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  3. うっちーさんのレビュー一覧

うっちーさんのレビュー一覧

投稿者:うっちー

221 件中 1 件~ 15 件を表示

紙の本

紙の本世界で一番美しい元素図鑑

2011/03/09 23:32

美しくておもしろい! 読めば自分のものにしたくなる図鑑。

17人中、17人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 本当に美しい!ひとつの元素に見開き1ページ。左には、純元素の大きな写真、右には、その化合物や応用製品の写真がある。「元素」に対してぼんやりとしかイメージしていなかったので、元素がこんな風に目に見える形で掲載されるなんて、とても新鮮で驚いた。「炭素」のページには、純元素として、ダイヤモンドの大きな写真。そうか、ダイヤモンドって、炭素なんだ。しかも、「燃やすと二酸化炭素になる」とある。なるほど。
 見るだけでも楽しいのだけれど、実は、この本の真価は、文章にもある。その説明文のおもしろいこと!
 たとえば、キュリー夫人が発見した「ポロニウム」は、猛毒なのだとか。そのポロニウムが、2006年ロンドンで、元KGB職員の暗殺に使われ、「核兵器製造の政府でもなければ入手できない量のポロニウム」だったとあり、「やっぱり」などと否が応でも想像させられてしまう。学術的かつ具体的で、興味深い周辺情報も書かれているのだ。しかも、センスがよくて、ウィットに富んでいる。
 著者の知識と情熱に圧倒されるのがとても心地良い、という体験をさせてもらえた。元素は、この世界を形作っているもの。わからないながらも、「元素」というものの一端に触れさせてもらえた喜びさえ湧いてくる図鑑だ。

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紙の本

紙の本脳内汚染

2006/02/20 01:21

子どもたちの脳に一体何が起こっているのか。この現場からの考察は、読むに値する。

13人中、10人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 現場にいる者には、起こった現象に対して、はっきりと理由はわからない段階でも「アレ?」「変だ!」と思う瞬間があるものである。論理ではなく、直感で。そして、私は、この直感は、とても大切にされなければならないと信じている。
 作者は、医療少年院に勤める精神医学者である。様々なデータに基づいて論を説くが、実際には、現場にいる者としての直感が始まりになっていると思われる。ならば、ここに書かれていることには、最先端の現場からの報告として、我々大人は、耳を傾けるべきだと思う。データの取り扱い方、アンケート結果の数字の提示の仕方など、いくつかの問題はあるとはいえ、そのことで、この本が指し示していることが葬り去られてはいけないし、その向こうにある本質的な危機から、目をそらしてはいけない。
 実際、今、子どもたちに起こっている変化に対して危機感を持つ者は多いと思う。なぜ、このような事件を起こすのか、なぜ、このようなことができるのか…。残酷で冷酷な事件が起こるたびに問いかけることだ。作者は、そのことの大きな原因として、ゲームやメディアの影響をあげる。強い興奮にさらされる続けることによって、前頭前野の機能低下を起こすこと、暴力的な映像による影響、ゲームの嗜癖性・中毒性の問題等、様々なデータと共に専門化としての考察が述べられ、いずれも説得力のあるものである。
 ゲームが子どもたちの脳に与える悪影響は、はっきりとした因果関係がわかるまで待てるのだろうか。もはや、我々の子どもたちにリスクを負わせるべきではないだろう。「嗜癖性や有害な感化を与える危険高いものについては、子どもたちには極力接触させない対策が採られるべきである」という作者の言葉には、深くうなづける。少なくとも、大人たちは、ゲームの危険性を知っておくべきであろう。

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紙の本

紙の本ワーキングプア 日本を蝕む病

2008/01/27 01:32

わが国は、何を「失敗」したのだろう。

13人中、9人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

まったく「グローバル化」とは、なんなんだ!、と怒りが湧いてくる。日本経済がグローバリズムに踊らされ、市場原理主義とやらに従った結果がこれなのか…。何かおかしい、と思ってはみても、個々の実態に触れるまでは、ぼんやりとしか感じられないことが、NHK取材班の丹念な取材により、細かな事例に光が当てられ、ようやく、明らかになってきた。わが国は、何を「失敗」したのだろう。
 地方、中小企業、個人商店、農家。日本を徐々に覆いつつある「貧困」の影は、弱者から取り込んでいく。経済的に立ち行かなくなった家では、家庭が崩壊し、子どもも満足に育てられなくなる。そして、教育を受けられなかった子どもへと、貧困の連鎖が始まる。
 悲惨なのは、ここに出てくる人々が、働かない怠け者ではないことだ。一生懸命に働くのだが、それに見合った収入が得られず、生活できなくなるというケースが多いのだ。
 リストラにあう、離婚して母子家庭になる、など、誰にでも起こりうることで、不安定な仕事にしか就けず、普通の生活ができない…。そんな人が増え、まじめにがんばるのに報われない社会では、安全で安定した社会とはいえないだろう。都市をさまよう若者たち、年金ももらえず空き缶拾いで暮らす老人たち。彼らはなぜ安心して暮らせないのか。
 目先のもうけにしか目が行かない企業は、社会的責任を果たしているとはいえないのではないか。国は、「自助努力」「自己責任」というけれど、しかし、どうしようもないときに、手をさしのべ、共に生きていける社会でないといけないのではないか。その為にこそ、国家はあるのではないか。
 おりしも、読売新聞の年間連続調査「日本人」の“国家観についての世論調査”の結果が出た(2008年1月25日)。それによると、「日本国民であることを誇りに思う」が93%に達したとのこと。その誇りを失うことがないように、何をはじめたらいいのか。
 「なぜ」「何を」に対する答えは、この本にはない。しかし、現状を伝え、問題提起するというジャーナリストの誠実な仕事は果たした。一読の価値がある。

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紙の本

紙の本百年の家

2010/07/08 00:31

家を通して、大きな歴史の流れの中にある人間の営みが感じられる。

8人中、8人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 1軒の古い家が語りだす。古い丘にはじまり、20世紀をどう生きたか、を。
 家は、静かにそこにあるだけだが、人がいて、毎日の生活が紡ぎだされ、歓びも、悲しみもそこにある。そして、それを見守っている家。住む人の移り変わりとともに、家は古く朽ちていくが、また、再生もする。
 大きな歴史の流れの中で、なんでもない普通の人たちが営々と生き続けることの壮大さが感じられ、なんだか感動させられる。私たちは、日々一生懸命生きるだけでいい。それでも、こんな大きな流れの中にいるのだ、と感じる。
 緻密に描かれた絵は、見ているだけで楽しい。定点観測のように、ずっとその家が正面から描かれているので、それぞれの違いがわかりやすく、それが時代を表わしていて、また興味深い。
 人が見て、感じることによって、すべてのものが生命を持ち始める。家は、その典型かもしれない。

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紙の本

紙の本ムーンレディの記憶

2009/04/09 23:50

過去から現在へ、モディリアーニの名画がもたらした謎と真実。

8人中、8人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 大邸宅に住む不思議な老女、いわくありげな古い文書の入った金庫、本棚の奥から見つかった謎めいた名画…。これらは、一体何なのか、と思ううちに、ぐんぐん物語は紡がれ、ストーリーは広がり、そして、最後にみごとに謎は解きほぐされていく。その心地よさ!
 物語の縦糸は、歴史。ナチスの時代に、ヒトラーが行った狂気の人間狩り、芸術品狩りを背景に、その時代に「狩られた人」と「奪われた絵画」の行方が語られる。そして、横糸は、今、この時代に生きる二人の少年と、彼らを介して偶然出会った3人の女性である。

 大邸宅に住むゼンダー夫人は、大金持ちの家に生まれた元オペラ歌手。誇り高く傲慢だが、純粋で教養もユーモアもある。しかし彼女は、自宅を売り養護施設に入るために、家財の売却を業者に頼む。やってきた優秀な処分屋が、主人公の少年アメディオの友人になるウィリアム少年の母親である。母親の仕事を手伝うウィリアムとアメディオは、ゼンダー夫人の家でいっしょに処分屋としての手伝いをすることになり、しょっちゅうケンカもするが、絆も強める。そして、作業中に大変なものを見つける。それは、本物のモディリアーノの絵画「ムーンレディ」。この絵には、何かいわくがあると感じたアメディオは、調査を始める。
 一方、アメディオの後見人で、美術館の館長であるピーターは、母親から、亡くなった父親の金庫を渡される。その中には、ピーターの父親の悲しい過去が書かれていた。第二次世界大戦時、骨董屋をしていた兄や友人、そして絵画を、ナチスに奪われながら、どのように生き延びたかの物語である。
 ゼンダー夫人の人生と「ムーンレディ」の関わり、ピーターの母親が持っていた金庫の中の夫の物語、ウィリアムの母親の処分屋としてのやり方、何かを発見したいと常に願っていたアメディオと誇り高いウィリアムの友情。彼らが一同に会したとき、大きな物語が見えてきて、過去から現在にわたる謎が解ける。

 幅広い知識と教養に裏打ちされたウィットに富む会話に、思わずニヤリとさせられたり、登場人物の考え深い言動に感心したり、そこここに人間ドラマがあり、感動させられる。また、美術館長のピーターがカタログに書く、ヒトラー政権下におけるゆがんだ反近代芸術運動についての話も史実であり、その背景が、この物語を深くしている。

 読み終えたときに、また、始めに戻り、それぞれの人物像をもう一度なぞりたくなるような魅力的な物語。読者が歴史背景を理解しやすいような工夫があり、表現や構成も巧みなので、一気に引き込まれ、おもしろかった!

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紙の本

こういう本が欲しかったんです。

8人中、8人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 木の名前が知りたいときに、どうするか?とりあえずは、持って帰れるもの‥、そう、葉っぱを持って帰って、それを手がかりにして、探しますよね?
 ところが、これがなかなか難しいのです。図鑑を開いても、なんだか似たようなものが多いし、これでもない、ああでもないと、ひたすらページを繰る羽目になったりして。
 で、なんかいいものはないかと思っていて、目についたのが、この本!いいです!
まず、写真が多いし、きれい。なにより、原寸大ですもの、実際に葉っぱをあてて、「あぁ、こんな感じ」と、実にわかりやすい。もちろん、該当のページに至るまでが早い!それは、ひとえに、検索しやすい作りになっているから。葉っぱの形、特徴から、たどっていって、お目当ての木を見つけることができるようになっているのですが、ツメや見出しの出し方も上手なので、使いやすいのです。
 子どもは、特に、「この木の名前が知りたい」と言って、持って帰ってくる情報といえば、葉っぱだけのことが多いので、この本は重宝すると思います。
 名前を知るということは、それだけ世界が広がること。木の名前を少しでも多く知っていると、自分の心の中にある緑の景色がより精妙に、かつ大きくなるようで、なんだかちょっとうれしくなります。

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紙の本

紙の本おかあさん、げんきですか。

2006/06/09 21:12

母の日の前に読みたかった!息子からおかあさんへの、とってもすてきなお手紙。

8人中、8人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

あぁ、さすが後藤竜二!やんちゃでやさしい男の子の書き方がうまい。また、その話にぴったりの絵をつけた武田美穂も、やっぱりすごい!
ユースケは、母の日だから「おかあさんに、かんしゃのてがみをかきましょう」と先生に言われて書き始める。でも、感謝するのもはずかしいから、思いきって、おかあさんに言いたいことを書くことにする。
何か言うと必ず最後に入る、口癖の「わかった?」は、やめてほしいこと、勝手にぼくのへやをそうじしないこと、など。そして、思い出すのは、今でもうらんでいる、去年の冬の事件〜おかあさんが、ぼくの大切にしていたものをぜんぶすてちゃった〜のこと‥。
ここから、話は、ぐんぐん山場をむかえる。ユースケは、捨てられたものが、いかに大切だったかを述べるのだが、これがいい。読みながら、ニヤリとし、で、どんどん胸が熱くなり、ユースケの臆病で、優しくて、繊細な心に、共感する。子どもがどんなに不安な気持ちでいるのか、いかに思い出を大切に感じているものなのか、そのことに気づかされる。こどもは、人の温かさに触れて、ホッとして、成長する。そして、人のことを気遣うことができるまでになるのだなぁ、としみじみ。こんな手紙をもらったら、母親としては、絶対ほろっとするに違いない。
おかあさんは、ユースケの話の中では、子どもの落書き風のオニママの絵なのだが、最後のページで、その本当の姿(?)を現してくれる。この1枚の絵が、この話をより深く余韻のあるものにしてくれた。
笑って、ほろっとして、温かく愉快な気持ちになれる絵本♪

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紙の本

経験から語る「情報の受け取り方」。さすが、宮嶋、わかりやすい!

8人中、8人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 「情報」には、様々なものがあり、現場で自分で見て判断することが大事で、メディアのウソも見抜く力をつけなければダメ、など、情報の受け取りかたのあれこれを、伝授してくれる。
とにかく、あの数々の修羅場を潜り抜けてきた「不肖・宮嶋」が書いているので、机上の空論ではない。カメラマンとしての経験をもとにした具体的な例があげられ、説得力がある。しかも、中学生向けとあって、わかりやすい。
たとえば、調べたいことがあるなら、図書館に行けばいいと語るくだり。「図書館にあるのは、書籍になった情報です。書籍というものは、(中略)編集者や校閲者のチェックを経て世の中に送り出されますから、その場の思いつきだけでいい加減なことを言ったり、書いたりできてしまうインターネットなどとは、情報の精度がまったく違うのです。」「信用できる情報は、図書館にあります。」と書く。なんというわかりやすさ。「紙以外のものは信用しない方がいい」とも書き、その理由は、人間は古くから「紙」と付き合いがあり、つきあいの長いものは信用できる、と表現する。ほんとにその通り!
 メディアにだまされないように、情報の価値を疑ってみる。そのために防衛としての「ひとりツッコミ」をすすめるところもおもしろい。そのツッコミ方は、こうである。
「おいおい、ほんまかいな!」
「そんなんあるわけないやろ!」
「そんなやつおるか?」
「うそやろ!」
「おまえがそんなこと言うてどないすんねん!」
つっこむというのは、客観的になるということで、高度で知的なことだとか。なるほどなあ、と愉快になった。
 比喩がとてもわかりやすいのもこの本の特徴。報道の内容が感情的でヒステリックな報道は、疑ってかからなければならないということを、「だいたい人間というものは、自分の都合が悪くなると、感情的になって声が大きくなるものです。」と、書いている。
「ひとり」であることの大切さを説いたり、どうやってカメラマンになったかなど、すべて自分の経験から書いているので、実に爽快である。中学生だけでなく、大人にもおすすめ。

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紙の本

紙の本らも 中島らもとの三十五年

2008/04/15 22:04

中島らも、なぜ、そんなに壊れなきゃいけなかったの?

8人中、8人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 中島らもの書くものが好きだった。しかし、彼の生活や日常が、ここまで破滅的であったとは‥。シンナー、睡眠薬、酒、暴力、セックス‥。
 著者は、らもの妻である美代子さん。ふたりの出会いから最後の日までが綴られているが、ここまで正直にあっけらかんと書けるのかと驚いた。らもとのすさまじい日常、葛藤。貫かれているのは、らもへの愛情だけれど、その表し方は、とうてい普通では考えられない。
 愛し合って結婚したのに、妻の前でも他の女性とつきあい、妻に他の男と寝るように勧めたり、なぜ、らもがそこまで虚無的になったのか、自暴自棄ともいえる生活をしなくてはいけなかったのか、その点については、もはや知りようがないし、この本を読んでも、(彼の生い立ちや家族との関わりが書かれているが、)うなずけるような理由はない。
 彼女の生い立ち、家庭環境が、明るくくったくのない、人を疑わない性格を形作ったのは理解できるが、それでも、道徳的に少しずれがある(もちろん、私個人の「道徳的」だが)ことには、愕然とする。それでも、驚きとともに読み進めると、やはり、彼女は、らもが家庭をかえりみなかったり、他の女性と一緒にいることに寂しさを感じていたのだと知り、むしろほっとした。
 彼女は、「その人がそう望むなら、それに応えてあげる」という姿勢で、セックスに対してもその通りにやってのける。ある意味、聖女なのか‥?理解し難い。
 しかしながら、最初の出会いから、何があってもずっと変わらず、らもを愛し続けていたことはみごとだし、そういう意味で、この本は、自分の「純愛」を書いたのだ。らもというより、やはり、作者の中島美代子自身が色濃く描かれている本だといえる。
 表紙の出合った頃のふたりの写真は、とてもいい!

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紙の本

紙の本武士道セブンティーン

2008/09/04 00:04

ああ、武士道!この、熱さ、ひたむきさに、にんまりし、ワクワクし、心躍る。

7人中、7人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 北京オリンピック、柔道惨敗! しかも、「柔道はスポーツだとは思っていない。闘いだ」と言う石井慧が100kg超級で金メダルをとってしまった。柔道は、スポーツではないというのは同感。でも、本当は、「闘い」ではなくて「武道」なのだ!
 そもそも「武道」の勝ち負けを判定するのは、至難の業なのである。この本の前作である「武士道シックスティーン」の中にも「あれは審判がヘボなんだよ。見てもないくせに、音と声だけで(旗を)上げやがって」というせりふがある。
 武道における攻撃は、速ければいいのではなく、ましてや、倒せばいい、当たればいいものでもなく、文中にあるように「『気剣体』が一致したものでなければならない」のだ。柔道の「指導」や「効果」なんて、わけわからん。当然、「一本」じゃないと、意味ないでしょ。
 そうそう、本の話である。この物語は、剣道に魅せられた二人の少女が主人公。武蔵を尊敬し、兵法者としての道を究めたいと願う磯山香織。愛読書は「五輪書」。一方、基本に忠実、「不動心」を窮めようとする中段の達人、西荻早苗。性格も、攻撃的で負けず嫌いな磯山と、おっとりと勝負にこだわらない西荻とは、対照的。そんな二人が高校の剣道部でお互いを強烈に意識しながらしのぎを削る。
 章ごとに、二人が交互に語る形式なので、さらに性格や考え方の違いが際立っておもしろい。栞ひもも、赤と白と2本ついていて、剣道の試合で背中に付ける紅白のひもを連想させる。
 この「セブンティーン」では、別々の学校に行くことになったふたりがそれぞれに悩みながら剣道に精進する姿が描かれる。剣道のあり方は、そのまま生き方の表れでもあり、「剣道ばか」である周りの大人たちの生き方もしっかり描かれていて、思わず共感、うなずく場面も多い。
 剣道とは、武道とは、武士道とは?!「勝つ」ことの意味は何なのか。磯山の極端さには笑えるし、まっすぐに悩む姿には泣ける。家族の愛情、ふたりの友情も麗しく、青春物としての感動もたっぷり。何より、少女が「武士道」に邁進する物語だもの、高校生時代に武道場の「剣は心なり。心正しからずば、剣、また正しからずや」と書いてある板を3年間見てけいこに励んだ、武道好きの私には、堪えられないおもしろさなのである。

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紙の本

紙の本山田詠美

2008/03/23 11:18

8つの話がすべて生き生きと心に届く。みごとな選書と組み合わせに満足!

7人中、7人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 読んだことのある物語でも、他の物語といっしょに再構成され並んでいると、また、違った感慨があり、面白さがでてくるものだ。このシリーズは、つくづく、選書と組み合わせ、並べ方がうまいなあと感心する。
 この1冊もまた、山田詠美のうまさとすごさ、内面の豊かさまで示すものとなっている。やっぱりいいなぁ、山田詠美!と言わせる仕上がりだ。

「海の底」で、ほのぼのとしたと大人の恋を描き、
「ひよこの眼」では、生の中の「死」を見つける一瞬を描き、
「アニマル・ロジック」では、社会の不条理とそれへのいらだちを、
「ME AND MRS.JONES」では、大人の女を恋の相手にし玉砕する少年を、
「涙腺転換」では、一転して笑わせ、
「クリスタル・サイエンス」では、若者のキラキラする激しい夏の恋を、
「こぎつねこん」では、幸福とその奥にある不安を、
「眠れる分度器」で、本当の大人のみごとさと、子どもの成長を描いている。

子どもに向けた「はじめての文学」として、実にみごとな選び方だ。人生の楽しさと不可解さと、不安と不条理、喜びと笑いが提示され、最後の作品では、大人と子どもの関わり方の妙が描かれている。もちろん、どれも胸の底に届く作品である。
 あとがきで山田詠美が言う。
文学は、「非常事態における缶切りのようなもの」だと。「それも、ひとたび手にすれば、決して失うことなく、しかも、ひとりでいくつ手にしても重荷にならない、とてつもなく便利な缶切りだ」と。それによって開けられた中身は、「稀に、毒薬が混ざっていることもあるが、心配には及ばない。殺されるのは、きみではなく、きみの内にある退屈だからだ。」
 人生を生きていくとき、非常事態はままある。そんなとき、確かにまちがいなく、山田詠美の文学は、役に立つだろう。「缶切り不要のたやすい人生ばかりでは、つまらない」と思わせる強さがあるからだ。おもしろい!

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紙の本

紙の本リスとお月さま

2007/06/07 22:01

いやぁ、おみごと!そう言いたくなるほど完成度の高い絵本。

7人中、7人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 緻密で繊細。それでいて、躍動感も生き物の表情も見事に捉えているイラストのすばらしさ! こういう絵本に出あえるとうれしくなってしまう。もちろん、イラストがいいだけではない。お話もユーモアたっぷりでおもしろい。
 ある朝、りすの家に「お月さま」が落ちてくる。りすは、大あわて。もし、ぼくがこの「お月さま」を盗ったと思われたら大変!牢屋に入れられちゃう…。そう心配したりすは、この「お月さま」を家の前からどける。(証拠隠滅!)
 ところが、投げ捨てた「お月さま」は、はりねずみのハリに突き刺さり、さらに、今度は、ヤギが角で「お月さま」を突き刺してしまう。そして、ハリネズミがくっついたままで木に追突。角が木にささってしまったヤギは動けなくなる。やがて、お月さまから変なニオイがしてきて、ネズミがぞろぞろやってくるのだが…。
 次々と困った目にあい、困り果てる動物たちの表情がとてもいい。また、りすが想像する「牢屋の中」の絵には、思わず笑ってしまった。リアルでありながら、とぼけた味わい!
 この黄色くて丸い「お月さま」が実はなんなのかは、絵本の裏表紙と次のページにちゃんと描かれている。つまり、もうひとつの物語〜おじいさんと孫〜がこのお話の背景にあるのだ。
 ほのぼのとして、オチまでついて、こんなに気持ちよくにっこりできる絵本もない。イラストの素晴らしさとともに、「みごと」な絵本と言えるだろう。

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紙の本

ケイゾウさんに惚れこんだ。園児とケイゾウさんの付き合い方も絶妙。おもしろい!

7人中、7人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 いるんだなぁ、こういう役回りの人(ここでは鶏だけど‥)が!やることなすこと、裏目裏目に出て、なぜだか損ばかりしている人‥。そうかと思えば、わがままでやりたい放題なのに、ちゃっかり得ばかりしている人もいる。でも、どちらの人が好きかと問われれば、もちろん、損な役回りの人に共感するし、好きにならずにはいられないのだ。
 と、いうわけで、私は、このケイゾウさんに惚れこんだ。ケイゾウさんとは、幼稚園で飼われているニワトリである。幼稚園の庭にあるケイゾウさんの家に、ももこ先生が、うさぎのみみこちゃんを連れてきていっしょに入れたことからお話は始まる。
 子どもは、かわいいウサギが好きに決まっているし、ケイゾウさんは、色々心配したり、良かれと思ってしたことが全部裏目に出て、ちっとも思い通りにならない。新しく入園した園児はすぐ世話を忘れるし、うさぎばかりかわいがるので「ケイゾウさんは四月がきらいです」。遠足に行けば、首になわつけられてひっぱられ、挙句の果てに逃げたみみこちゃんを追いかけるために、ケイゾウさんは、木にくくられて放っておかれるし、で「ケイゾウさんは遠足がきらいです」。運動会では、朝ごはんを抜かれ、エサで釣って走らされるので「ケイゾウさんはかけっこがきらいです」。‥というわけで、きらいなものオンパレードで、10のお話が語られるのだ。
 どれもクスッと笑える。とにかくケイゾウさんのキャラクターがいいし、ぼやき方がいい!ケイゾウさんも大変だねぇ、とつくづく共感してしまう。もしかしたら、大人の方が、この話の魅力がわかるかもしれない。
 でも、もちろん、子どもにこのユーモア、おかしさを味わって欲しい。子どもが手に取るには、表紙がちょっと地味かなと心配するが、よく見ると、実にケイゾウさんの表情がいい、なかなか魅力的な表紙なのだ。(ケイゾウさんに惚れたから、そう見えるのかも)。挿絵もすべてカラーで楽しいので、どうか子どもたちの手に届いて、ケイゾウさんファンが増えてくれますようにと願っている。

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紙の本

紙の本シャイロックの子供たち

2006/02/26 17:58

リアルな銀行の描写。うまさが光るみごとな金融ミステリー小説。

7人中、7人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 題名にある「シャイロック」とは、もちろん「ベニスの商人」に出てくる、あのユダヤの金貸しシャイロックであろう。表紙は、三日月の夜に浮かぶ町中の銀行の建物。ここが、この物語の舞台である東京第一銀行長原支店。住宅街にある老舗の店舗である。
 銀行の勤務の厳しさは知る人ぞ知る。預金獲得のノルマ、支店間の業績表彰争い、しかも都銀ともなれば、一流大学卒業生が多く、その中でのしのぎを削る出世競争がある。上司との確執、いじめによりつぶされる者、業績に追い詰められ不正を働く者‥。なんとも、やりきれないが、作者が元銀行員ということもあり、実にリアルに描かれる。支店内の様子、本部との関係、行員の仕事内容など、まさにその通りなので、物語がより息苦しく迫ってくる。
 現金紛失、行員の失踪、架空融資など、十話すべて、主人公が違うが、各々の話がからみあい、つながり、最後にすべてが収束するみごとさ。作者のうまさが光る金融ミステリー小説である。みごとではあるが、読むと気持ちが落ちこむのも事実。「シャイロックの子供たち」の切なさに心痛む。

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紙の本

紙の本ハルばあちゃんの手

2005/08/10 16:20

淡々とした語りに心魅かれ、絵に圧倒される。ハルばあちゃんの美しい一生。

7人中、7人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

絵と語りがぴったりと合い、みごとな絵本になっている。
はじめの赤ん坊の絵から魅了される。あどけない顔。ぷくぷくの手。そして、その手についたほくろ。この赤ん坊がハルである。そのハルの一生が、淡々と語られていくのだ。
大きな物語があるわけではない。田舎に育ち、戦争にあい、結婚し、子どもを育て、老いていく。あちこちにたくさん転がっているだろう普通の人の物語。けれども、読み終わった後、しみじみとハルの一生に思いを馳せてしまった。
ただ、ありのままに、人を信じ、できることを一生懸命して、家族を愛し、でも多くを望まず、普通の生活にきちんと幸せを感じてまじめに生きる。その美しさ!
ハルの中で、自分を一番雄弁に語ってくれるのが、その器用な手である。彼女にとっては、その手を使って働くことが生きている証なのだろう。ぷくぷくのもみじのような手から、子どもの手、若い女性の手、働き盛りの手、そして、老女の手まで、木下晋のみごとな絵がすべてを語ってくれている。
余計なものが何もない文章もとてもいい。
この美しさをなんと言って伝えればいいのだろう。ここに書かれ、語られていることの後ろにある、その時代や、そこに生きた人の一生まで感じることのできる大きな絵本だ。

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