気になっているのは
わかるけど、石和はどう思ってるんだ?というのが最後まで
私には伝わってこなかった・・・。石和って一体どういう人間なのかが
謎のまま。まあ読者の解釈にゆだねるってことなんですね。

作者は理由もなく惹かれることがあるっていうのを描きたかった
みたいですが、私にはあまりにも石和の人物像が輪郭すら感じられ
なかったので、この二人の恋愛というものに共感できなくて残念。
謎解きのエッセンスと思われるものがちりばめられながら、それは
そこだけで終わっていて特に後につながるようなものではなく・・・。
私の読み方が、こうなるのかな?こうなってほしいというエンタメ的な
ものを求める姿勢だから消化不良だったんでしょう。私には同じ直木賞
でも、村山由佳さんの「星々の船」みたいに渾身の力で書き上げました!
という力強さとボリュームを明確に感じられる作品が好みです。
そう、結局自分にとっていい小説って、自分の今現在の心の状態と
リンクするとか、作家さんの価値観に共感してしまうという好みで
決まってくるところがありますよねぇ。

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紙の本八日目の蟬

2007/04/18 12:56

心が伝わるサスペンス

5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

この作品は、’05年11月から読売新聞に連載された小説です。
連載前に新聞で紹介されていましたが、不倫相手の子供を誘拐
して逃亡する女の話ということで、さわりからして当時はどうも
暗くて重たそうな気がして、連載中は読みませんでした。
それが、このたびの単行本刊行にあたり、作者が’07年3月27日付
の読売新聞に寄稿されたものを読んで、久々に自ら本屋に足を
運んで購入し、一気に読んでしまいました。
角田さんが新聞に寄稿された中の最後にこう書かれています。
「人はみんな違う〜母になったとしてもならなかったとしても、
何かを持っていたとしても持っていなかったとしても、そんな
ことに左右されない強靭さを、私たちは持っているはずである。この小説を書くことでそういうことを考えたかったのだと、
ずいぶんたってから私は気づいた」と。私にはとても心にずしん
と響いた言葉でした。私も、何があっても根っこにある軸がぶれないような人でありたいと思っていますから。
物語は、作者が「スピード感を落とさないことを自分に課した」
というように、日付ごとに分けられた構成内容で、読むほうも
日付の感覚があいて次に進むと、まだ逃げられているんだ、と
妙に安堵する感覚を持たされ、作者の意図するところに見事に
はめられた感じです。
物語全般は、女性、母性といったことがメインテーマのような
気がします。でも母性には少なからず男性が関わっているし、
家族をはじめとした人と人とのつながりにも関わってくるもの
だと思います。主人公が奪った子の母親のように、子供を産んだ
からといって良き母親になれるわけでもない。父親になったから
といって妻以外の女性に興味が失せるとは限らない。
好きになった人に妻子がいても、相手が来れば拒めずに別れ
られない。主人公のように子供を産んでいなくても母性の
ようなものが生じることもある。
作者が寄稿の中でいうように、私たちはこういう環境ではきっと
こうなるはず、そうでなくては異常だ、という固定観念に
とらわれすぎではないでしょうか。
昨今やたらと叫ばれている格差社会という言葉もそう。
金銭的に平等で裕福であれば誰もが幸せになれるのは確固たる
事実なのか。
世界的にみても日本はかなり平均的に裕福な家庭が大半を占める
ことは周知のことだと思いますが、ならばなぜそういう家庭で
育った人による犯罪やトラブルが起きるのか。
つまるところ、人や物事を枠組みでとらえようとすると、本質
から反れる気がします。あるべきだと思い込んでいた枠組みから解放されたとき、何が見えてくるかは人それぞれでしょうが、「八日目の蝉」というタイトルのように、この本では物語に
おけるその何かがわかって、すがすがしい気持ちになります。

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紙の本優しい音楽

2005/12/18 17:02

きれいでうまいけど足りない・・・

3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

評判がいいということで読んでみました。
文章は確かに軽快で読みやすいし、物語の設定も実際には
ありえないようなひねりがあって、まあまあかなという感じ。
読後は前向きになれるとか、帯にある「受け止めきれない現実。
止まってしまった時間。」とか「だけど少しだけがんばればいい。
きっとまた、スタートできる。」といった言葉を全編通しては
実感できませんでした。
ただ、三話目はほかの二編に比べるとよかったと思います。
どの人物も、それぞれの場所で懸命に生きてるんだなぁ、といった
人間の生のリアルさや深みに欠けていて、正直面白みも魅力も
イマイチで、読後はなんだかすっきりしないもの足りさなを
感じました。
ちょうど平安寿子さんの「グッドラックららばい」を読んだ後だったので、
なおさらそう感じてしまったのかもしれませんが。。。
この作品で描かれる人物はどれも、いわゆるいい人とかできた人
といった型にはまるようなことはなく、逆に世間一般の人が
勝手に良いと考えている人間のあり方の中にはおさまりきらない。
好き勝手だけど自分らしくちゃんと生きている、そういう力強い
エネルギーを脈々と感じます。
対して瀬尾さんの作品には、平さんと同じようである必要はもちろん
ないけれども、文章からは、力強くなくてもほんわかでもじんわりでも、
人間が生きているというエネルギーがイマイチ感じられませんでした。
そんなことを感じる必要があるのかと言われれば、人それぞれの
感じ方の違いのせいというだけのことかもしれないけど、、、。
一話目は、悪くないけど伝えたいことが私にははっきりとわからなかったし、
二話目は、主人公の不倫相手とその父親の描かれ方があまりにも
あっさりとしているのが気に入らなかった(聴力障害者の奥さんとの
結婚の経緯とか、結婚を認めないのをありがちな理由で済ませている所とか)。
三話目の「がらくた効果」は、会話のテンポとか、人によって
知っていることが違うという賀詞と松の内のエピソードの部分は、
共感できるところがあったし、駅伝の繰上げスタートと佐々木さんを
ハモらせたところは巧いな、と思いました。
ただ、実際佐々木さんのような境遇の人間が、ああもすべてを
受け入れたように自分を変えずにおおらかにきれいに振舞えるもの
でしょうかね。もっと自暴自棄になって、もがき苦しんだ末に勝ち得る
希望のほうがリアリティーがあるし、人物に愛おしさを感じられて
私は好きですけど。きっと好みの問題なんでしょうね。

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浅くもなく深くもなく

6人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

多くの日本人が持っているブランド品については、
随分前から何だか変だな、と思っていたのでこの本の
タイトルを見て迷わず買ってしまいました。
例えばスーパーでたまに見るトレパンにヴィトンの
バッグスタイルとか(服とバッグの値段の差額に
不釣合いは感じないのか?)、明らかに10代の子が
持つエルメスやシャネルのバッグとか(自分で稼いだ
金じゃなかろうになぜ得意げなのか?)、これだけ
持ち主を選ばずに蔓延しているブランドのどこに
価値があるんだろう・・・と。
タイトルは、最近流行っているような言い回しで
ちょっと安易だなぁ・・・と思いますが。
内容をかいつまんで述べると、ブランド品の成り立ち、
欧米人と日本人の客層と買い方の違い、商業ビジネス
としてのブランド品の成功と喪失、日本社会と個人の
成熟度のギャップ、といったところでしょうか。
日本人の異常なブランド好きは精神的未熟さの表れとか、
欧米人は自分がブランド品に見合う価値があるかどうか
を見るとか、ブランドの供給側にもその価値を下げた
一因はあるとか、ブランド発祥の地で生活している著者
の指摘であるので、確かにそうですねとは思います。
が、特別目新しい視点や分析でもなく、言葉の表現が
とても優等生的なせいか、なるほど!とまで思うほどの
内容でもないかなと。参考文献の多さからさぞかし
勉強なさったと思うのですが、どうしても言葉から
著者の顔が見えてこなくて、物足りなさを感じました。
なんというか、昔自分が学生時代に提出していたレポート
みたいで、、。当時の私は、課題について深く掘り下げる
作業を面倒がって、参考文献の言葉を組み合わせた内容
のレポートを書いており、なぜかこの本を読んで当時の
そんな私を思い出してしまいました。
とはいえ、悪くない内容ではあるかと思います。
この本で日本人のブランドに対する執着がなくなる
わけでもないけど(もしなくなったら各ブランド会社
は軒並み倒産?!)、もっともっと日本社会に浸透
してブランドに飽きた時、モノではない自分自身に価値
を見出していくのか、相も変わらず新たなブランド戦略
に踊らされ続けるのか。どちらに多くの人が転んで
いくかによっても、あらゆる面で豊かになったが
ピークを過ぎ去った日本社会の行く末は変わるのかも
しれませんね。

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紙の本小説エマ 1

2005/06/21 20:02

原作漫画をより濃厚に味わえる

3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

舞台は19世紀末の英国ヴィクトリア王朝時代末期。上流階級に名を連ねる豪商・ジョーンズ家の長男ウィリアムと、彼のかつての家庭教師の家で働くメイド・エマの身分違いの恋物語です。原作の漫画をより緻密に描いた小説版です。
この作者の、絵だけで登場人物の心情を物語る表現力も絶品!なのですが、小説では彼らの心情が言葉で描かれるので、物語の時代背景や実生活がより具体的な風景として見えるところが味わい深くて、いっそう「エマ」にはまってしまいます。小説の著者・久美沙織さんもかなり勉強されていて、エマのメイドとしての仕事ぶりなど、丁寧で目に浮かぶようによくわかります。私は朝のコンロの大掃除について語られている部分など、結構好きです。掃除が嫌いな人にはわからないだろうなーという掃除の醍醐味まで書かれていて、マニアックな喜びがあります(笑)。
また、漫画だけではわからなかった、当時リネン類に使われていたラベンダーの香りの描写も、ウィリアムがエマを想うときのいいスパイスになっていて、小説版ならではの心憎い表現だと思います。当時の階級の壁の厚さ(所詮、一時代でしか通用しない一部の人間が勝手に作り上げた自己満足の極致だと思うんですけど、そういうのが最もやっかいなんですよね・・・)もさらに理解できるし、今後ウィリアムがその壁を乗り越えて自分の思いを貫いていくのか、エマはどうするのか(といっても彼女にできることは身分的に限られてしまうような気はしますが)楽しみでなりません。
個人的には漫画を読んでから小説を読むのがオススメです。

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日本人が気づかない日本人の事実

2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

この本を読むまで、日本人て宗教観念が薄いし、他の宗教の信者みたいにあらゆる物事に縛られていない、自由だけどちょっと軽薄で尻軽な民族かもなぁ、なんて漠然と思ってたことがとんでもない間違いだということを思い知らされました。

言霊(ことだま)。宗教ではないけど、本当に今までまさか自分がこういうものに支配されているなんて自覚したことはありませんでした。読み終わった今でも、観念的に支配されているという実感はないけど、もしかしたら洗脳ってこういうことなのかもしれないと思うと、ちょっとコワイですね。

入り口としてわかりやすかった例が、日本ではなぜ「意見」に対して「責任」が問われるのかとか、結婚式での言ってはいけない言葉とか。意見は意見でしかなく、言葉は言葉でしかないのに、それを言ってしまうと現実にそうなってしまうから言ってはダメっ、という考え方の不思議と私たち日本人
にとってはごく当たり前であることの矛盾。そう、特に結婚式では言ってはいけない言葉が多い。縁起が悪いとかで。でもそれに疑問を抱く人はどれくらいるでしょう? おそらく、特に年配の人になるほど疑問を抱くことのほうが疑問だろうと思われます。

ほかにも、敵性語追放の無意味さや言葉の言い換えの罪深さ、太平洋戦争の予測記事の存在(これ全然知らなくて驚愕といってもいいくらい)、平安時代における政治の実態が歌を詠むことであることの客観的な理論付け(これは個人的にものすごく納得)、など自分が学んできた歴史の真実が、今頃になって「そうだったのかー!」と納得できる興味深い内容が、わかりやすく検証した上で説明されています。
現在の政治的なところでは、自衛隊の存在の矛盾や有事を想定しない法律の危険という、作者の思いとは裏腹に今もあまり状況は変わっていないことへの、当時からの警鐘も述べられています。

作者は言います。「トラブルの想定を避け、一種の思考停止をし、戦争を言挙げ(起きてほしいことを口にする行為)するような事物を敬遠し、「平和よ来い」と叫べば平和は実現するのか? それは雨乞いと同じことだ」と。

私、学生の頃から歴史というものになぜか心引かれるんですよね。なんでかって、過去の人間の行いを知ることで、昔の人に敬意を抱いて謙虚な気持ちになれたり、昔の人が犯した過ちから学べば、今をより良く生きていけるんじゃないかと思うから。特に後者を実践するには、事実を事実として正確にとらえ、臭いものにはフタをしろ!的な考え方ではダメですよね。作者が説くように、なぜ臭いのか、臭くならないためにはどうしたらいいのかと考えて行動することが、真にその事実に向き合って克服できることにつながるんでしょう。

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作者の思いも伝わる楽しい作品でした

3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

物語はついに完結に向かいます。エレインもマティアスも散々お互いのことで悩み、葛藤してきたけど、最後にとても重い選択を迫られます。その選択の結果は…結局、悩んでいるその何かとちゃんと向き合って葛藤しない限り、後悔のない正しいと思える答えは得られないんだよね、とすごく納得させられました。

ちなみに、ミシェルは最後までかなり重要な役割を担うことになります。ミシェルの自分のやるべきことをごく自然に受け入れられる所が好きです。すべては単純にエレインのためになるならというところからきていますよね。こういう人はもしかしたら恋人という存在よりもとても得がたいかも。

ストーリーの根幹のひとつに、キリスト教対ケルト信仰といった構図があります。が、要はキリスト教という信仰の力をより確かなものにしたいと願う人と、失われた古代のケルト信仰の復活と安住の地を求める人の願いが交錯しているということでしょうか。対立という言葉を使うと、どちらがより優れているかとか争うイメージになりますが、この物語では争うことのないよう、古の人々が知恵を絞って選択した、あるひとつの解決方法を示しています。昔の人のほうが考え方がシンプルで合理的といえるかも、と思ってしまいました。時が経つと人間ていろいろと余計なものを背負い込んで、本質を見失ってしまうものなんだなあ…と。

もちろん、これは現実にあるものを元にした作者の創造の物語なんだけど、私は作者の考え方をとても好ましく思います。
だって、どちらかが勝つか負けるかなんて争い、宗教の場合は特に不毛ですよ。世界に存在する人の数だけ物事に対する考え方や思いがあるわけで、互いを否定しながら自分の理想を確立していくなんてキリがないし。
やはりいつの時代でも、その時その時の流れを感じ取って、他を受け入れる寛容さは持ち合わせていたほうが選択の幅が広がって、結果的に賢い選択もできる可能性も増えるのではないかと。

見た目はケルト信仰は人々から忘れ去られ、キリスト教が支配しているというふうに映っても、キリスト教の信仰の中に都合良く解釈は変えられていても、そこには確かにケルト信仰の習慣は残されているんだし、エレインが願うように、「日常の風景に神秘的なものを感じて心を動かされる人がいるなら、ケルトの想いは受け継がれていくんじゃないかな」というのも考え方のひとつでしょう。目に見えるかたちを大事にするか、目には見えないけど受け継がれていく人の想いを大事にするか、という考え方の違いはあるでしょうけど。

物語のしめくくり方はやっぱりちょっと寂しいけど、これが一番ふさわしいんだろうな、と。いや、ほんと人物の心理描写は丁寧で鋭いし、ストーリーもなかなか奥が深くて、謎解きもとても楽しめましたよ。過去と現在のつながり方も納得がいくし、登場人物の配置にも無駄がなく、それぞれが存在感を放って魅力的な物語でした。いくつになってもファンタジーはよいです。

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紙の本魔女の結婚 星降る詩はめぐる

2005/02/16 19:19

望みはめぐる

2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

今回の話のキーアイテムは“タリエシンの車輪”。
新たに、伝説のドルイド(神官)と言い伝えられるタリエシンを名乗る人物が登場します。この人の願いは、キリスト教に対抗し、ケルト信仰が失われずに力を保ち続けられていくこと。その行動のすべては、女神とケルトの民のためというが、マティアスは「それはあんた自身の欲望のためだろう」と一蹴。みんなのため、という言葉は実は自分の望みの裏返し。
なるほど、確かにそうともいえますよね。この物語を読んでいると、言葉の重みとか人を惑わせる魔力とか、言葉の持ついろんな影響力に気づかされて、その深みに心地よくはまってしまいます。

もう一人、エレインにやたら執着するあのダイルも再登場。とにかく懲りない人、とだけいっておきましょう。まあ彼も運命に翻弄されて自分を見失ってちょっとかわいそうなんですけどね。

舞台はまたも過去。それもエレインの母となる人物が生きていた時代。エレインとマティアスは過去のある場面に遭遇し、エレインは流星車輪を持って生まれた自分の存在の意味がわからなくなり、混乱しつつも、とりあえずマティアスを守るために行動しようとします。

本当に誰かを好きになったとき、一番怖いのはその人を失ってしまうことでしょう。エレインはマティアスを失わないために、ダイルの思い通りにさせないために、マティアスに流星車輪の力を正しく操れると伝えられているドルイドの王になれと迫ります。その前に、つい勢いでとんでもないことを迫ってしまうんですが…。
マティアスの答えはノー。黒魔術師で運命の異分子だと思っている自分はふさわしくないと。
そうしてエレイン自身も受け入れられずに拒絶する一方で、そばにエレインがいないのもなんだか不愉快に思う自分に戸惑います。エレインも自分を支えてもらうために、マティアスに一方的な気持ちを押し付けようとしたことを後悔します。

互いに中途半端なまま、また離れ離れになってしまう2人なのでした。

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紙の本魔女の結婚 永遠の夢見る園へ

2005/02/01 20:11

テーマは“願い”

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

古代の強大な魔力“流星車輪”を内に秘める少女・エレインと、その師匠であり“流星車輪”の使い手でもある魔術師・マティアス。二人の関係は相変わらず微妙で互いにはっきりした絆も見出せずに旅を続けています。が、今回のお話では、前世でエレインの守り手で今もエレインを守るために行動を共にする少年・ミシェルにスポットが当てられています。

ミシェルは、過去に自分が生活のためとはいえやっていたことをエレインに知られたくなくて、不本意ながら昔を知る仲間・ホリータの計画に協力してエレインをだますことに。素直で単純なエレインは、その計画に便乗してやってきたマティアスにもまんまとだまされ、すぐ誤解は解けたものの、遠い過去からやってきた自分の存在の不安定さを改めて感じさせられます。だから、いつも一番近い存在であるはずのマティアスに、自分の存在の確かさを求めるのですが…。

自分の過去のためにエレインを守ることすら迷うミシェルに、マティアスはその単純明快な選択を思い出させます。そしてアートは、「時代を超えて、信仰に関わらずエレインただ一人を守れるかどうかの試練に打ち勝った」と言葉をかけます。本当にそうなのかはもちろん誰にもわからないけど、要はその人がいつもその時その時で最善の選択ができるように、都合のいい解釈をすることもアリですよね。

ところでストーリーのメインは、何でも願いが叶うという「ゆめみの森」。そこは古代の神官ドルイドたちの、ドルイドの証としての呪具“車輪”が選べる場所。マティアスはエレインを追って入り込んだゆめみの森で、自分の車輪を見つけます。同時にそこにはエレインもいて…。そのときの彼の選択はもちろん先読みできるのですが、そうするまでの彼の素直じゃないところと、結局そっちを選ぶんだね、という選択の結果にはちょっとにんまり。

だんだん謎めいた行動を見せるアートがこう言う場面があります。「必ず叶うなんて願い事はするもんじゃない」と。人は願いをコントロールできないから。願いが叶うことで生じる大きな変化がもらたらす結果を想像することは難しいから。
そういわれてみれば確かに、昔はどうしておとぎ話みたいに願いが叶うことがないんだろう、と空しく思ったりしたこともありますが、今では何でも願いが叶ったら、その後に起きる何かを想像もできないし、当然その何かに対して責任が持てないだろうから、願いなんて簡単に叶わないほうがいい気がします。それに、自分で何の努力もせずに自分の都合のいいことを願うだけでは単なる現実逃避だし、そんなことばかりしていても現実は少しも自分にとっていいものに変わることはありえませんしね。

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紙の本魔女の結婚 熱き血の宝石

2005/02/01 19:23

離れてみてはじめてわかること

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

古代の巫女姫・エレインが持つ強大な魔力である“流星車輪”。それを手に入れて利用することで理想の王国を築こうとするヨセフ騎士修道会からの追跡を逃れて旅を続けるエレインと“流星車輪”の使い手である魔術師・マティアス、エレインの守り手として行動を共にする少年・ミシェルと、バードとしてマティアスにつきまとう謎の青年・アート。

ここでは、またひとつ過去の出来事の新たな事実が判明し、エレインがマティアスを助けるために、マティアスと離れてヨセフ騎士修道会に身を預ける選択をしたことで、エレインは彼への気持ちをようやく自覚して認めます。エレインの自覚を助けるために、ソニアという謎の女のある男への想いが絡められているところが、巧妙だなぁと。
そしてマティアスもそばにエレインがいなくなって、はじめて彼女の存在の当たり前さに気づきますが、そんな自分をやっぱり認めずになんだかんだと理屈をこねて、結局はエレインのために行動を起こします。
なんてややこしい奴…って思うけど、そういう不器用さがまた魅力のひとつなんでしょうね。エレインを連れ戻すところも、ちょっと子供っぽくてかわいいかも。

「人の心と選択と、その結末はいつだって矛盾だらけ。だからバードは物語を詩う。結末だけ伝えたって大切なことは伝わらない。」
アートがマティアスへ投げかけたこの言葉は、本当にその通りだと思います。結果だけを見てそこに至るまでの過程を知らずにあるいは想像もせずにいたら、本当のことが見えなくなって、正しい判断ができずに、たとえば誰かを誤解したまま一生を終わる、なんてこともありえますよね。

この作品すべてに、こういった心に直接響いてくる言葉がたくさんちりばめられていて、そういった意味でも読み応えがあるし、謎解きをしながら読み進んでいく楽しさもあります。

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紙の本魔女の結婚 月蝕に時は満ちて

2005/01/26 20:21

謎をとく“鍵”となるキャラも登場

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古代の巫女姫・エレインとなりゆきで彼女の師匠となった魔術師・マティアス。そして前世で女戦士としてエレインの守り手だった少年・ミシェル。マティアスについてくるバード(吟遊詩人)・アート。マティアスの今は亡き兄弟子の息子であり、侯爵家の跡継ぎでもある少年・ステファン。前作まではこのメンバーでの旅が、とりあえずみんな一緒に様々な困難に立ち向かって行くという感じで続くのかな、という勝手な印象が漠然とあったけど、そうではなくて、もっと一人一人の内面に奥深く入り込んでいくかたちで、それぞれが追いつ追われつ目指すゴールに向かって旅していく…という方向性のようなものがはっきりしてきたように感じました。

本作の時点では、やっとストーリーの中盤というところでしょうか。
実はラストまで関わってくる重要キャラや、エレインの生みの母である巫女・メイシー、彼女を慕い、悲哀と執念に満ちた大賢者、マティアスの父親、謎めいた言動を見せ始めるアート、それぞれが現在に結びつく過去の時間で、神によるものなのか、大きな力に巻き込まれていきます。

マティアスとエレインも相変わらず進展があるような、ないような…。
エレインの求める運命の結婚のことを考えて、彼女を側にずっと縛っておくわけにはいかないともっともな理由をつけて、時折冷たく突き放すマティアス。エレインは、マティアスにドルイドと車輪というかたちでのつながりはもちろん、互いをもっと信じ合いたいと願い、彼のそっけない態度にいちいち悩みます。そんなエレインと一緒にいる時間が長くなるほどマティアスも自分の中での葛藤を深めていきます。
そしてマティアスは、自分の忌まわしい過去の最たるものである父親との対決で、エレインを助けるために、今までなら絶対にしなかった自分の身を削るような行動に出ます。

一作ごとに、本人たちにそのつもりがなくても、二人が離れられなくなるような決定的な場面がうまく演出されているところや、メイシーの切ない言葉が再現される場面の自然な流れとか、読んでいて楽しいですね。

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素直になれない二人

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今回は、無垢でとかく男女のことに世間知らずな主人公・エレインが
ちょっと現実を知って傷つき、怖れを知ってしまいます。一応少女小説
だし、結婚というタイトルなだけにその辺をあいまいにして非現実的な
話で進められたら、ちょっとがっかりしていたけど、これなら今後も
期待できそうというところでしょうか。

エレインとは対照的に、異性には嫌悪と軽蔑を抱いている領主の息子の
一人・ハインリヒもなかなかいい味を出した登場人物の一人だと思います。
私などは、そんな嫌悪を抱いている女性からしか、自分を含めて人は
生まれてこないのに…と意地悪く思ったと同時に、それだけ純粋
で自分が傷つくのが恐いんだろうなとも思いました。きっといろいろと
深く考えてしまうタイプなだけに。

それは、エレインの師匠である魔術師・マティアスにも言えるのかも
しれませんね。もっと単純に自分の気持ちに素直に従えばいいんだけど、
その気持ちがあまりにも自分のこれまでのものとかけ離れていたもの
だから、戸惑い、自分の向き合うことを拒否しています。
エレインにしても、自分が相手にどう思われているか、相手の考えている
ことがかなり気になっているんだけど、これまた素直になれない。
ま、こうでなきゃ物語は続いていかないんだけど、その引っ張り具合、
じらし具合がなかなかうまいかも、と思いました。私は結末を意地でも
見届けてやる、という気になってしまっています。

物語はこの辺から、キリスト教や古代の神々に関する伝説とその
アイテム、アイテムの担い手の存在、魔女狩りを行う修道会の追跡の
始まり…とこれからの展開とその謎解きが期待できる枠組みが
はっきりしてきます。

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意外と面白くてうれしい誤算

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タイトルからすると、結婚を夢見る少女の結婚までの単なる恋愛もの?
でも魔女というからにはそれだけでは終わらないかも、と期待半分で
読み始めたのですが、これがなかなか面白くて一気にシリーズすべてを
読んでしまいました。ストーリーの構想もしっかりしてるし、登場人物
もわりと不器用で愛すべきキャラだと思うし、心理描写もなかなか奥が
深くて、コバルト文庫に超久々にはまってしまいました。

この巻は、主人公である古代の巫女姫エレインの出生の秘密の一部が
明らかになり、後の巻でわかる詳細につながる布石ともいえる部分が
描かれています。彼女の運命の相手として登場するダイルも、シリーズ
の最後まで関わってくる結構重要人物です。
過去と現在を行ったり来たりする部分が多いのですが、なるほど!と
つじつまが合うのに納得できるところも結構面白いと思います。

エレインと師匠の魔術師マティアスの関係は、恋愛モードとは言えない
けれど、互いの存在の必要性が、自覚はないまでも確かなものになって
きたか?という今後の展開が楽しみな感じですね。

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紙の本恋ほおずき

2005/01/12 20:16

バランスのとれた時代小説

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時代小説の中でも男女の情愛や事件が絡んだものを好む私ですが、この本に興味を持ったきっかけは、子堕ろしを行う女医者という存在です。きっと今以上に望まない妊娠をしたであろう時代に、どんな人がどんな思いでいたんだろうなと。あと、江戸という時代に描かれる人物や日々の暮らしが、現代に比べてずっとシンプルで親しみやすくて好きなんですね。人々との何気ない会話など、平凡と思われる日常生活こそが貴重だと実感できるところが。

主人公の女医者・江与自身、身分違いの恋、不本意な子堕ろしというつらい経験を持ちながらも、さまざまな事情を抱える女性の堕胎に、複雑な気持ちで手を貸しています。ある日、同心の清之助と出会ってからはよりいっそう自分がしていることに疑問を持ちながらも、物語の終わりには、御法度の取り締まりが厳しくなる中で女医者であり続けることの覚悟が自然にできています。そこに至る過程で、悲しい女たちや身勝手な男たち、家族の話や事件と江与の気持ちの絡ませ方が、必要以上に浅過ぎず深過ぎず絶妙のバランスで描かれていて、うまいなぁという感じですね。

個人的には、遊女の喜蝶や平吉の描き方がとても好きです。ちゃんと遊女の言葉遣いで、当時の風俗の正確な様子が容易に想像できるし、江与の思いを通して遊女の行く末に思わず悲哀を感じます。平吉も、江与から手紙の使いを頼まれてからは、かっぱらいから一転、親分の子分にまでなって人の手足となって働くようになります。江与が何気なく頼んだ使いが、平吉に自分の存在の確かさを感じさせ、自信を持たせたんだと思います。誰も自分を必要としてないと思っていたから自暴自棄になっていたんだなと。こういう子には江与みたいな大人が手を差し伸べることも必要なんでしょうね。

清之助と江与の恋については、結ばれることはないのに、二人を不幸だとか悲しいということは感じませんでした。それは、二人のお互いに対する気持ちを貫こうという強い覚悟のせいだと思います。現代の言葉で言えば、二人の関係は不倫になるんだろうけど、そういう俗っぽい言葉が全くあてはまらない気がします。当時は恋愛もろくにしないまま結婚していた時代だろうし、結婚後に恋する相手に出会ってしまうことは仕方のないことかもしれないなあと。私は清之助の力強い言葉と江与の素直でまっすぐな気持ちにすがすがしささえ感じました。

この物語の軸として子堕ろしの是非が存在しますが、どこかの国のように中絶は罪と一方的に決めつけるのは、自分の無知や浅はかさを露呈しているようでみっともないなぁと思いますね。中絶の背景には、貧困あるいは豊かさからくる社会生活の環境悪化や人間のモラルの低下といった、広く深い根がはびこっているからじゃないの?って。
清之助のように、今まで自分の知らなかった世界があることを知れば、命の選択を人間がしてしまった後に生じる悩みの深さに対して、起こってしまった結果に、善悪という二者択一の方法で解決しようとする安易な考えに疑問を持つと同時に、でもどうすればいいのかわからない、という苦悩も生まれます。人間社会においては、何事もある程度の法規制は必要だけど、それだけでは問題解決にならないということを、人は知っておくべきだということなんでしょうね。

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それでもやっぱり魅力的

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今回は面白くないという意見も多く?!ありますが、私はファンタジーとして、あるいは思春期の少年が等身大に描かれた点においては、やはり魅力的な本だと思います。
今度のハリーは自分の理想と現実のギャップに悩まされ、また信頼できると思っていた大人たちの考え方や振る舞いに対しても、これまでになかった疑問を抱くなど(スネイプは別…)、大人になるために必要なさまざまな葛藤と闘っているように見えます。そう、大人だって悩み、迷い、間違ったりするんですよね。私などは、まさに中学生の頃の自分がハリーのように大人への不信感を抱いたり、人を批判することで自分を優位に感じて安心したり、かと思えば些細なことで自己嫌悪に陥ったりの繰り返しで、周囲の人にもいろいろ不快な思いをさせた経験があります。今思えば、自分というもの(アイデンティティー)を何とかして確立しようともがいていたのかなあ。
また、ハリーは自分に対してだけでなく、ロンやハーマイオニーといった親友に対してもたくさん八つ当たりしています。こういう姿が共感できないという人もいますが、私は八つ当たりできる友達がいることはすてきなことだと思いました。だって、大抵は相手に嫌われないように振舞ってしまうのでしょうか。つまり、八つ当たりできるほど親密で、ちょっとやそっとではお互いの関係が壊れないということが根底にある、もうまるで家族みたいにお互いが当たり前な存在ということでしょう。さらに今回は大人達の秘密主義のおかげで、自分達だけでも何とかしようと、ハリー達に同調する友達がたくさん増えていったことも、今後の物語の楽しみでもありますね。あと、フレッドとジョージの行動もスカッとするし、マクゴナガル先生をはじめ先生方の、魔法省から来たアンブリッジに対する振る舞いや、いたずらを認めるようなお茶目な場面も笑えて結構好きです。ただ、彼が逝ってしまったのはほんとに悲しくてハリーを不憫に思わずにはいられませんでした。
総じて、今回は今までのようにクウィディッチなどのスピード感ある場面が少なく、少々物足りなさも感じないでもないですが、その分ハリーの内面(確かに癇癪ばかり起こして嫌気がさすほどかもしれませんが、思春期とはそういう時期で、いつまでも聞き分けの良い子ではいられないんです)や多くの登場人物に目を向けられていて、物語としては丁寧に描かれていると思います。長すぎる!といわれたりしますが、私は逆にこの物語が早く終わってしまうのが寂しく、できるだけハリーの世界に浸っていたいので長くて結構!という感じです(笑)。

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