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ゐ氏さんのレビュー一覧

投稿者:ゐ氏

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紙の本夜のピクニック

2005/02/01 09:17

世界に包まれるということ

6人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

ぼくにしては珍しく、この本を、もう、ずいぶん前に読みました。
(ぼくには、ベストセラー回避症というヘンなくせがあるんですが…)
で、読み終えて、いいな、と思いました。
マンガぐらいは読むけど、あんまりすすんで小説(字の本)は読まない子。
でも、なんか読んでみたいな、と、なんとなく思ってる子。
そういう、まだ好みや志向が固まってなくて、ふわふわしたところにある中学・高校生くらいの子がいたら、
「これ、よかったら読んでみたら?」
といってみたくなる、そんな感じです。

歩き続けた果てに生じる不思議な感覚は、それを体験した者にとっては、リアリティのあるものです。
作者の着想の根にも、実体験があるのでは?
ただ、体験があることと、それを虚構の作品としての力をもたせることは当然別です。
かなりの人びとに読ませた、ということは作家の技量の証でしょう。

しかし、ここには確かに、どこか自閉した感覚もなくはありません。
地方の進学校の伝統行事にこめられた人間関係。
それに違和感を覚えてしまったら、
この世界に入りにくくなるでしょうね。

でも、ぼくは、いいな、と思いました。
読んでみたら? といいたくなりました。
どこを読むといい、と思ったのか?
…たぶん、だれにもある〈うじうじ〉した心のエネルギーの空費を経てやってくる、
なんともいえない解き放たれた感じ。

たとえば、「融」が、
「『—もっと、ちゃんと高校生やっとくんだったな』(327頁)」
と漏らしたりするのは、
これがある意味で気楽でばかげた特別の時空で起きた一昼夜の出来事だと俯瞰してみると、
なんとも、ごく自然に受けとめられます。
ものすごいことばをあえて使わせてもらうと、ここにあるのは、
「愛」と「勇気」ですが、
見えてくる風景は、
まるで宮崎駿のアニメーションのように、
崖っぷちから視界が開いていって、空と海と地平線が生き物のように伸びていく、そして、そこへ向かって空中へ一歩踏み出す、そんな感覚です。
この小説が面白かったというひとは、
きっとそこに何かの歌を聞いているのでしょう。

「—もっと、ちゃんと○○やっとくんだったな」
という感慨は、年齢にかかわらず、ぼくら〈現存在〉を襲うし、
ぼくらの未来にたいしては、
ちゃんと○○をやる、という
ある種の希望を、生きた感覚で送り届けてきます。
これは、過去への声というだけでなく、
未来からの声のように聞こえます。
高校三年生の気楽でばかげた世界を触媒とした物語を
生き生きとした印象のままに読み終えたいなら、
懐古の感傷ではなく、
崖っぷちから開かれた視界を残像とするべきでしょう。

で、また、読み終わって抱く感想のひとつは、
必要なのは、「世界に包まれている」感覚だ、
という思いです。
ぼくらは、どこか「包まれていない」世界にいる。
自閉でなく、利己主義でなく、懐古でなく、でも、包まれている、という感覚は、
苦しくつらい世界を切り開いていく勇気の根っことして、なくてはならない。
それは、
進学校の高校生だけのものであるはずはない。
気楽でばかげていて安心できる世界は、必ずあるし、必ず要る。
絶対に肯定されるべき世界。
では、それはどこに?
いや、それはどうやって創られるか?
…それが、終わりにやってきたぼくの問題意識です。

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