みみずきさんのレビュー一覧
投稿者:みみずき
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2004/06/03 12:17
これは美しい志穂子の始まりの詩である
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印象的なタイトル、これはポルトガルのロカ岬(ヨーロッパ最西端の地)にある石碑の言葉である。これを発端とし、主人公志穂子や梶井らの終わりと始まりの物語が静かに綴られる。大団円のハッピーエンドではないが、自らの生を見つめた者の静かな幸福感が印象的だ。
この物語の美しさ主人公志穂子の美しさである。結核病棟で死を見つめて過ごした過去を持つ志穂子は、物語の中で揉まれながらも、静かで聡明で力強い。志穂子の設定については、ドストエフスキーが理想的な人間として「白痴」で描いたムイシュキン公爵を思わせる。彼女については宮本氏はあとがきで、「若い主人公を、幼児から18年間も結核という病気で封じ込めたのちに、大都会の汚濁の渦に放り出したのは、私が、この小説の主人公を豊かな人格を持つ幸福な女性にしたかったからなのです(以下略)」と書いているが、なるほどその試みは成功したようである。
それに比べて、梶井は、あまり魅力的でない。彼のろくでもないところはいくつか描かれているのだが、その裏にある魅力がどうも伝わってこない。後半で彼の心は変化するのだが、その変化をもたらしたものがなんだったのか、核心のところがよく分からない。魅力がいまいち分からないまま物語が進んでしまう感じだ。梶井は物語のキーとなる人物なので、梶井の魅力のなさは物語の魅力を削っているようで残念に思った。
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