あすにゃんさんのレビュー一覧
投稿者:あすにゃん
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失われゆく鮨をもとめて
2006/11/30 17:00
「鮨」を通じて見る世の中。
5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
ジャンルでいうと料理や食品に限定されそうなこの本だが、決して「グルメ本」ではない。そして「鮨」にありがちな、高級店を食べ歩くような評論本でもなければ、鮨のいろはを学ぶ指南書でもない。これは、真っ直ぐ、そして真摯に「鮨」と向かい合い、「鮨」を通じて人間、社会、環境を描くノンフィクションストーリーだ。
鮨好きの著者は、数ある鮨屋を食べ歩いていたが、ある時こぢんまりとした鮨屋を発見する。場所は銀座でも築地でもなく、目黒のとある住宅街にひっそりあるという。そこで出会った鮨、そして食事の数々は今までの概念を一瞬にして覆すような、まさしく「世界一幸福な食事」。その店の親方とそこで出される鮨に瞬時にして魅了された著者は、その鮨屋の秘密と技、そして哲学を知るべく、日本各地へ旅に出た。北は北海道・利尻。そして南は奥志摩へ。親方が全国から仕入れる魚、貝、そして数々の食品とそれを生み出す人々を自分の目で確かめるために、著者は現地取材を繰り返したのだ。そこで聞く漁師や生産者の話には、どれも共通するものがあった。それは、食材への計り知れないこだわり、愛情、そして食への哲学。更には、海洋汚染や干潟の減少等、食材をとりまく環境悪化という危機的状況を身をもって感じているということだ。とりわけ、海の汚染や地球温暖化は、相当なダメージを漁業にも与えているという。また、自然的要因だけではなく、海の命である魚や貝などを、後先のことも何も考えずに根こそぎ奪っていく漁業者達の存在もある。親方のこだわりは、鮨ダネとなる海産物だけではない。米、酢、芥子、酒、氷など。全ての食材は、徹底して選び抜いた「本物」であり、それを生み出す生産者の熱い情熱とこだわりは狂気すらはらんでいる。それは、ただ単に「食べるもの」を作るといった考えを遥かに超え、命であるひとつひとつの食材を大切に扱い、そして最高の良さと美味しさを引き出した上で、きちんと客に美味しく食べて頂くというところまで考えられている。そしてその最高の食材を、余すことなく、感謝の心を持って、丁寧にそして愛情を込めて料理をするのが、この目黒の親方なのだという。江戸っ子である親方のこだわりと人情は、今すでに忘れかけられている日本人の心意気のようにも感じる。食材という命を大切にし、食の重要さを説く。その哲学と心意気には、私も恐れ入った。
折りしも最近、マグロの漁獲高をめぐって、世界中で様々な議論がなされている。とりわけ「マグロ大国」である日本には死活問題なのだろう。しかし、問題なのはマグロだけではない。いまや全ての魚介類が既に危険にさらされている。そういった意味でも、「鮨」を通じて、海洋生態系や地球温暖化などの環境問題までを掘り下げ、同時に「食育」についても訴えているこの本は、非常に貴重であると思う。著者の先見の明に敬服したい。
木を植えよ!
2006/11/28 15:00
抜群に濃いこの一冊。入門編としてもぜひ。
5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
いまや「3000万本の木を植えた男」として名高い植物生態学者宮脇昭氏(横浜国大学名誉教授)による最新刊。私は今まで著者の書物を沢山拝見してきたが、これほどまでに圧倒され、そして独特の哲学に畏敬の念を覚えた本はない。おそらく、もっともベーシックで、もっとも初心者には読みやすい内容なのだが、実に実に実に深い。世界中で1500ヶ所、3000万本以上の木を植え続けてきた著者は、もう単なる科学者ではなく「森を歩き、森を生み出す哲学者」に他ならないのだろう。圧倒的な知識、そして現場での体験を基に生み出される数々の言葉は、まさしく「哲学」だ。この本には、これら宮脇昭の独特な哲学と、現場で体で吸収した論理や知識がぎゅっと凝縮されている。過去に出された本でも、土地本来の木の大切さや、木を植えることの重要さなど、何度となく説かれているが、この本では生物学的、植生学的な少し難しめの話といったよりも、どちらかといえば、人間が生きていく上でどう森と共生していかなければならないのか、そしてそのために今私たちが何をしなければならないのかといった点に重点が置かれているような気がする。なかでも、私が一番納得したのは第3章の「人間にはなぜ森が必要か」だ。全体を通して深いが、ここはとりわけ濃い。地球上の全てのものはもともと「植物」から生み出され、その恩恵を受けて人間も生物も生きている。その命の源である植物、森をどう守り育てていかなければ、人間の命が絶えてしまうのかがよくわかる。そして、どんなに人間がおごっていても、結局人間は「緑の寄生者の立場でしか生きていけない」ことがよく伝わってくる。そんな緑の寄生者の人間が、これから地球上で命を絶やさないためには何をすればよいのか。それは、自分の足元からできるドングリ拾いに始まり、木を植えることであると著者は熱く説く。自分の家や地域でどうやって木を植え、育てていけば良いのか。それまでもが写真などでこと細かく解説され、本を読み終わる頃には自分でもドングリを育てて苗木を植えたくなってくる。そして実際、この本どおりに取り組めば、自分の庭やベランダでも苗木を育て、いずれ自分の命を守る木に成長するのだろうと思う。 数々の書物を出されている著者のシリーズとしては、一番入りやすく、非常にお薦めしたい一冊だ。また、これからより一層著者の活動や哲学、植樹について学びたい方には、ぜひ著者のとんでもない破格な人生を描いたノンフィクションストーリー『魂の森を行け』(集英社インターナショナルor新潮文庫)を併せて強くお勧めする。二冊でより一層深く、楽しく理解することが出来ると思う。また、写真やイラストをよりお望みの方には、『苗木三〇〇〇万本 いのちの森を生む』(NHK出版)もお薦めしたい。いずれにせよ、入門編としてはどれも秀作。ぜひいずれも読んで頂きたい。
いのちの森を生む 苗木三〇〇〇万本
2006/10/31 17:46
入門編として、ぜひ。
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
「3000万本の木を植えた男」として、日本だけではなく世界中からひっぱりだこの植物生態学者宮脇昭先生(横浜国立大学名誉教授/78歳)がこの本の著者。2005年の春にNHK番組「知るを楽しむこの人この世界」に連続8回出演され、そのときのテキストが『知るを楽しむこの人この世界 日本一多くの木を植えた男宮脇昭』(NHK出版)であったが、その後の大反響に応えて、大幅に加筆修正して生まれたのがこの本『苗木3000万本 いのちの森を生む』だ。もうすでにテキストのほうは絶版らしいが(そもそも限定発売?)、こちらは単行本として発売されているので、テキストを買いそこねてしまった方にはこちらをお勧めしたい。
内容としては、そもそものテレビ番組にあわせた構成とはなっているが、これだけでも十分すぎるほどの充実ぶりである。しかも、平易な言葉で述べられているので、実に易しくわかりやすい。宮脇昭先生の生い立ちや、研究内容から、日本の森の状態、そして日本が誇る「鎮守の森」を守り育てていくための方法が、詳しく面白くまとめられている。とりわけ文字だけではなく、写真やイラスト、また日本の潜在自然植生図が盛り込まれていることも、重要なポイントだ。文字を読み、写真を見ることで、ますます世界中で森を生み、蘇らせてきた宮脇先生の偉業と並々ならぬ信念が伝わってくる。そして、自分でもドングリを拾い、苗木を育ててみたくなる。
著者の本はすでに何十年も前から何冊も発売されているが、その中でもこの本はトップクラスの充実ぶりだ。まず入門編としては、この本と『鎮守の森』(新潮社)、『魂の森を行け』(集英社インターナショナルor新潮文庫)を読めば完璧だろう。それぞれ違う角度から宮脇昭という人物と自然・森づくりについてを深く深く知ることができる。ぜひいずれも読んで頂きたい。
魂の森を行け 3000万本の木を植えた男
2006/10/30 09:33
全ての人に読んで頂きたい、大切な大切な一冊。
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
今から約2年8ヶ月前に発売された『魂の森を行け−3000万本の木を植えた男の物語』が、今回新潮文庫として出版された。内容は、植樹界のカリスマであり、ブループラネット賞受賞者である宮脇昭先生(横浜国大名誉教授/御年78歳)のとんでもない人生を描いた超痛快ノンフィクションストーリー。宮脇先生は生涯にわたり、「ふるさとの木によるふるさとの森づくり」を提唱・実践し続け、国内外で1500ヶ所以上もの森を蘇らせている。今まで、世界中の人と一緒に植えた木の数は3000万本を超え、最近では「3000万本の木を植えた男」としても名高い。そんな世界中の森を再生させてきた、破格で壮絶な人生を描いたのが、この『魂の森を行け』。決して、環境や自然に興味がある人だけに向けられた本ではない。意外と文系の人のほうが理解しやすいのではないかとも思う。植物を知らなくても、環境問題を理解していなくても、全く問題はない。誰にでもわかりやすく、楽しく読める本なのに、極めて勉強になる一冊だ。おそらくは、中学生位からでも読めるとも思う。しかも自然や環境の事だけではなく、人間としてどう生きていくか、これからどう日々の生活を送っていくのかという、哲学的アドバイスまでもが凝縮されている。それは例えば「混ぜる、混ぜる、混ぜる、好きなやつだけ集めない」、「本物とは厳しい条件に耐えて長持ちである」、「過去も夢、未来も夢、今この瞬間生きていることだけは事実」など珠玉の言葉たちだ。森や自然、環境に興味がある人はもちろん、ぜひお子さんをお持ちの方にも読んで頂きたい。これから生きていく上で、どう命を大切にし、どう社会の中で生きていくのか。そして、そのためにはどう自然と向き合い、自分たちが何をしていかなければならないのか。そんなことを宮脇昭という人生を通じてダイレクトに教えてくれるような、本当に素晴らしい一冊。ぜひともご一読を。
小沢征爾サイトウ・キネン・オーケストラ欧州を行く
2004/08/27 09:21
心地よい音と心地よい時間
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読み終えたらなんだかすごく心地の良い、ほわっと暖かな気持ちになりました。
著者の一志治夫さんが生み出す文章は、いつもすごく素敵です。過去の作品も読んでいますが、いつもキレがあって、かっこよくて、気持ちのよいリズムで進んでいきます。それでもなぜか、すごく華のある、色つやのある素敵な文章なんですね。今回は特に、目には見えない「音」、小澤征爾さんの指揮によってオーケストラから吐き出される「音」を、目に見えるような形で伝えてくれた気がします。まるで、自分の目の前にオーケストラがいるような、そんな不思議な感覚をもたらしてくれます。
この本を読むときは、周りに音のない状況で読むといいかなとも思います。頭の中にどんどん音が生まれてきますから。小澤征爾さんや、クラシック音楽が好きな方はもちろんのこと、ヨーロッパに興味のある方にもお勧めです。写真もとにかくたくさんあって、楽しめます。文章もデザインも全てが素敵な1冊でした。
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