新 さんのレビュー一覧
投稿者:新
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十一月の扉
2004/10/10 00:41
秋の晴れた空の下、読むのが一番似合う本
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本との出会いというのは、いつどこに転がっているのかわからないもんだな、と思います。この本は、小学校の時に一度だけ、友人に薦められて読んだ本です。ほんとに何年も前のことで、忘れてしまっていてもおかしくありませんでした。それが最近、ふとしたきっかけでこの『十一月の扉』を思い出すようになったのです。そして先日、書店で見つけて速攻で買っていました。それは何でだろう、と思いつつ、私は読んでいました。
中学2年の爽子は、引っ越しまでの約2ヶ月を11月荘で下宿することになります。そしてその11月荘を取巻く人々との生活の中で、今までとは違った何か豊かなものを得ていく——という物語です。
全てを再び読んだ時、この本ともう一度出会いたいと思った理由がわかったような気がしました。それはたぶん、私が中学2年生を経験したからでしょう。爽子が感じる周囲への思い—特に、母親への憎悪とも侮蔑とも思える感情が、自分に似ていました。そして、未来への漠然とした不安。引っ越しで未知の土地へと行かねばならないこと、いつかはやってくる受験。そんな感情の積み重なりが、私の記憶を揺り起こしたのだと思います。
『十一月の扉』には、晩秋が一番似合います。それはもちろん、物語の場面設定がその時期だということもあるのでしょうけれど、それだけではありません。作品中に漂う、涼やかで、きりっとした、わずかにふくよかな香りのする透明な空気が、そう感じさせてくれるのです。
天高いこの時節、豊かな響きを感じさせてくれるこの物語をお薦めします。
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