高岡 英夫さんのレビュー一覧
投稿者:高岡 英夫
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身体意識を呼びさます日本語のちから
2004/11/15 15:19
刊行に寄せて
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アテネオリンピックで北島康介選手が金メダルを決めた直後、「気持ちいい。チョー気持ちいい」と叫ぶのを聞いたとき、私は「それだよ、それ!」とニヤリとした。「やりました!」とか「うれしい!」と言うのは、勝負の結果や自身の達成感から生まれる言葉だが、「チョー気持ちいい!」と言うのは、その瞬間に身体が発した、まさに身言葉の本質を突いた言葉だからである。そして、「気持ちいい」という体感こそ、ハイパフォーマンスを達成するとき、最も大切な感覚だからである。
北島選手だけではなく、アテネではひと昔前の日本人とは異質の、ゆるんだ若者たちが大活躍した。それを連日、目にしながら、自分のこれまでの仕事を振り返り、身体に希望が持てる時代にいよいよ日本が入ってきたことに、深い感慨を覚えたのだ。
私は1992年に『ハラをなくした日本人』(恵雅堂出版)、1995年に『意識のかたち』(講談社)を出版した。『ハラをなくした日本人』では、身体と身言葉の関係についての長年の研究を初めて発表した。日本語における身言葉の豊かさ、影響の深さ、身言葉と身体意識との関係を「ハラ」を中心に説いたのだ。その上で身言葉が戦後急速に失われてきたことに警鐘を鳴らし、その復活の必要性を唱えた。『意識のかたち』では、武術とスポーツの関係性、江戸時代の人と現代人の能力の比較を身言葉と身体意識をからめて書いた。その中で、イチロー選手と宮本武蔵を比較し、二人の身体意識のあり方が極めて似ているところを説いた。イチロー選手が現代では珍しい大変優れた身体意識を持った天才であると評価したことは、多くの方に興味を持っていただいた。
そして、それらの2冊の内容を継承するかたちで、『身体感覚を取り戻す—腰・ハラ文化の再生』を私の内弟子だった齊藤孝が2000年に出版し、新潮学芸賞を受賞した。これによって一般の方たちにも身言葉と身体意識についての関心が広がった。
また、身言葉を「からだ言葉」という言葉で扱った書籍や、武術とスポーツの関係を説いた出版物なども増え、日本人特有の身体・意識・言語のあり方への関心が高まってきている。このことはその原点たる仕事をさせていただいた者にとってうれしい限りである。
さらに、私はかねて、江戸時代に見られたすばらしい日本人の身体は、20世紀に衰えきるが、21世紀初頭にそれは最下点に達して、そこからその振り子は振り戻される。その動きに先駆けて、スポーツ界にスーパースターが現れると予測していた。そのトップバッターがイチロー選手だったわけだが、アテネオリンピックのメダリストをはじめ、イチロー選手に続く優れた身体意識をもったスーパースターたちが、今次々に登場してきている。
これこそ、日本人一人ひとりが自分の身体を変えることで日本が生まれ変わることの予兆である。本書がこの新しい流れを加速する一助となれば幸いである。
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