有馬哲夫さんのレビュー一覧
投稿者:有馬哲夫
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紙の本ディズニーとライバルたち アメリカのカートゥン・メディア史
2004/07/27 12:18
著者コメント2
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新聞漫画については、アメリカのアニメーションは新聞漫画を先行メディアとするという本書の立場から、ウィンザー・マッケイやジョン・ブレイが新聞漫画家だったこと、初期のアニメーション作家はみな新聞漫画家志望だったこと、初めアメリカでアニメーションの中心地がニューヨークだったのは新聞の中心地がニューヨークだったからということ、だからのちにアニメーターになる若者がニューヨークに集まっていたのだということ、パット・サリヴァンなども新聞漫画を書いていたこと、『ポパイ』なども新聞漫画のキャラクターを買ってきたものだということなど、少なくとも本書の初めの68(2段組の)ページまで、それ以降も折に触れて、書いています。
アメリカのアニメーション史についてはアメリカで何冊も本が出ていますが、本書同様アメリカに特定しているので、エミール・コールについては、ほとんどあるいはまったく触れていません。例外は、拙著のソースの一つとなっているBefore Mickey Mouseですが、著者のドナルド・クラフトンは、この著書のなかでアメリカのジョン・ブレイらが使うことになるアニメーション技術を発明した人間として、コールのほかに、スミス、ブラックトン、ゴーモンらを挙げています。しかも「みんなパテント申請を考えていたといわれる(had all reportedly considered patents)」と伝聞の形にして、断定してありません。仮に発明していたとしても、パテントの申請書の形で記録が残っていない以上、製作法や製作プロセスの発明者が誰かを正式に特定することはできないのです。クラフトンですら、コールだけが、そしてコールが直接的に、ブレイなどアメリカのアニメーション製作者に影響を与えたなどとはいっていません。ブレイやラオウル・バレなどに影響をあたえたいくつかのソースの一つであるという点を強調しているに過ぎません。(彼はそれまでアメリカ中心で、外国の影響を等閑視してきたアメリカのアニメーション史のありかたに一石を投じたかった)「エミール・コールのアメリカのアニメーションに与えた影響」(これ自体大雑把な表現ですが)などと、短絡的にいえないのです。ただし、このようなことは本書の枠組みからそれるので書いてはいません。
本書は単にカートゥーン・メディアをそれらを生んだコンテキストから切り離して論ずるのではなく、第一次世界大戦、大恐慌、労働運動の高まり、第二次世界大戦、映画の斜陽化、テレビの登場、消費社会の出現など、アメリカの歴史や社会の変遷と関連させて論じていますので、すこし努力していただいて、アメリカのアニメーションを生み出したもっと広い歴史的、社会的コンテキストについても目を向けていただければ、今まで以上に本書がわかり、アメリカのアニメーションを楽しむことができると思います。
よくお読みいただきさえすれば、それほど誤解の余地はないものと思います。しかし、改善すべき点は改善しようと思っていますので、建設的なご意見をお寄せいただければありがたく思います。アメリカン・アニメーションの愛好家にして、無名性にかくれて無責任なことをいう人がいるとすればそれはとても不幸なことだと思います。
本書には入れられなかった資料などのサイト。
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