上田早夕里さんのレビュー一覧
投稿者:上田早夕里
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ゼウスの檻
2004/10/04 13:11
著者コメント
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この作品に登場する木星の宇宙ステーションは、巨大な都市ではなく、発展途上にある実験ステーションです。そこには研究者や観測技術員やステーションを警備する人々以外に、地球や火星とは異なる価値観を持つ者たちが暮らす「特区」と呼ばれるコミュニティが存在します。
特区に住む人々は、現代の私たちがまだ体験していない特殊な社会構造を持っています。ジェンダーやセクシュアリティすらもが異なる特区の住人と、従来の社会で育った人間が遭遇したとき、そこには当然のことながら、さまざまな軋轢が生じます。反発、憎悪、嫌悪。あるいはお互いの間に横たわる溝を飛び越えて生まれてくる情愛。偏見に凝りかたまった人々は殺意すら容認しますが、それを退けるために闘おうとする人々もまた彼らと同じ「人間」であるのです。
私はこの作品において特定の主人公を設定しませんでした。ひとつの共通する状況の中で、容赦なく他者の命を奪い、傷つけ合う彼らひとりひとりの性質は私たち人間の中にみな存在する要素です。特別な人間は誰もいません。誰もが状況次第で彼ら全員の立場になり得るのです。
正義などどこにも存在しない局面で、私たちが取るべき最良の選択とはいったいどういうものなのでしょうか。否そもそも、人間という愚かしく弱い生き物が、そんな崇高な判断を下せるものなのでしょうか。それでもどのような形であれ、私たちは生きている限り常に何かを選択せざるを得ません。願わくはそれが未来への希望となるように、と祈ることも、あるいはまた偽善に過ぎないのかもしれませんが。
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