山口雅也さんのレビュー一覧
投稿者:山口雅也
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チャールズ・アダムスのマザー・グース
2004/09/13 13:37
チャールズ・アダムス恐怖と笑いの双面神(おすすめエッセイ)
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チャールズ・アダムスという人は、どういうわけか、日本ではまともに紹介されてこなかった。『ニューヨーカー』誌等で活躍し、独特のブラック・ユーモア漫画家として海外では不動の地位を得ているのに、日本では雑誌に数編が掲載されたのみで、アダムス単独の著書が刊行されたという話はついぞ聞いたことがない。映画『アダムス・ファミリー』がヒットしたときも、結局、彼のオリジナル作品集が出版されることはなかった。いっぽう、アダムスのようなユーモア味はないが、同じように恐怖と残酷を扱ったエドワード・ゴーリーの作品集は、近年続々と出版され、熱心なファンによって支持・再評価されている。
アダムスの漫画の特徴を一言で言うと、やはりブラック・ユーモアということになる。それはつまり、恐怖や残酷さ、悲惨さというような人間世界の暗い局面を《楽しみ》として捉え、明るく笑ってしまうという態度のことだ。アダムスの漫画では、そうした一見相反する、恐怖と笑いが、一齣の中に意外なかたちで結びついているのだ。
ローマ神話のヤヌス神は、門のところに立ち、外と内を見張るために二つの顔を持っているのだという。チャールズ・アダムスの漫画を見ていると、作者はまるでヤヌス神のように世界の門口に立ち、常に人間界の暗い面(恐怖)と明るい面(笑い)を見通していたのではないかと、思えてならない。
1967年刊の本書『チャールズ・アダムスのマザー・グース』は、タイトルが示すとおり、一冊まるまる《マザー・グース》を題材にした作品集となっている。
マザー・グースというのは、《ロンドン橋》や《ハンプティ・ダンプティ》の唄など、日本でもその多くが親しまれている、イギリスの民間伝承の童謡のことである。
グリム童話の例を引くまでもなく、こうした昔から親しまれている童話・童謡の類には、必ず、人間世界の暗い側面——恐怖や残酷さ、悲惨さなど——が含まれているし、また、何気ない日常に突然亀裂が入って、奇妙で不条理な世界に反転するというような展開もままある。そうしたダークなものどもを、ファンタジーの衣に包んで語ったり、明るい調子で唄ったりする——つまり、《楽しむ》という、マザー・グースの人間世界に対する意外な態度は、まさにチャールズ・アダムスのブラックな作風に通じるものではないか。アダムスがあえてマザー・グースのワン・テーマで作品集を描き上げたというのは、彼の作風を知る者にとっては、しごく納得のいくことなのである。
本書が、ひとりアダムスの代表作というだけでなく、数ある歴代のマザー・グース本の中でも、特別な地位を要求できる一編なのは間違いのないところだろう。本書をきっかけに、恐怖と笑いの双面神チャールズ・アダムスの異能が日本でも再評価され、その著作が続々と出版される日が来ることを、一ファンとして願ってやまない。
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