渡辺政隆さんのレビュー一覧
投稿者:渡辺政隆
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ダーウィンと家族の絆 長女アニーとその早すぎる死が進化論を生んだ
2003/11/17 11:28
訳者コメントアニーの文箱をあけて
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かつて、大リーグに、ダーウィンという名のピッチャーがいた。1978年から1998年までの21年間、8チームを渡り歩き、通算成績は171勝182敗、生涯防御率3.84の記録を残した。その絶頂期は1990年のシーズンで、ヒューストン・アストロズに在籍し、防御率2.21でナショナルリーグのトップに輝いた。
大リーグ通の亡友スティーヴの話では、その投手ダニー・ダーウィン(愛称はドクター・デス)は、かのチャールズ・ダーウィンの子孫ではないとのことだった。
本書の著者ランドル・ケインズさんは、ダーウィンの紛れもない子孫である。チャールズ・ダーウィンの二男ジョージの二女マーガレットの孫(玄孫〈やしゃご〉)にあたるのだ。おまけにランドルさんは、かの有名な経済学者ケインズの甥の子供(甥孫)でもある。
ランドルさんは、1996年、ダーウィン家の家宝を発見した。チャールズ・ダーウィンとその妻エマの長女アニーの遺品である。アニーはダーウィンの秘蔵っ子だった。散歩と午後の休憩時間以外は研究室にこもり、研究三昧の生活を送るダーウィンの傍らには、いつもアニーがいた。ところが、10歳に成長し可愛い盛りだったアニー(本名はアン)は、突如この世を去ってしまった。
アニーの突然の発病とけなげな闘病生活、そして悲しい別れは、ダーウィンの世界観を決定的に変えた。アニーは決して天罰を受けるような子供ではなかった。アニーの死は、自然の気まぐれなのだ。そう考えることで心の整理をつけたダーウィンは、自然界が気まぐれに容赦なく振るう大鉈〈おおなた〉、すなわち自然淘汰の原理を、身をもって実感した。
死を受け入れるために、ダーウィンは愛娘追悼の気持ちを文章にしたためた。一方、エマは、アニーの思い出の品と一束の遺髪を、娘の文箱に収め、人目に付かない場所にしまい込んだ。
アニーの文箱(アニーズ・ボックス)は、アニーの死後およそ150年を経て再発見された。それが、ランドルさんがケンブリッジの実家の物置から発掘したお宝である。
ケインズさんは、高祖父〈こうそふ〉の書き付けとアニーの文箱を初めて見た瞬間、奇妙な感情にとらわれたという。そして娘の最期を看取ったダーウィンの看病日誌を読み、アニーの文箱を眺めているうちに、この文箱にはすごいドラマが秘められていると悟った。それから3年間、暇を見つけては資料調べ、親戚縁者への聞き取り、現地調査などを積み重ねて書き上げたのが、本書『ダーウィンと家族の絆』である。
ここには、希代の天才ダーウィンの家庭人としての素顔と、自然科学者としての独創性をめぐる秘話が明かされている。
ランドルさんは、1948年生まれ。オックスフォード大学で人類学を学んだ後、英国政府の役人となり、ロンドンで暮らしている。歴史的建造物に興味があり、ダーウィンが暮らしていたダウンハウスを当時の姿に復元する作業にも協力している。
生命40億年全史
2003/03/06 17:03
訳者の愚痴理
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分厚い本はもう二度とごめんだと、いつも思うのだが……。
かりに、480ページの本を、単純にワープロで書き写す作業を想像していただきたい。むろん、膨大な時間がかかるはずである(なにしろ読むだけでも大変)。ましてや、横文字を縦に直しながらの作業にかかる莫大な労苦をお察し願いたい。
というのは、翻訳に2年、編集作業にさらに2年もかかってしまった言い訳である。この本の原書が出たのは1997年、その3年後、2000年に原書が出た同じ著者の訳書『三葉虫の謎——「進化の目撃者」の驚くべき生態』に先を越されちまったではないか。ただ、『三葉虫』のほうはページ数が3〜4割ほど少ないから、ちょっぴり係数をかければ、まあ妥当なところか(これも言い訳だ)。
いや、やはりいけない。こんな、言い訳と愚痴ばかりの人生でよいわけがない。だからもう、分厚い本を翻訳するのはやめよう。みなさん各自、原書をお読みなさい。
と思いつつも懲りずに同じことを繰り返しているのは、原書の面白さに、ついつい負けてしまうからだ。そして、これを訳せるのは自分しかいないと、勝手に(体力も経済力もないのだが)思いこんでしまう。
今回の本も、内容は保証する。そもそも、40億年にもおよぶ生命の進化史を、200〜300ページで概観することなど、どだい無理なのだ。ここはどうしても、400ページは要る。そう、1000万年につき1ページが、満たすべき最低の基準である。
ただし本書は、生命進化史の単なる通史ではない。著者曰く、「私は壮大な物語、生命史という伝記を書きたかった」。そう、連中は伝記が好きなのだ。だから、全700ページもある大『ダーウィン』伝なども出版される。ちなみにこっちの翻訳が出るまでには7年かかった。1年100ページ。ということは、今回は記録更新じゃないか。なにしろ、1年120ページで駆け抜けたのだから。だが、ぼくの経済は破綻した(手がけた本が間断なく出版されないと、物書きは生きてゆけない)。記録更新には身を削る覚悟が必要とは、こういうことなのか。
訳者がこれだけ献身的にやったのだから、出版社も、この本にかけてくれていると思う。そうでなければ、『生命40億年全史』などというスゲー書名を付けるはずがない(定価だって、1億年あたり60円と安いし装丁もすばらしい!)。もっとも、原題はただの『ライフ』だから、このままでは生命保険かスーパーマーケットだ。60歳であっけなく鬼籍に入ったグールド先生の『ワンダフル・ライフ』にも、「素晴らしい」という形容詞が抜けている分だけ負けてるぞ。でもあっちは、5億6000万年前の数千万年間だけの話だけど、こっちはなんたって40億年間の通史なのだ。それを叙情的かつ個人史的に語っている。
個人史を40億年に重ね合わせるというのだから、著者であるフォーティ先生の意気込みもスゴイ。彼の化石趣味は少年時代に目覚めたもので、大学生時代に遠征した北極海に浮かぶスピッツベルゲン島での一夏の体験が決定的な出来事となって研究者生活に足を突っ込んだのだとか。そんな自分の人生(ライフ)と生命(ライフ)の来し方を振り返り、思えば遠くへ来たものだという心境で一気に語り下ろしたのが、この『全史』なのだ。そういうわけで、人生に行き詰まっているあなたにも、生命の未来を案じているあなたにも、(もちろんそれ以外の人にも)ぜひ手にとっていただきたい一冊なのである。
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